船井総研ロジ株式会社 製造業・小売業を中心とした荷主企業に対して、物流戦略策定の支援を行い物流拠点の見直し、コスト削減策の提案、物流コンペの支援を数多く行ってきた。また、物流子会社に対しては存在価値、あるべき姿の策定、他社との競争力評価(物流子会社評価)を行っている。得意なカテゴリーは、化学、日用雑貨、小売など。また、物流をテーマにした数少ない女性コンサルタントとして脱炭素、ESGロジスティクス実行に向けた研修やコンサルティングを行っている。 |
物流停滞による社会インフラの継続維持にあたり、2024年問題への対応が必須となりました。しかし、2024年問題対応で終わりではなく、さらなる物流の効率化を図り、持続可能な物流体制の維持構築を推進するために、政府は物流法改正に踏み切りました。
2024年5月15日に物流関連2法改正が公布され、今後1〜2年かけて施行される予定です。それでは法改正とは具体的にどのような内容でしょうか。時系列で確認してみましょう(図1)。
図1:物流業界における法改正の状況
物流関連“2法”といった、表現のとおり、改正された法律は2つあります。1つは荷主企業・物流企業を対象とした「流通業務総合効率化法」と、もう1つは、物流企業を対象とした「貨物自動車運送事業法」の2つの法律の改正になります。主に製造業・小売業・卸売業のみなさんにとって直接関係する、「流通業務総合効率化法」の事項や取り組むべきことについて、お伝えします。
流通業務総合効率化法において、主に今回の法改正でポイントとなる内容を以下の通り整理しました(図2)。
図2:流通業務総合効率化法における取組内容、方針、対象者、罰則等の概要
主に図2のNo.1〜3は、荷主企業を含めて、「物流効率化」を進めるための取り組みを明示したものです。これまでの2024年問題対応の中でも、同様の対応を求められてきました。今回は「法改正」ということで、改めて法律の中で、取り組むことを明示したものになります。
一方で、No.4については、「特定事業者」と呼ばれる、基準の取り扱い貨物量以上の事業者が対象となる取組になります。荷主企業においては、年間貨物量の取り扱いが、9万トン以上が特定荷主の対象として、政府から案が提示されています。対象となる事業者は物流効率化に向けた取り組みの計画を策定し、定期的に報告する義務があります。
さらに、No.5においては、荷主企業のみを対象とした取り組み内容となっています。物流効率化を推進するための役割として「物流統括管理者(CLO)」の選任が義務付けられています。
ここでポイントとなるのが、まずは自社が特定事業者に該当するかどうか?という点です。そのためには自社の取り扱い量を把握する必要があります。取り扱い量を把握するためには、どのようにすべきでしょうか。製造業であれば、日々工場へ入荷される原材料や資材の量、また工場で生産した製品を得意先向けへ出荷する量を把握する必要があります。ただ、ここでポイントなのが、化学品業界において取り扱い量の把握ができているかどうか、ということです。仕入品や自社生産品など様々な取り扱い品がある中で、「商品マスタ」の整備はされているでしょうか。「商品マスタ」とは、仕入品や自社生産品の情報を取りまとめたもので、物流面においては、重量・容積・荷姿などを把握するために使用し、積載重量の確認や運賃計算時の基礎情報として使用することがあります。企業によっては、「商品マスタ」が整備されておらず、取り扱い物量(実重量、容積換算重量)が把握できないことがあります。それでは、自社が特定事業者に該当するかどうかも確認できませんし、そもそも物流は数値化しなければ、課題の把握や改善への検討を進めることが困難です。まずは、自社で管理されている「商品マスタ」の実態がどうなっているか、つまり、数値管理・把握ができるような情報が網羅されているか、改めて確認する必要があります。
重量計算時に注意が必要なのは、ドラム缶や1トンコンテナなど、中身だけでなく容器自体にも重量全体を大きく左右する荷姿の場合です。トラック積載時には過積載にならないよう計算するにあたり、容器も含めた重量の情報が必要になります。改めて自社の状況を確認しましょう。
もう一つのポイントが「物流統括管理者」の選任です。海外では「CLO」(Chief Logistics Officer:チーフ ロジスティクス オフィサー、最高ロジスティクス責任者)は一般的ですが、日本ではあまりなじみがありません。なぜならば、日本においては、ロジスティクスに対する理解が高くないということが考えられます。製造業であれば自社で生産した製品を得意先へ届けて、商売が成り立ちます。生産して終わりではありません。その大事な得意先へ届けるという最後の工程を担う「物流」に対して、「届けて当たり前」「安く運んで当たり前」「品質よく対応できて当たり前」と考えられている方が多い傾向でした。2024年問題をきっかけに、物流への理解・浸透は深まりました。しかし、特に何の問題もなく物流が回っている企業には危機感はありません。実際のところ「何の問題もない」ということはなく、現場レベルで起きている問題は現場で“なんとか”対応しているため、その苦労や負荷というのが、直接関係しない製造・営業の方々に正しく情報が伝わっていないということが少なくありません。
そこで、特定の部門の利益や利便性を追求するのではなく、企業全体のサプライチェーンを俯瞰したうえで取り組むべきことを明示し推進していく役割が企業において必要となります。それが物流統括管理者になります(図3)。
図3:物流統括管理者の役割
化学品業界においては、得意先つまり、着荷主の立場が強い傾向があります。着荷主から要望を受けた営業担当者が物流部門へ要請を行い、その結果、物流への負荷の発生や効率化低下につながることが多く起きているのが実態です。物流の効率化を進めるにあたり、物流の領域だけで解消をするのは困難です。「部門」単位ではなく「全社」で課題認識し、取り組まなければなりません。さらには、なぜそのような事態が起きているのか整理したうえで、啓蒙活動や、取り組むべきことを社内に対して、発信していく必要があります。
物流効率化を進めるうえで重要な「発荷主」「着荷主」についてお伝えします(図4)。
図4:製造業Xから見た「発荷主」と「着荷主」の関係性
図4において、X社は工場で使用する資材・原料を調達する際は、「着荷主」となり、工場で生産した製品を得意先へ出荷する際には「発荷主」という立場になります。
まず、「着荷主」の立場の場合、工場の生産に合わせて、効率よく資材・原料を入荷してもらう必要があります。「着荷主」のX社は、「発荷主」の調達先各社に対して、工場への入荷時間指定や、積載を重視するあまり、パレット積みではなくバラ積みでの依頼をしています。
一方で、「発荷主」の立場となった場合には、届け先の得意先から、時間指定納品や、積載を重視するため、バラ納品を希望されています。
ここでポイントとなるのが、X社がサプライチェーン全体において、「着荷主」「発荷主」どちらの立場にもなるということです。企業において、領域ごとに部門が異なると、サプライチェーン全体での各部門の立ち位置がブラックボックス化されてしまいます。部門最適ではなく、全体最適で見た際に、各部門で考慮すべきことを改めて整理し、社内へ発信していく必要があります。これらも、物流統括管理者の役割の一つでもあります。
今回は、製造業・小売業・卸売業に関係する法改正について、焦点を当てて解説しました。どの業界においても商慣習はありますが、化学品業界においても、根強く残っており、「対応できて当たり前」「競合他社が対応できているから自社はやめられない」、といったこともあるでしょう。しかし、今は対応できる事業者がいて問題を感じていなくても、5年後、10年後を見据えると、不確実な実態もおおいにあるでしょう。急に商慣習を見直すことは難しいですが、将来を見据えて今から準備や、得意先、業界全体への情報発信、啓蒙活動を進めていく必要があります。
法改正による対応も当然ながら、各種対応に関しては、企業単独でできることは限界があります。同業他社を巻き込む、協会団体・組合の発信力をうまく活用して、業界全体へ浸透させる仕組みづくりが必要です。そしてこのような取り組みを進めるにあたり、物流統括管理者へ任せるのではなく、物流統括管理者からの指示や相談があった際には、協力体制ができるよう、全社で課題認識して取り組めるような素地を作ることも大事です。ぜひ社内体制も構築しながら、物流効率化に向けた取り組みを進めてみてください。
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