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【食品ITフェア2025 オンライン】 紅麹問題と機能性表示食品の制度改正

2025/4/25 [食品,セミナーレポート]

2024年3月に紅麹製品の健康被害を受けて、本製品が機能性表示食品だったことから、国は制度の見直しを進めて関連法令(消費者庁・食品表示法の食品表示基準、厚生労働省・食品衛生法の施行規則)を改正し、9月1日に施行しました。改正ポイントは、機能性表示食品等の「健康被害の情報提供の義務化」「サプリメント形状食品のGMPの要件化」「表示内容の改正」など多岐にわたります。概要をご紹介します。

一般社団法人 Food Communication Compass 代表
消費生活コンサルタント
森田 満樹 氏

紅麹関連製品の経緯とその影響

1)小林製薬の紅麹サプリメントをめぐる経緯

2024年、世間を騒がせた紅麹関連製品の事件を振り返ってみましょう。

3月22日に小林製薬が記者会見を開き、同社の紅麹サプリメントで入院等の健康被害が発生したことから関連3製品に自主回収のお知らせを発表。健康被害の医師からの第一報は1月15日にあったにもかかわらず自主回収まで2カ月以上かかったことも問題になりました。

健康被害が起きた製品を調べたところ、一部の紅麹原料に「意図しない成分」が含まれていることが判明しました。また、サプリメント以外にも、同社が製造する紅麹原材料を使用した日本酒、パンの自主回収も翌日から始まりました。3月26日以降には同社に死亡の報告があり、その後も報告が相次いで消費者の不安が広がりました。

自主回収となった製品は、表示方法にも問題がありました。たとえば表面に大きく「悪玉コレステロール値を下げる」「LH比を下げる」と断言して表示していますが、これらはシステマティックレビューに基づいて機能性が「報告された」ものであるのに、その旨が表示されていませんでした。あわせて錠剤の写真があれば、医薬品のように見えた消費者もいたと思います。

3月29日、厚労省より、原因物質は「プベルル酸」の可能性を同社が報告したことが発表されました。プベルル酸は、青カビが生成するカビ毒の一種です。青カビが製造工程のどこかで混入したことが原因でした。

自主回収している紅麹関連製品は台湾など海外にも輸出されていました。問題は国内だけにとどまらず、日本の食の安全を揺るがす問題です。国も深刻に受けとめ、関係閣僚会議では5月末までに原因究明や制度の見直しの指示が出されました。あわせて厚労省と大阪市によるによる小林製薬の製造工場の立ち入り検査も行われました。

現在も厚労省のウェブサイトでは今でも毎週健康被害情報が報告されています。2025年2月9日時点で2, 685件、入院552件、死者数404件となっています。この中には、調査中や調査不能の内容も多く含まれており、特に死者数の調査はサプリ摂取が明らかな原因となったのかは因果関係までは解明できていません。ただ、非常に多くの方が入院され通院したことは確かです。

国の研究機関で原因物質を探っていくと、プベルル酸、その他の未知の化合物Y、Zが検出されましたが、作用機序などの検証はこれからで、詳細が判明するまでにはまだ時間がかかりそうです。

ところで、紅麹で健康被害を受けたのはどういう人たちでしょうか。大阪市や日本腎臓学会の調査では女性が7割以上を占め、年齢別では60歳以下が過半数を占めています。とくに女性は更年期後にコレステロール値が上がり健康診断で引っかかることが増えるので、病院に行かずドラッグストアのサプリメントで何とかしたいという方が、紅麹サプリメントを摂取したと考えられます。

健康被害がいつ頃から起こったのか、日本腎臓学会の調査を見ると2023年の9月あたりから徐々に増え、11月ごろから急増しています。どうやら7月、8月あたりのロットの製品に本来は入ってはいけない物質が入り込んだと考えられます。
紅麹関連製品を1年以上飲んでいる人の中には、これまでは何もなかったのに、11月、12月あたりから健康被害を訴えるようになっています。また、1月、2月から初めて飲み始めて健康被害になった人もいます。この人たちは、小林製薬がもっと早く自主回収していれば、健康被害に遭わなかったかもしれません。

■小林製薬の企業責任

小林製薬は1月には医師からの連絡で健康被害を把握していたのに、自主回収発表まで2カ月以上かかってしまいました。また、記者会見では「工場は厳しく管理している」と述べていましたが、その後の第三者委員会の調査で、ずさんな製造管理が明らかになりました。

たとえば、大阪工場で紅麹のタンクの内蓋に青カビがついていたと現場担当者が品質管理担当者に報告していたのにもかかわらず、「かびはよく生えることがあるから大丈夫」と品質管理担当者がスルーしていたことがわかっています。
また、死者数、患者数について過小報告をしたことも明らかになりました。

7月23日には代表取締役社長の小林章浩が辞任。2025年2月の、2024年12月期決算の説明会では、上場以来初の減益を発表。本格的な補償についてはまだ支払いは始まっていません。その理由を会社側は、治療中の人が相当数おり算定ができず、時間がかかると説明しています。

ご参考までに、食品添加物や着色料として「ベニコウジ色素」がよく使用されていますが、これと小林製薬の紅麹原料は全く別ものです。小林製薬の紅麹原料は食品原料であり、サプリや日本酒、パンなどに使用されていました。
食品原料と食品添加物は作り方が全く違いますし、食品原料は国の規格基準はありませんが食品添加物は国の規格基準が厳しく定められています。ベニコウジ色素は食経験も数十年と長くこれまで健康被害は報告されていません。

2)機能性表示食品制度の改正「機能性表示食品を巡る検討会」

小林製薬の紅麹サプリメントの健康被害を受けて、国の関係閣僚会議では同製品が機能性表示食品だったことから制度改正を求め、消費者庁で2024年5月末まで「機能性表示食品を巡る検討会」が全6回開催されました。3月末の記者発表から5月末ですから2カ月ほどしかありません。異例の早さです。検討メンバーは医師、薬剤師、学識者、栄養士など9名の専門家で構成。5月27日には報告書がまとめられました。

検討会報告書では「健康被害の情報提供の義務化」「機能性表示食品のGMPの要件化」「表示方法の見直し」を求め、それを含めた今後の対応を関係閣僚会議は下記のとおり発表しました。

検討会報告書の主なポイントは次の3つです。

(1)健康被害の情報の義務化

小林製薬は、1月に医師から報告があったにもかかわらず迅速に対応をしませんでした。2月に入って、東京の大学病院から「今まで健康だったのに腎臓の健康被害で入院されている女性が3人いる。3人の共通点は紅麹のサプリを飲んでいたことだから、同じような健康被害が出ていないか」と問い合わせていますが、同社はなかったと答えています。小林製薬はこれらを公表せず、自社で原因を究明しようと3月までかかってしまった。このようなことが起きないように、消費者から健康被害の連絡があったら医師の判断のあるもの等一定条件を満たすものは、保健所等の地方自治体および消費者庁に直接報告することを義務化するという方向性が示されました。

(2)GMP(適正製造規範)を要件化

サプリメント形状の加工食品については、製造工場で原料を受け入れてから錠剤等にするまでの全工程の品質管理と検査等で厳しく管理するGMPの制度を義務化することになりました。サプリメントは濃縮等されて毎日摂取するものですから、製品自体の安全性を確保することが必要です。医薬品では既に義務化されているGMPの考え方を導入するものです。

(3)表示の方法や方式の改善

前述のように、紅麹は「悪玉コレステロール値を下げる」と届出表示を切り出して表示をしていましたが、今後は誤解を招くような表示ができないように消費者庁に届出する「機能性表示」を表面に表示するときのルール等が示されました。また、「医薬品ではありません」という表示も求められました。

3)いわゆる「健康食品」と食品衛生法上の規制

ところで、機能性表示食品の話をしてきましたが、これは“いわゆる「健康食品」”の一つです。“いわゆる「健康食品」”とは具体的に何を指すのでしょうか。実は「健康食品」という言葉は食品衛生法上定義されておらず、厚生労働省のウェブサイトでは保健機能食品も含めて“いわゆる「健康食品」”とされています。

健康食品のうち、国が定めた安全性や有効性に関する基準等を満たしたものを「保健機能食品」と呼んでいます(以下の図を参照)。この中に、機能性表示食品や栄養機能食品、特定保健用食品(トクホ)が含まれています。

今回の機能性表示食品制度の改正で「健康被害情報の収集義務化」と、「GMP義務化」が規定されましたが、トクホもその対象となっています。
「健康食品には何の規制もない」とよく言われるのですが、そんなことはなく、食品衛生法や、食品表示法という、健康食品全体にかかる規制があります。
以下の表は、消費者庁が説明会で示した保健健康食品に関する各制度の比較です。

上表の一番左のトクホは、1991年に制度ができ国が審査を経て認められるものです。右端の栄養機能食品は2001年に制度ができ、ビタミン・ミネラルといった20の栄養成分について、食品表示法に基づく食品表示基準で定められた機能に関する表示を行う食品です。

表の真ん中の、機能性表示食品が2015年に制度ができました。機能性表示食品は、届け出制で、安全性や機能性の科学的根拠について国による審査は行われないため、事業者にとっては負担が少ない。トクホは最終製品を用いたヒト試験が必須ですが、機能性表示食品は機能性関与成分の有効性に関する論文をレビューすれば、その製品そのもので試験を行わなくてもその機能性を商品に表示することができます。中小企業でも参入しやすく、一種の経済政策として導入された制度です。
この10年でトクホの数は増えていませんが機能性表示食品の許可件数が増え続けているのはそういうわけなのです(下表)。

さて、いわゆる「健康食品」の摂取によって健康被害が起こるととどうなるのでしょうか。一番厳しいのは、食品衛生法第6条に基づく販売禁止です。たとえば過去にコンフリーやアマメシバという食品が販売禁止になっています。

死亡事例が出るほどではない健康被害が出る製品は、プエラリア・ミリフィカ等がありますがこれら4成分は、2020年6月の改正食品衛生法により指定成分等含有食品として、事業者には健康被害情報の報告やGMPの義務化が求められました。そして、消費者には食品表示で注意喚起されることになりました。

■錠剤・サプリメント形状のGMPに係る規制

一方、これまで厚生労働省はいわゆる「健康食品」のサプリメント形状の安全確保のために、平成17年に「原材料の安全性確保と製造工程管理(GMP)について」の通知を出し、GMPや健康被害情報収集を努めるように、としてきました。そして、2024年3月11日に「錠剤・サプリメント形状のGMPに係る規制(以下、311通知と表記)」を発表し、原材料の安全性の確保と、GMP(製造工程管理)による安全性の確保に努めるように求めています。

この311通知は、紅麹関連製品の問題を受けてさらに12月に一部改正され、311通知では言及されていなかった培養などの管理についても、別紙が加わりました。

機能性表示食品の制度改正

ここからは、最初にお話しした紅麹関連製品を受けた機能性表示食品制度の改正に戻って、みていきましょう。
以下は、制度の見直し内容と施行期日等を一覧にしたものです。

①健康被害情報の収集については、即日実施となっています。

②GMPの義務化③表示方法の見直しについては、体制の整備などもありいきなり実施することは難しいので2年間の猶予期間があります。

④は、新規成分を使用した機能性食品を届出する場合は、専門家の意見を求める等慎重に手続きをしましょうということです。またCについては、機能性に関するシステマティックレビューに関する「PRISMA2020」という厳格化した手法の導入が決まっていたので、その施行に合わせて令和7年4月1日から施行されます。

制度改正については、消費者庁のウェブサイトでご確認ください。

1)健康被害の情報提供の義務化(食品表示法と食品衛生法の対応)

以上のとおり、機能性表示の改正については2024年9月1日に食品衛生法施行規則の改正、および食品表示基準の改正が施行されました。今回の改正によって健康被害の情報提供の義務化され、違反した場合は食品衛生法に基づいて営業の禁止・停止の行政処置が可能となります。また、機能性表示が行えないようになります。
以下は、健康被害情報の収集等の流れを図示したものです。

健康被害の情報提供には、医者の診断が必要です。消費者が医者にかかって医師から事業者に報告し、その内容をもとに事業者は都道府県知事と消費者庁に報告します。
消費者からみると、体調不良を事業者に連絡しても医者を介さなければならないので、消費者からの報告が上がってこないのではと私は心配したのですが、保健所への相談や報告数は増えているそうで今のところは重篤なものはなく、本制度は機能し始めているようです。

消費者からみると、医者にかからなくても健康被害を相談できる方法があります。それは「188」に電話することです。188から最寄りの消費生活センターにつながり、PIO-Netというシステムに情報が入力され、健康危害情報として収集されます。これが機能したのが、前述の指定成分等含有食品制度です。

2)サプリメントのGMPの義務化

機能性表示食品の中でもサプリメント形状(錠剤)になっている製品について、サプリメントの製造事業者にGMP(適正製造規範)が義務化されました。
GMPにおいては、管理組織の構築、製品標準書等の作成の上、以下の図の①〜④の管理徹底が求められます。

①は原材料の受け入れです。安全なものを使用するだけでなく、ロットごとに適正に保管、記録の作成と保存、サンプルの保存などが求められます。
②は製造管理です。製造工程での衛生管理、製造工程における指示事項の文書化、ロットごとの製造管理などが求められます。
③は品質管理です。「原材料の受け入れ」→「中間品」→「製品」の工程ごとに品質をチェックし試験検査の実施と記録の作成保管が必要となります。
④は出荷可否の判断です。最終的な製品が正しいものかをチェックしたのちにようやく出荷ができるということです。

GMPを義務化となると費用などがかかりますし、消費者庁の立ち入り調査も入るので事業所の負担が大きくなります。
ですから、サプリメントに該当するかどうかは、事業者にとっては重大な問題です。たとえば錠菓やグミ状のものは錠剤になるのか、濃縮ジュースはどうか等事業者からの質問が多かったので、消費者庁は事業者向けに説明会を開催しています。以下は、錠剤・カプセル剤等食品に該当するかどうかを判断するためのフローチャートです。

3)届出情報の表示方法の見直し

■機能性表示食品の表示例

今回の改正では、機能性表示食品の表示制度も改正されました。下記の赤字の部分が改正されたもので、現在の機能性表示食品全体の9割を占めるシステマティックレビューによる届出の表示例です。

基準改正では「コレステロールを下げる」など届出表示の抜き書きを書くことはできません。「この製品に含まれる●●には、○○の機能があることが報告されています」のように表面にも表示します。食品自体に効果があると誤解されるような表記はできません。

また、「本品は医薬品ではありません」と明記することや、たとえば、「本品によって疾病が治癒することはありません」のように、医薬品ではないことを明記する必要があります。

また、摂取をする上での注意事項も記載しなければなりません。健康食品は医薬品と相互作用があるものが多く、たとえば、イチョウ葉のサプリメントを飲むと、血液をサラサラにするワーファリンという薬が効かなくなることがあります。医薬品を服用している者は医師、薬剤師に摂取について相談すべきことを表示する必要があります。

その他、食品表示について細かく指示があるので消費者庁のウェブサイトで確認しておきましょう。

4)その他・改正後の届け出に関する事項

これまで機能性表示食品として届出されていない新規成分についてはより慎重に確認するために、届出から120日以内に専門家から意見を聞く仕組みが新たに導入されました。
また、改正後にも定期報告が求められ、安全性および機能性の根拠に関する事項、生産・製造および品質の管理に関する事項について、年1回報告しなければならないことが別表27に記されました。
たとえば発売後に新しい論文が出て、機能性に関する根拠が変わったりしていないか、製品の品質が変わっていないか等、非常に細かいチェック項目について毎年確認して報告しなければなりません。期日までに報告書を提出しなければ、機能性表示食品と表示できなくなります。

今回の改正によってルールが厳格化され機能性表示食品の届出のハードルが上がります。新規の機能性表示食品は届出が難しくなるかもしれません。

5)まとめ

2024年3月の小林製薬の紅麹問題は、国も非常に深刻に受け止め、法制度の改正が行われ、健康被害の情報提供が義務化され、サプリメント形状の加工食品についてはGMPが義務化されました。トクホもこの2つが義務化されました。また、表示方法も厳しくなりました。

これだけの制度改正を半年で行ったのは、紅麹事件の影響がどれほど大きかったかを示しています。

機能性表示食品は虚偽誇大広告や、機能性の根拠の脆弱さなどが問題になっていましたが、今回は安全性について大幅に規制が強化されることになりました。

今後、健康食品はどうなるのでしょうか。
消費者委員会・鹿野委員長は、2024年7月16日の記者会見で、「機能性表示食品の改正案は適当である」としつつも「様々な課題が残っている」と述べています。保健機能食品以外にもいわゆる健康食品にもサプリメントは多数あり、これらは健康被害情報収集制度やGMPが義務付けられていないことから、「サプリメント食品に係る消費者問題は重要事項であると認識しており、今後も調査審議を行ってまいります」と述べています。

ところで、海外の健康食品制度は日本よりかなり厳しく、たとえば欧州では、ノーベルフード(Novel Food:新規食品)という制度があり、食経験が一定期間あるものでなければ原則として流通させることはできません。いわゆる健康食品をEU内で新たに販売するには、欧州食品安全機関(EFSA)のリスク評価など、様々な審査が必要です。

米国では、サプリメントのための法律(ダイエタリーサプリメント教育法)があり、新規成分は長い食経験が必要です。また、健康被害情報の届出やGMPが既に義務付けられています。

日本のサプリメントに関する規制は欧米と比較すると緩く、いわゆる「健康食品」の安全性確保が今後の課題となるでしょう。

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