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大熊様:今回は、食品製造業のスマート化についてお話を進めたいと思います。
最初に、食品産業における労働生産性の現状についてお話したいと思います。以下のグラフは1人当たりの年間付加価値額(1年間に新たに生み出された付加価値額を総人員で割った値)を表しています。黒い棒グラフが製造業、サービス業を、赤い棒グラフが食料品製造業と飲食サービス業です。グラフで見るとおり、食品産業の労働生産性は他産業に比べて低いことがわかります。
次のグラフは、食品製造業における労働力需給の現状です。数字が高いほど労働力が不足していることを表します。労働力不足はどの産業においても共通の課題となっていますが、食品製造業はそれを上回る深刻な労働不足にあることがわかります。
食品産業において、労働集約型産業からの脱却が重要な課題です。労働集約型になってしまう要因は、一つには工業製品に比べて食料品はデリケートに扱う必要があり、人手に頼らざるを得ないこと、多品種少量生産の傾向があり、労働生産性の向上につながる設備の導入が進みにくいこと。また、設備投資は大手事業者を中心に、オーダーメード型の設備導入が一般的で、中小企業にまで広がりにくかったことなどがあります。
少子高齢化により労働力不足は深刻化しており、また「新型コロナウイルスや自然災害の発生など、事業継続を困難にする多様なリスクが顕在化しているのが現状です。
一方で、先端技術の進展により、人手を要する作業をAIやロボットで自動化したり、現場にいかなくても、IoT等で製造管理を遠隔でできるようになるなどのチャンスが広がっています。
そこで、農林水産省では、「スマート食品産業実証事業」を発足し、モデル企業様の実証していただきその成果を横展開することによって労働生産性の向上を目指してきました。
今回は、モデル例として3社に事例を報告していただきたいと思います。
金野様(オーマイ株式会社):オーマイ株式会社は1955年に創業したニップン食糧株式会社が前身です。
弊社からは、AIを利用した包装検査装置導入の取り組みを発表します。
弊社は「スマート食品産業実証事業」に参加し、包装検査の自動化を行いました。
従来は、乾燥パスタの包装検査を人手で行っていました。包装状態に異常がないか、「噛み込み」といわれる、シール部分に巻き込まれたパスタがないか、背張りのシールがしっかりされているかなどを人の目で確認します。これらのチェックを包装設備のラインスピードに合わせて行うと、検査者の負担が大きくなるため、正確な検査を行うためにはラインスピードを落とさなければなりませんでした。検査項目の中でも、シール部分に巻き込まれたパスタの検査は大きさや形、発生する場所がさまざまなため、ほかの検査よりもとくに注意して行う必要があり、時間と集中力が必要な作業です。これを自動化できれば検査能力を高くしたまま速度を上げることができます。そこで、シール部分の検査を行う装置を開発し導入しました。
装置の特徴は、AIを利用してシール部分の検査をすることです。AIはパスタの色味といった特徴を学習し、大きさや形が変わってもシール部分に噛み込まれたパスタの特徴を見つけ出すことが可能で、高い精度で検査を行うことができます。
この装置を導入した結果、検査作業が自動化され、ラインスピードがアップし、工程の労働生産性を11.5%、工場の労働生産性を3.7%向上させることに成功しました。
浜野様(株式会社やまやコミュニケーションズ):当社は創業47年を迎え、辛子明太子の製造販売を主要事業とするほか、一般食品加工製造販売、最近はもつ鍋などの外食産業にも進出しています。
今回紹介する取り組みは、辛子明太子の原料となるたらこの、AIを活用した自動選別ラインの導入についてです。
従来は、多人数で人海的に選別作業を行っていました。形や色、破れぐあいなどによるグレード選別と、重量による選別を同時に行います。1人の作業者が1本1本のたらこを、複数の選別項目でチェックしなければならず、とても大変な作業です。
この作業を、要素ごとに機械化しました。
重量については、市販の選別機を活用しました。形や色や破れなどのグレード選別はAIで識別できるシステムを開発。また、その結果をさらに選別する機械を独自に開発しました。
以下は、グレード選別ラインのイメージ図です。
まず、たらこの上面を3か所から撮影。次にたらこを反転させ下面も3か所から撮影。6画像をAI判定し、贈答用、量販店用、自家需要用の各グレードごとに排出します。このあと重量選別機による選別を行い、選別作業が完了します。
これにより、作業者はたらこを等間隔にラインに並べるだけの作業で正確に選別ができるようになりました。
選別制度は、導入前に比べて、5%から15%向上。生産性の向上率は142%となりました。
副次的効果として、初心者でも高精度で高効率の選別が可能になり、人材不足の製造現場に大きく貢献する結果となりました。
松本様(株式会社山神):当社は昭和48年6月に青森で創業した、ほたて専門メーカーです。
ボイルほたては、近年価格競争が厳しくなっており、付加価値をつけるために、5年前から「漁師のほたてフライ」という冷凍食品を販売しています。
発売当時のキャッチフレーズは「新鮮なパン粉を一つひとつ手漬けした」というもので、当社のホタテフライ工場で、ラインの人たちが約7人、ラインから出てきたほたてを4人が手で1個1個パン粉をつけていました。1日に約2,500粒を朝8時から夕方5時までフル稼働して生産してきました。ところがある年、100万個というおそろしい数の注文が入ってきました。1日2,500粒前後だったものを100万粒に増やすことはとうてい4人ではできません。そこで、手漬けと同じものを自動化できないかと、いろいろな方策を模索しました。
機械トレードショーを訪れて機械メーカーを探し、2社からデモ機を貸りて試作をしました。試作には工場の責任者、製造担当者、機械メンテナンスの担当者のほか、機械メーカー、機械のベンダー、パン粉や小麦粉メーカーにも集まってもらい、率直な意見を交わして、当社オリジナルの機械づくりを目指しました。
いままで手漬けしていたものを機械でつけたら、力が強くなりすぎてしまい、パン粉が粉々になって従来のサクサク感がなくなってしまう。またほたてフライはゴルフボールのような球状が理想的な形ですが、平たい円盤状になってしまう。
味も、生産性も落とさないことを目標に、試作・試食を繰り返し、ようやく、手漬けと同じ形と食感のほたてフライを完成することに成功しました。
生産スピードが大幅にアップしました。作業従事者数も、従来は機械回りの人員7名と手漬けの4名の11名でしたが、4名ですべての工程に対応できるようになりました。製造出来高は205%。生産指標数は300〜400%を達成しました。
大熊様:スマート化にあたり苦労した点とどのように克服したかを教えてください。
金野様(オーマイ株式会社):苦労した点は、多品種を生産するラインに導入したことです。
噛み込みのある製品の検査モデルを作るにあたって、AIに不良品の画像と良品の画像を学習させる必要があります。不良品サンプルを集めるのが大変でした。
また、品種の数だけ不良品サンプルを集めようとすると、大変な時間と労力がかかります。そのために、色や特徴が似ている製品をグループ化し、似ているデザインの製品は、同じモデルを流用できるように取り組みました。
導入の際に気を付けたことは、噛み込み検査精度の設定と評価方法の決定です。予め、検査精度の具体的な数字目標を設定することが重要です。そのために、実際に目視検品でピックアップされた噛み込み製品のサイズや形状などの情報をもとに、適切な閾値を決めました。また正常な製品をNG判定する誤検出率の評価基準を定め、噛み込みは確実に排除しつつ、誤検出率を一定範囲内に収める努力をしました。これによって製品ロスやNGとして排除された製品の処理にかかる労力を最低限に抑えることにつながりました。
松本様(株式会社山神):ほたてフライは球体のゴルフボールみたいな形が理想。ところが最初の機械でできた製品は、円盤状のものでした。これでは以前のほたてフライではありません。形状を球体にするにはどうしたらいいか、まず機械の部品1個1個をチェックしていきました。また、機械の圧力をパン粉にかけるため、パン粉のけん立ちがつぶれてしまい、最終的には砂状になってしまう。これを克服しない限りは機械を導入することができなかったので、何度も試食を重ねながら、部品を何度も微調整していきました。パン粉についても、メーカーと相談し、機械のプレッシャーに勝てるパン粉に改良していきました。機械の細かい調整とパン粉の改良によって、今はしっかり球体のほたてフライができるようになりました。
浜野様(株式会社やまやコミュニケーションズ):一緒に取り組めるパートナーを見つけるまで非常に時間がかかりました。粘り強く、一社一社確認しながら、2年かけてようやく、パートナーを見つけました。
AIの学習は、数万枚の画像を読み込ませましたが、それだけでは通常の70%程度の精度しか上がりませんでした。たらこは原卵の状態がさまざまで、変化の状況に合わせて検証モデルをいくつも作成して、やっと精度をあげることができました。パートナーと一緒になって、絶対に精度を上げるんだと粘り強く取り組んだからこそできたことです。信頼できるパートナーと出会うことが非常に大事です。
大熊様:スマート化による成果を教えてください。
浜野様(株式会社やまやコミュニケーションズ):初心者でも高精度で高効率の選別作業が可能になったことが大きな成果です。このシステムのおかげで、新人でも高精度で選別ができ大変助かりました。
松本様(株式会社山神):以前は大きな注文が重なった際、分納したり、3か月待ってくださいと言うしか方法がありませんでした。しかし、機械の導入によってリードタイムが短縮でき、順調に100万個を計画生産できるようになりました。また、工場人員の負担軽減ができました。
金野様(オーマイ株式会社):生産性が11.5%向上という目に見える成果がありました。結束パスタは主力商品ですので、大変うれしい結果です。
また検品作業は「集中力が必要で疲れる」というイメージが払しょくされました。人材確保が困難な中、肉体的精神的にストレスのかかる作業を軽減できたことは意味があることです。
大熊様:最後に、今後のビジョンとこれからスマート化にチャレンジする食品企業へのアドバイスをお願いします。
松本様(株式会社山神):今後も労働力不足は深刻な課題です。ほたてには中腸線という内臓が外側についています。これを取って計量し、重さ別に選別するという3つの作業を一度に行っており、この作業に従業員の60%を投入しています。
人の手の力は当社の誇りとするところですが、いつかは人がいなくなることを考えるとこの作業を機械化できないかということが課題です。今後も機械化、スマート化を進めていきたいと考えています。
金野様(オーマイ株式会社):導入した装置で、噛み込み以外の不良の検査もできるよう取組を進めています。将来的には目視検品自体を削減したい。また、他の生産ラインにも水平展開していきたい。水平展開することで、各ラインで取得したデータを活用して、生産ラインごとの癖やトラブルの発生しやすい品種の改善につなげられればと期待しています。
浜野様(株式会社やまやコミュニケーションズ):新工場稼働に向けて、これまでの経験を活かしより省人化を進めたい。将来的には工場の無人化ができるよう努力したい。同時にIoT化、工場全体のスマート化も推進したいと考えています。
これからスマート化に取り組む企業様には、最後まで共に粘り強く推進してくれるパートナーを見つけることを強くおすすめします。
大熊様:3社の方々にお話を聞いてまいりました。皆さんにも何らかのヒントになることがあったのではないでしょうか。
技術は非常に進歩しています。解決できる領域も広がっていますので、ぜひ多くの食品企業のみなさまに、スマート化に関心を持ち経営判断として活用してほしいと思います。
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