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【食品IT Onlineセミナー2021】 ロジスティクス人財の育成とITの有効活用 〜コロナ禍でも止めない強いロジスティクスの実現!〜

2021/2/24 [食品,物流,セミナーレポート]

コロナ禍の今、企業を支えるのは強い人財です。ロジスティクスにおいても、人財育成は最重要課題と考えます。2019年に開校した「サッポロ・ロジスティクス☆人づくり大学」にて実践した、強い人財育成の方法論をご紹介します。また、人財と共にその重要度が年々増しているITの活用についても実践事例をお話します。

サッポログループ物流株式会社
ロジスティクスソリューション部 部長
井上 剛 氏

1997年4月サッポロビール入社。名古屋、関西のロジスティクスセンターに勤務したのち、2003年に本社サプライチェーンマネジメント部に異動。サッポログループ物流本社ロジスティクスソリューション部ソリューショングループ部長、サッポログループマネジメント グループロジスティクス部グループリーダー、サッポロホールディングス ロジスティクス部 グループリーダーを経て現職。

今、これまでできなかったことができる

最初に、サッポログループについて簡単に説明いたします。創業は1876年で、明治の初期に北海道で生まれた会社です。2026年に創業150周年を迎えます。経営理念は「潤いを創造し豊かさに貢献する」。3つの事業ドメイン「酒類事業」「食品飲料事業」「不動産事業」を持っていて、従業員はグループ全体で約8,000名弱。2020年実績の売上は4,347億円。そのうち、酒類で2,854億円、食品飲料で1,259億円、不動産で233億円でした。海外の売上比率は約15%となっています。

スライド資料:サッポログループについて-売上構成比
スライド資料:サッポログループについて-理念・事業内容

主な国内製造や出荷の拠点は次の通りです。ビールの物流拠点は赤く記したところにあります。青は飲料食品の拠点です。全国各地に構えていますが、事業別に見ると少し偏っているところもあります。特にビールについては、工場再編で静岡から九州までは生産拠点がありません。大阪にも工場はなく、大きな物流センターだけを置いています。

スライド資料:サッポログループについて-主な国内製造・出荷拠点

ビールとそれ以外の飲料では出荷のスキームが大きく異なっています。ビールはどちらかというと自前の工場から得意先に直送するのがメインです。飲料については、ロットが細かいことから共同配送をメインにしていて、外部の委託比率が約半分ほどになります。今は物流も地産地消の比率を高めていかないと立ち行かない状況で、物流拠点と生産拠点の見直しも進めているところです。いかに「離産離消」から「地産地消」に変えていくかが課題だと思っています。

組織は次の図の通りです。私が所属しているのは、サッポロビールとポッカサッポロフード&ビバレッジの共同出資の会社「サッポログループ物流」です。そのロジスティクスソリューション部に私はいます。

スライド資料:サッポログループのロジスティック組織・体制について

現在は新型コロナウイルスの世界的流行という有事の状況です。さまざまな環境が激変していくでしょう。自ら変化しなければ可能性は広がらないという言葉を胸に刻み、「これまでできなかったことが今できる」という思いを持って、新しい環境に向かっていきたいと思っています。

サッポログループにおけるロジスティクスの課題と背景

事業活動の結果はすべて在庫に現れる

ロジスティクスの課題は、ロジスティクスだけでは解決できないことが多いと思っています。バリューチェーン各部門の不具合が最終的にロジスティクス部門に大きな影響を与えるからです。事業活動の結果はすべて在庫に現れ、うまくいけば適正在庫となり、無理をすれば過剰在庫となり、偏在があればそれも問題となります。安定供給の実現には、ロジスティクス起点でバリューチェーンの改善を提案する必要があります。

スライド資料:サプライチェーンにおける課題とその影響

未来視点で根本的な課題解決に取り組む

この課題の解決には、バリューチェーンの上流から「標準化」「可視化」「シェアリング」の3つを徹底的にやるほかないと決めて、今取り組んでいるところです。今後、人口減少や働き手不足は避けられません。物流の現場ではつい、今日、明日、明後日の業務や問題に集中しがちですが、この習慣を断ち切って、未来視点からのバックキャスティングで根本的な課題解決に取り組むことが求められていると思います。

我々はロジスティクスにおける将来リスクを定量的に見積もり、これを経営陣と共有し、「みらい物流」という言葉を作りました。そして、この実現に向けて2018年からロジスティクス改革に取り組んでいます。

スライド資料:ロジスティックス改革 現在の取り組みから

バリューチェーンを横断して活躍できる人材を育てたい

ロジスティクス改革にあたって、まず内部でアンケートをとりました。40〜50歳代の社員が8割で、ロジスティクス部門の経験が5年以上という者も76%いました。ただ、ロジスティクスについては、自分の業務以外のことは知らないという者も多いと分かりました。そうであれば、この部門以外の人たちはもっとロジスティクスのことを知らないはずです。

「それはよくない」ということで、きちんとロールモデルとなる人財を育ててバリューチェーンのいろいろなところで活躍できるようにしたいと、経営層に何回も訴えて認めてもらい、ロジスティクス部門とバリューチェーン関連部門が共に学び連携する場を設けることになりました。

スライド資料:ロジスティックス部門の人財課題

「サッポロ・ロジスティクス☆人づくり大学」の目的と理念

ここから「サッポロ・ロジスティクス☆人づくり大学」の話をしていきます。この「ロジ大」は2019年2月に開校しました。目的は、ロジスティクス全体を見渡しながら外部の環境を理解し、難題を解決するためのソリューションを自ら見つけて実行できる人財を作り出すことです。

スライド資料:改革の担い手 人財育成の仕組み構築の取り組み

ロジスティクスのプロフェッショナルを育て、その人数を増やしてプールし、グループの中でロジスティクスに対する認知を高めていく。そして、さまざまな課題をバリューチェーン全体で解決できるようにして、事業運営をより持続性のある状態にしたいと思っています。

スライド資料:人財育成を見直す背景

ロジ大の受講生の定員は30人ほどにしています。公募で集めるのですが、想定以上の応募があります。受講生の内訳は、一昨年の第一期では半分がロジスティクス部門、もう半分がマーケティングや調達の部門からの参加でした。昨年の第二期では、ロジスティクス部門の比率が3割で、残り7割が他のバリューチェーンの部門でした。

今後、毎年30人ぐらいずつ育て、10年で300人ぐらいまで増やしたいと思っています。ただ、現在の物流の状況から長く時間をかけられないところもあり、受講生には、ここでの学びや気付きを職場に戻って積極的にフィードバックするようにと声をかけています。

「ロジ大」で現場を学び課題を見つける

このロジ大では、OJTではないやり方で専門人財を育てたいと思っています。物流現場を知る機会を持たせて、その上で戦略を立てられる力を身に付けさせていく。そうやって、ロジスティクスを経営視点で推進できる人財を育てたいと思っています。

受講生には、まず物流の基礎を学んでもらいます。これが第一です。そしてオープンセミナーで最新の情報やテクノロジーなどのトレンドを知ってもらう。さらに、現場の現状もしっかり見てもらい、グループが強みを発揮しようと取り組んでいる最新のソリューションを理解し、逆に課題を抱えて困っている現場を知ってもらいます。

スライド資料:第2期(2020年実施)基本方針

また、物流の専門家である大学の先生の講義や、「ビジネス・キャリア検定」における「ロジスティクス管理」の受験も推奨し、合格した人もいます。定期的なレポート提出の課題もあり、レポートは私と事務局のメンバーでチェックし、質問があれば対応します。大学の先生に回答いただくこともあります。そして最後は、ロジスティクスで取り組むべき課題をチームで発表してもらいます。

開校式でトップメッセージを発信

何事も最初が肝心だと私は思っています。開校式では社長が出席し、「ロジスティクスはマーケティング、アカウンティング、ファイナンスの次の必須スキルである」とトップから発信しました。またロジスティクスの問題を解決するには、これまでのバランスを崩して発想を転換する必要があり、デジタル技術やIoTが必須になると語ってもらいました。そして、バリューチェーン全体から集まってきた受講生に対して「ぜひ思い切った提案をしてほしい」と激励し、グループ内事業会社の社長のトップメッセージももらい、受講生に届けました。

2020年の第二期は、新型コロナウイルスの影響があり、4月開校のところを6月に延期しました。また基礎講座をすべて動画にして受講生が各自で視聴。物流現場の視察も、あらかじめ撮影した動画を通して疑似体験してもらいました。緊急対応だったのですが、受講生からの評判は良かったです。12月に最終の発表会を行いました。

受講生みずから課題テーマを考え、経営層へ提言

最終発表会では、さまざまなテーマの取組課題が発表されました。例えば、営業の第一線から来た受講生は、配送最適化や廃棄改善、物流ロットアップなど、営業とは直接結びつかないテーマを出してくれました。あるいは、自身の仕事での経験などを生かして、製造やエンジニアリングの目線でロジスティクスの仕組みを変える提案もありました。

事務局から提示した課題テーマは一つもありません。すべて受講生が自ら考えたものです。ロジスティクス部門の者だけで考えても出ない課題発見が数多くあり、また事業戦略に近い課題テーマも多く、今の業務に引き継げるものもありました。最終発表は、経営会議に見立て、グループ内事業会社各社社長、役員の前での発表となり、最後に優勝チームを選びました。

ロジ大卒業生の活躍を期待

これまでのロジ大の流れを振り返りますと、まず2018年に企画を構想し、2019年に第一期を、2020年にはコロナ禍の中で第二期を実施しました。2021年の今年は第三期を実施します。新型コロナウイルスによって環境が大きく変化していますが、逆にこの環境変化を受けて、受講生からは今までになかった発想の取組課題が出てくるのではないかと期待しています。5年後には、多くの卒業生がいろいろなところで活躍し、ロジスティクスが経営的な視点でバリューチェーン全体に入っていることを強く願っています。

スライド資料:ロジスティックス人財育成の中期計画について

ロジスティクス改革におけるITの取り組み

数年前、物流クライシスが起きました。宅配だけではなく、物流全体が危機的な状況であると社会に広く認知されました。我々も、この物流の課題を放置すれば、やがて足かせになるという危機感を強めました。

我々は、物流クライシスが起きる前から、ロジスティクスに対してITを含めてさまざまな投資をしてきました。経営陣の理解も得て、物流システムや倉庫の拡充といった大型投資にも取り組んでいます。物流クライシスが起きてからは、もっと社内でロジスティクスをクローズアップしてもらえるように、メンバーたちといろいろと行動し、待ったなしのロジスティクス改革を今やらないと事業全体で不安定さが増すと訴えてきました。

スライド資料:サッポログループの物流におけるリスク

前述しましたが、ロジスティクス改革で重要なのは、「標準化」「可視化」「シェアリング」です。しかし、これを実現するには、全体のバリューチェーンの中にあるチャネルやエリア、商品、SKU(Stock Keeping Unit:在庫管理上の最小の品目数)、物流条件、ネットワークにもメスを入れていく必要があります。

我々の施策の大きな柱は次の図の通りです。物流業務の標準化を意味する「LPS」(Logistics Process Standardization)という言葉を作り、需給計画・配車・請求支払・倉庫・輸出入をスコープとして、計画主導型の標準業務モデルを構築し改革を進めていきます。ポイントは、1業務1システム+データで回していく流れです。そして、上流の需給・供給補充計画系を固めて、下流の物流実行系もしっかりと固めていきます。

スライド資料:標準化・可視化・シェアリングへの対応策

業務改革の施策例の一つに、需給計画業務フローの見直しとグループ内の統一があります。つまり、必要なときに必要な場所に在庫を持つということです。そのタイミングを一日単位ではなくて一週間単位で見るようにして、需要予測のところを抜本的に変えました。

スライド資料:業務改革施策例1 需給計画業務フローの見直し、グループ内統一

以前は、部門ごとに在庫を決めていました。だから、Aさんは多くの在庫を持ち、Bさんは極端に少ないという偏在が起きてしまい、転送する車両をいつも用意しなくてはなりませんでした。このような個人の感覚に基づく在庫管理はやめて、統一的な方法で在庫を持つように変えました。必用なときに必要な在庫を必要な場所で持てるように、データを蓄積し需要予測を徹底的に当てにいくようにしています。

スライド資料:業務改革施策例2 物流を平準化する補充計画

また、「ラフカット」技術を活用し、供給補充計画を平準化するようにも努めています。物量が平準になるように補充計画を立て、調達車両も均一にする。1日単位の在庫極小化ではなく、1週間単位で必要な在庫を持つようにすることで、物流の波動を解消することができますし、将来の物流の逼迫(ひっぱく)にも対応できるようになります。

このような改革を進める上で重要なのは「目指す姿」をきちんと描き、現在地がどこなのかをいつも示すことです。そこから見えるギャップこそ取組課題となります。

スライド資料:ロジスティクスの中長期の対応策

当グループをさらに成長させていく原動力は、いうまでもなく人財だと思っています。目先のことにこだわらず、土台のしっかりしたものを作り、適切な水と肥料を適切なタイミングで出していく。新種も育てていきたいと思っています。私どもサッポロビールのビジョンは「誰かの、いちばん星であれ」です。

スライド資料:サッポロ・ロジスティクス改革のビジョン

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