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【食品ITフェア2023 オンライン】 だしで課題を解決する 〜マルトモのマーケティング戦略〜

2023/3/31 [食品,セミナーレポート]

和食文化の根幹をなすかつお節とだし。先人から受け継いだ伝統食品を「最先端老舗企業」であるマルトモが社会課題の解決に生かし、お客様のソリューションに貢献したコンサル事例等を紹介します。

土居 幹治 氏

マルトモ株式会社 常務取締役
マーケティング本部 本部長 農学博士
土居 幹治 氏

だしですべての問題が解決する。これは食品業界でも画期的なマルトモからの提案です。鰹節もだしも江戸時代から引き継いできた伝統であり文化です。これをどうやってビジネスにつないで商売にして、皆様の利益に還元するか。そこを紹介させていただきたいと思います。

マルトモとは

マルトモは、1918年に愛媛県伊予市で創業しました。本業は削り節の製造販売で、こちらが売上の半分以上を占めています。その他、生珍味(中華くらげなど)、だしの素、めんつゆなど、だし関連の商材を扱っています。

企業の価値は「ブランド+レシピ」だと考えています。我が社の場合、レシピについては特許出願数134件と健闘していますが、ブランド力はまだまだ弱い。あの手この手でブランド力を上げるためにマーケティング活動しているところです。

中華くらげも当社の主力商品の1つです。食品として使用できないくらげの部位は乾燥し森林の緑化素材として再利用する活動をしています。
また、出前授業で食育活動を行い、武蔵野美術大学の学生とコラボをし、だし取り体験をしていただいた後、パッケージデザインを考えていただくという活動も行いました。このようにして、Z世代にもだしの文化を継承していこうとしています。

マルトモの戦略

マルトモのマーケティング戦略の柱は次の2つです。

  • 理念を価値に変える
  • マルトモの差別化戦略SEDA

まず、「理念を価値に変える」について。理念は「だし感の追求」です。なぜだしが必要なのか。鰹節のだしの何が良いのか。
「だしが濃いと薄味でもおいしい」これに尽きます。薄味でもおいしいから素材の味が活かせる。また、だしには、人の心を穏やかにする効果があることが実験からわかっています。だしは人格形成にも役立つのです。そして、だしが効いていると低カロリーの食事でも満足できます。ダイエットにも効果があるのです。
当社ではあるチェーン店にラーメンスープを提供しています。薄味でおいしく脂質も減らしているので、スープを飲み干しても健康的です。

以下は削り節業界のシェアを示しています。一位はヤマキ、二位は当社です。両社とも愛媛県伊予市にあります。人口わずか3万5千人の町で全国の約半分の削り節を作っています。

スライド資料:削り節業界のシェア

しかし、競争している場合ではありません。だし素材市場は年々減少しています。

スライド資料:だし素材市場概況

代わりに伸びているのがだしの素で、500億円規模の市場に成長しています。だしの素は忙しい方々にとって便利なものですが、このだしの素には本物の鰹節は約1割しか入っていません。平日の忙しいときにはだしの素をご利用いただき、時間のある週末は削り節でだしをとって、次の世代にだし文化をつないでほしいと願います。

マルトモの差別化戦略SEDAとは

さて、本題の「マルトモの差別化戦略SEDA 」についてお話ししましょう。
SEDAモデルは、一橋大学の延岡健太郎教授が提唱する、企業が価値を創出するための枠組みです。これを当社のビジネスに当てはめると次のようになります

スライド資料:マルトモの差別化戦略SEDA

機能的価値×問題提起=Science=伝統製法とプレ節®
機能的価値×問題解決=Engineering=鰹マーチャンダイジング®
意味的価値×問題解決=Design=だしコン®で課題解決
意味的価値×問題提起=Art=だしの伝道師®

Scienceから生まれたプレ節®

江戸時代から400年続いた鰹節の伝統製法(Science)と職人の技(Art)を、EngineeringとDesignに落とし込んでいく=問題解決・価値深化に落とし込んでいく。

具体的には何をやったのか。まず、Scienceです。400年の伝統製法を解明していくと論文が30本書け、特許が50件ほど取れました。この成果をもとに、イノシン酸、アミノ酸の多い、旨みの強い鰹節=プレ節®という商品を開発しました。これを25ミクロンの薄さに削ります。他社製品は35ミクロンですが、当社では25ミクロンを実現しました。これによって、口の中でとろけるような削り節ができたのです。

スライド資料:Science 伝統製法とプレ節®

マーケティングの教科書的に、ニーズ、シーズ、ウォンツで言えば、プレ節®というブランドが「ニーズ」、当社独自のレシピが「シーズ」、薄くて口どけのよい鰹節が「ウォンツ」です。「これまでの削り節は、口の中でもさもさしたけれど、プレ節®だともさもさしない。こういうのを待っていたのよ」とお客様にも好評。ウォンツを探り当てたのです。伝統製法をScienceで解明し商品に落とし込むことで、3つがそろって、商品が売れたのです。

プレ節®ならそのまま食べてもおいしい。即席みそ汁にあとから振りかけてもだしの味がしっかりする。だしを取る手間がいらない。カップラーメンにかければ味もグレードアップです。手軽でおいしい。鰹節の栄養もとれる。これぞ課題解決です。

鰹マーチャンダイジング®とは

ただ、これだけではまだ職人技に頼る部分が多く、スケールアップできません。そこで、職人の暗黙知を一般化するために、鰹マーチャンダイジング®という商標をとってScienceをEngineeringに落とし込みました。どういうことか。

スライド資料:Engineering 鰹マーチャンダイジング®

削り節は、魚を獲ってくる人、さばいて鰹節にする人、それを薄く削って最終商品にする人が必要です。従来は三者がばらばらで、バリューチェーンがつながっていませんでした。これを当社では業界で初めてつなげ、車座で話し合い、合議制でモノづくりを一緒に進めていきました。それによって品質が上がり、トレーサビリティも向上します。職人技=暗黙知を形式知にでき、次の世代に引き継ぐことができます。マーケティング理論を生産の上流工程から落とし込むことができるわけです。

鰹節の作り方はいたってシンプルです。「魚をさばいて、煮て、いぶす」。シンプルだから400年も続いたのです。さばいて煮て、10日間毎日煙をあてていぶすと荒節ができます。これが関西の味、うどんの味です。これをかび付けし、発酵食品にする。すると3カ月程で枯節ができます。関東の味、お蕎麦の味です。

スライド資料:かつお節の製造工程

枯節は雑味がなくすっきりした味で後味がいい。一方、荒節は、えぐみ、酸味、苦み、渋みなど、いろいろな味がする。これまでこの味の違いは、職人がなんとなく伝えることしかできませんでした。そこで、ArtからDesignです。抽象的な「味」を味覚センサーを使用してデータで表せるようにしたのです。

スライド資料:カビ付けによる酸味の減少

たとえば、かび付けしていない荒節を原点とし、1番かび、2番かび、3番かび、4番かびを付けていくと味がどう変わるかを数値化しました。すると、かびが付くほど、酸味が減りコク味が増えることがわかりました。これは革命的なことです。

新ビジネスだしコン®とは

味覚センサーで職人技(Art)がDesignに深化し、これによって、だしをデザインするだしコン®=だしのコンサルティングをビジネスにすることができるようになりました。
たとえば、A社のお惣菜のひじき煮の味を分析し、原材料費は上げないで旨味、コク味をアップするといったことを提案するのです。

スライド資料:ひじき煮のコンサル(ユニット価格)

これは、コク味と旨味を軸としていますが、塩味と酸味を軸にすると、だし感の評価が可能になります。

スライド資料:ひじき煮のコンサル(塩分)

上の例では、西友とOKストアのお惣菜はほぼ同じ塩分ですが、感じる塩味は全然違います。だしが効いていると薄味でもしっかり味がする。だから自然と減塩ができるのです。これがだし感です。

このノウハウによってお客様が望む味に合わせたレシピを提案することができます。どんどん依頼をしていただきたいと思います。

以下は、ざる蕎麦のつゆの味の比較です。

スライド資料:ざる蕎麦つゆコンサル

専門店はお値段が高いだけあって、旨味、コク味が高いことがわかりますが、コンビニも低価格ながらかなりのハイレベルです。

味覚センサーは、果物など農産品にも使用できます。以下はマンゴーの例ですが、高知産のマンゴーも、7月に収穫すれば沖縄産のマンゴーに引けをとらない旨味があることがわかります。

スライド資料:マンゴーの収穫月/産地別分析

最先端老舗企業をめざすマルトモ

鰹節は、高たんぱく低脂肪のすばらしい食品です。他の食材と比べてもタンパク質の割合は70%以上とダントツです。

スライド資料:かつお節は高タンパク質低脂肪
スライド資料:まごやわさしうか?

体に良い和食の食材の頭文字をとって「まごはやさしい」とよく言われますが、私はこれに「か」の鰹節を加えて欲しいと思います。「まごはやさしいか」です。

おいしいだしの取り方は簡単です。水1リットルに30グラム(3つかみ)の削り節を入れる。それだけです。量さえしっかりしていれば、あとは適当で大丈夫です。
削り節に含まれるトリプトファン、アラキドン酸は、幸福物質と言われるセロトニン、アナンダマイドになります。料理の味がおいしくなりほっこりして幸せになれるのです。

マルトモは、最先端老舗企業を目指します。だしのコンサルをいたしますので、ぜひお電話をください。
ご清聴ありがとうございました。

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