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【食品ITフェア2023 オンライン】 【先進企業に聞く】受発注のデジタル化から始める食品卸売業の現実的なDX戦略

2023/4/13 [食品,セミナーレポート]

受発注のデジタル化は単にファクスや電話がなくなるだけでなく、企業全体のDXにつながります。酒卸の株式会社佐々木様は、すでに利用している基幹システムと、受発注サービス「クロスオーダー」を連携することで受発注のデジタル化を実現されました。食品・飲料卸売業者にとってのDX戦略について、実際にデジタル化に取り組んでいる株式会社佐々木様にお話をうかがいます。

株式会社佐々木 人事部 総合企画部 部長 佐々木 恵美 氏

株式会社佐々木
人事部 総合企画部 部長
佐々木 恵美 氏

クロスマート株式会社 取締役 岡林 輝明 氏

クロスマート株式会社
取締役
岡林 輝明 氏

卸売業者と飲食店の間の受発注をデジタル化

岡林様:クロスマート株式会社は、2018年の7月に創業しました。「想像力とテクノロジーで外食産業の発展に貢献する」というビジョンを掲げ、食品卸売会社様に向けた受発注サービス「クロスオーダー」を提供しています。

スライド資料:想像力とテクノロジーで外食産業の発展に貢献する

この「クロスオーダー」は、卸売業者様と飲食店様の間の受発注、請求、販促といった業務のデジタル化を実現し、そのやり取りを一元管理できるシステムのサービスです。外食産業の個人店様ではファクスや電話などアナログのやりとりが多く残っているので、ここを当社のサービスでデジタル化していきたいと考えております。

スライド資料:クロスオーダーとは

最初に私から卸売業者観点のDXについて話をさせていただきます。そのあとに、現実的なDX戦略について、実際に取り組まれている株式会社佐々木様から直接お話をいただきます。

株式会社佐々木様の会社概要は次の通りです。

スライド資料:株式会社佐々木さま

「事業創造型DX」ではなく「業務改革型DX」から始める

岡林様:当社は、DXについて、大きく二つに分けることができると思っています。一つは「事業創造型DX」。もう一つは「業務改革型DX」です。

スライド資料:DXとは

事業創造型DXは、技術進化を背景に今までの限界を突破し、新たな事業を生み出すようなDXです。少し具体的に言うと、データを活用して新しいことに挑戦していくような取り組みです。例えば、加熱式たばこ「アイコス」は、既存商品のIoT化を推し進め、そこから得られたデータを基に異業種である保険・金融業界への参入に成功しました。

業務改革型DXは、業務の遂行能力を高めるためにデジタルを活用していく形です。例えば、マクドナルドやスターバックスは、レジの代わりにスマートフォンで注文を受けるシステムを導入し、コロナ禍を背景に一気に拡大して業務改革に成功しました。

今、多くの会社様が「DXでデータを活用して新しいことをやらなくては」と難しく考えて、困ってしまっているようです。おそらく、事業創造型DXをイメージされているのではないでしょうか。しかし、このDXは、どちらかと言うと、すでにデジタル化ができている会社がさらに取り組むものです。

多くの会社様は、まず業務改革型DXでデジタルを活用して業務を効率化するところから取り組む。それが現実的なDX戦略だと思っております。

スライド資料:現実的なDX戦略

三つのステップ「課題の特定」「ソリューションの決定」「実行」

岡林様:弊社の考える業務改革型DXでは、大きく三つのステップ「課題の特定」「ソリューションの決定」「実行」で進めていく取り組みを考えています。

スライド資料:実践的な業務改革型DXの進め方

本日は、この3ステップの流れに沿って、食品と飲料の卸売業者でいらっしゃる株式会社佐々木様が実際にどのように取り組んでいったのか、そこを少し深掘りしながらお聞きしたいと思っております。

〈課題の特定〉留守番電話の注文だけで1日100件以上

岡林様:食品や飲料の卸売業者は、メーカーと飲食店との間に入って、双方でやり取りをしながら業務を進めていきます。特に課題が大きいと感じるのは、卸売業者と飲食店のやり取りの部分になります。

スライド資料:食品・飲料卸売業者の業務概要

佐々木様のような卸売業者の場合、かなり多くの飲食店と取引をします。基本的に、ここに書かれている業務を、取引先の数だけやらなければなりません。ここでかなり苦労されているという印象があります。

佐々木様は、実際の現場で、どんな課題が特に大きいと感じているのでしょうか。

佐々木様:弊社の場合、受発注については、ファクス、留守番電話、お客様指定のシステム、大手様の受発注システムの4種類ぐらいを使って業務を進めます。

その中でも特に課題として大きいのは留守番電話による受注です。多いときでは1日に100件以上。それを聞いて、まず紙ベースで情報として落とし込み、それから弊社の受発注システムに入力します。1日4時間から5時間の作業。ダブルチェックで聞き直しますので、実際にはその2倍ぐらいの時間を要します。

受注のタイミングとしては、留守番電話の1/4ぐらいは夜の10時ぐらいまでに入ります。一番多い時間帯は夜中の0時ぐらいです。明け方まで営業しているお客様もいらっしゃるので、午前4時や5時ぐらいに受注が入ることもあります。
だから、夜の10時から夜明けまで留守番電話がずっと鳴っている状況です。そのほかに、ファクスやお客様指定のシステムからも注文が入ります。

この受注に対応するために、弊社には夜間のスタッフが5名ぐらいおります。そのスタッフたちが夜のうちに弊社のシステムに入力するのです。ただ、留守番電話だと聞き取りにくい場合もあって、ベテランのスタッフでないとわからないこともあります。最近は、外国のお客様も多いので、何度も聞き直すという課題も出ています。

また、ファクスの場合もミスがあります。お客様は「送った」とおっしゃるのですが、実際は送ることができていなかったということもあります。また、ファクス機によっては文字化けしてしまうこともあります。
このような状況で、夜間部隊のスタッフはなるべくミスなく受注データをシステムに入れていきます。

岡林様:いろいろな課題がある中で、日常業務にかかわるところはやはり一番インパクトが大きいということですね。

〈ソリューションの決定〉求めたのはよりシンプルなシステム

岡林様:佐々木様がソリューションを決めるとき、たぶんいろいろ検討されたと思うのですが、実際はどのようなものだったのでしょうか。

佐々木様:システムを選ぶときは、まずその機能の7割以上が弊社にとって使えるものかどうかを考えます。弊社ではこれまで、自分たちの要望に合わせてオリジナルの受発注システムを作ってもらってきました。

しかし、今はパッケージが主流なので、それを導入するようになっています。だからそのシステムの7割ぐらいの機能が使えるかどうかを必ず考えるのです。サポート費を含めて月額で5万円以上のお金を払うので、使えない機能が多くあると「もったいない」とどうしても思ってしまいます。

それと、「誰でも使えるか」という基準もあります。弊社の場合、年配の従業員がいますし、年配のお客様もいます。とにかくシンプルなシステムで、操作が難しくないことを重視しました。

あとはコスト。新しいシステムを導入すると、弊社の既存のシステムも変える必要があります。そこはシステムを作ってもらったところに費用を払って作業してもらわなくてはならないので、そこの費用対効果はかなり検討しましたね。
このような基準を大事な順番で考えていったとき、5社ほどの中でクロスマートのシステムが一番良いと判断しました。

〈実行〉まず作ったのは社内の空気感

岡林様:弊社は、さまざまな会社様のDXの推進をお手伝いしております。その中で、典型的な落とし穴が三つあると感じてきました。それは「経営陣がコミットしない」「最初から100点を求める」「レガシーシステムの再生産」です。

スライド資料:DXが失敗する落とし穴

佐々木様は、この三つの落とし穴をうまく回避しながらDXに取り組んでいると感じています。このあたりのことをお聞きできればと思います。

佐々木様:受発注システムは、「とにかく留守番電話の数をまず減らしたい」という思いが強くありました。どうやってもヒューマンエラーは起きるものなので、夜間スタッフの負担を少しでも減らしたい。また、受発注で間違えると、最終的にはお客様に迷惑がかかります。そのフォローを配送員がしなくてはならず、2回3回とお客様のところに物を届けることにもなります。

その課題がよくわかっていましたので、クロスマートのシステムを導入するにあたっては、弊社の社長から「とりあえずやってみたら」の一声が出ました。実は、そのときから、どういったスケジュール感でどれぐらいのお客様が利用してくださるかを現実的に考え始めたんです。

岡林様:現場から見れば、システムの変更はリスクがあるので踏み出しにくいところがあります。やはり、最初の一歩を踏み出すにはトップの一声が大事ではないかと思います。

佐々木様:そう思います。ただ、その社長の一言の前に、リスクの部分についてはかなりスタッフ間で検討しました。スマートフォンでシンプルに注文できるシステムでも、それまで電話で注文していたお客様にとってみれば、その操作は手間だと感じます。
弊社はとても風通しがいいので、このマイナス面については、社内のさまざまなところから声が上がりましたね。その声を聞きながら検討を進めていったのですが、やがて皆が「それでもこの課題は解決しないとならない」と考え始めるようになって、そこで社長から「とりあえずやってみたら」の一言があった。だから、皆で「やってみよう」という感じになったし、これまで頓挫することもなかったのだと思います。

岡林様:「実行」のところは、単にシステムを導入するという話ではないということですね。現場の空気作りから始まる取り組みが結果に結びつく。そこから実行することが大事だということがよくわかりました。

〈効果〉留守電の注文は3分の1に減った

岡林様:まだ取り組みが動いていると思いますが、現時点の成果はどのようになっているのでしょうか。

佐々木様:現状、個店さんについては、6〜7割ぐらいのお客様がクロスオーダーを使ってくださっています。導入した最初の1カ月ぐらいは、5〜10店舗ぐらいしか利用いただけませんでした。弊社の営業担当がご案内に行くのですが、当初は「面倒だよね」という反応でした。
でも、営業担当が足繁く通って、「LINEを使うんです」「追加注文もすぐにできます」「いろいろな注文ができますよ」と説明していったら、3カ月ぐらいで100店舗。今では300〜400店舗が利用してくださっています。

まだ課題はあるのですが、お客様の発注をデータとして弊社のシステムに吸い上げるというところでは間違いがないので、すごく助かっています。以前は1日100件ぐらいの留守電が入っていましたが、今はその3分の1ぐらいになっています。このあたりについては効率化を図ることができたと思っていますが、引き続き取り組みます。

岡林様:少し話が脱線しますが、電話やファクスがなくならないのは、それが使いやすいからだと思います。ユーザビリティーの自由度が高く、型を決めずに話したり書いたりすることができます。弊社としては、この利便性を越えるシステムを作ることが一番の課題だと思っています。

佐々木様:紙文化が根強く残っているところなので、ここをデジタル化していくのはハードルが高いですね。そこをどう変えていくか。
大事なのは、一歩一歩なんです。日々心がけながら、現場のスタッフの手間を減らしていく。お客様へのきめ細やかなサービスも続けていく。DXはとても大事なのですが、それを現場でどのタイミングでやっていくかは、毎日模索です。お客様と一緒にやっていけたらいいなと思います。

岡林様:非常に大切なお話をいただきました。自社のDXをゴリゴリやっていくのではなく、あくまでお客様あってのDX。お客様をないがしろにしてDXを進めれば本末転倒になってしまいます。お客様がもっていらっしゃる価値をしっかり見つめながら、一緒に着実にDXを進めていくことが大事なんですね。ありがとうございました。

「繋がる」「応用する」「変化する」で大きく展開

岡林様:最後に、当社のサービス「クロスオーダー」が三つのステップで会社様のDX化を実現していくことについて、少し話をさせてください。
この三つのステップというのは「繋がる」「応用する」「変化する」です。

スライド資料:3ステップでDX化を実現

「繋がる」は、卸売業者と飲食店がデジタルでつながるということです。電話やファクスのアナログではなくて、デジタルでつながる。これがファーストステップであり、このステップをまず踏むことが受注のミスを減らし、業務効率を高めます。

二つ目の「応用する」は、このつながったデジタルのプラットフォームを利用して、受発注以外の業務を展開することです。例えば、請求です。これまでは紙で送付していたのを、このプラットフォーム上で請求情報を共有する。こうすると、月末の請求書発行業務をなくせます。あるいは、販促もできます。このプラットフォームからいろいろな案内を取引先の個人店様に出すことも可能です。

そして、三つ目の「変化する」です。DXが進めば、例えば紙を使った受注が少なくなり、体制が大きく変わっていくかもしれません。そうなったら、例えば新たな営業をプラットフォーム上で展開することも可能かもしれません。デジタルチラシを配信して、攻めの提案も取引様にできるかもしれません。そのような形に変化していけると、理想的なDXだと思います。
ただ、この理想の実現に向けては、まずデジタル状で「繋がる」ことが重要です。

本日は「現実的なDX戦略」というテーマで、佐々木様のリアルなお話を少しうかがうことができたと思います。DXにおいては、システムがとても大事です。しかし、それと同じぐらいに、どう実行するかも重要になってきます。そのことを佐々木様から学ぶことができたと思います。
弊社としては、この業界のDX化を進められるように、引き続き頑張っていきたいと思います。

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