船井総研ロジ株式会社 製造業・小売業を中心とした荷主企業に対して、物流戦略策定の支援を行い物流拠点の見直し、コスト削減策の提案、物流コンペの支援を数多く行ってきた。また、物流子会社に対しては存在価値、あるべき姿の策定、他社との競争力評価(物流子会社評価)を行っている。得意なカテゴリーは、化学、日用雑貨、小売など。また、物流をテーマにした数少ない女性コンサルタントとして脱炭素、ESGロジスティクス実行に向けた研修やコンサルティングを行っている。 |
2024年問題が始まり2ヶ月が経過しました。みなさんの身近で変化はあったでしょうか。2024年問題が始まる前の1年間(2023年度)は以下の要請や、取組に対応する企業が多かったのではないでしょうか。
(1)物流企業からの値上げ
(2)リードタイム延長や受注締め時間の前倒しの依頼
(3)荷役作業などの付帯作業の緩和、もしくは料金の収受
これらの実態は、「物流特殊指定」に関係しています。物流特殊指定とはどのような内容でしょうか。
物流特殊指定の正式名称は「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」です。正式名称のとおり、公正取引委員会が荷主と物流事業者の取引における優越的地位の濫用を効果的に規制するために指定された独占禁止法上の告示です。つまり、物流分野における取引の適正化を図ることを目的としています。
物流業界は取引上の地位の格差が大きく、運送事業者数約63,000社に対して、資本金が1千万円超3億円以下の事業者は28.1%、1千万円以下は67.4%を占めています。つまり資本金が3億円以下の事業者は全体の95.5%となり、物流事業者の大半が中小事業者であることが分かります。(※2023年3月末時点の数字、運輸業における中小企業の定義は資本金3億円以下または常時使用する従業員数が300人以下)なぜ、資本金を1千万円と3億円で区切ったかというと、物流特殊指定に該当する事業者は資本金が関係しています。
物流特殊指定は以下の条件に当てはまる企業間の取引が対象となります(図1)
図1:物流特殊指定の条件
物流特殊指定は前述のとおり、荷主と元請物流事業者間で運送保管の委託をしている関係の際に発動します。対象の条件としては、荷主と元請物流事業者の資本金規模によります。荷主という立場を利用して、自社が優位になるよう物流事業者へ指示することがないようにするための内容になります。
そもそも、物流特殊指定とは具体的にどのような状況が該当するのでしょうか。
公正取引委員会は、荷主と物流事業者の物流取引における調査を実施しました(2023年)。調査実施の目的は、物流特殊指定の遵守状況および、荷主と物流事業者の取引状況の把握・適正化です。この調査をきっかけに独占禁止法上の問題につながる恐れのある荷主573名へ注意喚起文書が送付されました。注意喚起文書を送付した荷主の業種内訳として、製造業の中では「化学」の業界が3番目に多い結果となりました。(図2)前回の調査では「化学」は製造業の中で最も多く注意喚起文書が送付されていました(前年調査時45名)。今回の調査は、21名と前年対比46%減となっており、化学の業界においても物流取引に対する改善が進んでいる様子が見受けられます。
図2:独占禁止法上の問題につながる恐れのある荷主573名の業種内訳(注意喚起文書送付)
出典)公正取引委員会「令和5年度における荷主と物流事業者との取引に関する調査結果及び優越的地位の濫用事案の処理状況について」
では、なぜこの573名は注意喚起文書が送付されたのでしょうか(図3)
図3:注意喚起文書を送付された荷主の行為類型内訳
出典)公正取引委員会「令和5年度における荷主と物流事業者との取引に関する調査結果及び優越的地位の濫用事案の処理状況について」
独占禁止法上の問題につながる行為のうち「買いたたき」に該当する行為が最も多い結果となりました。「買いたたき」とは具体的にどのような内容でしょうか。実は冒頭でお伝えした2024年問題をきっかけに要請が多かった事項の(1)物流企業からの値上げ に該当します。
物流企業から、人件費や燃料費などの物価の上昇分に関して、値上げ要請を受けた際に、荷主が対応をしているか?というのがポイントとなります。荷主にとっても値上げはできれば避けたい、コストを抑えたいというのが本音でしょう。しかし、物流企業の自助努力ではどうにもならない、物価上昇に伴う原価の高騰分は値上げを受け入れざるを得ません。物流企業からの値上げ要請に対して、みなさまは対応(価格交渉)をしているでしょうか。公正取引委員会からの通達では、「① 取引の相手から価格の引き上げを求めたにもかかわらず相手方に回答することなく価格を据え置くこと」「② 価格交渉の場において協議することなく価格を据え置くこと」これらは、上記の「買いたたき」に該当する行為です。
化学品業界の特徴として、工場周辺の地場物流企業と共に成長し、これまで長い取引を続けてきた傾向が多くあると感じます。そうなると、荷主の成長が物流企業の成長でもあり、暗黙の了解の中で、荷主と物流企業の間において地位の格差が生じます。そうなると、物流企業は値上げを希望しても荷主へ申し入れづらい状況が発生します。値上げ要請をすることで、取引がなくなることを恐れているのです。地場物流企業と長年取引をする傾向が強い化学品業界においては、運賃レベルが廉価な状態であることが想定されます。また、長年の取引から構築された「言わなくても通じる、対応してくれる」という関係性から、物流取引がブラックボックス化されているのも実態です。このような取引の実態を防ぐため、物流企業における取引の劣勢を払拭し、公平性を保つためにも、価格交渉は非常に重要です。
公正取引委員会の通達内容に戻りますが、「① 取引の相手から価格の引き上げを求めたにもかかわらず相手方に回答することなく価格を据え置くこと」、これは物流企業が荷主へ値上げ要請をした際に、荷主が何も回答をせずに値上げに応じないことを示します。値上げに対するゼロ回答はこのご時世、難しいでしょう。また、値上げに応じることを拒むあまり、回答の期日も明示せず、価格を据え置きにする、また、回答も書面に残さないとなると、独占禁止法の禁止行為に該当します。ここで大事なのが以下3点です。
次に「② 価格交渉の場において協議することなく価格を据え置くこと」についてです。一見、① の内容と似ていますが、大きく異なります。① は、物流企業からの値上げに対して、荷主が価格交渉の対応をする、という内容ですが、② は荷主自ら、物流企業に対して価格交渉を行うことです。一見、荷主から物流企業へ値上げを容認するような内容に聞こえるかもしれません。しかし、以前と比較すると、申し入れしやすくなったとはいえ、依然、物流取引において、立場の弱い物流企業が自ら価格交渉を申し出ることは容易ではないのが実態です。荷主がすべきこととしては、物価高騰に伴い、現在の取引価格を見直す余地があるのか、物流企業とコミュニケーションをとることです。物流企業からの値上げ要請を待っているだけではなく、荷主自らも価格交渉のアクションを取らなければならないのです。
図3の行為類型でもう一つ化学品業界に大きく関係するのは「不当な経済上の利益の提供要請」です。具体的な事例は以下のとおりです。
こちらも、実は冒頭でお伝えした2024年問題をきっかけに要請が多かった事項の(3)荷役作業などの付帯作業の緩和、もしくは料金の収受に該当します。化学品業界は荷姿が多種多様なため、パレットサイズも他業界と比較すると複数サイズがあり、特殊性があります。一般的には1.1m×1.1mのパレットサイズが標準ですが、化学品業界ですと1.1m×1.4mや、1.25m×1.25mなど荷姿に応じてパレットサイズもバラバラです。パレットサイズによって10トン車や4トン車の幅に合致せず、結果パレットを使用することで、積載効率が低下する可能性もあります。また、荷姿が様々なことから、荷姿ごとにパレットを分けると充填率が低いパレットが増え、こちらも積載効率が低下します。結果、パレット積みではなくバラ積みのほうが、積載効率が高いといった理由から、バラ積みとなっていることも少なくありません。この事例の場合、ドライバーが大型車にドラム缶を手積みとなっていますが、大型車満載にドラム缶を手作業で積み込むことは、ドライバーにとって大変な労力ですし、時間も要します。しかし、荷主がその作業に対する対価の支払いをしていない場合に、独占禁止法上の問題となるのです。
2024年問題対応と独占禁止法上の物流特殊指定は取り組むべき内容に共通項があります。2024年問題は厚生労働省の管轄の法令ですが、物流特殊指定は公正取引委員会が管轄しています。つまり行政も物流面の取引に影響する要因を排除し、物流の効率化推進に寄与しているといえます。
今後も行政の動向を注視しながら、化学品物流への対応を進めていく必要があります。
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