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【食品ITフェア2023 オンライン】 食品製造業におけるDX推進戦略 〜何を目指し何を解決したいのか〜

2023/4/18 [食品,経営,セミナーレポート]

食品製造業における経営環境は、原材料費の高騰、SCMや市場ニーズの変化、安定供給や品質要求への対応、人材確保や事業継続など、更に激化をしています。経営効率改善に向けたKPIの可視化を目指し、基幹システムを経営の情報基盤として再構成することは大変重要な経営戦略です。データとデジタルテクノロジーを活用し、検査精度や生産性を向上させ、新規需要開拓を狙うDX推進戦略について、具体的な推進事例を含めわかりやすく解説します。

太田 智久 氏

TCコンサルティング合同会社
代表
太田 智久 氏

私は、DX戦略、IT戦略のコンサルタントをしています。前職はメガバンク系のシンクタンクでコンサルティングの事業を率いていました。主に企業の情報システム戦略、基幹システムの構想や計画、実装支援を長く担っておりました。現在は独立し、コンサルティング会社を経営。IT企業の役員、そしてDXに関する顧問などを兼任しています。

食品製造業を取り巻く経営環境
〜競争戦略の思考に向け外部環境をデータとファクトから見る〜

以下のグラフは、各国の実質GDPの推移です。米国と中国が圧倒的に抜きんでています。日本は横ばいです。その下にその他の諸国もいます。これらの状況が皆様のビジネスにどのような影響を及ぼすのか。

スライド資料:実質GDPの推移を見て今後日本の企業はどうすべきなのか

次のグラフは、グローバル競争社会における各国の実質実効為替レートです。
最近、為替の振れ幅が大きいですが、そこに一喜一憂するのではなく、実は2000年あたりから明らかに下落している。これは円の実力を示しています。この先はどうなるのでしょうか。原料高騰の行く末は、どうなるのか。こうした外部環境を見ながら、皆様の経営における未来を想定していくことが大事です。

スライド資料:グローバル競争の中における実質実効為替レートをどうみるか

ウクライナ戦争の影響もあり、エネルギーコストが非常に上がっています。工場では変動費が限界に近づいていることでしょう。これもいつまで続くのか、今後はどうなるのか。皆様はどのように予測されているでしょうか。

スライド資料:世界的なエネルギー高騰と日本国内の高値はいつまでなのか

次のグラフは、各業種の生産額に占めるエネルギーコストの割合です。食品製造業は左から二番目です。エネルギーコストの増大が皆様のビジネスにどのような影響を与えているでしょうか。

スライド資料:食品製造業においてはエネルギーコストの増大が大打撃に

以下は各産業における、産出物価を表したものです。右上がりの破線の上にプロットされている産業は価格転嫁ができていますが、下にプロットされている産業は価格転嫁ができていません。食品業界がまさにそうです。インフレによって海外経済が今後どうなっていくのか。原油高が下落すれば、輸入物価が低下し価格転嫁圧力はやわらいでくるのか。皆様の経営に非常に重要なインパクトがあると思います。

スライド資料:食品製造業の商慣習に価格転嫁が抑圧されていないか

以下のグラフはよく見られる人口推移です。今後、生産年齢人口が減っていく。しかし、視点を変えると、皆様の会社で働く人がどんどん減っていく。皆様の製品を食べる方々(消費者)がどんどん高齢化していくという見方もできます。

スライド資料:人口の推移・構造変化から何を見極め何を見通すか

さて、食品製造業における外部環境をファクトとデータで見てきました。

DXとは「競争上の優位性を確立すること」です。皆様が競争に勝つためには、皆様の敵を知らねばなりません。敵は競合他社だけではありません。

これまで見てきた為替変動リスク、原料・エネルギーコスト増大の価格転嫁シミュレーション、ロボティクス化による省人化、嗜好や購買動向変化による少量多品種生産対応など。これらが本当の敵であり、DXの投資の真の目的・狙いです。

DXの中にインダストリー・トランスフォーメーションという概念があります。業種・業態の壁を越えて転換を図ったり進出をしたりすることです。狭義には、従来のBtoBや、卸売りや問屋を介さずBtoCビジネスを始め小売りとして販売を始める、などを意味します。

しかし、うまくいかない例が少なくありません。原因として、問屋や流通の圧力や商習慣、物流コストの高騰により配送料がペイしなかったこと等を挙げる経営者が多いです。

しかし、もっと根本的な問題が内在しています。それは、小売業未経験からくる無知、そしてデータとシステムの未充足です。マーケティング戦略も全く異なるため、広告宣伝のやり方もわからない。既存得意先マスターに個人データが入れられない。個人決済の仕組みを作るのに時間がかかる。よく検討もせずに簡易なクラウドサービスを立ち上げて在庫の数がめちゃくちゃになってしまった、など。こうならないためには、目的と手段をよく考えること、そして必要十分な計画や検討がとても重要です。

インダストリー・トランスフォーメーションといえば、製造業が小売業になることも一例ですがその逆もあります。流通業、スーパー、コンビニエンスストアといった小売業が、プライベートブランド品を拡充し、OEMの枠を超え、もはやファブレスメーカーになっている。そして価格統制や値下げ要求が進み業界全体で経済が拮抗しているようにも見えます。

DXを推進するからといって、GAFAに目指さなければ、とか、プラットフォーマーにならなければ勝ちではない、と思われる方もいるのかもしれませんが、そんなことはありません。
私は小さなサプライチェーンごとの戦いが大事と捉えています。川上から、川下、エンドユーザーに届くまでのサプライチェーンの中でよく話し合い、いかに皆でしっかり売っていくのか。そうすることで、個人戦ではなくチーム戦で勝利が得られると思いますし、その方がサステナブルです。

しかし、その際に問題になるのが商品別の利益がよくわからないという実態です。生産管理システムが導入されていない、原価管理はExcelのみ、全部原価方式で、配賦も大雑把。これでは売価はわかっても商品別原価がわからず、個別の利益がつかめません。
利益の出ている商品と出ていない商品を見極め、改廃を行ったり、戦略的に生産を行ったりして少しでも長い契約を勝ち取る。また、顧客やバイヤーの要求にシビアに答えていくためにもサプライチェーン全体で戦うためにも、利益が見えるようになっていなければいけません。

企業経営とDXの本質
〜戦略の平仄がDXとしての変革と創造を産む〜

DXとは「競争上の優位性を確立すること」。データとデジタル技術を活用し、従来の領域を超えビジネスを加速していく。「変革」と「創造」です。

経済産業省と情報処理推進機構(IPA)が発表している「DX推進指標」の中に、成熟度レベルが示されています。それによると、成熟度レベルは0〜5まであります。(下図参照)

スライド資料:DX推進指標 成熟度レベルを参考にする

0は、全く取り組んでいない。5は、グローバル競争で生き残れるレベルまで成熟している。4番目を見てください。「全社の経営戦略に基づいて、全社で持続的に取り組んでいる」、とても良い状態です。多くの企業では「経営戦略には基づいているが、全社ではやっていない」、「持続的ではない」といった状態。あるいは逆に「全社で持続的に取り組んではいるが、経営戦略には基づいていない」。狙いや目的が定まらず、場当たり的にIT導入をしている。

部分最適の総和は、全体最適にはなりません。全体があったうえで、部分がある。部分の集合には、必ず全体としてのイメージや狙いがある。それこそが、企業経営における経営課題であるべきであり、できれば社会課題であればなお良い。そして、将来に向けたサステナブルなミッション、バリューにつながるものであってほしい。

最近よく「パーパス」という言葉を聞きますが、パーパスとは、企業の存在意義のことです。パーパスを考えるときには、「世のため人のため」と考えると整理がしやすい。パーパスは目的にも手段にもなり得ます。市場競争で戦いながらもサステナブルな企業として、世の中に貢献する。これはブランディングになります。そして人のため。お客様、株主、従業員に対して、企業の存在価値をしっかり言語化し、共感を分かち合う。これがエンゲージメントの源泉になります。

競争に勝つとはどういうことでしょうか。
「独自の価値を生み出し、ユニークな存在となり、卓越した業績を持続的にもたらす」、すなわち「長期利益」を取り続けることです。

では競争相手や敵とは何なのでしょうか。競合するライバル会社なのか、世界なのか国内なのか、産業構造変化や業態転換による新たな競合先なのか、他のサプライチェーンなのか、ROIやKPIを計れない老朽化したシステムやデータなのか、他社ではなく自社内の既得権や前例、固着した文化なのか。

スライド資料:DX デジタルで変革する

DXをDとXの文字の並びからDX=「デジタルで変革をする」と解釈すると、「デジタル」がよくわからないのでDのところで思考停止し、肝心な変革が思いつかない場合が多い。

スライド資料:XD 変革する!デジタルで真に必要な何かを

ではDとXの並びを反対にしてXD=「変革をする!デジタルで真に必要な何かを」と考えたらどうでしょうか。みなさんは既にいろいろな改善、改革をされていると思います。このときに、何らかのデータやデジタル技術、ITをきっと使いますよね。これこそがDXだと考えるとわかり易い、そう覚えておいてください。

DX投資の観点で話を進めます。

スライド資料:DX投資 「将来の利益」を向上させるには

投資とは、将来の利益のために今あるお金を投じることです。では、将来の利益を向上させるにはどうしたらよいのでしょうか。ひとつは売上を上げること、もう1つはコストを下げること。つまり、経営活動そのものです。
DX投資の真の目的は、企業のサステナブル経営です。DXの連続が、SX(Sustainability Transformation)となると考えてもよいのではないでしょうか。

経営やトップとは、何をする仕事だと思いますか。「経営とはわからないことや決めかねるものを決断する仕事」としましょう。決められる事柄や判断できる事は、部下や組織がオペレーションすればよいのです。
経営とは判断の連続です。仮に重要な工場間のリソース調整、経営判断が急遽必要になったとして、労働生産性や負荷度はデータですぐに取り出せますか。大規模な設備投資を伴うライン変更の経営判断だとして、総合設備効率、工程効率など、すぐにデータ出ますか。
物流委託替えやロジスティックスの変更が急務となり、社長から在庫回転率、総合良品率、製品廃棄率、在庫輸送廃棄率が必要と言われてすぐにデータは揃えられますか。
監査法人から問われたら?急な融資申請が必要となり、社長から大至急、「材料費」「労務費」「製造経費」といった製造原価、その予定実績、KPIラップを纏めてくれと指示されたら?すぐに報告できますか。つまり、経営とは意思決定として決断をする仕事ではありますが、数字・ファクトがなければ、ロジックがあっても意思決定できないのです。
ですからデータの重要性、これがDXの肝になります。

(身近な)デジタルテクノロジーの進化
〜テキスト生成AIとAIアバターを試してみる〜

最近の、テキスト生成AIの実力を試してみましょう。
たとえばChatGPTというアプリ。「競争戦略の作り方を教えて」と、Qを出したら、次のような答えが返ってきました。

スライド資料:トレンドの「テキスト生成AI」の実力を試してみる

インターネットから情報を導き、AIが文章を生成しているのです。想像以上に正確な答えで大変驚きます。
AIアバターも実験してみましょう。次の写真は、AIが20枚ほどの私の写真を読み込んで、生成した私のアバターです。

スライド資料:流行りの「AIアバター」でアバター作成を試してみる

デジタル技術の進化は加速的に進んでいます。
工場設備においても、最後の最後まで人間しかできない、してはいけない仕事は残ると思いますが、生産人口が減少していく中、もちろんダイバーシティ、女性の更なる活用からですが、ロボティクスを導入しない理由が、もはやコストしかなくなると思います。言語系AIも着々と進化を遂げ、もはや完全に実用のレベルです。契約書のチェックをAIで行うサービスが流行っていたり、かつて、あまりにも低い日本におけるホワイトカラーの生産性を如何に高めるかといった基調講演をかつて世に届けていましたが、ブルーカラーのロボティクス化より、ホワイトカラーのAI化の方が速いかもしれません 。
マイナンバーもしかりですが、世に飛び交う様々なDX事例には、確実に目的と手段、そしてその先の狙いがあるはずです。

DX戦略に基づくIT全体最適化計画
〜内外環境分析を行い目的と手段を整理、IT要求を纏める〜

先程紹介したテキスト生成AIも回答してきましたが、競争戦略を考え、DXの目的と手段を整理するために、内外環境分析を行いましょう。分析はなぜ必要なのでしょうか。それは企業経営の状態を俯瞰的・立体的・時間的に見られるからであり、引いて見るからこそ、本質がわかるからです。

分析方法その1は、「PEST分析」です。重要なのは、技術と社会です。ここに着目して分析していただきたい。

スライド資料:環境分析の手法を用いて改めて考えてみる@ PEST分析

分析方法その2は「5フォース分析」です。特に重要なのは、新規参入の脅威と売り手の脅威です。新規参入の脅威はインダストリー・トランスフォーメーションのところで述べたとおりです。売り手の脅威は、原料の高騰、物流費の高騰など。これらをどう予測するかが重要です。

スライド資料:環境分析の手法を用いて改めて考えてみるA 5フォース分析

3つ目は「SWOT分析」です。大事なのは「機会」と「脅威」。これを見極めた上で、皆様が今できる変革は何かと考えていただくことで、変革点が見えてくるでしょう。

スライド資料:環境分析の手法を用いて改めて考えてみるB SWOT分析

続いてやっていただきたいのが、自社のDX推進指標の自己診断です。前述の経済産業省・IPAが発表しているDXの推進指標で自己診断ができるようになっています(https://www.ipa.go.jp/ikc/info/dxpi.html)。これをやると皆様の会社の状態が見えてきます。

スライド資料:内的環境分析としてDX推進指標の自己診断をしてみる

さて、内外環境分析をしたら、次はどのようにDXを進めていくのか。

まずWhy。なぜDXをやるのかを明らかにしましょう。
以下は、経済産業省の「DXレポート2」の抜粋です。これを眺めながらよく考えていただきたいと思います。

スライド資料:DX戦略に基づくIT全体最適化の目的・狙いを考える

続いてWhat。何をするかですが、これも「DXレポート2」に良い資料がありますので、これを基に整理しましょう。

スライド資料:DX戦略に基づくIT全体最適化の骨格を考える

続いてHOWです。下図はEnterprise Architect(エンタープライズアーキテクト)というもので、上からビジネス、データ、アプリケーション、テクニカルとなっています。アーキテクト視点でIT全体最適化の構造を検討する必要があります。

スライド資料:DX戦略に基づくIT全体最適化の具体を考える

ではこれをいかにしてプロジェクト化するか。以下も、「DXレポート2」からの抜粋です。

スライド資料:DX戦略に基づくIT全体最適化の組織・体制を考える

左図は、既存事業と新事業のバランスを考え両利きの経営をしていきましょうということ。中央図は、経営層、業務部門、IT部門、立場が変われば想いが違うので対話し共通認識を持っておくこと、右図は、アジャイル的に進めた方が良いということを示しています。この図をよく眺めながら、プロジェクト化していくことが大事です。

続いてデザインです。これがまさにプロジェクトの全体像になります。

スライド資料:DX戦略に基づくIT全体最適化を構造化する

経営層、業務層、IT層、立場が違えば想いが違います。しかしこの関係性については、手段と目的、狙いという言葉で整理できます。または、Why、What、Howでも整理できるでしょう。これを過去から未来に向けて時間軸、つまりStoryで整理する、それが戦略です。

次は、プロジェクトの全体イメージです。

スライド資料:DX戦略に基づくIT全体最適化を実現する

ビジネスデータをしっかりとERPに蓄積する。そしてデジタルマーケティングやEC、AIに活かす。工場内であればIoT、ロボティクス、AR・VRに展開する。それらによって変革と創造をしていく。

このように順を追って検討を進めることで、「DX戦略に基づくIT全体最適化」の道筋が立てられるはずです。

コンサルは必要なのか

先ほど、「テキスト生成AI」で競争戦略の作り方を尋ねたら、実に「正しい答え・導き」が出てきたと話しました。「知識」や「フレーム」だけが期待されるものであれば、近い将来コンサルタントは無用になっていくでしょう。ただし、コンサルタントは「知識」だけを与えているわけではありません。私は、「経験」に基づく「知恵や判断の仕方」をお客様に伝承しているつもりです。

私は、「答えを出す」ではなく「山を動かす」という気持ちを大切にしています。今時の言葉でいうなら、ユーザーエクスペリエンスでしょうか。その企業で働いている全ての方々において、「よし、みんなで新しいシステムを作るぞ」とか、「当社もついにDXをやるぞ!みんな準備はいいな はい!」みたいな、ムーブメントができてくるのです。これが醍醐味ですし、わくわくする瞬間です。

通訳と行司。私が心がけていることです。立場が変われば想いが違う。あちらを立てればこちらが立たずの議論も多くあります。「納得感のある合意形成」と「正しい経営判断」を導く。これが、私が体現しているコンサルティングです。

まずは、皆様が我が事としっかりと当事者意識を持ち、自らDXを進めてほしいと思いますが、そこに外部の人(コンサルタント)を入れることで、改めて本質がよく見える、結論の導出が速まることがあります。更なるデジタル技術の進歩には期待をしていますが、もう暫くコンサルティングが役に立てる局面はあるのではないかなと思っています。

もしDXやIT全体最適化を確りと推進したいのであれば、コンサルタントの活用もご検討いただければと思います。

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