船井総研ロジ株式会社 製造業・小売業を中心とした荷主企業に対して、物流戦略策定の支援を行い物流拠点の見直し、コスト削減策の提案、物流コンペの支援を数多く行ってきた。また、物流子会社に対しては存在価値、あるべき姿の策定、他社との競争力評価(物流子会社評価)を行っている。得意なカテゴリーは、化学、日用雑貨、小売など。また、物流をテーマにした数少ない女性コンサルタントとして脱炭素、ESGロジスティクス実行に向けた研修やコンサルティングを行っている。 |
ついに、2024年4月1日より、物流業界における「2024年問題」が幕開けしました。改めて「2024年問題」とは、ドライバ―(トラックだけでなく、タクシー・バスも含む)の残業時間の上限規制が適用されることにより、運べる荷物の量や運べる距離がこれまでより縮小することを示します。
私たちの身近な変化ですと、例えばインターネット通販で商品を注文した際、これまでは翌日に受け取ることができました。しかし、ドライバ―の残業時間の上限規制が適用されると、これまでは配達することができていた荷物が、時間内に配達することができなくなり、注文者の元に届くまでに時間がかかることになります。昨年6月には、大手宅配会社が一部地域にてリードタイムの見直しがされました。このことから、必要なときに消費者の元に商品が当たり前のように届くという概念が覆ることになります。消費者の一人として見直す行動としては、「置き配」や自宅近くの宅配ボックスを利用して、再配達が発生しないようにすることです。再配達というのは、配達できずに、再度配達することです。本来であれば一度で配達完了できるはずが、在宅していないために荷物を届けることができず、持ち戻りとなります。この「再配達」を減らすことがドライバ―の残業時間の抑制にもつながるのです。
それでは、化学品業界における2024年問題の影響は、具体的にどのようなことがあるのでしょうか。「2024年問題」はドライバ―の残業時間の上限規制が適用されますので、ドライバ―の拘束時間(所定労働時間+残業時間)に影響する業務を見直さなければなりません。ドライバ―の1日の業務の流れから、影響する業務を見ていきましょう。
図1:ドライバ―の1日の業務の流れ(一例)
ドライバ―の1日の業務は上記の図の通りになっています。赤枠の部分が「拘束時間」となっています。休憩時間も拘束時間に含まれます。残業時間が発生した場合も拘束時間として扱われます。ただし、通勤時間は拘束時間には含まれません。このドライバ―の1日の業務の流れの中で、水色の部分の業務である「積込・荷降ろし待ち」「積込・荷降ろし作業、付帯作業」は、ドライバ―の拘束時間を大きく左右する要素になっています。
化学品業界ではドラム缶・一斗缶・紙袋・段ボールケース・ペール缶・フレコンバッグ・1トンコンテナなど、多種多様な荷姿を取り扱っています。これらの荷姿の商品を手作業で積込・荷降ろし作業をしている場合、作業時間を要してしまい、ドライバ―の残業時間超過につながる恐れがあります。この積込・荷降ろし作業をドライバ―ではなく、発荷主・着荷主が行う場合でも同様です。積込・荷降ろし作業が完了するまで、トラックは出発することができないため、ドライバ―は「待ち」時間が発生します。つまりこれが待機時間となります。待機時間はドライバ―にとって何もしていない時間ではありますが、拘束時間に含まれるため、ドライバ―からすると何も収益を生まない無駄な時間となっているのです。待機時間にドライバ―が何もしないのであれば、その時間を休憩時間に充てるという考えをする方もいるのですが、それはNGです。待機時間とはいえ、ドライバ―は、すぐに業務に取り掛かることができるよう準備をしていなければなりません。いつ呼び出されるか分からない状況の中、休憩時間を取ることは困難です。そもそも休憩時間は労働から解放される時間であり、待機時間≠休憩時間なのです。
積込・荷降ろし作業以外に、「付帯作業」と呼ばれる、化学品業界ならではの物流サービスが実施されていることも業界の特徴です。特に着荷主に対して行われることが多い付帯作業ですが、具体的にどのようなことがあるのでしょうか。
<化学品業界における付帯作業の一例>
いずれも、本来であれば着荷主、つまり、納品先側で行う作業ではありますが、化学品業界においては物流企業と長年の取引の関係の中でできた、「物流サービス」があるのです。この「物流サービス」というのは
(1)納品先(着荷主)がドライバ―に直接指示をして行っていること
(2)荷物を出す側(発荷主)の指示により行っていること
(3)ドライバ―のサービスの一貫
これらが混在しているのが実態です。
本来であればドライバ―と納品先には何も契約・取引関係はありません。そのため納品先からドライバ―に対して指示することはできません。しかし、毎回同じドライバ―がお届けに行くと納品先の方と顔見知りになり、ドライバ―と納品先担当者の間で関係性が構築されます。その結果、最初は「ここに置いてほしい」というお願いから、「棚入れ作業をお願いしたい」「先入れ先出しになるよう棚入れしてほしい」と、要求が段々と増えていきます。ここでポイントなのが、ドライバ―、つまりトラックを手配している発荷主がこの事態を把握していないということです。本来の指示系統は発荷主からドライバ―となりますが、発荷主が知らないところで、「物流サービス」が構築されていることが多々あります。
これは本来の指示系統、契約関係上、正しい体形です。しかし発荷主が指示していることが、本当に着荷主が求めていることなのか、改めて確認・見直すことが必要です。例えば、担当が引き継がれ、前任者から「A社への納品はAM9時指定」と言われてそのままドライバ―へも指示をしていました。2024年問題の関係からピンポイントの時間指定納品が難しくなり、物流企業から発荷主へ申し入れがありました。発荷主から着荷主へ納品時間指定の緩和ができないか確認すると、「時間指定はなくても問題ない」という回答が返ってきた事例も実際にあります。つまり、一度決めたルールが最新なのか、本当に必要なのか、というのは着荷主とコミュニケーションを取りながらアップデートする必要があります。
これは、(1)(2)のどちらの場合においても起こりうることです。発荷主・着荷主からお願いされたこと、もしくはドライバ―の好意で行っていたこと、手間のかからない作業なので「ついで」作業として対応していたことなどが該当するでしょう。しかし、これまでは対応できていたことも、「1〜2個の対応が、物量が増えて20個になり手間がかかるようになった」「軽作業でも納品先ごとに行っていると残業時間の上限規制に影響するので対応が厳しい」「今まで対応してきたのに急に断ることができないので、致し方なく対応している」というのがドライバ―の本音でしょう。
(1)〜(3)に関して共通していえることは以下の3点です。
上記を改めて確認し、見直しをすることが必要になります。見直すことで、これまでドライバ―が対応していた物流サービスが実行できなくなり、物流のサービスレベルの低下につながることもあるかもしれません。しかし、ドライバ―の拘束時間超過に影響する要素を排除しなければ、商品が届かなくなるリスクが高まることになります。待機時間・積込・荷降ろし作業の発生状況と合わせて、付帯作業についても実態を明らかにし、見直しをしていくことが必要となります。そのためには着荷主・発荷主・物流企業が連携して実態を可視化する必要がありますので、うまく3者でコミュニケーションを取りながら持続可能な物流の維持・構築を進めていくことが求められます。
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