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【UCHIDA ビジネスITフェア 2021】 住友化学のDX実践編 〜デジタル革新を実現した組織と人材のつくり方〜

2021/12/15 [化学,セミナーレポート]

急速な環境変化を受けて「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に向けた取り組みが重要性を増している一方で、DXに関わる人材育成や社内の推進体制に課題をお持ちの企業様も多いのではないでしょうか?住友化学様は中期経営計画の一つとして、「デジタル革新による生産性の飛躍的向上」を掲げ、デジタル革新にいち早く取り組んでこられました。
こうしたご経験を去る10月15日に「素材産業におけるデジタル革新の取り組みステップ」としてご講演頂き好評を博し、続編のご講演が決定いたしました。本講演では、デジタル革新に取り組むための社内体制や人材育成にフォーカスし、IT部門のお立場でどのように取り組んでこられたのか、今後の展望もふまえてご紹介いただきます。

住友化学株式会社
ITスペシャルアドバイザー 兼
SUMIKA DX ACCENT 株式会社 代表取締役社長
土佐 泰夫 氏

株式会社アールジーン 代表取締役
IoTNEWS 代表
小泉 耕二 氏

土佐(住友化学):今回は、当社、住友化学のDXの実践についてお話ししたいと思います。
まず、自己紹介からさせてください。1983年4月に住友化学に入社、計数センター計数部に配属され、途中、財務部に配属されたこともありますが、ほぼずっとIT部門を担当してきました。入社時はホストコンピュータの時代で、COBOLを使って自分でシステムを組んでいました。業務ユーザーに自分でヒアリングし、要件定義から概要設計、詳細設計、コーディング、検証、本番運用まで、すべて自分で行うような時代から、今のデジタルの時代に至るまでやってきましたので、システムに関する世の中のできごとはほぼみんな経験させていただいて今に至っています。

スライド資料:自己紹介

会社紹介

土佐:当社は1913年に創業。石油化学からエネルギー・機能材料、情報電子化学、健康・農業関連事業、医薬品など幅広い事業を展開しています。

その中でも、ヘルスケア、環境負荷低減、食料、ICTを4つの重要分野とし、当社のコア技術でイノベーションを起こすことで、社会課題の解決に貢献していくことをミッションとしています。事業を通じて持続可能な社会の実現に貢献する。それと同時に、自らも持続可能な成長を遂げていく。これは、住友の事業精神である「自利利他 公私一如」に基づく創業以来の考え方です。

スライド資料:数字で分かる住友化学

DXの進め方 〜自分流に考える〜

(1)自分流に考える

土佐:世の中には、DXの定義はたくさんあります。

たとえば、経済産業省では、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

経団連では、「デジタル技術とデータの活用が進むことによって、社会・産業・生活のあり方が根本から革命的に変わること。また、その革新に向けて産業・組織・個人が大転換を図ること」と定義しています。

ほかにも様々な団体や企業が定義していますが、自社ではDXをどうとらえるか。自分の会社にとってどういうことなのか。自分流のDXを最初に決めること。それがないと、DXはうまくいきません。

DXというと、よく「文化を変えなさい」と言われます。では、トップダウンで「さあみんな、企業文化を変えて、レジリエンスになるぞ!革命だ!」と言ったところで、聞かされたほうは、反対はしないにせよ、「じゃあどうすればいいのか」がわからない。腹落ち感がないからアイデアも出てこない。取り掛かろうという気にもなれない。当然、皆、目の前の自分の仕事があります。それに加えて「DXに取り組もう!」とはなかなかならないものです。

(2)独自の解釈

土佐:DXに取り掛かる前に、「当社にとって、DXはどんな意味があるのか」と独自の解釈をする必要があります。

DXの定義を具体的に解釈すると、「データを分析・活用することにより仕事を抜本的により良く変えること」となるかと思います。これをさらにブレイクダウンすると、「データを分析・活用」とは、計画、議論、意思決定、行動の際に、必ずデータに言及すること。勘とか経験も必要ですが、常にデータの裏付けを意識することが大事です。

「抜本的に」とは、やめる、完全自動化、順番を入れ替える、シーケンシャル→コンカレント、など、外から見てはっきり分かる程度までやること。

「外から見てはっきり分かる程度までやる」ことは大変重要です。これまでいろいろなアプリケーションを作ってきた経験からいうと、一生懸命お金をかけてアプリケーションを作って、「ちゃんと使っています、効果が出ています」というものの、現場を見ると以前と変わらない風景で仕事をやっている。これは単なるデジタル化で、DXの域まで達していない。現場の風景が変わっている、人の動きが変わっていると、見た目でわかるくらいでないと、劇的な効果は出ないのではないかと思います。

さらに、一番抜本的なのは社外(顧客)とデータでつながることです。これが一番わかりやすい。ここまでできれば、本当のDXだと思います。

「より良く」とは、売上増、利益増、顧客・従業員満足度向上、SDGs貢献など。
なんだ、当たり前のことではないかと思うかもしれませんが、案外、DX自体が目的になっていて、ここが忘れられていることが多い。DXは経営の課題だから通常の経営目標と同じでないとおかしいのです。

小泉:確かに、DXが目的化することはよくありますね。会社が儲かる、顧客が喜ぶ、株主が喜ぶ、地域・社会が喜ぶというところから乖離して、DX自体が目的になるのはおかしい。ところで、「顧客とデータがつながる」とおっしゃいましたが、具体的にはどういうことでしょうか。

土佐:ひとつは、研究開発です。もっと身近なところでいくと、受発注システムなどでしょうか。そうすると、劇的に仕事の仕方が変わったり、今までは感覚的に伝えられていたことがデータで客観的にわかるようになるなど、いろいろな所が変わってきます。

利用するデジタルツールについては、今、AI、クラウド、IoT、画像解析、ブロックチェーン、量子コンピュータ、RPA、ローコード・ノーコードなどいろいろな技術がありますから、それらの中から何をどう使うかが問われます。

データ分析・活用の際に指標となるのは、自動化・蓄積・分析・プラットフォームの4要素です。まず、データが自動的に集まる仕組みになっているか、ちゃんと分析できているか、最後は自社のプラットフォームにデータを上げれば何かしら答えが返ってくるような仕組みになっているか。そこまでできていれば、DXが進んだと評価できるのではないでしょうか。

小泉:「データはあります」と言う会社でも、見てみるとデータが揃っていなかったり、いざ分析しようとすると、とりあえず集めただけなので使えないデータだったり、ということはよくありますね。

住友化学様の場合、仮説を立ててからデータを取るのか、たくさんのデータの中から何かを見出そうとするのか、どちらですか。

土佐:分野により両方ですが、どちらかといえば仮説を立ててからデータを探すほうが多いですね。ありとあらゆるデータが集まっているので、仮説なく集めるとほとんどは使えません。データを眺めているだけでは仮説は立ちません。仮説があってはじめて、自社にあるデータは何で、これはないから取らなければ、あるいは外から取って来なければ、という判断もできます。

小泉:以前、データを取り始めたのは数年前だとお聞きしました。

土佐:基幹系のシステムですと、全データがあるわけですよ。それをどう使っているかというと、従来ありがちな管理会計的なことにしか使われていない。

今は、ツールを入れると、勝手にデータが蓄積されていきますから、単なる合理化・改善で終わらせず、そのデータを分析・活用し業務革新につなげる意識を持ち続けることが大事です。そうすれば、組織・企業文化は変わります。結果として、デジタル化した世界で勝ち残れるということになると思います。

(3)仕事の変え方のポイント

DXの進め方で、最も重要なのは何を課題と思い、何を解決しようと思うか。これをしくじると、すごくおかしなことになります。

例えば、「稟議決裁に手間とか時間がかかる」という課題があり、これを「最新のデジタルを活用して稟申のスピードを上げる」という目的を立てて、「稟議フォルダーにRFIDをつけて、PCで場所を確認できるようにする」という施策を立てたとします。これによって、稟議の行方不明はなくなり、滞留時の督促はできるようになり、稟申のスピードが2割アップ、稟議書を探す手間が年間10工数削減されたとします。でも、全く効果がないわけではないが、劇的な効果とはいえません。現状のプロセスを前提とした表面的な課題設定では、得られる成果はいまひとつです。

小泉:書類が誰かの机に置きっぱなしになっているのがわかるだけですね(笑)。

土佐:投資の割に効果が少ない。それは、課題設定に問題があるからです。先の例では、決裁にかかる手間とプロセスの改善を課題ととらえていました。しかし、課題は稟議のアクションそのものに時間がかかることではないかととらえなおすと、「フォルダーにRFIDをつける」ではなく、「稟議を電子化して一斉に配信」「合議は同時、場所を問わず決裁できる」ようにする。

これによって決裁スピードが8割向上したとします。最初のケースよりもだいぶ良いですが、もう一歩踏み込んで、「意思決定のアクションの質を上げる」ところまで目指したい。

単にプロセスを電子化するだけでなく、電子化した稟議を自動的にデータ化する。たとえば、誰がいつ何をどのように意思決定したのかをすべてデータ化し、それを解析することで、意思決定の質そのものを上げる。あるいは、人間が判断する必要がないと判断したものは自動化する、というところまで変えていく。

DXをやるというのであれば、ここまでやる必要があるのではないでしょうか。

スライド資料:DXの進め方

小泉:なんとなく習慣的に部長までハンコを押しているけれど、実は部長までいらない稟議もありそうですよね。

土佐:稟議書ファイルを開いて、コンマ何秒でクリックするようなら、最初から見る必要はないのかもしれませんね。こういったことも、データを解析すれば見えてきます。単にプロセスをデジタル化しただけでなく、ここまですれば、DXができたと言えるのではないでしょうか。

推進体制 〜リードするのは誰か?〜

(1)ステージごとにリーダーは変わる

土佐:DXには、創世記⇒揺籃期⇒成長期という3つのプロセスがあり、DXの推進体制はそのステージごとに変わっていきます。

創世記は、IT部門かデジタル部門が推進主体になります。外の動きと関わっている部署が、社内に対して「こういうことをやらなければ」と、ビジョンの提示や啓発・宣伝を行う。

揺籃期は、IT部門が推進主体であることは変わりませんが、他部門の中に協力者ができ、「うちの部署で実証実験をしたい」というところが出てくる段階です。

これが成長期になると、ビジネスでベネフィットを取りに行こうという段階に入ります。ですから、各部門のビジネスラインが推進主体となっていく。IT部門は、(注:スライドの方が誤記でした)事務局的に全体をたばねたり、各部署のDX実現をサポートしていく。

小泉:主体はステージごとに変わって、最終的にはビジネスラインが主体になると。本来的には、最初から成長期の体制でできればいいのですが、なかなかそうもいきません。最初はITに詳しい部署から始めてそこから展開していくのが現実的だということですね。

土佐:そうですね。創世記に、どこかの部門がDXをやろうと声を上げることもあるとは思うのですが、それが全社的に広がるのは難しいと思います。ですから、コーポレートの役割として、最初の旗振りは必要だと思います。

スライド資料:推進体制(ステージごとに変化する)

(2)既存の組織プラスアルファ

DXの推進組織についてはいろいろな考え方があり、会社ごとに違っていいと思いますが、当社の考え方としては屋上屋を重ねるようなことはせず、既存のラインプラスアルファで進めています。司令塔としてはトップマネジメントもいますし経営会議もありますので、それで十分ではないかと。日々の事業は縦ラインでやっているので、そのやり方の方がスピード感があります。各ライン組織に責任者をおき、DX連絡会という場をつくって、部署間で連携が必要なところは連携しながら、基本的には各部署がDXを推進していく。

スライド資料:推進体制(既存の組織プラスアルファ)

そうはいっても、データ解析、システムインフラ、セキュリティといった全社共通の機能は、組織横断的にIT推進部やデジタル革新部が一括して行う。そういう進め方をしています。

DX推進責任部署を設置してリードする方法もあり、有効かもしれませんが、そもそもDX推進は各部署自身のビジネスの問題なので、当事者が自らを変えられるようにならないと意味がありません。
どちらの方法が良いか、結果は数年後に業績で示されるでしょう。

小泉:縦割り組織を横串にして連携させようとすると抵抗感を示す企業も多いです。住友化学様は、もともと他部署との連携をすることに抵抗がない企業文化だったのか、それともDXをきっかけに変わったのでしょうか。

土佐:もともと製・販・研(製造・販売・研究)一体化とよくいわれ、各分野で連携する文化でしたが、DX推進でそれがより強化されたかもしれません。

(3)IT部門の役割

前述のように、創世記にはIT部門が主体ですが、最終的には事業部門がDXの主体でなければなりません。しかし、気づきを与えただけでは実行へ移せないので、IT部門が並走する必要があります。IT部門の役割は、「ビジネスラインをその気にさせて、一歩踏み出すお手伝い」というところでしょうか。

IT部門は、最初はライン部門への先生役であり、教育・啓発活動を行うことによって、一人ひとりの知識レベルを上げ、ユーザー部門のデジタル武装を図っていく。そして最終的には、各部門の「こうしたい」というアイデアの実践の場を提供したり、様々なアイデアの駆け込み寺的な役割を担っていく。

小泉:1人のスーパーマンに頼るのではなく、みんながデジタル武装をしてゲリラ戦でDXを推進していくと。駆け込み寺的な存在になるというのは、どのようなことでしょうか。よく、せっかく社内にIT部門があるのに、なかなか相談できないという話を聞きます。

土佐:こちらから出向いて、フェイス・ツー・フェイスの関係を作っておくことですね。顔を知っていれば相談しやすくなります。

スライド資料:推進体制(IT部門の役割)-1

土佐:IT部門のもう一つの役割としてサイバーセキュリティ対策があります。サイバーセキュリティがないとDXでいろいろな努力をしてもまったく無駄になってしまいます。大変な重要なテーマですが長くなりますので今回は割愛します。

以下の図は、IT部門の役割をどう変えていくかを検討したものです。新しい役割には技術力も人間力も求められます。これだけの役割を果たせる人材は、一朝一夕では育成できません。
当社がこのようなIT人材になってもらうための育成を始めたのは2012年。そのころはDXもIoTという言葉もありませんでした。しかし、企業の付加価値を生み出すには、従来とは異なった新しいIT人材が必要だと考え、9年前から、IT要員のリスキルに着手し、ビジネスラインに投入するということを始めました。

スライド資料:推進体制(IT部門の役割)-2

(4)IT部門体制整備、人材の育成

当社では、IT部門の目指す姿を「最新のIT活用による事業の競争力強化とイノベーションを推進する組織」とし、2017年7月に、システムを安定的に保守運用する「守りのIT」のみならず、住友化学グループのビジネス拡大、業務革新に資する「攻めのIT」を実行するための体制整備、人材育成を実行していくこととしました。

当社には、住友化学システムサービス株式会社という子会社があり、そこにIT戦略室を設置し、そこに保守運用の人員をどんどん移しました。それをやれるようにするために、保守運用業務を2012年からどんどんアウトソースし、オンプレミスのサーバーもクラウドに移行。これによって浮いた要員をIT戦略室に送ったのです。そのほか、海外の現地法人に出向させたりして、マインドチェンジも含め、最新技術を学ばせました。

小泉:社員を定型業務から、戦略的なことを考える部門に移したわけですね。その効果はどのように表れましたか。

土佐:結果として、2021年7月に、子会社を本体に吸収合併し、住友化学本体のIT推進部門として動けるようになりました。2012年から積み上げた人材育成があったからこそ、今、本体のDX推進の中心的存在となっています。成果が出るのはこれからです。

小泉:本体のシステム部門が子会社化して、本体の下受け的な業務のみを請け負っているケースも多いですが、将来を見越して戦略的に人材育成の場にしてきたのですね。それが今、本体にもどって、全体を俯瞰しながらDXを推進していると。

土佐:子会社のメンバーが違和感なく本社でDX推進に取組めたのは、この10年間、全社的なDXの方針に通じることを言い続けてきたからだと思います。

(5)基本は社員、ただし、外部の力はいくらでも借りる

土佐:DXは、社員が自分で取り組まなければ意味がありません。「一部の優秀な人がやってくれる」では続きません。また、他社の例は自社には当てはまらないので、そのまま真似してもうまくいきません。

外部の優秀な人を採用してその人に丸投げしても、周囲の社員が「DXって何?」という中で孤軍奮闘するようでは定着してもらえません。社員の知識・スキルレベルを上げていないと、優秀な人がきても一緒に仕事ができないのです。

ではどうしたらいいのでしょうか。そもそもスーパーマンはいないので、ないものねだりするより社員を育てたほうがいい。とはいえ、全部自前で取り組むのでは、時間がかかりすぎます。

そこで、外から借りられる人材や資産は借りられるだけ借りる体制が必要だということで、2021年3月1日に、アクセンチュアと合弁会社「SUMIKA DX ACCENT」を設立しました。これは、DXの推進と、人材育成の2つを担う会社です。

スライド資料:推進体制(基本は社員、ただし、外部の力はいくらでも借りる)

DXには、
① 当社の事業・ITに関する知見
② 革新的な技術にキャッチアップするスキル
という2つのスキルが必要です。SUMIKA DX ACCENTは、主に ② の強化を図ります。
アクセンチュアが持つ先進的なノウハウや専門人材を活用して、当社のDX推進を加速し、同時にDX人材を育成する。最終的には、当社のIT部門とビジネス部門をさらに連携させ、デジタル革新を一層加速させる。そういう仕組みを作りました。

小泉:なるほど、ユニークな仕組みですが、アクセンチュアとしては自社のノウハウが外に流出することになります。それについてどう考えているのでしょうか。

土佐:アクセンチュアはコンサルタント会社なので、ノウハウや技術を持っていても実践をする場がありません。彼らは試す場が欲しい。当社は新しいノウハウや技術が欲しい。ですからウィンウィンの関係になっています。

(6)外部の力に期待する点

外部の力を借りることで期待することは2つあります。
次の絵を見てください。鴨がビジネス課題、ネギがデジタルです。
デジタル(ネギ)がちゃんとビジネス課題(鴨)に背負われている場合は、DXは成功します(うまい鴨鍋ができる)。しかしビジネス課題(鴨)はあるがデジタル(ネギ)がない場合は、鍋はできるがおいしくはなりません。

だから、当社はSUMIKA DX ACCENTを設立しました。鴨鍋の例でいえば、SUMIKA DX ACCENTは、スーパーマーケットです。ネギがなければスーパーで買えばいい。スーパーに行けば、ネギだけでなく、椎茸、白菜、豆腐、つまり様々な技術やノウハウも手に入る。それが、期待することの1つ目です。

スライド資料:推進体制(外部の力に期待する点 その1)

もう1つは、ネギはあるが鴨がいない場合です。デジタル(ネギ)で何かやれといわれているが、課題(鴨)が見つからない。ネギはどこでも買えます。鴨も実はたくさんいます。会社に課題がないことはあり得ません。しかし、見えないことにはつかまえられません。課題を見つけるにはスキルや経験が必要です。そこで、それができる人を育てる。つまり猟師を育てるのです。それがSUMIKA DX ACCENTの人材育成の部分で、2つ目の期待するポイントです。

人材育成 〜経営・ビジネス人材×IT・デジタル人材〜

(1)必要な人材をどう育成するか

DX1.0 が自動化、DX2.0がビジネスプロセスの変換、DX3.0がビジネスモデルそのものの変換だといわれています。様々な業種の中でも特に素材産業はDX3.0を進めることは簡単ではありません。素材が持っている機能をデジタルに置き換えることは、大変難しいものです。

カーボンニュートラルとか、プラスチックの資源循環などの問題は、結局デジタルでなければ解決できません。しかし、デジタルだけあっても解決できません。

こうした問題を解決するには、ケミカル分野のドメイン知識を持ち、化学産業に夢を持つ人が必須です。これは、社員をおいて他にいません。

スライド資料:人材育成(経営・ビジネス人材×IT・デジタル人材)

社員の中に、経営・ビジネスを理解しているIT・デジタル人材と、IT・デジタルを理解している経営・ビジネス人材の両方が必要です。果たす役割は同じなので、IT、経営、どちらが出身でもかまいません。

(2)デジタル教育

会社でDXを推進するうえで、社内のデジタル人材の育成が必須、かつ急務です。必要な人材像を設定して、そこから、育成するための教育を設計し実施していくことが大事です。
当社では、次のような人材像をイメージして、取り組んでいます。

1つは、データサイエンティストです。最新技術を持ちデータ解析業務をリードし、データエンジニアを指導・育成できる人をイメージしています。さすがに社内育成だけでは難しいので外部からの採用も行います。

次に、データエンジニアです。データサイエンティストと話をできて、なおかつデータサイエンティストが作ったモデルを自分の部署に適用し、ブラッシュアップして実務におとしこんでいける人材です。

3つ目は、ビジネストランスレータです。担当事業全体を理解し、適用可能なデジタル技術が判断でき、社内外のIT・デジタルラインとビジネスラインの間に入って主導できる人材です。ビジネス部門とIT部門双方から育成して、トランスレータ人材へ転換を図る考えです。

4つ目は、ビジネスデータアナリストです。担当事業の実務を理解し、BIツールなどを使いこなし、データの可視化・分析による業務改善・課題解決できる人材です。

では、この4つの人材以外は必要ないのか、ということではなく、DXとは何なのか、AIで何ができるのか、5Gになると何がどう変わるのかなど、デジタルに関する基本的な知識は全社員が持っているように底上げが必要と考えています。

小泉:今は、誰でもがスマホをはじめ様々なICT機器を使いこなしている時代なので、ホストコンピュータやオフコンの時代よりは各段にリテラシーは底上げされていますね。

(3)IT人材をデジタル人材へ変換する [リスキル]

土佐:当社で人材育成を営々と行ってきたことによって、マインドセットは変わりました。それに加えて技術教育も行ってきましたが、私はデジタルトランスレータ教育に加え、IT独自の教育も必要だと感じ、現在検討中です。

世の中には、「モード1の人材はモード2の人材にはなりえない」という人もいますが、せっかくビジネスのドメイン知識を持っている社内のモード1人材を活用しない手はありません。また、私は、モード1とモード2は連続していて2分できるものではない、リスキルは可能だと考えています。

小泉:モード1とは、安全性を重視して変化の少ないシステムを扱う、いわゆる守りのIT、モード2とは、開発・改善のスピードを重視しビジネスを成功させる、いわゆる攻めのITといわれていますね。

土佐:モード1もモード2も連続している話で、技術水準もどちらが高い、低いという話ではない。考えた方が異なるだけで、リスキルして変わっていけると考えています。

小泉:以前のIT技術者って、ネットワークやデータベース、バックアップなど、専門分野が細分化されていてそれぞれに深い知識を持っている人がたくさんいました。今は、システムのパッケージ化が進み、あるものを組み合わせればいいので、深い知識は必要なくなっています。このような時代の中で、情報システムの全体像をつかめる人は少なくなっていますね。

土佐:システムの本質は何もかわっていなくて、見えなくなっているだけですよね。この10年間、IT部門の変革に取り組んできて、そういう課題感はあります。レガシーをどう残せばいいのかと。今は昔のように深い知識のある技術者がいますが、今後5年後10年後は少なくなっていくのでどう育成するか。ただ、何を必要とするかというニーズも変わっていくので難しいですね。

スライド資料:人材育成(IT人材をデジタル人材へ変換する)

(4)デジタル教育の留意点

土佐:社員教育でありがちな失敗を以下にまとめました。

スライド資料:人材育成(デジタル教育の留意点)

たとえば、いろいろ事例は教えてもらったが自分の仕事に関係あるのか、研修を受けたときは盛り上がるが、いざ自分の仕事に戻るといつもの日常が待っている、研修は面白いが実際に活かせそうにない、学んだことを試してみたくてもデータがみつからない、など。いろいろと、「できない理由」があって、結局は何も変わらない。そうならないために、当社ではカリキュラムを工夫しています。

たとえば、研修の参加者を、希望者ではなく、デジタル推進役としてミッションを持った人に絞る。それで参加人数が減ってもよしとする。また、座学だけでなく、必ず実際のデータを使った演習を行う。受講履歴を人事上の記録とする。そして、一番大事なのが、研修後のフォローアップです。

研修の目的は、あくまでも自分の職場にもどってデジタル化の推進をしてもらうことなので、ちゃんとできているか、困っていることはないか、研修後も継続的に支援することが大事です。

小泉:支援はどのようにされているのですか?

土佐:今のところ、研修メンバーによるSNSを立ち上げて、そこで情報交換ができるようにしています。

大前提は、会社が本気でDXを進めているということを、社内の隅々にまで周知させること。トップがメッセージを発信することはもちろん、DX推進役を正式な仕事として各部門でアサインすることも大事ですし、DX活動推進賞を設ける、経営トップ主催の全社DXイベントを行うなど、全社の運動として進めていくことも大事だと考えています。

小泉:イベント的に盛り上げることは大事ですね。表彰されると単純にうれしいですし、モチベーションになります。様々な方法で定着を図っているのですね。

(5)最大のポイントはマインドチェンジ

土佐:DXがなぜ進まないのでしょうか。よくある原因は、まず社員が特に困っていない、これが普通だと思っている。だから仕事のやり方を変えたくない。あるいは困ったことがあっても仕事のやり方は変えないままひたすらがんばってしまう。

しかし、COVID-19で、ひたすら頑張るだけではどうにもならないとわかってきました。これを機会に、「ただがんばるということはやめて、考えなおしてみる」ことが必要かなと思います。そこが、マインドチェンジの第一歩です。

DXはツールかつ前提であって、やるべきことは、仕事の仕組みを新しくすること。仕事の仕組みを新しくすることは、DXのツールでこそ実現できます。「多少不自由でも、今までもできていたから」という考えを変えなければ始まりません。

よく「ファクシミリは、DXを阻む諸悪の根源だ」と言われますが、悪いのはFAXではありません。データを使おうとせず、情報共有を伝言ゲームでやろうとする、そのやり方自体を見直さなければならないのです。

必要なのは、デジタル化ではなく、デジタルトランスフォーメーションですよと、唱え続けることが大事だと思います。

スライド資料:人材育成(デジタル教育の最大のポイントはマインドチェンジ)

小泉:DXは文化を変えることだと言われますが、その前にマインドチェンジだよと。マインドを変えて、いろいろなことを変えていった結果、文化が変わった、それがDXなのだということですね。

最初に土佐さんは、「見た目が大きく変わっていなければだめだ」とおっしゃいました。大きなジャンプアップするためには、知見も技術も必要だし、マインドチェンジも必要で、結局は、地道な積み上げが必要だということですね。

土佐:全くそのとおりで、大きなジャンプアップをするためには、様々な要素の積み上げが必要です。ということは、まだまだ道半ばということでしょうか。

次回お目にかかるときには、目に見える成果を上げて、発表できるようになっていたいと思います。本日は、ご清聴ありがとうございました。

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