農林水産省 大臣官房 新事業・食品産業部 |
生産性の向上は、利益を上げて事業を継続するという観点からとても重要であり、同時に、従業員が適切に仕事に従事していくという観点からも重要です。
はじめに、食品製造業の労働生産性の現状についてです。
食品製造業は、私たちの日々の生活に欠かせない食料品の安定供給を担うとともに、地域経済にも大きく寄与する、非常に重要な産業です。
我が国の飲食料の最終消費額84兆円のうち、加工品は約半額の42兆円を占めています。国産農林水産物の約6割、5.6兆円分が食品製造業に仕向けられているのです。
もし我が国に食品製造業がなければ、国産農林水産物の多くが行き場を失ってしまいます。食品製造業は日本の農林水産業を支える重要な産業と言えるでしょう。
食品産業の就業者数は802万人で、全産業の約12%を占めます。そのうち食品製造業は130万人となっています。
特に、第一次産業が盛んな北海道や九州といった地域において、食品製造業に従事する方の割合は高くなっています。農林水産物の受け皿となり、雇用を提供しているという観点で、地域経済を支える重要な産業でもあります。
ただ、課題も多く見られます。
まず、小規模企業の割合の高さが挙げられます。日本ではもともと中小企業の割合が高く、企業数では99.7%、従業員数では68.8%が中小企業なのですが、これは食品製造業においても同様です。
労働生産性の低さも挙げられます。上のスライドの右上の図をご覧ください。
棒グラフの指標は、一人当たりの年間に新たに生み出される付加価値額を表したもので、単位は百万円です。黒い棒がそれぞれ製造業とサービス業全体の数値に対して、赤い棒がそのうち食品分野を抜き出したものです。ご覧のとおり、食品分野は総じて数値が低い状況です。
要因はいろいろと考えられますが、一つは労働集約型の産業となっていることです。食品は、工業製品などと比べて不均一であったり、柔らかく傷つきやすかったりするものが多いなどの理由から、デリケートな扱いが必要になり、どうしても人手に頼らざるを得ないところがあります。
どの産業でも人手不足が悩みであることはよく耳にしますが、食品製造業でも人手不足が深刻な状況が続いています。
農林水産省の最近の政策における位置づけについてお話しします。
昨年5月、農林水産省は「みどりの食料システム戦略」を策定しました。将来にわたって食料の安定供給を図るためには、災害や温暖化に強く、生産者の減少やポストコロナも見据えた農林水産行政を推進していく必要があります。
現在、健康的な食生活や持続的な生産・消費の活発化やESG投資市場の拡大に加え、諸外国でも環境や健康に関する戦略を策定するなどの動きが見られます。今後も、このようなSDGsや環境を重視する国内外の動きが加速していくでしょう。我が国の食料・農林水産業においても、的確に対応し、持続可能な食料システムを構築することが急務です。
「みどりの食料システム戦略」は、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現するための戦略として策定されたものです。
この「みどりの食料システム」については、化学農薬・肥料の使用の低減や、有機農業の推進といった持続可能性について言及されることが多いのですが、食品製造業の生産性の向上も目標としています。
食料システムというのは、いわゆる川上から川下までがつながっているものです。上の図にあるように、調達、生産、加工・流通、消費の各段階において、「持続可能性」をキーワードにしながら環境負荷の少ないやり方を進めていくことが必要です。
この戦略における「加工・流通」では、「ムリ・ムダのない持続可能な加工・流通システムの確立」を実現させるために、「データ・AIの活用等による加工・流通の合理化・適正化」の取組みが挙げられています。
具体的な目標としては「2030年までに食品製造業の自動化等を進め、労働生産性が3割以上向上することを目指す」となっています。
今、建設、工業、医療・介護、サービス業、農業など各分野で、さまざまな作業がAIやロボットに置き換わっています。食品製造業でも、今まさに人で行っている作業、例えば製造工程や検品作業などにAIやロボットを導入できれば、作業効率を格段に上げることが期待されます。
しかし、食品製造業の多くを占める中小事業者へ導入していくためには、工場の広さを考慮しなくてはなりません。サイズをコンパクトにする必要があるでしょう。導入するための費用も高すぎてはいけません。扱いも簡単で、メンテナンスもシンプルにできる必要があります。
また、自動化が困難と考えられる工程もあり、こういった工程にも対応できる技術を開発していく必要があります。
例えば、「魚の小骨取り」が挙げられるでしょう。魚種はさまざまで、同じ魚種であっても大きさや形が異なります。白身魚になると、小骨と魚肉の色も似ているので、フレキシブルに対応するのがとても難しくなります。
惣菜の盛り付けにおいても、例えばポテトサラダのような不定形で粘着性のあるものを、決められた重さを取り出してトレイにきちんと盛り付けるというのは非常に難しいものがあります。盛り合わせや弁当のように、盛り付けた見た目の美しさも求められる場合は、もっとハードルが高いものとなります。
また、既存の製造ラインも活かしつつ導入を図らなくてはなりませんし、工程によっては人と機械が一緒に働く場合も出てくるでしょう。こうなると、人が安全に作業できるかということも重要な課題になります。
以上のように、食品産業でAIやロボット、IoTなどの技術を導入していくにあたっては、ニーズはあるけれども実用化がまだできていない技術があります。また、食品産業のさまざまなニーズを、私たちがつかみ切れていないということもあると思います。
そこで、ニーズの把握から技術の普及までを行うために、農林水産省は経済産業省と連携して次の取組みを行っています。
具体的には、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)と連携し、どういう業態において、どういう工程でどのような課題があるかというのを調べています。これらの課題のうち、特にニーズの高い工程については、NEDOと経産省が連携して技術開発します。
そして、農林水産省では、そのようにして開発された技術を実際に食品製造の現場に導入し、実証を行いつつカスタマイズする事業を行っています。
実証の成果を踏まえ、「こういったロボットをうちの会社にも入れたい」ということになれば、例えば、経産省の補助金等を利用して導入していただくことができます。
農水省では、技術の実証のほか、ロボットと人が一緒に働くための安全ガイドラインについても作成中です。
農水省の事業を活用した事例をいくつかお見せします。
こちらは、鰹節の製造工程におけるロボットの実証事例です。
鰹節製造業は、カツオを煮沸したり、熱いカツオの入ったカゴを高いところに持ち上げるといった工程もあり、非常にタフな現場です。ロボットをこのような危険な工程に入れることで、負担の大きい作業から従業員を解放することができます。
次は、たらこの選別作業を自動化した事例です。
自動化する前は、異物がないか、たらこの皮が破れていないか、形がゆがんでいないかなど、とても気をつかう品質チェックの作業を従業員がしていて、大きな負担になっていました。そこでAIにより画像判定を行い、異物や同時に品質や重量も自動で選別できるようにしたところ、作業員の負担を大幅に減らすとともに、作業効率も上げることができました。
次は、AIによる自動選別と自動包装の事例です。
こちらの会社では、贈答用として形のきれいな製造品(ラスク)だけを選びたいというニーズがあったのですが、人手だけの選別では難しいところがありました。AI技術と自動包装機により、選別と包装の処理能力を向上させ、きれいに形が整ったものだけを選んで包装することが可能になりました。労働生産性も向上しました。
次は、IoTとAIを活用した事例です。
こちらの現場は油揚げの製造工場です。熟練者の経験と勘に頼っていた作業をすべてデータ化して共有することにより、品質の安定化や歩留まり向上を実現しました。労働生産性も向上しています。
こういった技術はあくまでもツールなので、最終的には業種や製造現場の環境や諸条件、経営判断によって使い方が変わってくると思いますが、生産性の向上だけでなく、つらい・キツイ作業や危険な作業から従業員を守るという、安全や働き方に寄与することも可能になります。
続いて、農水省の事業を活用してIoT技術を実証した事例について3本の動画をご紹介いたします。
王将フードサービスは、物流品質を高めながらドライバーの労働時間を削減するという大きな課題に対してプロジェクトを立ち上げました。そして、配送業者と手を組み、AIを活用したところ、ドライバーのピッキング作業を133%向上できました。
▼ 動画にてご覧ください ▼
こちらの会社は、フード産業のさまざまな問題をAIや機械などのテクノロジーで解決する事業を展開しています。この会社が、ドレッシングやソースを製造している食品メーカーに対して、AI技術を用いた新しいシステムを開発したところ、OEM商品やPB商品にかかわる見積もりの期間を大幅に短縮。新規受注率300%向上、生産性113%向上を実現しました。
▼ 動画にてご覧ください ▼
こちらの会社では、野菜の規格外品を仕入れ、それを加工することで付加価値をつけた冷凍食品を幅広く販売しています。試行錯誤を経て開発した機械の生産性は、最低でも2人分を担保。AIも導入し、ヘタの認識精度をさらに向上させました。今後、生産性向上や人手不足解消を目指して、その他の工程の自動化も検討しています。
▼ 動画にてご覧ください ▼
その他の動画についてはこちらをご覧ください(株式会社日本能率協会コンサルティング)
これまでご紹介した技術の実証事例は、農林水産省の事業を活用したものです。令和4年度補正予算においても、同様の実証事業(「食品産業労働生産性向上技術導入実証事業」)を実施します。
事業の仕組みとしては、運営主体である株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)が募集を行い、案件を有識者が審査会で審査し、その結果に基づいて採択案件が決定され、実証を実施していただくというものです。
公募メニューは次のとおり二つあります。
① モデル実証
AI、ロボット、IoT等を活用した技術を食品製造業あるいは飲食店の現場に導入して、自動化、リモート化、非接触化などを、モデル的に導入していただき、生産性の向上に寄与するか、実証していただくものです。
② 改良
こちらは既存の技術の改良に対する支援です。事業イメージとしては、例えば大規模工場向けにすでに使われている技術を、もっと規模の小さい企業にも提供できるようにスペックを絞って低価格化や実用化するといったものです。
支援を受けたい場合はJMACが行う公募に応募いただくことになります。 応募の際、所定の様式にのっとり、事業計画書のほか、申請書等提出書類一式を作成し、提出していただきます。 応募すれば、必ず採択されるとは限りませんので、ご留意願います。また、採択された事業者名の情報は、事業実施主体のウェブサイトで公表されます。さらに、本事業により導入、実証または改良した技術、ノウハウについては、食品産業における技術導入を進めるため、広く横展開を行いますので、御承知おきください。
募集はすでに始まっております。公募についての資料や、動画による説明などはJMACのウェブサイトからご覧になれますので、ぜひご確認いただければと思います。
食品業の経営者・マネージャーの皆さまへ