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【食品ITフェア2023 オンライン】 〜人と食の価値の出会い方〜
フードテックから見る「未来の食の風景と価値」とは

2023/4/13 [食品,セミナーレポート]

スマートキッチンやフードテックは「人と食の価値の出会い」にどのような変化をもたらすか?世界では食糧問題やSDGs、健康問題等を解決する手段として注目される一方で「おいしい・安い・時短」が重要視される日本。当セミナーでは、世界で加速する「スマートキッチンとフードテックの潮流」とともに、「未来の食の風景と価値 」の今後や可能性についてお話しします。

住 朋享 氏

株式会社シグマクシス プリンシパル
東京大学大学院 非常勤講師
住 朋享 氏

私は、クックパッドにて6年間、新規事業創出やスマートキッチン関連事業に従事し、その後、株式会社シグマクシスに参画。SKS JAPAN(2017年〜)、Foodtech Venture Dayなどで食に関するスタートアップ支援やイベント開催を手掛けてきました。東京大学大学院の非常勤講師として、新規事業の作り方などを教えてもいます。

よく聞かれる「○○テック」とは何でしょうか。それは、「洗練されたITや技術をコアにして、今までにない価値や仕組みをつくり、既存の常識を過去のものにする」ということ。「既存の常識を過去のものにする」というところが大事です。
今回は、何が過去になり、どんな常識が変わっていくのかをお話しします。

弊社のエコシステム活動

フードテックと言うと、プラントベースドフード(植物由来の原材料を使用した食品)をイメージされる方も多いと思いますが、生産、流通から食べるところまで、食にまつわるすべてを網羅しますから、大変範囲が広いです。

スライド資料:食に関わる参画可能な事業共創プラットフォームを通じた新産業の創出を目指す

私たちは独立系コンサルティングファームのフードテック専門チームとして、フードテックを核とした、さまざまな会社の戦略開発を行っています。食に関するグローバルコミュニティの形成や、食に関する自主調査、記事等の発信、さまざまな分野の専門家とネットワークを形成したり、ベンチャー支援を行うなどをしています。

その他、SKS JAPANというイベントを2017年から毎年1回開催しています。日本の食に関する産業の方々が集まって、今、世界で何が起こっているのか我々はどこに向かうべきかを話し合うカンファレンスを行っています。食品メーカー、卸・流通業界、官公庁の方々も参加しています。今年も7月末に開催する予定です。

スライド資料:Smart kitchen Summit JAPAN(SKS JPAN)を開催

SKS JAPANは、スタート時には182人程度の参加者でしたが昨年2022年には839名が参加。登壇者も20名程度だったものが80名以上と規模を拡大しています。

中でも私が力を入れているのは、Foodtech Venture Dayという、日本のフードテックスタートアッププレイヤーを支援するイベントで、2〜3カ月に1回程度のペースで開催しています。前回は、「日本の伝統×フードテック」というテーマで開催し、日本酒やお茶など日本の伝統食を、フードテックを活用していかに世界中の社会課題の解決と文化創出をできる状態にアップデートしていくかを考えるイベントとしました。

『WIRED』日本版との共同企画で「フードイノベーションの未来像」イベントを2020年より開催しています。食は人間の本能や本質にかかわるものです。歴史や心理学や医療、文化、アートなど異分野のネットワークにリーチし、食の価値を問い直すカンファレンスを行っています。

スライド資料:

2020年7月には『フードテック革命』という本を出版しベストセラーになりました。フードテックに興味を持ち、人生が変わったという人も多いです。よろしければ手に取っていただきたいと思います。

スライド資料:フードテック革命を出版 2020年7月刊行

フードテックの現在位置

フードテックの規模をベンチャーに対する投資額で見てみましょう。次のグラフで示すとおり、2021年のフードテック関連ベンチャーへの投資は単年度で約5.1兆円。過去最大となりました。カテゴリ別で見るともっとも注目されているのは、食品流通とバイオエンジニアリング食品の2つ。

スライド資料:過去最大の投資額となったフードテック

食品流通への投資は、 2021年の四半期で投資件数51件。金額は60.14億ドルが投資されています。コロナ禍で、ミールキットやオンラインスーパー、ゴーストキッチンに関するスタートアップが急増していることが背景にあります。
バイオエンジニアリング食品への投資は46件、18.03億ドル。代替たんぱく質や、機能性新食品に関するスタートアップが増え、そこへの投資額が増えています。

なぜ、2021年にフードテックへの投資が増えたかというと、2つ要素があります。
1つはコロナ、もう1つウクライナ戦争です。
以下のグラフを見てください。

スライド資料:なぜフードテックがこんなに投資されているのか?

直近の世界では過去3回、食糧危機が起きています。過去2回は原油高騰により燃料価格が上がって原材料価格が高騰したためです。今回はウクライナ戦争で麦の生産・流通が滞ったためです。ウクライナ・ロシアが世界の3分の1の麦を生産しています。これが滞り家畜の飼料価格も高騰。燃料費も高騰しているため、世界中の食料価格が過去最大を更新。世界的な事変によって100年に1度というにふさわしいフードテックの大変革がおきているのです。

今の日本は多くの食品を輸入に頼っています。輸入が止まると今食べているもののほとんどは食べられなくなります。先進国の多くは第一次産業が減っていて、発展途上国からの輸入に頼っています。
コロナ禍やウクライナ戦争で明らかになったのは、外国に食糧を頼っていると有事の際に困るということ。いざというと時にいきなり自国では生産できないので食の安全保障への関心が高まり、フードシステムを改革するフードテックに注目が集まっているのです。

最近の食にまつわる大変革について見てみましょう。

スライド資料:過去最大に成長した「フードテック」

コロナで食生活が大きく変わりました。外食がなかなかできなくなり、自炊や中食が増えました。ウーバーイーツなどのデリバリーサービスの利用も増えました。これらにより、新しい食の体験、習慣が生まれました。

食の流通も変わりました。良質の肉や魚は外食産業が仕入れていましたが、コロナで外食産業が打撃を受け、肉や魚の売り先がなくなりました。そのとき業務用の食材をそのままユーザーに売るDtoCや、ファーマーズマーケットなど、新しい流通が生まれました。流通自体も、今までは市場で仲買人と生産者がやりとりしていたのが、DXによって、遠く離れていても生産者から直接買えるようになりました。人々は一度、便利だと思ったら、コロナが終わってももとにはもどりません。

3年間もの巣ごもり生活によって人々の食の体験が大きく変わりました。米国では、買い物代行が増え、ダーク食品店が増えています。ダーク食品店とは、買い物代行の人専用の食料品店です。接客が不要なので低コストで飲食店ができるのがメリットで、国内にもそのような業態が出てきています。

もはや、日本でも当たりまえになったウーバーイーツや出前館などのデリバリーサービスも増えました。客席のないデリバリーのみの「ゴーストキッチン」、1つの飲食店を複数の外食店舗に委託する「クラウドキッチン」、1つのキッチンで複数のデリバリー専門の外食店を運営する「ダークキッチン」など、新しいフードテックベンチャーが続々登場しています。

スライド資料:過去最大に成長した「フードテック」

「代替たんぱく」も、2019年頃から急速に伸び、投資額が過去最大となりました。
代替たんぱく質は大きく3つ。植物性代替肉、菌発酵肉(菌糸を培養して肉に似たものをつくる)、細胞培養肉(動物の細胞を培養して肉をつくる)。中でも菌発酵食が増えています。

肉以外の代替食の質も向上し、代替ハチミツ、代替卵、代替ミルク、代替え母乳に至るまで、本物より味も良く、栄養も優れている。本物を超える品質のものが発展しています。
2020年時点では、代替たんぱくは約7000億円超の市場に成長し、年率30%の成長を続けています。2030年には2.5兆円〜3兆円になると予測されています。

原料は、日本の場合、代替肉というと大豆から作られることが多いですが、日本の大豆の自給率はわずか20%です。20%しか採れない大豆で代替肉を作るのはサステナブルでありません。世界の代替たんぱくの原料のトレンドは、細胞培養とか菌発酵、各国で栽培できる大豆以外の植物性原料になっていっています。

畜産や農業をすればするほど土壌がやせていきます。食は地球のしくみと密接に関係があります。食の安全保障、SDGs、人々の価値観の変化という文脈でも、日本にとっての代替食とはどうあるべきか、みんなで考えていくことが大事だと思います。

2021年は国連が食糧システムサミットを開催し、国家元首レベルでフードシステムについての議論がなされました。
地球温暖化を遅らせるためには、CO2の削減が急務ですが、何が一番CO2削減に効果的か。次のグラフを見てください。

スライド資料:CO2削減の解決策Top20の内、食・農に関わる施策が8つを占める

実は、食糧廃棄の削減や植物性中心の食生活はかなりCO2削減効果が高い。しかし難点は、右端のグラフで示すように、どのくらいCO2削減に貢献できるのか、規模が見えにくいことです。そのため産業として取り組みにくい。それがフードテックの課題です。

人々の価値観の変化

なぜ今、食の進化が求められているのでしょうか。ポイントは2つあります。1つは、社会課題と食の関係。もう1つは食の価値観の多様化です。

コロナ禍において、人々の働き方や価値観が大きく変わりました。 終身雇用性が崩れジョブ型雇用が増えてきました。自分の裁量で働けることやワークライフバランスを重視し、自分の好きなこと、スキル、アイデンティティを重視する人が増えてきました。

スライド資料:人々の購買意識の変化

収入階層構造も変化し、2015年〜2022年かけて高所得者と低所得者の2極化が進んでいます。
消費意識も、所得上位者が他人に自慢できる、他人よりワンランク上のものにお金を払いたがる、堅持消費が増えてきています。

スライド資料:人々の購買意識の変化

若い世代も、購入意識が変わっています。自分の好きな商品やサービスを買うことで、同じものを持っている人とつながる、それを持っていること自体が自分らしさの表現になる。たとえば環境にいいものを買うことで、環境に関心があることを示す。購買にまつわるストーリー「ナラティブ」を重視した購買意識が若い層で増えています。

スライド資料:人々の購買意識の変化

環境への意識も変わりました。次のグラフは2022年と2021年と比べ意識がどう変わったかを示しています。日本では、「持続可能性は大事だが何もしていない」という人が昨年より減り、「機会があって価格が同じなら(サステナブルなものを)選ぶ」と答えた人が増えています。海外では、よりサステナビリティへの関心が高く、日本も数年遅れで追随すると思われます。

スライド資料:人々の購買意識の変化

以下は、食と購買行動の関係性を表したものです。以前は時短、安さ、便利さ、おいしさ、健康、安全ということが求められていました。これからは、食に求められる価値も多様化していきます。たとえば、楽しく料理する、もっと時間をかけて料理をしたい、新たな食との出会い、エンタメとしての食といった食の価値の再定義が重要になってきます。これを、われわれは食のロングテールニーズと呼んでいます。

スライド資料:食に関わるロングテールニーズの存在
スライド資料:多様化する食の価値

CES2023最新フードテックトレンド

毎年1月にラスベガスでCESという世界最大のテクノロジーの見本市が開催されています。幕張メッセ3個分くらいの広大な施設に、今後数年〜5年程度にかけて世の中に出る最新の技術、製品が約3000社出展されます。このCESに、2022年からフードテックが新しいカテゴリとして追加されました。フードテックが、半導体や自動運転車などと同様に、世界を変える大きなテクノロジーだと認められたといえるでしょう。

出展された製品の一部を紹介しましょう。たとえばLGは、音楽や状況に合わせて数万色から自由に色を変えられる冷蔵庫や、家庭菜園ソリューションを発表しました。

スライド資料

サムスンは、液晶パネルにレシピを表示させたり、必要な食材をアマゾンでワンクリックで購入できる機能を備えた冷蔵庫や、自分の好みや栄養目標に基づいたおすすめレシピを自動調理するオーブンなどを展示していました。

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アメリカでは飲食店の人件費が高騰しているため、ラストワンマイルのデリバリーロボットが増えています。配達時の不在問題のソリューションとしても注目されています。

サントリーは、ヘルスケアに力を入れていて、老化を可視化する世界初・最小デバイスや、スマホのマイクをお腹にあてて腸内環境をモニタリングするアプリなどを展示していました。

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NUVILABは、ごみ箱にセンサーカメラを付け、何がどのくらい捨てられたか自動的に記録するスマートごみ箱を出展。外食店のメニューで何が捨てられるかを把握でき、メニューや仕入れの改善等に役立てることができます。フードロスの削減と、お客様への提供価値向上を両立した例です。

スライド資料:

Phyto Fatは、植物性油脂から脂肪を作っています。一般的に、植物由来の脂肪は、融点が低いため油っぽく感じ、おいしくありません。しかしPhyto Fatは、植物由来でありながら融点が高い脂肪を作ることに成功。本物の動物性脂肪と同じように味も食感も良いベーコンなどを展示していました。

スライド資料:植物性油脂から作られたPlant-based meat Phyto Fat

Taste Boosters LLCは、微電流を搭載したスプーンを発表。これを使って食物を食べると脳や舌を刺激し、塩味や甘味を増幅させるため、無理なく減塩や減糖ができます。

尿と脳に焦点を当てた製品も目立ちました。トイレにつけて尿の成分を分析して健康状態を測るセンサー、イヤホン型の脳波を測るデバイス、脳に微弱な電流を流してリラックスや記憶力向上の効果を与えるデバイスなどが展示されていました。

スライド資料:ウェルネステック・デジタルヘルス

まとめ

コロナやウクライナ戦争によって、食の分野に 100年に1度の大変革が起きています。
戦後から90年代後半にかけて大量生産・大量消費の時代、2000年代〜現在にかけての多品種・大量消費の時代を経て、人々のニーズが多様化し、食の生産が多様化してきました。これからは、多品種・適量消費の時代になるかもしれません。これからもどんどん変化する生活者のニーズに対し、食が何を提供するのか、新しい食体験の構築が重要です。

技術の進展によって、これまで見えなかった、人間の心身の状態、体内の状態、好み・主義、行動などのデータが可視化されるようになりました。その人が何を求めているか、どうなりたいか、そこへ何を提供していくか。人々の生活や価値観の多様化と、それを実現するプロダクトの高度化が今後ますます求められるでしょう。

最後に、私どものコミュニティを紹介します。ニュースレターやイベント情報を発信していますので、ぜひご登録ください。

スライド資料:今後のアクションの仕方

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