マーケティングに成功するためには、「消費者目線」が欠かせない。とはいえ、消費者目線と口で言うのは簡単だ。だが、いざ実行となると難しい。まさに、「言うは易し、行うは難し」だ。
この点についてみてみよう。
ここで質問。
あなたは、下記の式の空欄にどのような言葉を入れるだろうか。
トマト + 「 」 = 満足
はじめに、トマトの「生産者」に回答をしてもらった。
結果は、表1のとおりである。
「おいしさ」「品質」「うま味・うまさ」が出現頻度の上位3ワードである。
表1:生産者があげた単語
出所)「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」
まったく同じ質問を、買い手である「消費者」にも聞いてみた。
消費者はどのような言葉を入れたのだろうか。
結果は表2のとおりだ。
上位3ワードは、「チーズ」「パスタ」「塩」である。消費者があげた言葉は、生産者の回答とまったく異なる。
表2:消費者があげた単語
出所)「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」
この結果から示唆されることは何か。
生産者と消費者が見ているものが違うということだろう。
生産者は、「トマトという農産物(たべるモノ)」を見ている。頭では「消費者目線」の重要性を認識していたとしても、無意識に生産者目線になっているのかもしれない。
一方、消費者が見ているのは、「トマトのある食事(たべるコト)」である(図1)。
この結果からも、生産者が真の「消費者目線」になることの難しさがうかがわれる。とはいえ、消費者目線は、単なるスローガンに終わってはいけない。実行に移す必要がある。
では、どうすれば、生産者の目線を消費者と同じ方向にすることができるのだろうか?
図1:生産者と消費者の視点の比較
ここで、生産者の視点を180度転換し、「消費者目線」に変える方法を紹介しよう。視点を変えると、見える景色は全く異なるはずだ。
食品経営の現場では、「売る」「売り込み」という言葉が頻繁に使われている。「売る」「売り込む」という言葉を使っている限り、生産者目線から脱却することができないだろう。
「売る」の主語は、売り手だ。「売る」「売り込み」。こういった言葉をできるだけ禁句にして、その代り「買いたくなる」「買う」という言葉を使うようにしよう。
「買う」の主語は、買い手だ。視点が180度転換するはずだ。
生産志向の人々は「“何”を作るか」を考え、販売志向の人々は「“何”を売るか」を考える。
一方、マーケティング志向の人々は、消費者が「“なぜ”買うのか」を考える。
消費者目線になるためには、「何」を売るのかではなく、「なぜ」買うのかを考えよう。
その回答が、買い手にとっての「価値」である。単に「おいしいから、食べてください」では、消費者の気持ちは、なかなか動かない。具体的に選ぶ理由が必要である。「なぜ」で発想することを心がけよう。
消費者目線になるために大切なのは、「生産者の顔が見える食品」という発想ではなく、「消費者の顔が見える食品」という発想かもしれない。
時代は、「モノ」の消費から「時間」の消費へシフトしている。
消費者が価値を感じるのは、「たべるモノ」ではない。「たべるコト」である。
自分が生産した食品が、調理されているシーン、食卓にのっているシーン、消費者が笑顔で食べているシーンをイメージできるようにしよう。
従来の食品メーカーは「食品(たべるモノ)をつくること」、すなわち、生産にウェイトをかけすぎていなかっただろうか。
「食品をつくる」と考えると、自ずと生産者目線になってしまう。
発想を転換して、「顧客をつくる」と考えよう。そうすれば、目線も顧客起点に転換するはずだ。
自分の商品をお店で何回ぐらい買ったことがあるだろうか。
聞いてみると、生産者の多くが、自分が生産した商品を自腹で買いに行った経験がない。それでは、真に消費者目線になることは難しい。
小売店に行ってみて、自分が生産した商品を、自分でお金を出して買ってみよう。自腹で買えば、店頭での自分の商品の位置づけも理解できる。買い手の支出の痛みも実感できる。
それこそが、消費者目線だ。その感覚を忘れないためにも、定期的に自分の商品を買いに小売店に行ってみるのはいかがだろうか。
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静岡県立大学 経営情報学部 教授 静岡県立大学 経営情報学部 教授・学長補佐・地域経営研究センター長 博士(農業経済学)。専攻は、マーケティング。とくに、地域や中小企業に関するマーケティングを主な研究テーマとしている。これらの業績により、日本観光研究学会賞、日本地域学会賞、世界緑茶協会 学術研究大賞、財団法人商工総合研究所 中小企業研究奨励賞などを受賞。 |
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