一般社団法人 Food Communication Compass 代表 |
食品表示法の全体の動きについてお話したいと思います。
まず、木の実のくるみが特定原材料のアレルゲンに追加される予定です。2023年の3月に食品表示基準の改正で示されて、特定原材料になります。これまでは推奨表示でしたが、くるみのアレルギー表示が義務化されます。
くるみに限らず、木の実類のアレルギー症例が急増しています。これまで食物アレルギーのトップ3は鶏卵・牛乳・小麦でしたが、その3位の座が今は木の実類に代わっている状況です。くるみについては10年前の10倍の症例数です。
マカデミアナッツやピスタチオなど、木の実の中には推奨表示になっていないものがありますが、アレルギー症例数が多いことから、今後は推奨表示になっていく傾向がうかがえます。また、現在推奨表示のカシューナッツも今後は分析法などが整備され、義務表示になっていくものと思われます。
今年3月末には、改められた基準が示され、消費者庁から詳細なQ&Aも出てくるはずです。木の実類を扱っている事業者の方は、しっかりとご覧いただければと思います。
食品リコール報告制度についてもお話します。
2021年の6月1日から改正食品表示法が施行されて、食品の自主回収(リコール)の届出が義務化されました。その届出も、これまでは保健所に出向いていましたが、今はオンライン上ですることになっています。この届出をすると、都道府県が健康影響についてクラス分けをして厚生労働省のウェブサイトで公開されます。
厚生労働省のウェブサイトで「食品衛生申請等システム」というページを見ると、毎日のようにリコール情報が更新されています。その数は2021年6月から2022年2月までに約1,500件程度。新しい数字がもうすぐ公開されると思います。
このリコールの多くは食品表示法違反です。アレルギー表示の欠落や期限表示の印字ミス、ラベルの単純な貼り間違いなどが多く報告されています。
原料原産地表示についても話しておきます。
新しい原料原産地表示が2022年4月1日に完全施行されました。この表示制度については、完全施行の2年以内に検証されることが決まっています。
この表示の実態調査などを見ますと、原料原産地表示の多くが製造地表示になっています。対象となる原材料が加工品の場合は製造地表示になるのですが、施行前から消費者団体が「これは消費者の知りたいことではない」と指摘していたところです。この調査においては、対象の原材料は加工の場合が多く、生鮮の倍以上ありました。
ただ、この調査は2021年7月のもので、完全施行の前に実施されたものです。今の私の感覚では「大括り表示」と「大括り表示+又は表示」が多いと感じています。
この制度は、情報量が増えるというメリットがありますが、同時に中小事業者の負担増や食品産業の競争力低下などのデメリットが生じるおそれもあります。
また、この表示制度がスタートした2017年はコロナ禍以前なので、新型コロナの影響で原料が調達しにくくなる状況を想定していません。そういった面からも検証する必要があると思います。
遺伝子組換え食品についても、表示制度が改正となり、今年4月から完全に義務化されます。「遺伝子組換えでない」の表示基準が厳しくなり、今、多くの食品で「分別生産流通管理済み」というような言葉に置き換わりつつあります。
これまで「遺伝子組換えでない」と表示するには、遺伝子組換え原料の検出率が全体の5%以下でしたが、4月からは不検出でなければなりません。遺伝子組換えでないものを他のものと別けて持ってきただけの場合は、「分別生産流通管理」などと表示することになります。混入している可能性が残るので、「生産から流通まで分けて持ってきています」という事実しか言えないわけです。
国産であっても、工場のラインや問屋などで混ざる可能性がありますので、「分別生産流通管理済み」のものを多く見かけます。最近は枠外に書いているものも目立ちます。
今回の改正で「遺伝子組換えでない」の表示をやめた例もあります。みそのメーカーやじゃがいものスナック菓子などです。分別生産管理流通済みの原料を用いているのですが、そのことは書かなくてもいいので、書かないという判断です。
以上お話してきたとおり、これまで通り「遺伝子組換えでない」と表示したい場合は、かなり徹底した対応が求められます。おそらく、国産大豆の6次産業で作ったというようなケースでないと、「遺伝子組換えでない」の表示は難しいと思われます。
食品添加物の不使用表示に関するガイドラインが2022年3月に公表されました。
ガイドラインという形なので「ルールとしては軽いもの」と思われがちですが、消費者庁のウェブサイトを見ると、「食品表示基準Q&A」という枠の中にきっちり入っていて、遵守すべきルールという位置づけだと思います。まだ読んでない方はぜひお読みください。
このガイドラインの中には、注意すべき表示として10の類型が示されています。
※図は消費者庁が示したものではありません(以下同)
例えばキムチに「無添加」と大きく書かれている場合、何が無添加なのかがわかりにくいところがあります。事業者は「調味料無添加」を強調したつもりでも、消費者は「着色料無添加」と思うかもしれません。内容物の誤認が生じる可能性があります。
食品安全においては人工と天然を分けることはしていません。人工のものが優れているとは限りませんし、自然由来のもののほうがリスクの高い場合もあり得ます。「人工」「合成」「化学」「天然」の用語を使うと消費者が誤認するおそれがあります。
例えばマヨネーズは食品表示基準のルールで乳化剤をそもそも添加してはいけませんし、トマトケチャップは着色料をそもそも使ってはいけません。それなのに「乳化剤不使用」「無着色」と強調すると、優良誤認させるおそれがあります。ケチャップのパッケージを見ると「この赤い色はトマト由来の色です」などと書かれたものを見つけましたが、これはおそらく消費者を誤解させない表現にしたと思われます。
例えば、鮭などのパッケージに「保存料無添加」「保存料不使用」と書いてあっても、pH調整剤やグリシンなど保存料と同じような働きをする日持ち向上剤などの添加物を使っている場合があります。このような表示は消費者を誤認させる可能性があります。
類型4は添加物でしたが、こちらは原材料についてのものです。原材料の場合でも同じです。酵母エキス粉末やたん白加水分解物は、うまみの増強のために用いられる原材料を添加しているものであり、そうであればわざわざ化学調味料無添加と書くのは消費者を誤認させるおそれがあります。
「添加物を使っていないので安全です」などと書かれている表示をときどき見ます。しかし、食品添加物は国が安全性を評価して認めたもので、このような表示は消費者を誤解させる可能性があります。
例えば「保存料を使っていないのでお早めにお召し上がりください」と書いてあった場合、消費期限に対する誤解を消費者に生じさせるおそれがあります。このような場合は、「開封後はお早めにお召し上がりください」など消費者の誤認を招かないような表現にする配慮が求められます。
例えばミネラルウォーターには着色料を使っているとは誰も思っていません。これに「着色料不使用」と表示することは、そもそも不使用の表示がないのに、同種の商品よりも優れた商品であると誤認させるおそれがあります。
製造過程で加工助剤などを添加していなくても、一次原料や二次原料には添加されているかもしれません(キャリーオーバーなど)。例えば、「当社の製造過程においては食品添加物を使用していません」などと表示する場合でも、注意が必要です。「無添加」などと強調したい場合は、一次原料から何が使われているかを調べることが求められます。
例えば、商品にいくつも目立つ色で「無添加」などと過度に強調した表示は、他の類型項目による誤認を助長させるおそれがあります。
食品関連の事業者は、不使用表示のガイドラインが示されたことで、2024年3月までにこれまでの表示を自己点検することが求められています。策定からまだ1年しかたっていませんが、店頭の表示はずいぶん変わってきました。様子見をしている事業者も多いかもしれませんが、おそらく1年後にはこうした表示が相当数減るものと思われます。業界によっては公正競争規約の見直しも予定されています。
以上のように食品表示のルールは頻繁に変わっていますので、大きな動きを注視しながら、それぞれの対応を進めていただければと思います。
続きまして健康食品等に関する景品表示法をめぐる状況についてお話しします。
健康食品の業界は競争が激しいということもあってか、広告表現が大げさになっていくところがあります。
消費者庁はすでに健康食品の広告が大げさにならないようにするため、2013年に景品表示法における健康食品の表示についての留意事項を示しています。これは健康食品の表示や広告の担当者にとってはバイブル的な存在です。こちらはぜひお読みください。
この留意事項が昨年(2022年)の12月に改正され、より厳しい内容になっています。
この留意事項においては、昨今増えているデジタル広告におけるアフィリエイト広告やステルスマーケティング(ステマ)についても触れられています。 例えば、事業者がアフィリエイト広告を依頼して、そのアフィリエイターが自ら過激な表示をした場合でも、事業者の「関係ない」という言い訳は通用しなくなっています。
ステルスマーケティングについては、消費者庁の検討会においても大きな話題になっています。今後ますます問題視されると思います。
今後の食品表示におけるデジタル化やインターネット販売対応などについて話したいと思います。
これまで消費者庁は食品表示の見直しについてさまざまに取り組んできました。ただ、そのことによって記載される情報がとても多くなってしまい、わかりにくくなっているところもあります。
内閣府の消費者委員会では、わかりやすい食品表示の検討を行い2019年に全体像について公表しており、2020年度から2024年度の消費者基本計画でその対応を行うこととされています。例えば、表示自体を見やすくしたりとか、QRコードやJANコードなどで消費者のスマホに表示させたりとか、ECサイトの情報提供を検討しようとか、そういった方法論に関して調査が進んでいます。
すでに、デジタルツールを活用した食品表示についての実証実験が行われています。私も体験しました。
アレルギーや必要な摂取カロリーなど自分の基本情報を入れたスマホで食品のパッケージのバーコードを読み取ると、容器包装に書いてある食品表示が画面に出てきました。自分のアレルギーに関するものが入っていれば、アラートを出してくれます。
納豆の情報では、私にとって1日に必要なタンパク質のうちどれぐらいを摂取できるかなど、具体的な栄養情報も出ました。
また、食品の分野でも、インターネットの通販がとても増えています。ネット上の食品表示のルールについては、消費者庁が2022年6月に『インターネット販売における食品表示の情報提供に関するガイドブック』を出しています。EC担当者の方はぜひ参考にしていただければと思います。
この中で特記すべきは期限残の期限情報です。通販では、購入する食品の消費期限がわかりにくいところがあります。このガイドブックでは、「消費期限○日以上前のものをお届けします」という表示例が示されています。
最後に最近の話題も提供しましょう。
昨年秋に話題になった愛媛県の「麦みそ問題」をご存じでしょうか。愛媛県の事業者が麦だけで伝統食品のみそを作り「麦みそ」と表示して販売していたところ、景品表示法に違反するということで愛媛県から改善指導を受けたのです。その理由は、大豆を使っていないので「みそ」と表示できないというものでした。
この指導に対して事業者は戸惑い、Twitterに投稿して大きな話題になったこともあり、最終的に愛媛県は行きすぎを認め、指導を取り消しました。
食品表示基準のルールを適用すれば、麦だけを使ったものは「麦みそ」とは名乗れず「麦発酵調味料」の表示にしなくてはなりません。しかし、抑々個別のルールを定めていることが時代遅れではないかということで、これから他の食品も含めて見直しが検討されるかもしれません。ただ、見直すとなるとメリット・デメリットがいろいろあるので、慎重に検討することが必要になると思います。
また、昨年末には食品表示のグローバル化対応という話も出ています。こちらも中長期的にこれまでの表示を見直ししていくということで、注視していきましょう。
以上、様々なお話をしてきましたが、食品表示のルールは細かく、表示作成者は大変な思いをしていると思います。食品表示は事業者と消費者を結ぶ大切な情報伝達手段ですので、どうぞ今後も適正な表示をしていただきたいと思います。
最後に、食品表示の今後の方向性についてまとめました。ご参考ください。
【現状】
【課題】
食品業の経営者・マネージャーの皆さまへ