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【食品ITフェア2023 オンライン】 中小企業におけるDX、ロボットの現場実装の新たな仕掛け! 〜実現には「志」、「利他」が必要〜

2023/4/11 [食品,セミナーレポート]

AI、RPA、IoT、ブロックチェーン、デジタルツイン、量子コンピューター、メタバースなど、新しいDX技術が出る中、特に中小企業はDX導入に困惑されているのが現状ではないでしょうか。これら新技術を取り入れ、企業価値を上げるにはどうすればいいのか。日本惣菜協会が進めている新しい合本主義による、中小惣菜製造企業へのロボット、AI、デジタルツイン、量子コンピューターの開発導入、実運用について実例をもってお話させていただきます。

高畠 和子 氏

一般社団法人日本惣菜協会
AI・ロボット推進イノベーション担当フェロー
荻野 武 氏

惣菜製造でAI・ロボット化を推進

私のキャリアは日立製作所の中央研究所から始まりました。そこで製品開発や設計、商品企画などいろいろな仕事に携わってまいりました。2016年、食品メーカーのキューピーに転職。未来技術担当のフェローとしてAIなどの現場実装を進めてまいりました。

そして、2021年7月にキューピーを退職して、日本惣菜協会に入り、今はAI・ロボット推進担当のフェローとして、当協会の会員の皆様に対してAI・ロボット化を推進しております。この日本惣菜協会の規模は、会員企業が654社という大きさです。

DXは時間を高速化して大きな企業価値を生む

DXは、時間を高速化することで、大きな企業価値を生み出します。 次の図をご覧ください。複利の計算式です。この図は、松尾豊先生の資料からの抜粋になります。

スライド資料:DXは複利計算

通常、企業では、利率の「r」を大きくすること、例えば原価低減や改善をするなどして「r」を大きくする活動に取り組まれていることが多いと思います。DXはこれだけではなく、時間の「t」も高速化して大きくする活動なのです。
次のグラフをご覧ください。

スライド資料:高速化が、大きな成長につながる

2003年に「1」であったものは、利率「r」が0.2で、運用期間の時間「t」が1の場合だと、10年後には複利で約6.2倍になります。ところが、この時間「t」を倍速の2にするとどうなるか。10年後には約38倍になるのです。

DXで「t」を2にした企業とDXをやらなくて「1」だった企業では6倍以上の差が出る。このグラフはそのことを表しています。テスラなど有力なの新興企業はこのように「t」を速くすることで大きく成長しているのです。

単なるIT化ではなくイノベーション

イノベーションについてはいろいろな論がありますが、最初に「イノベーション」という言葉を使ったのは経済学者のヨーゼフ・シュンペーターだと言われています。
彼は、イノベーションは新結合だと考えます。この新結合というのは、つまり「掛け算」のことです。単なる「改善」ではなく、新結合によって「飛躍的に価値を創造するもの」がイノベーションであると言うわけです。

では、現代の我々は何と何を新結合させるのか。
一つはデジタルです。では、これに何を掛けるのか。「現場力」です。「現場の課題」と言ってもいいでしょう。現場の課題がわかっているということは現場がわかっているということだからです。
「デジタル」と「現場の課題」を掛け合わせて、企業価値を向上させる。これがDXではないかと私は思っています。DXのXは掛け算の「×」です。

スライド資料:DX Digital(AI)?現場課題=企業価値

私は前職で「AI × 原料の検査 = 品質の向上・人件費低減」というDXに取り組みました。原料は品質の大本であり、その検査はとても重要な作業ですが、非常に大変な作業でもあります。目視で検査して、良し悪しを判別し、悪いものをはじき出す。しかし、人の目に頼るのでミスもあり得ます。

そこで、この現場の課題とAIを掛け合わせ、品質向上と人件費低減という企業価値を生み出すことにトライしました。目指したのは、「世界一の低価格」「世界一高性能」「世界一シンプル& コンパクト」の食品原料検査装置でした。

スライド資料:AI原料検査装置@キューピー

2018年、これを現場で作り上げて、まずベビーフード工場に導入し、横展開していきました。このときユニークなアルゴリズムを使ったのですが、先進的な取り組みということで、いろいろな賞をいただくこともできました。

この取り組みがうまくいった理由は、「原料の品質を良くしよう」というものづくり現場の志に対して、AIを提供してくれる事業者さんたちの共感があり、そこから互いに信頼関係を作ることができたからだと思っています。
志と共感と信頼関係によって「現場力 × パートナー(AI)」という掛け算が生まれ、そこから新結合が生まれたのです。

スライド資料:成功の所似=志への共感と信頼

惣菜製造の機械化は難しく、進んでいなかった

全食品製造の直接労働者は120万人います。実は、その半分近くが惣菜製造に従事していて、さらにその半分以上が盛り付け作業をやっています。「それなら早くそこを機械化すればいい」となるのですが、これが非常に難しいのです。

機械化が進まない原因は、主に「実現性が困難」「導入・運用を鑑みた全体最適が難しい」「運用が難しい」「高価格」の四つです。

スライド資料:機械化が進まない原因

では、どうするか。我々が考えた施策は次の通りでした。

スライド資料:機械化推進の為の施策(鹵ロボフレ)

一つ目の「実現性」を担保するには、必要な技術をもっている企業を広く含めたチームを作ることが重要です。AIやロボットのデジタル関連だけでなく、例えば容器などを作っている企業にも入っていただいてロボットが扱いやすい容器を作るなど、ロボット導入がしやすい環境を作るために、商品仕様をロボットフレンドリーにしていくのです。

二つ目の「導入・運用を鑑みた全体最適」については、現実世界を仮想世界に落とし込んでさまざまにシミュレーションするデジタルツインの技術を使って生産プロセスを最適化。さらに、多くの工場で困っている作業者のシフトについても、量子コンピューターで計算することで機械化を図ります。

三つ目の「シンプル・コンパクト」については、操作を家電レベルにまで簡単にして、ボタンをいくつか押せば動かせる機械にしようというものです。

四つ目の「低価格化」は、手頃感のあるアフォーダブルな仕様を決めて、みんながその機械を使うようにすることによって可能にします。多く作られるようになれば、規模の経済で価格をリーズナブルにできます。

「新しい合本主義」で不可能を可能に変える

先ほど示した施策を実行するために、私どもの日本惣菜協会では新しい考え方を定めて示しました。「新しい合本主義」という考え方です。
この「合本主義」という言葉は、渋沢栄一が唱えたものです。合本というのは2冊以上の本を合わせて1冊の本にすることを意味します。いろんな知識や知恵を融合させて価値を高めるというわけです。

日本惣菜協会の「新しい合本主義」の目的は、人手不足をなくして惣菜製造の企業の利益を向上させることです。今、我々はこういうスキームを作っています。

スライド資料:日本惣菜協会におけるAI・ロボットによる機械化のスキーム

まず、600社以上の協会会員に共通する課題を明確にする。それに対して、設備開発メーカーやシステムインテグレーターなどの貴重なシーズをもった企業が集まってソリューションを作り上げていく。そして、そのソリューションを会員企業600社のみならず、将来的には3000社あると言われている惣菜企業の皆さんに提供していく。
このような大きな規模を初めから想定した形で進めることによって、設備の価格を安くできるのではないかと考えています。

私は2021年7月に日本惣菜協会に転職して、早速、経産省のプロジェクトに応募して採択されました。そして9月からの半年間で、惣菜の盛り付け作業の機械化に挑みました。パイロットになっていただいたユーザーさんは次の通りで、このようなスキームでプロジェクトを進めました。

スライド資料:食品TC:ユーザーと技術の合本する公的組織

プロジェクトに取り組むにあたっては、我々は何よりも次の理念を重要視しました。

志:ユーザー現場とロボットフレンドリー技術の融合で人手不足のない世界を創造する。
ミッション:ロボットフレンドリーを実現し、志を達成する。
理念:One for all , All for one . 一社がチームのために、チーム皆が一つの志のために。

この経産省プロジェクトでは、半年後に本当に盛り付けロボットを作り上げて工場に実装できました。開発中は苦労して挫折しそうになることもありましたが、それでもチームみんなで困難を乗り越えていきました。
導入した現場はマックスバリュ東海の長泉工場です。4台を導入し、それまで一連7人で作業していた工程が、今では3人で作業できるようになっています。それまで不可能だった盛り付け作業を我々は自動化できたのです。

今回挑んだことは、高価なアームロボットを使えば比較的簡単にできるものでした。しかし、これでは装置が高価なものになってしまいます。 そこでデジタルツインの技術でシミュレーションを重ね、何度も検証していきました。すると、「ここに容器や惣菜を置いて、ロボットをこう動かせば、安いスカラロボットでもできる」とわかり、3DCADで設計。そうして、手戻りなく短期間で、実際に使えるロボットを作り上げることができました。

スライド資料:構想から半年で業界初惣菜盛付ロボットシステム現開導入初成功

このロボットは、ロボットのアカデミー賞と言われる「ロボット大賞」を受賞することもできました。

作業者のシフトを「イジングマシン」で計算

もう一つ、我々が力を注いで取り組んだことがあります。それは量子コンピューターを用いたシフト計算です。我々はこの実用化に成功しました。業界初です。

インプットするのは、生産計画のほか、作業者の力量や休日の希望日などの情報をエクセル表でまとめたものです。それを、組み合わせ最適化問題を得意とするコンピューター「イジングマシン」に入れて計算させて、その結果をエクセルに変換するというシステムを作りました。

スライド資料:業界初量子コンピューターによるシフト計算現場導入

一見、簡単そうに思える計算ですが、普通のコンピューターでやると数万年かかる計算です。組み合わせが非常に多いのです。それが、量子コンピューターなら15分ぐらいで結果を出せます。
これに用いる技術もデジタルツインです。工程をデータ化して、いろいろなシミュレーションをかけていくのです。シフト計算だけでなく、見える化もできるので、例えば作業者や工程の稼働率を見て、それを平準化するという従来の改善活動もやりやすくなります。

また、このシミュレーターには遺伝子型アルゴリズムのAIが入っていて、生産計画の最適化もできます。実験的にやったところ10数%ほど生産性をアップできるという計算結果が出ました。
今、農林水産省の事業で、6社の惣菜製造企業さんと一緒にデジタルツインを用いた生産計画の最適化に取り組んでいます。実際に良い結果も出始めています。

みんなが輝く、それが本当のDX

我々は今、さらなる自動化を進めています。前年度の取り組みよりもはるかに大きな規模のプロジェクトです。今回は、経産省だけではなく農水省にも協力いただいております。ユーザー企業16社とベンダー企業16社が一緒になって開発を進めており、まさに「合本」です。

スライド資料:2022年度(2022年9月〜2023年3月)プロジェクトスキーム

惣菜の製造にかかわる課題にさまざまに対応した開発をしています。
例えば、盛り付けロボットが容器の供給もできるようにしたり、ロボットそのものを小さくするような開発もしています。小さくすれば狭いところでも設置できます。
また、惣菜ではなく、弁当の盛り付けができるロボットの開発や、ベルトコンベヤーで流れてきたものを「番重」という入れ物に移載するロボットの開発。さらに、量子コンピューターを使ったシフト計算も、人間とロボットが混在した形のシミュレーションもできるようにしようとしています。

スライド資料:2022年度 更なる惣菜製造工程の自動化ロボットシステムを開発

また、このようなロボットシステムのレンタル・リースのモデルを作るというプロジェクトも動いています。価格を抑えた導入しやすいロボットではありますが、それでもまだ高価です。500万円、1000万円という価格であっても、中小企業にとってはとても大きなキャッシュです。そのキャッシュフローが良くなる仕組みを構築しようとしています。
その他、ロボットフレンドリーの容器や番重の標準化を容器メーカーに力を借りて進めたり、ロボット自体の価格を安くする設計を進めたりしています。

プロジェクトが進行中なので、詳しいことを話すことはできませんが、今開発しているロボットは前年度(21年度)に開発した惣菜の盛り付けロボットの1/4の大きさです。これを2連結できるようにして、時間当たり500食ほど製造できるようにします。これは2人分の作業に相当します。
弁当の盛り付けロボットシステムについても、今年(2023年)の春には工場に導入して運用することを計画しています。

企業活動は競争の中で行われます。ただ、企業同士の戦いは、互いにコアのところですればいいのです。
それ以外の協調領域では、互いに利他の気持ちをもち、共通の課題に対してAIやロボットを使ってDXの掛け算による新結合でイノベーションを図る。共感と信頼を糧にしながら、みんなが輝き、企業価値を向上させていく。
そして、その企業の集合体である業界、ひいては国が強くなっていく。まさに、DXによるワンフォーオール・オールフォーワン。みんなが輝くことが本当のDXの目的だと私は思っています。

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