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【化学品業界を考える】 第1回:化学業界におけるロードマップ

2022/9/20 [化学,経営,コラム]

化学品業界をめぐる環境変化は昨今著しいものがあります。SDGsやカーボンニュートラル等、環境配慮型のバイオプラスチックや、二酸化炭素からの有価物の合成、マテリアルインフォマティクスといった研究開発の効率化など、様々な事業環境の変化の中で、いかに競争優位性を確立していくかが重要となって参ります。この連載コラムでは、化学品企業を担当するコンサルタントが、業界を取り巻く環境の変化に対応するためのポイントを5回シリーズで解説いたします。

株式会社 日本能率協会コンサルティング
高橋 央(たかはし あきら) 氏

大手化学メーカーにて基礎研究から試作までを経験し、日本能率協会コンサルティングに入社。入社以来、技術を核とした新商品・新事業企画や、技術戦略立案を中心に支援を行ってきた。特に、自身のバックグラウンドの知識も活かし、化学企業を中心に、自動車、精密機器などの企業に対してコンサルティングを実施している。

化学業界とは

化学企業の定義としては、総務省の「日本標準産業分類」にある化学工業に該当する産業が一つの定義となります。大別すると、原油精製から得られるナフサを原料とした石油化学工業(有機化学工業)および、鉱物等を原料とした無機化学工業に分類し、以下のように川上から川下までサプライチェーンで整理されます。

スライド資料:化学業界とは

化学業界における事業特性

化学業界では、川上側の化学企業になればなるほど、基礎的な原料を扱っており、より生産コストを下げることや品質面を担保することが差別化の源泉となります。そのため、生産技術の改善・改良が中心となっております。また、次世代に向けた技術開発については、大学や研究機関が先行しており、大手企業では基礎研究を行う研究所や組織があるものの、多くの企業では既存製品に対しての応用研究が主体となっています。
一方で、近年の事業環境を見ると、例えば、自動車産業におけるEV化・自動運転化に伴う材料の変更や、SDGsやカーボンニュートラル等、環境配慮型のバイオプラスチックや、二酸化炭素からの有価物の合成、マテリアルインフォマティクスといった研究開発の効率化といった大きな動きが見受けられます。

そのような事業環境の中では、今まで収益の源泉であった既存事業の売上減少や、競争優位性の低下が懸念されるケースが見受けられます。そのような企業では、継続的な事業成長のため、事業環境の変化に対応した次世代の柱となるべき事業を立ち上げることも必要となりますが、ここでよく問題となるのが、次世代の事業機会に対しての技術の仕込みがないことです。

これまで、生産コスト低減や品質面での技術開発は行われてきましたが、全くの新しい市場へ出る際に、足掛かりとなるような先進的な技術については、保有していることが少ないというのが実際の場面でも多く見受けられます。
そのような状況下では、既存事業において生産技術を高めていくだけでなく、新たな事業につなげていくための新しい技術の獲得・および市場探索を行っていくことが重要となります。そこで、中長期的な事業を検討するために、ロードマップの考え方を活用することが有効となります。

ロードマップとは

ロードマップとは、今後の事業における道筋を示すものになり、複数の関係部門で議論するためのコミュニケーションツールの役割を果たします。以下にロードマップのイメージを示します。

スライド資料:ロードマップの基本構成

ロードマップの基本構成としては、縦軸に複数の観点を並べ、横軸を時間軸として表現するのが一般的です。

実際のロードマップのイメージを以下に記載します。
縦軸は大別すると、なぜ(Why)、何を(What)、どのように(How)の観点で構成されております。「Why」というのが将来の方向性を描くために必要な根拠となる外部環境変化の情報(マクロ環境情報や、市場ニーズ、競合動向等)に該当し、「What」が商品開発計画・技術開発計画となり、「How」が実行計画となります。
このような構成で捉えると、テーマの意義が明確となり、そのテーマを実行するために何をすべきか、という要素についても見える化され、議論を深めることができるようになります。

例えば、SDGsやカーボンニュートラルに対して事業を展開しようと考える際には、SDGsやカーボンニュートラルに関連する法規制動向や顧客ニーズ動向、競合動向等の情報が研究開発テーマに着手すべき理由となり、着目した外部環境の動向に基づき、研究開発するテーマの妥当性を議論することができます。

横軸には年数が並びますが、化学業界においては、他業界に比べて研究開発に時間がかかるため、検討している事業の方向性や難易度によっては、10年以上の期間を設定することも必要になります。例えば、カーボンニュートラルに向けたテーマ等は、2050年までの目標を設定して、マイルストーンを検討する事例が見受けられます。

スライド資料:ロードマップのイメージ

ロードマップ作成における留意点

ロードマップを作成する際に、目的や目標が関係者の中で腑に落ちていない場合、中身のないロードマップになり、結果的に作っただけで活用されないものになってしまう懸念があります。
また、複数の部門が絡む場合、それぞれの考え方やスタンスが違うため、事業の方向性を検討する際にも、議論がまとまらず、中長期的な事業を検討するはずが結果的に既存事業の延長線上の展開に落ち着いてしまうということもあるため、どのような目的で作成するのかを設定しておくことが重要になります。
今回は特に中長期に向けた事業方向性を検討するためのものとして記載をしていますが、その目的によっては、重点とする内容も当然変わってきます。
例えば、海外市場の獲得という話では、展開しようとしている国の情報に重点を置かないといけませんし、既存商品の拡販を目的とした場合には、現在/将来の軸で競合動向を徹底的に分析・推測することが必要になります。

ロードマップ作成方法

ロードマップ策定の流れについては、外部環境情報の収集を行い、商品開発計画、技術開発計画を策定し、実行計画に落とし込むものが一般的となります。その中で、自社の勝ち筋を見出すために、まず自社の商品・技術開発の振り返りを行うことが有効です。
化学業界においては、川上側になるほど外部環境の情報が取りづらいこともあるため、競合技術や先進技術の適用用途等の情報から顧客ニーズを抽出するなど、様々な観点で情報調査が必要になります。

スライド資料:ロードマップ作成方法

ロードマップ作成におけるポイント

ロードマップの作成において、よく見受けられる課題として、ここでは①開発テーマの具体化、②実行計画の策定について取り上げて説明いたします。

①開発テーマの具体化

将来のニーズに対して研究開発テーマを検討する際には、漠然とした内容になってしまうことがあります。例えば、カーボンニュートラルやSDGsの観点で、漠然とバイオプラスチック等の研究開発テーマを設定した場合には、どのような製品となり、誰に売るのかが明確になりません。さらに、どのように技術開発をすべきかも明確でなく、結果的に実行計画も曖昧となってしまう場合があります。
そのため、製品のイメージと課題解決したときに顧客価値について仮説検証を行ったうえで、具体的な製品イメージを描いた上で、ロードマップ上に掲載することが望ましいです。

②実行計画の策定

実行計画を策定する際に、問題となるのが、いつまでに開発をすべきかという時間軸となります。顧客が定まっている研究開発テーマでは、顧客の開発計画に沿って自社の研究開発を進めていくのが時間設定の根拠になりますが、将来の話になる場合には、顧客も定まっていなく目標の年数を設定する根拠がなく、その結果、実行計画の時間軸も曖昧なものになってしまう場合があります。
そのため、上市の目標年数を設定した上で、技術開発計画を考えていくことが重要となります。その目標年数の考え方としては、顧客以外の要素では、法規制や競合動向、技術革新の動向があり、これらを分析することで、「いつまでに」開発を終えるべきかおおよその時間軸を検討することが必要となります。
次に、目標年数が設定された後に、実行計画をつくることになりますが、特に化学業界における研究開発では、実験の結果、想定していた性能が出ないことや、反応が進まない等の事態はしばしば起こります。そのため、課題解決に向けては、課題を洗い出し、研究開発計画に落とし込むだけではなく、当初の想定から外れた場合にどのように進めるかについても合わせて検討しておくことが重要になります。
近年では、これまで人が実験結果をもとに考察し、その経験に基づき分子設計をしていたのに対して、マテリアルインフォマティクスを使って大幅に研究開発の効率を上げる取り組みがなされています。これは、大量にある材料データをもとに、所望する機能を発現するための化合物や構造を予測するものであり、大手化学メーカーをはじめとして各社取り組みを推進しております。
このような状況下では、各社の開発の動きも活発化しており、より効率的に研究開発を進めていくことも求められてきております。

JMACプログラム

ロードマップの構築の方法としては、プロジェクト型や、研修形式でのワークショップ型で検討を行います。以下はプロジェクト型の一例で、ゼロから中長期的な事業を検討する際の支援プログラムとなり、約6〜8ヶ月程度で実施いたします。また、将来の研究開発テーマに対しての外部環境情報の収集や、テーマの具体化、実行計画の策定等の特定の要素あるいはその組み合わせをご支援する等、臨機応変なご支援が可能です。

スライド資料:プロジェクト型の支援プログラム

※化学品業関連コンテンツ:化学品業向け専用ソリューションサイトもご覧ください。

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