浜松倉庫株式会社 |
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有限会社ゑびや 株式会社EBILAB |
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経済産業省 |
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IoTNEWS 代表 |
小泉様(IoTNEWS):私はIoTNEWS編集長の小泉と申します。今回は、「DXセレクション」受賞企業様に、なぜ受賞できたのか、他社様でも活かせるよう “再現性のある”お話をお聞きしたいと思います。まずは自己紹介からお願いいたします。
中山様(浜松倉庫):DXセレクション2024でグランプリをいただきました。当社は静岡県浜松市にある物流会社です。当社の特徴は従業員構成です。正社員比率が85%。平均年齢35.9歳。物流業界の平均より10歳くらい若いのではないでしょうか。女性活躍も進んでおり、男女比は5:5です。倉庫現場にはおなじみのリフトオペレーターの3分の1も女性。今後の展開としては、医療機器、精密機器などの新しい物流にもチャレンジしていきたいと思っています。
小泉様:正社員比率高いのは理由があるのでしょうか。
中山様:地方の会社ですから労働力不足が深刻で採用が厳しいためです。女性比率が高いのも人材難から女性に頼らざるを得なくなったというのが始まりで、ここ20年くらい女性従業員が増えています。
小田島様(ゑびや):当社は家族経営の会社です。「DXをやろう!」と思って進めたわけではなく、日々の仕事に忙殺され新しいことに挑戦しようにも時間がない。人を採用しようにも人口12万人の街では人がいない。そのような中でなんとか作業を減らそうと、SaaSのサービスを利用したりITを活用したりして少ない人員で経営を回そうとしてきた結果、今回の受賞につながったのだと思います。
たとえば、HPでもご覧いただけるのですが(https://www.ise-ebiya.com/)、店舗を3Dカメラで撮影し、バーチャルで店舗ツアーができるようになっています。40万円程度のカメラでこれが自作できる。新しいテクノロジーを「どうやったら自社でも利用できるか」という発想が大事だと思います。
小泉様:今日は、経済産業省の栗原 涼介さんもご登壇いただいているので、改めて「DXセレクション」とは何か、教えていただけますでしょうか。
栗原様(経済産業省):はい。私は商務情報政策局 情報技術利用促進課でDX推進政策に携わっています。DXセレクションは、「中堅・中小企業等のDX優良事例選定」で、DX先進企業を表彰する制度です。DXに取り組み成果を出されている企業を表彰することで、先進企業の事例を他の企業様にもご活用いただき、DX推進に貢献することが目的です。
小泉様:具体的にどういうところが選ばれたポイントだと思われますか?
中山様:当社の場合、会社を存続させるためには変革をせざるを得ないという切羽詰まった思いでした。ですから当社の場合はまずX(変革)があって、その方法としてD(デジタル化)があった。当社が評価されたのは、そこだったのかもしれません。
当社は地元の浜松市に貢献したいという気持ちを持ち続けてきました。しかしそのためには変革をしないと会社が存続できない。当社がしてきたことをまとめますと、
2005年に女性の採用を開始。物流業界ではめずらしいことでした。
2015〜2018年に業務改革を実施。この頃はDXという言葉も知りませんでした。
2023年に従業員のモチベーション向上のため労務改革・人事改革を行いました。
これらのいったんの集大成として、2025年に新センターを立ち上げ、ロボットを導入するなど、さらなるDXにチャレンジしていきます。
小泉様:どのような体制で行われたのでしょうか。
中山様:第1期は、若い管理職3人に、「浜松倉庫の10年後を考えてくれ」と依頼し、ビジョン策定から任せました。第2期は、第1期メンバーの次の世代、20代の若手10名に担当してもらいました。そして第4期になって初めてITベンダーさんを入れ、システム導入に着手しました。
社員主導で改革を行ったことにより、皆が変革を自分ごととしてとらえ、お客様を巻き込みながら従業員のマインドチェンジをしていきました。その結果、スムーズにDXが実現していったと思います。
小泉様:実際どういう効果があったのでしょうか。
中山様:女性活躍が進み、平均年齢35歳と若返りましたし、DXによって10人工(にんく)分の余力ができました。DXに併行して新しい物流センターを作りましたので、そちらに余力の従業員を充てることができました。
コンサルを入れず、全従業員が自分ごととして考えながらDXを進めてきた20年だったと思います。
小泉様:第1期、第2期に1年くらいかけられていますが、検討チームは専任でしたか?
中山様:専任ではなく業務と並行しながら行ってもらいました。第2期は、20代の若手で実務も忙しい中でしたから大変だったと思います。なるべくこれらの人に仕事をふらないでねと社内に同意を求めてはいました。
小泉様:若い社員は業務を俯瞰して見る力が足りなかったりお客様との関係性もまだこれからというケースもあると思いますが、その点支障はなかったでしょうか。
中山様:第1期に業務フローは整理していたのでそれをもとに、若手メンバーにどうシステム化すればいいかを考えてもらいました。難しかったのはお客様のほうのデジタル化が進んでいない場合の対応ですね。
小泉様:短期間で、若い人たちを中心にDXができたのはすごいですね。一般的に現場の人ってIT化を敬遠することが多いですが、その点はいかがでしたか?
中山様:第1期、第2期では、ITについては話さず、「会社は今後どうあるべきか」という話を中心にしました。第3期で初めて、「そのためにはシステム化が必要だよね」という流れで話していきました。
小泉様:こういうところ変えたらこうよくなるよねと。ITベンダーさんを入れたのは?
中山様:業務フローまでは自分たちで書けますがRFP(提案依頼書)は自分たちでは書けない。そこでITベンダーさん5社くらいに話を聴き、結局今まで一度も取引がなかった新しいITベンダーと組みました。
小泉様:若手のメンバーには会社として何か指示を出しましたか?
中山様:細かな指示はしていません。若手のアイデアを引き出したかったからです。当社は同族企業で、会社の歴史を振り返ると代々ずっとトップダウンでした。創業時はそれでもいいのかもしれませんが、それが続くと従業員が自分で考えなくなります。ですからもどかしいこともありましたが、若手に任せました。
小泉様:ではゑびやの小田島さん、受賞ポイントは何だったと思いますか?
小田島様:私たちは地方の中小企業で、生産性の低い業種です。根本的にやり方を変えていったことがポイントだと思います。
当社は店舗運営のほか、来客予測や店舗分析、画像解析などのデータ分析サービス事業、開発事業、教育事業を行うほか、最近は、輸出業の会社を買収しました。小規模ながらなぜいろいろなことができるのでしょうか。
元々のメンバーは店長をやっていたが、需要予測や日報などの仕事を自動化すると仕事がなくなってしまった。彼は実はシステムを作ってみたかったというので、「ではやってみたら」ということで、新しい事業を始めたのです。またあるメンバーは、ワーキングホリデーで海外生活をしたことがあり英語がしゃべれる。英語を使う仕事がしたいから新しいビジネスをしたいと。そういうふうに、少ない人員の中で、個々の能力を活かして事業を作ってきました。
その代わり、バックオフィス業務は自分たちではやりません。多くの会社では自分の会社のパソコンでしか業務ができないことが多いですが、当社では、東京にバックオフィスをおいて事務作業をやってもらう。少ない人員で会社を回せるようにしておくにはどうするかを考えた結果そうなりました。
そのためには自分達の情報がシームレスになっていないといけない、システムがクラウド化していないといけない。
デジタル化が起点となって、自分達の企業体をトランスフォーメンションしていったことが受賞のポイントだったのではないでしょうか。
小泉様:デジタル化をしようと思ったら良いデジタルツールがころがっていたと。
小田島様:私は1985年生まれでデジタルネイティブと言われる世代ですが、物心がついた頃に Windows 95 ができ年々テクノロジーが進化して自分たちの生活が便利になったという感覚はもっていました。
10年前はできなかったことが5年前にはできるようになったということが2015年あたりに次々出てきました。たとえば、データ分析。私は以前、街を歩いている人の人数をアナログのカウンターでカチャカチャと数えていたことがあります。街を歩く人の数と当社店舗への来客数に相関があるかを調べたかったからです。しかし手間がかかり3日と続きませんでした。ところが、数年後に画像解析の技術ができ、これが使えるのではないかと思いました。そんなふうに、次々と新しいテクノロジーを採り入れてきました。
小泉様:社長は改革好きでも現場は抵抗をしたりはしないのでしょうか。
小田島様:あまり嫌な声は聴かなかったですね。改革にただ従業員をつき合わせるだけだと嫌がられます。ですから、リワード(報酬)とセットで考えるのです。当社では全15歳から80歳の従業員全てが社内連絡に Slack を使っています。導入当初は「いいね」1回につき20円を支払うというリワードをセットにしました。すると皆積極的に使う。2年後、この制度はなくなりましたが皆Slackを当たり前に使っています。
自分達が変化すれば会社が良くなる、という設計を考えるのが大事です。
小泉様:自社でDXをして「そのノウハウを売ってもいいよ」という人はいますが、本当にやっている人は少ないですが、御社では自社で生まれたシステムを売りにしていますね。
小田島様:実業の中で痛みを感じてそれを解決するシステムを作ったら、同業他社も同じ痛みを感じているから絶対に売れるんです。以前、当社で「問屋さんの仕組みができないか」というニーズがありシステムを作ったことがありますが、同業他社から「欲しい」と言われたことがありました。
栗原様:DXというと、「デジタル技術」ありきと思う人が多いですが、浜松倉庫様も、ゑびや様も、経営変革を前において考えておられますね。企業としてどうありたいかが先あって、そのためにデジタル技術を活用する必然性があるから活用すると。そこが大事なポイントかなと思います。
小泉様:「こういうことなら明日からでも取り組めますよ」というアイデアがありましたらお願いします。
中山様:難しいお題ですね。まず、「DXが目的になってはいけない」という意識が大事です。会社としてここに進みたいという道がある、または解決したい課題があるからデジタルを使う、というほうが入っていきやすいのではないでしょうか。
社内では常に、「当たり前を疑いましょう」と言っています。「本当にFAXいるの?」「固定電話はいるの?」と突き詰めて考えると「いらないよね」となる。同様に、物流業界につきもののフォークリフトも、本当に必要か検討中です。フォークリフトは免許が必要ですし、事故も起きやすい。ロボットでいいのではと。
改革の根幹には地方は人材が少ないというのがあります。もし人がたくさんいれば何の工夫もいらなかったかもしれません。
先日、高卒で入社してくれた女性社員が10枚くらいのパワポで作った提案書を提出してきました。自ら変革しようという文化がここ10年くらいで根付いてきたのかなと嬉しく思いました。
小泉様:ムードづくりは簡単ではないですね。
中山様:若い従業員が多いので、新しいことに抵抗感が少ないですね。昨年、人事評価制度をがらっと変えました。DXによってかなりコストダウンになったので、従業員に還元しようと、給与体系をかなり上げました。
小泉様:小田島さん、明日からできるDX、何かありますか。
小田島様:2つあります。まず、「テスラを買おう」です。つまり、最新のテクノロジーにどれだけ触れているかということです。私はテスラに乗っていますが、高速道路でいっさいハンドルを握る必要がありません。その間別の作業ができる。これはすごいことです。
ちなみに皆さんは、日々の仕事にどれだけ生成AIを使っていますか?
私は、メールを書く、プログラムのコードを書く、資料を作る……全部生成AIを使っています。
みなさんも明日から、「今自分がやっていることは生成AIでできるかも」と、躊躇せずに使ってほしい。生産性を最低でも10倍から30倍まで上げてくれます。財務資料も3分で作れます。私は文系の人間ですが、こんなプログラムが欲しいと思ったら生成AIが瞬時にコードを書いてくれます。
小泉様:少し前の生成AIは精度の低いものでしたが、最近のは「もうコンサルはいらない」というレベルまできていますよね。
栗原様:来年度のDXセレクションの応募要項の検討会を先日開いたところです。基本的に大きな枠組みは変えず、DXで成果あげている企業を表彰させていただきます。WEBサイトにデジタルガバナンス・コード3.0の改訂ポイント(経済産業省)も公開していますので、ぜひご参照いただき、我こそは、と思われる企業様はぜひ応募してください。
小泉様:デジタルガバナンス・コードをよりブレイクダウンしたものが中堅・中小企業等向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引き(経済産業省)ですね。経済産業省のウェブサイトからダウンロードできるとのことなのでぜひご覧ください。
今日はあっという間の50分でした。みなさんご清聴ありがとうございました。