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【化学品業界を考える】 第2回:新事業企画・開発

2022/11/4 [化学,経営,コラム]

化学品業界をめぐる環境変化は昨今著しいものがあります。SDGsやカーボンニュートラル等、環境配慮型のバイオプラスチックや、二酸化炭素からの有価物の合成、マテリアルインフォマティクスといった研究開発の効率化など、様々な事業環境の変化の中で、いかに競争優位性を確立していくかが重要となって参ります。この連載コラムでは、化学品企業を担当するコンサルタントが、業界を取り巻く環境の変化に対応するためのポイントを5回シリーズで解説いたします。

株式会社 日本能率協会コンサルティング
高橋 央(たかはし あきら) 氏

大手化学メーカーにて基礎研究から試作までを経験し、日本能率協会コンサルティングに入社。入社以来、技術を核とした新商品・新事業企画や、技術戦略立案を中心に支援を行ってきた。特に、自身のバックグラウンドの知識も活かし、化学企業を中心に、自動車、精密機器などの企業に対してコンサルティングを実施している。

化学業界の事業特性と新製品・新事業企画時に見られる問題

化学業界では、顧客からの要望に対応して製品開発を行う場面も多く、自社から提案を行う経験が少ないことが見受けられます。さらに、川上側の企業になるほど、自社が販売している製品がどのような用途で使用されているかもつかめていない状況も見受けられます。

また、第一回でも述べましたが、化学業界における技術開発は、既存事業の改善・改良に重きが置かれており、大手企業では基礎研究を行う研究所や組織があるものの、多くの企業では既存製品に対しての応用研究が主となっています。その一方で、次世代に向けた技術開発については、大学や研究機関が先行している状況です。

そのような状況の中で新製品・事業企画を行う際の問題点と検討のポイントを説明します。

新製品・新事業の企画ステップと問題点

新製品・新事業の企画における大まかな流れを以下に示します。

スライド資料:新製品・新事業の企画における大まかな流れ

前述しました化学企業の事業特性の中では、新製品・新事業企画のプロセスにおいて、アイデア発想の場面、事業企画の場面で、以下のような課題が見受けられます。

  • 将来の成長分野へ参入したいもののニーズが掴めない
  • 有望な成長市場参入につながるような差別化技術が自社にない
  • 新製品開発テーマを検討したが、企画内容が深まらない

以下では、上記の3点に沿って新製品・新事業企画におけるポイントを説明いたします。

化学業界における新製品・新事業企画のポイント

本章では、前述した新製品・新事業企画を行う際に見られる3つの問題に対しての検討ポイントについて述べます。

(1) 新製品・新事業企画におけるニーズ検討のポイント

化学業界におけるニーズ調査においては、最終製品を構成する部品中の素材であることから、机上の情報だけでは見えづらいという難しさがあります。
そのような中で、ニーズを調査する方法としては以下のような方法が挙げられます。

①製造・顧客プロセス分析

この方法では、製品の使い方を検討することになります。その際に、製造プロセスにおけるニーズ仮説検討と、顧客の使用プロセスにおけるニーズ仮説の抽出を行う方法の両面でニーズ仮説を検討することが出来ます。

以下では、導電性繊維の事例を示しています。
製造プロセスにおけるニーズ仮説検討では、後工程のプロセスを簡略化することや、トレードオフの発生などの視点でニーズ仮説の抽出を行います。
また、顧客の使用プロセスという点では、エンドユーザーや、「顧客の顧客」の使用プロセスまで検討するとニーズ検討の幅が広がります。事例でいくと、スマートウェアとしての購入〜廃棄までの使用プロセスをあげ、その中での困り事の仮説を検討することで、素材に求められる機能を推定することができます。

スライド資料:製造プロセスにおけるニーズ仮説検討

②技術側からのアプローチ

先進的な研究開発動向の調査や、競合技術調査では、その技術により解決しようとしている課題や用途が掲載されている場合があるため、その情報から有望市場を見出し、深堀調査につなげることができます。
その際、技術の定義を広げることにより、課題を広く捉えることができます。例えば、接着技術について調査する場合には、方法を広げて検討することで、幅広く課題や用途を抽出し、接着技術が使えないかという点で深堀して考察・調査すると、ニーズ仮説につながりやすくなります。

スライド資料:技術側からのアプローチの例

③社会課題からのアプローチ

近年のSDGs等の動きにより、バイオプラスチックや、カーボンニュートラル等の社会課題の解決についても研究が盛んに行われてきており、新しい事業を検討する際にも、検討の起点とする場合が見受けられます。しかし、いざ検討すると、社会的な意義はあるものの、具体的にどのような製品にするか、誰がお金を払ってくれるのか、本当に売上につながるのか等を描けないケースも見受けられます。そのため、社会課題を起点とする場合には、具体的に誰がどういう場面でお金を払ってくれるのか、許容される価格はどの程度かを検討することが必要になります。また、例えば、海洋分解性プラスチック等、既に参入企業がいる場合には、具体的にどのような差別化を図り、その差別化のポイントが受け入れられる具体的な用途があるかどうかを見出すことが必要になります。

(2) 差別化につながる外部技術の取入れ

自社保有技術だけでは、有望市場に参入が難しい場合には、市場参入のきっかけになるような先進的な外部技術を取り込んでいくことは、早期の技術獲得や対象市場における知見を得る意味でも有効になります。
しかし、外部技術を取り込むためには、① 取り込もうとしている技術が本当に有望な技術であるかの見極めと、② 研究機関あるいはスタートアップ企業に対して自社と組むメリットを示すことができるかが重要となります。以下では上記の2点について説明します。

①技術の見極め

世の中を見渡すと様々な研究開発がなされており、先進的な技術であればあるほど、開示されている情報量は少なく、有望技術か判断が難しい場合があります。
そのため、技術調査を行う場合には、課題を解決する技術手法のレベルで情報を整理した上で、一次絞り込みをしたうえで、有望とみられる外部技術に関しては、「技術の(将来的な)性能水準」「自社技術適用可能性」「技術の広がり」という点で技術を深く調査することが有効です。
「自社技術適用可能性」、「技術の広がり」については、自社が差別化要素を付与できるかどうかという点、導入した技術により市場・用途を広げていけるかどうかということを表しており、競争優位の持続、事業の発展性をはかる視点となります。

上記を検討するためには、獲得しようとしている技術を深く理解することが必要になりますが、その一つの方法が原理(現象を生み出す要因となる物理的な法則)まで踏み込んで調査することが有効です。原理まで踏み込んで調査すると、技術の制約が見えてくるため、裏を返すとどこまで性能が伸ばせるか、どのように技術を広げられるかを検討しやすくなります。
例えば、光触媒を例であげると、有機物を分解するというのはよく知られていますが、原理まで踏み込むと、金属酸化物に対して紫外線により電子が励起し、そこに生じた正孔とOH-が反応し、OHラジカルが発生し、このOHラジカルが酸化還元電位2.8eVと非常に酸化力が高いため、ほぼすべての有機物を分解できることになります。上記を検討することにより、材料面で光励起するエネルギーの制御が出来れば、紫外線だけでなく、様々な波長の光でも有機物の分解をすることができると推定することもできます。

②共同研究を行うメリットの提示

共同研究を行うメリットの提示については、前述した技術を理解した上で、新規性の高い研究テーマとして提案が出来るかという点もありますが、サプライチェーン上での役割分担の検討、例えばスケールアップ技術の提供や、実証試験の場を提供する等の面でも検討することもメリットとなり得る場合があります。いずれの場合も、まずは共同研究を行いたいという意思を示し、共同研究を行う外部機関とのメリット仮説も提示して意見交換を行い、共同研究につなげられるかを検討していくことになります。

(3) 事業企画におけるポイント

化学業界においては、新製品テーマの企画段階での価値仮説検証が難しいという悩ましさがあります。顧客に新製品テーマの仮説検証をしようとすると、サンプルを持ってくるようにという話になりがちですが、一方で内部的には、企画初期の段階でまだ具体的な顧客価値が分からない場面でサンプルをつくるのはリソース面、設備面で困難なため、仮説検証が進まないことに陥りがちです。仮にサンプルがつくれたとしても、検証した結果、顧客価値がないという可能性もあり、せっかく時間をかけてサンプルまで作ったのに、進捗が得られないとなると大きなロスにつながります。
そのため、仮想カタログという手法を活用して、製品のコンセプト、提供価値仮説を顧客に提示し検証することが有効になります。仮想カタログのイメージは以下のようになります。

スライド資料:仮想カタログのフォーマット例

価値提供を検討する際に、顧客にとって有益ではあるものの、お金を払って購入するまでの必然性については分からないものも見受けられます。SDGs関係の新製品テーマでは特にそのような傾向が起きやすく、提供しようとしている製品が本当にお金を払う価値があるかどうかを議論した上で、顧客への仮説検証を行うことが重要です。また、仮説検証の過程では、当初の企画内容には顧客価値がなかったという結果が得られることもありますが、大事なことはそこで終わってしまうのではなく、顧客がお金を払っても欲しいと思う製品はどのようなものか、ヒントを得て、企画を練り直すことになります。

JMACプログラム

新製品・新事業企画でも、プロジェクト型や、研修形式での検討支援を実施しております。以下にプロジェクト型の一例を示します。プロジェクト型では、月に2回程度集まり検討状況を議論し、宿題をもって次回の検討会にもちよる形で検討を進めます。通常では、アイデア発想までを4ヶ月程度、事業企画を4ヶ月程度の期間を設定し検討を進めていきます。

スライド資料:プロジェクト型の一例

※化学品業関連コンテンツ:化学品業向け専用ソリューションサイトもご覧ください。

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