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【食品ITフェア2024 オンライン】 原料仕入れ先、OEM委託先の工場監査の基本

2024/4/19 [食品,セミナーレポート]

食品不祥事を起こした企業に対する消費者の視線は、厳しさを増しています。だからこそ、「お客様目線」にとことんこだわった原料仕入れ先、商品の委託先の点検と監査が必要になります。原料を仕入れる時や商品を委託する時に譲ることのできない、ハードルを考えたことがありますか。ただ、監査を行うだけでなく、仕入れのハードルを明確にし、監査先に伝え、お互いに納得してから監査を行うことが必要です。ハードルをどう設定し、監査を行うべきかを具体的に解説します。

河岸 宏和 氏

食品安全教育研究所 代表
河岸 宏和 氏

あなたの会社は何をハードルにしますか

今回は、私の著書『最新版 ビジュアル図解 食品工場の点検と監査』に基づいてお話しいたします。
私がお伝えしたい最も重要なポイントは、「会社の責任者の考え方」です。

たとえばホテルに宿泊する時、何を基準に部屋を選びますか? ブランド、駅からの距離、広さ、バスタブの有無など色々あると思います。
次の写真は普通のホテルの部屋です。掛布団にはシーツがかかっていません。この掛布団には前の宿泊者も、その前の宿泊者も触れている。このようなホテルに泊まりたいでしょうか。コロナ後は掛布団もシーツにくるまった「デュベスタイル」が主流になりました。一度このスタイルを知ったら、もう前のタイプにもどりたいとは思わないでしょう。

バスタブを重視する人もいます。脚を伸ばして湯舟につかりたいと思ったら、バスタブの寸法はどうあるべきか、数字で仕入れ条件を明確にしなければなりません。

コロナ以降は空気清浄機も必須です。スリッパもコロナ以降は使い捨てでなければ嫌だというお客様が増えています。

こういうお客様の要望にいち早く気づいて、あるいはお客様が気づく前に、うちのホテルはこういう対応をすべきだと経営者や取引先に条件を示す。それが私たち監査の仕事です。

では、食品工場の場合はどうか。産地から仕入れ、加工、販売まで一つのグループとして考えると、どのような条件をクリアしていれば顧客満足につながるでしょうか。

馬術競技にたとえてみましょう。馬術競技は5つの障害物があり、第1障害を越えなければ次へ進めません。あなたの工場の場合、第1障害(ハードル)は何か、その高さと幅を明確にしなければいけません。
たとえばホテルの場合、以下のようなハードルがあるとします。

  • 駅から近い(5分以内)
  • 空気清浄機がある
  • デュベスタイル
  • 120p以上のバスタブがある
  • Wi-Fiがある

大事なのはこのように数字が入ることです。

数年前、北海道で大停電がありました。多くの工場が止まりましたが、自家発電装置がある工場は稼働を続けることができました。私は以前、海外のスーパーの危機管理部門で働いたことがありますが、そのスーパーはすべての事業所に衛星電話を備えていました。
みなさんのところはどうでしょうか。

ハードルの高さと幅を明確に

自社だけでなく、原材料、包材、関連するすべての工場で、「自家発電装置・衛星電話がないところとはお付き合いしない」、「デュアルX線検査機がないとお付き合いしない」と条件を示す。これが第1障害です。みなさんは第1障害を決めなければなりません。

「わが社はこれだけは譲れない」という項目と高さを決めること。そしてそれを明確な数字にして取引先に伝えなければなりません。

偽装を見抜く前に偽装できない仕組みを作る

最近、自動車の検査データの偽装問題が話題になっています。今日の視聴者には監査員の方が多いと思いますが、みなさんだったら偽装を見抜けたでしょうか。

ある会社で、細菌検査をしたとします。シャーレで培養した菌を検査者がカウントして数値をパソコンに入力しているとします。偽装は簡単なのです。カウントした菌の数値を1桁、2桁小さく入力しても、監査員が確認するときにはシャーレは捨てられています。パソコンのデータを見ただけでは真偽は確かめようがない。ではそのデータが本当かどうかどうやって見抜けばいいでしょうか。

仕入れ先のデータが正しいかどうかを「データインテグリティ」といいます。データを扱う人が、誠実に真摯に高潔に仕事をしているか。この反対は偽善です。まさしく今問題になっている自動車メーカーは偽善をしていた。ではこれを誰が見抜けたか。

皆さんが監査に訪れて、パソコンで作成されたデータをチェックするとします。そのデータがいつ、誰が入力したものか、途中で誰かが修正していないか、遡って確認できるでしょうか。さらに重要なのは、そのデータの大元はあるかです。パソコンで作られたデータを見ているだけではだめなのです。

大事なのは、データをごまかせない仕組みをどのように作り上げるかです。
私たちは、工場に「細菌検査結果を見せてください」「帳票を見せてください」と言って出てきたデータを見て信じてはいけないのです。「去年のデータを見せてください」と言ってさっと出されたデータが、本当に去年のデータなのか。昨日作ったデータかもしれません。

そのデータが、本当に誠実に真摯に高潔に作られたデータかどうか本来は見抜かなければなりませんが、偽装の事例は後を絶ちません。ではどうすればいいのでしょうか。

あなたの会社の委託先の工場で、あなたの会社が発注した製品が作られるとします。その工場の様子をカメラで見ることができますか? カメラがあれば工場に行かずともライブで工場の様子を確認することができます。ごまかしようがないんです。

入り数不足をなくすために

あるいは、ベルトコンベアやパレット置きにウエイトチェッカーがついていれば、製品の通過個数、箱詰め数がわかる。箱詰め数と出来高数に差があれば入り数不足があるということです。ウエイトチェッカーがあれば入り数不足を未然に防ぐことができるのです。
またウエイトチェッカーがあれば、従来の紙の帳票やタブレットに人が入力する作業が不要になります。帳票に頼らない管理ができるようになるのです。

帳票に頼らない管理

他にも、金属検出機の通過数、フィルムの使用長をすべて自動的に記録できるようにしておく。そのデータをクラウド上で共有し、いつでも見られるようにする。すると偽装のしようがないので、安心して発注することができます。

細菌検査も培養後のシャーレを自動管理機でカウントし、そこからパソコンに自動入力させれば偽装できない。逆に言えば、これらの検査や作業を人の手で入力したり手で記録したりするということをなくさない限り、偽装の可能性があるということです。

以前、こんな事例がありました。仕入れ先の工場は、外部で菌検査をすると悪い結果が出るのに、工場監査に行くといつもきれいな検査結果が出てくる。「本当にちゃんと調査をしているのか」と確認すると、実はうその数字を入力していたことがわかりました。

見抜くべきは経営者の方針

監査員が工場に行って見抜かなければいけないのは経営者の方針です。本当に安全に配慮して良いものを作ろうとしているのかどうか。とにかく儲かればいいと思っていないか。

「検査なんて適当にやればいいんだ」と安全のハードルを下げるのか、それともまじめに安全の階段を上るのか。それが、経営者の方針なのです。監査員は、経営者がどこをハードルにしているのかを見抜かなければいけません。

食品工場は安全にモノを作って売上を作らなければいけない。その安全が小さければ、風が吹けばぱたんと倒れてしまう。安全の土台が十分な大きさがあるか、私たちは見ないといけません。

登る階段

将来起こりうることを予測し対策するのが危機管理

以下は、危機管理の一覧です。

近年、気をつけねばならないのはネットでの情報拡散です。先日、ピザチェーンで従業員が鼻をほじってピザ生地になすりつけるような動画を配信し大炎上しました。この店は営業停止になりましたし、多くの人があのピザチェーンでピザを買おうとは思わなくなったでしょう。経営的にも大変な打撃です。

しかし、経営者が鍵付きのロッカーを準備し、厨房に入る前に私服と携帯電話を入れることをルール化していればあの事件は起こらなかったでしょう。これが危機管理です。

過去に起こったから学んで反省することは誰でもできます。将来起きることを予測して対策していくことは、組織の責任者がやるべきことです。責任者がやらないなら、監査員が責任者に提案しなければなりません。

経理データを見ればすべてがわかる

私たちが監査にいくとき、まず大事なのは経理上のデータです。そこには全てのデータが出ています。

私は「OEM先、原材料メーカー、包材メーカー等、関連するすべての会社のデータを見せてください」と言います。嫌がられることもありますが、すべての出荷データを見ないと、本当かどうかわかりません。

たとえば黒豚を使用した加工食品を作っているとしたら、黒豚の仕入金額と、黒豚を作っている製品の配合、実際に出荷した製品の数、すべてを確認すれば過不足がないかがわかる。実際には黒豚を仕入れていないのに黒豚入りの製品がたくさん出荷されている場合は偽装が疑われます。

経理上の点検が必要

また、監査員は、パンフレット、HP、YouTubeも全て見ないといけません。もっと大事なのはSNSのチェックです。あなたが監査した工場に関して悪意のある投稿を点検しましたか? さらに言えば、SNSについてのルールブックがあるか、それを社員に対して教育をしているかも見る必要があります。

外周・工場内は何を見るか

私が工場に監査に行くと、たいてい自由に入れます。これはアウトです。部外者が勝手に入れない運用にしなければなりません。

工場内の動線はどうなっているでしょうか。たとえば鶏の下処理をしているところと焼き鳥(加工品)を作っているところ、包装しているところの出入口がいっしょになっていたらアウトです。鶏を処理している人と、加工している人、包装している人のエアシャワーが一緒になっているのは認められますか? これもアウトです。衛生区域と準衛生区域、汚染区域の動線が交わらないことが重要です。更衣室、トイレも別々にしなければなりません。客用トイレ、従業員用トイレ、社員食堂の人専用のトイレも必要です。

第三者によるチェック機能があるか

品質管理や製造現場で、おかしいと思った時に連絡できる体制ができていますか? あるいは、責任者自らが偽装しているのを見つけた場合、第三者に連絡できる外部ホットラインがありますか。その際に内部告発者は守られていますか?これも監査員が見るチェックポイントです。

ハードルを設定し逸脱したらNOと言えるか

うちの会社はこの線を越えたらダメだという数字をはっきり見える化しなければいけません。「デュアルX線検査機を設置しなければだめ」「虫が10匹以上飛んでいたら仕入れられない」と明確な方針を出して、少しでも逸脱したら「ダメ」と言わなければなりません。ルールを明確にして仕入れ商材基準を作り、相手に提示し、基準書どおりでなければ買わないと決めなければいけないのです。

そのときのポイントは、経理上の帳簿、帳票などが、他社分を含めてすべて確認できるかどうか。そしてもう1つは、抜き打ちでチェックできることです。

仕入れ基準をきちっと作っておけば、担当者によって厳しい、ゆるい、といったブレがなくなります。どこまでやるかですが、たとえば、みなさんの工場に包装資材と洗剤が同じトラックに載ってきたとします。OKですか?アウトですか? アウトですね。
皆さんの工場でそばを扱っていない場合、小麦粉がそば粉と同じトラックで運ばれてきたとします。OKですか? これもアウトなんです。

みなさんは製造工場だけを見ているかもしれませんが、製造・流通・保管、すべて見ないといけません。特にアレルゲンは注意が必要です。
そば粉と小麦粉を同じ工場で作っていて、倉庫にも一緒に保管されていることはよくあります。そば粉が舞っている倉庫の中で皆さんの食材が扱われているとどうでしょうか。アウトですよね。

そういったことを明確にした仕入れ基準書をつくって、事前に仕入れ先に伝えて説明会をし、それで監査に行く。

食品製造の現場には金属検知器は必ずなければいけません。デュアルX線検査機であればなお検出精度が上がります。普通の金属探知機では3oが限度です。もし食品に3o未満の金属が混入していてそれを食べたら歯が折れます。これ、許せますか? お客様は絶対に許さないでしょう。

眼鏡やコンタクトレンズはOKですか? 過去におにぎりにコンタクトレンズが混入した例があります。コンタクトレンズを使用するなら、作業場に入るとき、出るときに、数が合っているか確認しなければなりません。眼鏡も同様です。また眼鏡はガラスではなく、プラスチックでなければいけません。

トイレに行くとき、作業着を脱いでいますか? 作業着のままトイレに入ってそのまま作業場に戻っていませんか? 作業着を家庭で洗濯させていませんか?

監査に入るときに、工場にボタンのついたシャツを着て入ってはいけません。ボタンが食品に混入したら大変なことになります。

こういったことをすべて、ルール化しなければなりません。

監査の本当の目的とは

意外に大事なのは、挨拶です。従業員がきちっと挨拶してくれますか? 倒産する会社の従業員は外部の人へ挨拶しなくなります。外部の人へ挨拶できなくなるのは、自分の会社や仕事に、自信と誇りがなくなったからです。
もっと大事なのは社長がインテグリティ(誠実、真摯、高潔)を持っていますか? そして、皆さんが属している会社の名前を自信を持って人前で話せますか? 偽装をしていたり食中毒を出すような会社では人前で言えないのではないでしょうか。

大切なことは、まず、譲れない第1障害は何か、基準をつくることです。みなさんが属している組織の名前を、自信をもって人前で話せる組織であり続けるために、監査を行い、改善の参考にしていただく。これが一番の目的です。

質問などがあれば、ぜひ私のホームページからお問合せください。
「食品工場長の仕事とは(http://ja8mrx.o.oo7.jp/koujyou1.htm)」

ご清聴ありがとうございました。

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