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【中小食品メーカーのマーケティング戦略】 第10回:どうすれば消費者目線になることができるのか

2023/2/17 [食品,コラム]

「中小食品メーカーのマーケティング戦略」がテーマの連載コラム。地域や中小企業のマーケティングを主な研究テーマとして各方面で活躍する、静岡県立大学教授の岩崎邦彦氏によるわかりやすい解説コラムです。

はじめに

マーケティングに成功するためには、「消費者目線」が欠かせない。とはいえ、消費者目線と口で言うのは簡単だ。だが、いざ実行となると難しい。まさに、「言うは易し、行うは難し」だ。

この点についてみてみよう。
ここで質問。
あなたは、下記の式の空欄にどのような言葉を入れるだろうか。

トマト + 「        」 = 満足

はじめに、トマトの「生産者」に回答をしてもらった。

結果は、表1のとおりである。
「おいしさ」「品質」「うま味・うまさ」が出現頻度の上位3ワードである。

表1:生産者があげた単語

表1:生産者があげた単語
出所)「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」

まったく同じ質問を、買い手である「消費者」にも聞いてみた。
消費者はどのような言葉を入れたのだろうか。

結果は表2のとおりだ。
上位3ワードは、「チーズ」「パスタ」「塩」である。消費者があげた言葉は、生産者の回答とまったく異なる。

表2:消費者があげた単語

表2:消費者があげた単語
出所)「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」

この結果から示唆されることは何か。

生産者と消費者が見ているものが違うということだろう。

生産者は、「トマトという農産物(たべるモノ)」を見ている。頭では「消費者目線」の重要性を認識していたとしても、無意識に生産者目線になっているのかもしれない。
一方、消費者が見ているのは、「トマトのある食事(たべるコト)」である(図1)。

この結果からも、生産者が真の「消費者目線」になることの難しさがうかがわれる。とはいえ、消費者目線は、単なるスローガンに終わってはいけない。実行に移す必要がある。

では、どうすれば、生産者の目線を消費者と同じ方向にすることができるのだろうか?

図1:生産者と消費者の視点の比較

図1:生産者と消費者の視点の比較

「生産者目線」を強制的に「消費者目線」に変える方法

ここで、生産者の視点を180度転換し、「消費者目線」に変える方法を紹介しよう。視点を変えると、見える景色は全く異なるはずだ。

① 「売る」という言葉を禁句にして、「買う」と言い換える

食品経営の現場では、「売る」「売り込み」という言葉が頻繁に使われている。「売る」「売り込む」という言葉を使っている限り、生産者目線から脱却することができないだろう。

「売る」の主語は、売り手だ。「売る」「売り込み」。こういった言葉をできるだけ禁句にして、その代り「買いたくなる」「買う」という言葉を使うようにしよう。

「買う」の主語は、買い手だ。視点が180度転換するはずだ。

② 「何」ではなく、「なぜ」で発想する

生産志向の人々は「“何”を作るか」を考え、販売志向の人々は「“何”を売るか」を考える。

一方、マーケティング志向の人々は、消費者が「“なぜ”買うのか」を考える。

消費者目線になるためには、「何」を売るのかではなく、「なぜ」買うのかを考えよう。

  • なぜ、消費者はこの商品を食べたくなるのか
  • なぜ、消費者は他のブランドではなく、このブランドを選ぶのか

その回答が、買い手にとっての「価値」である。単に「おいしいから、食べてください」では、消費者の気持ちは、なかなか動かない。具体的に選ぶ理由が必要である。「なぜ」で発想することを心がけよう。

③ 「たべるモノ」ではなく「たべるコト」をイメージする

消費者目線になるために大切なのは、「生産者の顔が見える食品」という発想ではなく、「消費者の顔が見える食品」という発想かもしれない。

時代は、「モノ」の消費から「時間」の消費へシフトしている。
消費者が価値を感じるのは、「たべるモノ」ではない。「たべるコト」である。

自分が生産した食品が、調理されているシーン、食卓にのっているシーン、消費者が笑顔で食べているシーンをイメージできるようにしよう。

④ 「食品をつくる」ではなく、「顧客をつくる」と考える

従来の食品メーカーは「食品(たべるモノ)をつくること」、すなわち、生産にウェイトをかけすぎていなかっただろうか。

「食品をつくる」と考えると、自ずと生産者目線になってしまう。

発想を転換して、「顧客をつくる」と考えよう。そうすれば、目線も顧客起点に転換するはずだ。

  • 生産志向 → 「食べ物をつくる」
  • マーケティング志向 → 「顧客をつくる」

⑤ 小売店に行って、自分の商品を自腹で買ってみる

自分の商品をお店で何回ぐらい買ったことがあるだろうか。

聞いてみると、生産者の多くが、自分が生産した商品を自腹で買いに行った経験がない。それでは、真に消費者目線になることは難しい。

小売店に行ってみて、自分が生産した商品を、自分でお金を出して買ってみよう。自腹で買えば、店頭での自分の商品の位置づけも理解できる。買い手の支出の痛みも実感できる。

それこそが、消費者目線だ。その感覚を忘れないためにも、定期的に自分の商品を買いに小売店に行ってみるのはいかがだろうか。

まとめ:生産者目線を消費者目線に変える方法

  • 「売る」という言葉を禁句にして、「買う」と言い換える
  • 「何」ではなく、「なぜ」で発想する
  • 「たべるモノ」ではなく「たべるコト」をイメージする
  • 「食べ物をつくる」ではなく、「顧客をつくる」と考える
  • 小売店に行って、自分が生産した商品を自腹で買ってみる

引用文献:
岩崎邦彦「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」(日本経済新聞出版社)

静岡県立大学 経営情報学部 教授
岩崎 邦彦 氏

静岡県立大学 経営情報学部 教授・学長補佐・地域経営研究センター長 博士(農業経済学)。専攻は、マーケティング。とくに、地域や中小企業に関するマーケティングを主な研究テーマとしている。これらの業績により、日本観光研究学会賞、日本地域学会賞、世界緑茶協会 学術研究大賞、財団法人商工総合研究所 中小企業研究奨励賞などを受賞。
著書に、「地域引力を高める 観光ブランドの教科書(日本観光研究学会観光著作賞)」「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」「小さな会社を強くするブランドづくりの教科書」「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」(いずれも日本経済新聞出版社)などがある。
公職は、静岡県地域づくりアドバイザー、中小企業診断士国家試験委員、世界緑茶協会世界緑茶コンテスト審査委員、近江米振興協会オーガニック近江米ブランディングアドバイザーなど多数。

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