船井総研ロジ株式会社 製造業・小売業を中心とした荷主企業に対して、物流戦略策定の支援を行い物流拠点の見直し、コスト削減策の提案、物流コンペの支援を数多く行ってきた。また、物流子会社に対しては存在価値、あるべき姿の策定、他社との競争力評価(物流子会社評価)を行っている。得意なカテゴリーは、化学、日用雑貨、小売など。また、物流をテーマにした数少ない女性コンサルタントとして脱炭素、ESGロジスティクス実行に向けた研修やコンサルティングを行っている。 |
化学品業界は、取扱の荷姿が多種多様であることはこれまでのコラムの中でもお伝えしてきました。荷姿によって人の手で持ち運びが可能なものや、荷役機器(フォークリフトなど)を使用しなければ移動が難しいものもあります。取り扱いにおいて注意しなければならないのは、「荷姿」だけではありません。化学品業界においては「危険物」と呼ばれる特殊な品目を取り扱っていることが多い業界の一つでもあります。
「危険物」とは具体的にどのような品目のことを指すのでしょうか。「危険物」は消防法で定められており、一般的に以下のような性質をもった物品のことをいいます。
※私たちの身近なものでは、ガソリン・灯油等があります。
このようなことから、危険性が高い「危険物」を取り扱う化学品業界においては、輸送・保管時においても、注意をしなければなりません。それでは、どのようなことに注意をしなければならないのか、見ていきましょう。
「危険物」は前述のとおり、危険性が高い品目となります。そのため、保管や作業においても特別な対応が必要となります。化学品メーカーにおいて、危険物の製品が製造され、保管するために外部の倉庫を利用する際には、危険物が保管できる「危険物倉庫」が必要となります。この危険物が保管できる倉庫というのは、危険物保管の許可を得た倉庫となります。また、危険物には第一類から第六類までの種類があり、類別の許可を得た倉庫に保管しなければなりません。まずは自社が取り扱いをしている危険物の類別を改めて整理する必要があります。
類別に応じた危険物倉庫へ保管するとお伝えしましたが、危険物倉庫は、危険物を保管できる数量が決められています。非危険物の品目を取り扱う倉庫であれば、限られたスペースを効率よく使用し保管するために、パレットやネステナなどを利用して、平置きではなく、高さを有効活用して保管することが一般的です。
しかし危険物倉庫においては、危険物倉庫によって取り扱い(保管)可能な類別が定められていること、また、保管可能な数量が決められています。スペースが空いているからといって、保管可能な数量を超えて保管することは消防法の違反となりますので、注意が必要です。
危険物倉庫には必ず以下の表示がされています。保管品と危険物倉庫の類別および危険物の品名が合致しているか改めて確認が必要です。外部の倉庫に危険物を保管する際には事前に確認が必要です。
また、危険物倉庫には、管理責任者の設置が必要です。表示の「取扱責任者」が該当します。こちらも資格を持った責任者が必要となります。
危険物倉庫はこのような制約もあり、保管できる倉庫が限られています。それでは、危険物倉庫をたくさん建設すればいいのでは?と思われがちですが、危険物倉庫の建設は、どこでもできるわけではありません。危険性を伴う品目を扱うことから、建設においてもいくつか注意点があります。
以下が一例です。
このような条件なども踏まえて、危険物倉庫の建設は土地の確保や、火災対応のための各種設備の設置などから、非危険物倉庫より費用が割高となり、保管単価も非危険物と比較すると2倍以上はかかります。そのような状況でありながら、危険物倉庫は数年前からひっ迫しており、危険物取扱事業者を悩ませている課題でもあります。
保管だけでなく輸送時においても危険物の取り扱いに気を付ける必要があります。輸送時において、トラックに危険物を積載している状態は、「保管」ではなく「輸送中」のため、トラックで危険物を運ぶことは問題ありません。一定量の危険物を輸送する際にはトラックに危険物を積んでいるマークを掲示する必要があります。
危険物の輸送に関しては、運送会社各社の方針により、取り扱いの可否が分かれます。例えば、一般的に運賃は、トラックを1台運行するにあたり、ドライバーの人件費、車両費、修繕費、燃料費などの経費に対して利益を加えた金額を運賃として荷主へ見積提示をしています。運賃の種類は、1台貸切(チャーター)の場合の運賃と1個(1ケース)を運んだ場合の運賃と2つの運賃に分かれます。前者の1台貸切の運賃は、トラックの荷台に貨物を1個でも10個でも50個でも、何個積んでも(トラックの積載上限まで)、1台貸切をした際の運賃設定をしています。イメージとしては、修学旅行の観光バスのように、目的地が決まった人を乗せるために1台貸切をした場合です。後者の場合は、トラックの荷台にたくさんの荷物を積むことで、たくさんの運賃を収受することができます。イメージとしては路線バス(乗合バス)です。停留所で利用者が乗り降りし、たくさんの乗客が乗ることで運賃を収受することができます。後者のトラック輸送の場合、危険物という特別な貨物があると、何かあった際に他の貨物(客)に影響を及ぼすため、混載することを懸念する事業者が出てきています。仮に混載できたとしても危険物輸送の場合は割増運賃を提示する事業者もいます。また、危険物の輸送時は、異なる類別を混載することを原則禁止としています(混載可の類別もあり)。そのため異なる類別の危険物を輸送する際には輸送方法も気を付けなければなりません。
危険物を倉庫で保管・作業時に資格保有者が必要とお伝えしましたが、輸送においても同様です。ガソリンや軽油などの液体危険物を大量に運ぶタンクローリーを運転する際には危険物の資格を保有している者を乗車させる必要があります。必ずしもドライバーが資格保有者でなくても問題ありませんが、ドライバーと危険物資格保有者の2名体制で運行することは、ドライバー一人の場合と比較して人件費が多くかかってしまいます。現実的にはドライバーが資格保有者になることが多いのが実態です。
トラックドライバーが不足している中、さらに危険物の資格の保有が必要となると、危険物輸送が困難になることが想定されます(危険物輸送においては一定量以上の場合は資格が必要、全てに必要ではない)
このように、化学品業界で取り扱いをしている危険物の保管や輸送において、注意をしなければならないポイントが多いのが実態です。保管や輸送は物流企業にお任せしているので知らない、では許されません。何かトラブルが起きてからでは遅いので、改めて危険物の取り扱いをしている企業においては、委託先に対して危険物の取り扱い方法が正しく行われているかの確認や定期的な監査が必要です。
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