株式会社ニチレイロジグループ本社 1993年株式会社ニチレイ入社。物流センター勤務を経て、物流企画部門や情報システム部門などを歴任。多くのプロジェクトに携わる。2016年より業務革新推進部にて、「低温物流業務のデジタル化」に取り組んでいる。 |
ニチレイグループは”冷力”を事業のコアとして、その特性を活かした事業を展開しており、その中でもニチレイロジグループは、食品物流(低温物流)事業を行う、年商約2000億円規模の会社です。これは、ホールディングス全体の売上の35%を占め、グループの主要事業の一つとなっています。
当社の売上高のうち、ニチレイグループのシェアはわずか8%で、残り92%はニチレイグループ以外のお客様です。
当社のサービスメニューは、①保管事業、②ネットワーク事業、③エンジニアリング事業、④海外事業で、全国に約120の物流センターを持ち、コールドチェーンの川上から川下まで幅広く事業を展開しています。
私は、2016年より業務革新推進部にて、「低温物流業務のデジタル化」を進めています。
業務革新推進部ができて5年。全社をあげて業務革新に取り組んでいます。
その背景には様々な課題がありますが、主なものとして、労働力不足があります。
今後、いっそうの労働力不足が懸念される中、現状の仕事を、「熟練者でなくてもできる仕事」「ストレスフリーな仕事」に変換し、効率的な運営に変えていく必要があります。それによって、お客様のサプライチェーンを支える「持続可能な物流」を実現することが、業務革新推進部のゴールです。
もう一つの課題はデジタル化の遅れです。当社ではWMS(Warehouse Management System)は導入しており、保管台帳管理から輸配送、EDI、情報系、請求、会計業務はシステム化されていました。しかし、業務は紙ベースで行われており、5年前に調べたところ、月間のA4出力は約680万枚。積み上げると約600mにもなる計算です。紙ベースであるがために、出力された紙の整理、搬送、記載、チェック、保管、整理などの業務に追われることになります。この状態をまずは解決しなければと、作業と事務のフルデジタル化を業務革新の一丁目一番地に位置づけました。
当社の物流DX施策の全体像を示したのが下図です。
今回は、この中から、事務効率化(RPAとAI-OCR)と、待機問題解決(トラック予約システム)についてお話しします。
2016年からRPA導入の検討に入りました。当時はようやくRPAという言葉が知られるようになった頃です。まず、各種RPAツールについて情報収集し、弊社でもRPAを使えそうだという印象を持ちました。次に、どのような業務がRPA化できるか、セルフアセスメントを行いました。その結果、工夫は必要だが40〜50%の業務はRPA化できると判断しました。
2017年に、全国10カ所の物流センターをモデル事業所とし、トライアルを行いました。成果が出るところ、出ないところの濃淡はありましたが、手応えを感じました。
本格稼働に向けて、RPAに関する基本方針の整理、RPAツールとパートナーの選定、全国展開への課題整理を行いました。
そして2018年、すべての事業所を対象に全国展開をしました。しかし、「環境は整ったので、さあやってください」では現場に浸透しません。そこで、①マインド変革、②サポート体制、③情報共有という、3つのアプローチを推進しました。これについては後で詳しくお話しします。
RPAというと、「事務作業の自動化」というキーワードを思い浮かべがちですが、当社では、RPAで実現したいことを「リソースシフト」というキーワードに込めました。
全国約120カ所の事業所には多くの事務従業員がいます。この人たちの主な業務は入力作業です。これをRPAに置き換えることで生まれる心と時間の余裕をコミュニケーション強化やホスピタリティの向上、新たな付加価値の向上、有給取得率の向上や多様な働き方の実現によるワークライフバランスの向上などに活かすことができます。RPAによって生み出された時間=付加価値創出時間ととらえました。これが、私たちがRPA推進によって実現したい「リソースシフト」です。
活用シーンに応じて、2つのRPAツールを選びました。
ひとつは、標準化できる業務で、大量処理が発生するものです。これは複雑なRPAで高度な効率化ができる「UiPath」を採用しました。また、コンサルを活用し、OCRと組み合わせた処理システムを構築しました。
主戦場は全国の各事業所です。そこではエンドユーザーに合わせて業務が多様化しているので中央集権でやるのは難しい。そこで、現場を一番よく知っている事業所の従業員に独自対応してもらおうと、エンドユーザー向けのRPAツール「WinActor」を採用。導入サポートは、弊社の考えに共感してくれて、サポートメニューも充実しているパートナーを選びました。
下図は、FAXでの受注をシステムに入力するまでの工程を表したものです。
RPA導入前後で比較すると、導入後は工程が減り、1受注に要する時間も240秒から118秒と50%短縮できました。
トータルでは、年間180,188時間の業務のRPA化を達成し、目標の180,000時間/年をクリアしました(2021年2月18日時点)。RPAのシナリオ数は約1700本、合宿研修などによって、シナリオ作成ができる人は130名になりました。うち25人は、「RPA技術者検定資格試験アソシエイト」に合格しています。今後も増えると思います。
従業員からは「従業員のストレスフリーにつながった」「とても楽になった」「業務に前向きに取り組めるようになった」などの声があがっています。
RPA導入成功のポイントとなった、①マインド変革、②サポート体制、③情報共有の3つのアプローチと、プラスアルファで力を入れていることについてお話しします。
1.従業員のマインド変革
これが、RPA導入成功の要因として、一番大事で大きかったと感じています。業務革新は、従業員が納得し自分ごとにならないとなかなか進みません。
導入にあたり、全国50以上の事業所で業革セミナーを開催。延べ700名が参加しました。その中で、社長メッセージの動画を見せ、何のために、何を期待して改革を行うのかを共有するステップを踏みました。また、RPA導入前後でどれだけ業務スピードが速くなるか、ひと目でわかる動画を作成し、「RPAによって自分たちの仕事が楽になる」と実感してもらいました。セミナー後のアンケートで、「ぜひ導入したい」とう前向きな声が特に女性で多かったので、女性活躍推進と連動した取組とし、女性社員限定のRPA合宿を実施。これにより「業務は自ら変えられる」という意識が浸透しました。
2.サポート/教育体制の整備
パートナー企業と業務委託契約をし、2人の技術者に常駐してもらうことにしました。これによって、当社の事情を良く知っている技術者がサポートしてくれることになり、スピーディで的確なサポートができるようになりました。また全国の他の事業所にも出張で研修や開発サポートをしてもらうことができました。
並行してオリジナルの研修コンテンツづくりも行いました。一般的な教材では、日頃従事している物流業務での適用をイメージすることが難しく、理解が深まらないからです。
人員と教材の整備により、現在、全国各地で研修が行われています。
3.情報共有ツールの活用
情報共有はとても大事です。RPAと同時期に導入したクラウド版マニュアル作成を活用し、「RPAでやりたいこと」を動画で共有できるようにしました。動画であれば新たに資料を用意する必要がなく、研修前に動画をクラウドにアップしておけば、講師は事前に研修準備ができます。完成したシナリオも動画で簡単にマニュアル化でき、研修の準備や進め方が大幅に効率アップしました。また、クラウドで共有することで、横展開や気づきを喚起することもできます。
4.3つのアプローチ+(プラス)
RPAの活用が進めば進むほど新しい課題も出てきます。社内の1,000人を対象に行ったアンケ―トでは、RPA推進の一番のネックは時間の確保ができないこと、RPA作成が進まなかった理由は業務上の時間がないことでした。そこで、各種研修のブラッシュアップや徹底的なオンライン化、動画教材の開発などを行い、オンラインで研修に参加できたり、動画でRPAを学べるようにしています。
また、AI-OCRの導入も行いました。FAXで発注をいただくお客様が一定数いらっしゃいますので、それをOCRでテキストに変換し、RPAに自動投入できる仕組みにしています。
当社のDXのもう一つの事例として、ドライバー待機問題の解決についてお話しします。
平成29年の国土交通省の資料によると、トラックドライバーの長時間労働の要因の一つは、長時間の荷待ち時間と荷役時間であると指摘されています。調査によると1運行につき平均待ち時間は1時間45分。これをどう解消するか。この問題に業界をあげて取り組む必要があります。
まず、なぜ待ち時間が発生するのか、次のように考えています。
物流センターにトラックが到着すると、ドライバーはまず受付簿に記入をします。受付が済むとバース(荷下ろし場)に誘導されます。受付順となりますので、少しでも早く荷下ろしを行うため、早い時間帯に多くのトラックの到着が集中します。しかしバースの数にもセンターの作業人員にも限りがあり、その結果、トラックの待機が発生することになります。
解決方法はいくつか考えられます。
まず、営業面ではお客様に車両を集約していただく、あるいは納品頻度を減らしていただくというアプローチがあります。また、業務改善として、検品をタブレットで行うなどしてバースの回転率を上げるといったことも挙げられます。
しかし、もっと効果的なのは、到着時間を平準化していただくことです。そこで、予約システムを導入し、指定時間に到着してもらい、待機時間を削減することを目指しました。
予約システムは、低温物流業界で実績のある日本ユニシス様の「SmartTransport」を導入。これにより、ドライバーは到着時間の予約ができ、事前に倉庫の混雑具合も確認できます。
受付は、端末を導入してタッチパネルで操作できるようにしています。また、ドライバーが積み荷の明細をあらかじめ送信しておくことで、当社はトラックの到着前に積み荷明細の照合を完了できます。
導入後の効果を示したのが下図です。
劇的に待ち時間が削減できていることがわかります。
今後は、車両とデータ連携をし、さらに削減していきたいと考えています。
当社の業務革新は、ロードマップに沿って進めています。今はステージ1の段階です。最終的には意思決定の自動化を目指しています。
業務のデジタル化が進むと、膨大なデータが集まり、それをもとに熟練者に頼らない意思決定ができるようになります。
しかし、いくらデジタル化が進んでも、一番大切なのは「人」です。
ニチレイグループのミッションは、「くらしを見つめ、人々に心の満足を提供する」こと。
ニチレイロジグループは、グループ唯一のサービス業として、あらゆるシーンでお客様の利用体験価値を上げていくことを追求し、社員の満足感も高めたい。それによって、社会に貢献できるニチレイグループでありたいと思っています。
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