船井総研ロジ株式会社 製造業・小売業を中心とした荷主企業に対して、物流戦略策定の支援を行い物流拠点の見直し、コスト削減策の提案、物流コンペの支援を数多く行ってきた。また、物流子会社に対しては存在価値、あるべき姿の策定、他社との競争力評価(物流子会社評価)を行っている。得意なカテゴリーは、化学、日用雑貨、小売など。また、物流をテーマにした数少ない女性コンサルタントとして脱炭素、ESGロジスティクス実行に向けた研修やコンサルティングを行っている。 |
荷物を保管・移動させる際の機材の一つである「パレット」の利用に関して、官民一体となって統一規格を定める方向性で進んでいます。国土交通省はこれまで物流標準化に向けた各種検討を進めており、その中で先行的に取り組むことの一つとして、物流機器である「パレット」の標準化に向けた検討を進めています。数年にわたり検討した結果、2024年6月28日に国土交通省は、「パレット標準化推進分科会」の最終とりまとめを発表しました。その中では、標準仕様のパレット規格について定めています。
そもそも、「パレット」とはどのようなものでしょうか。製造業であれば、工場で使用する資機材を受け入れる際に、パレットで納入されることがあるでしょう。また、生産後の製品を工場内倉庫で保管する際にも、パレットに積載された状態で保管されることがあるでしょう。つまり、「パレット」とは荷物を移動・保管する際に使用する物流機器です。パレットに載せることで、1度に大量の荷物を運んだり、保管したりすることができるようになります。
このように、移動・保管に便利なパレットですが、物流業界においては、「バラ積み」と呼ばれる、パレットに載せず、1ケースずつ、トラックに積載された状態で輸配送されることが少なくありません。このような事態は、荷待ち・荷役時間の長時間化、その結果、2024年問題にも関係するトラックドライバ―の長時間労働にもつながります。2024年問題を契機に、「物流革新に向けた政策パッケージ」「物流の適正化・生産性向上に向けたガイドライン」などの各省庁からの通達や、2024年5月に公布された「物資の流通の効率化に関する法律」の中でも、パレットを利用し効率的な荷役の推進や待機時間削減に努めるよう明示されています。そのような中で、なぜ物流業界においては、パレットの利用が進んでいないのでしょうか。
パレットには、様々なサイズがあります。日本のパレットの標準サイズはJIS規格で定められている「1,100mm×1,100mm」(縦横の平面サイズ)であり、別名「T11型パレット」、業界内では、「イチイチパレット」(縦横のサイズが、1.1m×1.1mであることから)と呼ばれています。日用品・雑貨などは「イチイチパレット」の利用が主流です。前述の「パレット標準推進分科会」での最終取りまとめの中でも、標準的なパレット規格として「1,100mm×1,100mm」のサイズを明示しています。一方で、製品特性に応じて使用しているパレットは業界によって様々です。パレットは「イチイチ」以外にも様々なサイズがあり、飲料業界では、「ビールパレット」と呼ばれる「1,100mm×900mm」が主流です。化学品業界では、一例として「1,250mm×1,250mm」のパレットを使用されることがあります。
化学品業界は多種多様な荷姿の取り扱いがある業界の一つでもあります。一斗缶、ペール缶、ドラム缶、1トンコンテナ、紙袋、フレコンバッグなど、荷姿が異なれば、荷役や保管の方法も異なってきます。例として、化学品業界で主流の荷姿の一つでもある「一斗缶」と「パレット」の関係性を見てみましょう。
化学品業界で使用されるパレットサイズの一種でもある「1,250mm×1,250mm」のパレットに積載できる一斗缶は、1段25缶になります(一斗缶の縦横サイズ250mm×250mmで計算)(図1左)。図のとおり、パレットサイズに収まるように載せることができます。一方で、標準サイズの「1,100mm×1,100mm」のパレット場合は、1段16缶しか載せられません(図1右)。当然パレットサイズが異なるので、その分、パレットに載せられる数量が異なるのは当然です。しかし、左側の「1,250mm×1,250mm」のパレットの方が、パレットの隙間なく載せられています。このようなことから、業界または製品の特性に応じて使用されるパレットが異なり、結果、日本国内において様々なサイズのパレットが流通していることにつながります。パレットは移動・保管を効率的に行う機器として非常に優れている一方で、パレットのスペースを効率よく利用できなければ無駄が生じてしまいます。
図1:一斗缶を各パレットサイズに載せた場合のイメージ図(上から見た場合)
今度は、輸送面でのパレット使用について見ていきましょう。そもそもパレットを使用する際には、パレット単位での輸送・保管が可能な物量が確保できることが前提となります。そのため、パレットの利用としては工場内で生産した製品の保管、または、工場〜物流センターへ移動する際の輸送時、といったある程度、一定の物量が確保できる範囲を絞ることも必要になります。ここでは、工場から物流センターへ10トントラックでパレット輸送する際を例に見てみましょう。
10トントラックに1,250mm×1,250mmパレットを積むとトラックの荷台の幅からすると、7枚しか積めません(図2上)。一方で、1,100mm×1,100mmパレットの場合は、2列積むことができ、合計で16枚積むことができます(図2下)。トラックのサイズはメーカーによって若干の差はありますが、一般的な10トントラックの場合、1,250mm×1,250mmパレットを使用すると、積載できる枚数が少なく、結果、1台あたりに積める数量が減ってしまうことになります。
図2:10トントラックに各パレットサイズを積載した場合
このことから、化学品業界の荷姿に適したパレットと輸送時に適したパレットは異なるということが分かります。パレットは製造工程から統一されたものを使用されており、輸送時のみ別のパレットサイズを使用する場合には、パレットへの積み替え作業が発生します。パレットへの積み替えはアームロボットなどの自動化機器を用いて積み替えることもできますが、現状では人の手作業で積み替え作業が行われていることが実態です。結果、輸送時に輸送に適した(トラックの荷台に合致した)パレットへの積み替えが発生するのであれば、輸送時もバラ積みをした方が、トラックの荷台に隙間なく積むことができる、といったことから、輸送時のパレット利用が進まないということが一因として挙げられます。パレット輸送ができない場合、つまりバラ積みの輸送の場合には、以下のリスクが想定されます。
1.荷役作業の発生…ドライバ―が行う場合には荷役料金の発生、発荷主が行う場合には作業員の確保が必要
2.待ち時間が発生…バラ積み作業により、積込に時間を要し、待ち時間が発生。待機料金も発生
3.輸送拒否の恐れ…1、2の発生により、輸送効率の低下となる場合、物流企業からすると他の輸送へも影響を及ぼすことから、輸送拒否につながる恐れがある。最悪の場合、悪質荷主として行政より勧告・公表をされる恐れがある
化学品業界は、製品特性上、これまで使用していたパレットサイズを変えることは難しい業界でもあります。しかし、今後のサプライチェーン上におけるリスクを回避するためには上流の工程においても、これまでの「当たり前」を見直していかなければなりません。つまり、自社でコントロール可能な製造の工程において、下流の物流を見据えたパレットサイズに見直すことです。しかし、これらは容易なことではありません。製品のサイズに応じて製造設備やシステムを組んでいる場合には、それらの見直しから着手しなければなりません。しかし、長い目で見たときには、全ての負担が下流にしわ寄せがきてしまうようなことは避けなければなりません。
これまでは、業界として統一された荷姿でしたが、今後はロジスティクスを意識したうえでの製品開発・設計がされる日が、そう遠くない将来にくるのではないでしょうか。まずは、自社および業界におかれた立場を理解したうえで、取り組むべきことや、今からできることを考えてみてはいかがでしょうか。
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