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【DXからERPを考える】 第2回:ERPの位置づけを整理する

2022/4/8 [ERP,経営,コラム]

DX(デジタル・トランスフォーメーション)が全盛の昨今でも、基幹システムやERPにお悩みを感じている担当者、経営者の方は少なくありません。この連載コラムでは、「DXからERPを考える」と題して、ERP導入を支援する現役コンサルタントが、これまでの経験を踏まえて、成功するERPの導入、活用のポイントを分かりやすく解説いたします。

みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社
技術・事業開発本部 営業推進部 調査役
務台 博海(むたい ひろみ)氏

1998年入社。メインフレーム、クラサバのプログラマーからキャリアを開始し、Webシステム開発のプロジェクトリーダーを担当。その後自社パッケージ製品の開発、導入、他社パッケージ製品の導入のプロジェクトマネージャを担当。2012年以降は、「PMO支援サービス」として、ERPを中心とした企業基幹システムの計画策定、導入のご支援が中心。2020年より、「DX支援コンサルティング」として、より上位のDX戦略立案、組織立ち上げ等の支援を主に行っている。

【主な資格】ITストラテジスト, ITコーディネータ, プロジェクトマネージャ, PMP, システム監査, DX検定エキスパート, テクニカルエンジニア(データベース)

前回、DXについてあらためて整理をしました。ここからERPへ話を進めていきます。
ですが、ERPとは何かを整理するところから始めましょう。
DXからERPを考えるのは、まずERPの「当たり前」を問い直し、本質的な価値を捉えてこそです。

そもそもERPとは

少なくとも我が国のIT市場では、おおよそ「統合基幹システム」といった意味で使われています。
具体的には、見積、受発注、生産管理、在庫管理、債権債務、会計、人事給与、あたりの領域の多くをカバーしている製品がERP製品と認識されます。

会計だけであったり、人事給与プラス勤怠のように、単一であったり限定的な領域だけをカバーする場合には、ERP製品とはあまり呼ばれません。
「基幹」という言葉がでてきましたが、これは「基幹業務」とは限りません。
「基幹業務」は業種によって異なり、物流業の基幹業務システムならば、TMS、WMS、製造業の製造業務もMES、PLSと言った別のIT製品として整理がなされることが多いです。

ちなみに、「基幹システム」を「基幹系システム」と呼ぶとき、対になるのが「情報系システム」です。
社内のコミュニケーションのためのグループウェアや営業支援、顧客管理といった領域がこれにあたります。

いろんな言葉や分類が出てきてややこしいと思われた方。実はこういった整理は、IT製品として、作り手、売り手、買い手にとって、分かってしまえば合理的です。
例えば、自社のIT導入のバランスや網羅性を認識しようとしたときに、「基幹系ばかりに注視していて情報系が疎かだな」などが分かると次の対策が打ちやすくなります。
例えば、「『人事給与』は現在安定しているが、それ以外のERP領域が・・・」などと説明できれば、対ベンダーさまへも話が早いです。
ITベンダーさまもひとりで全ての製品に精通しているひとはいないでしょうから、相談事の分野のスペシャリストを早く的確に立ててもらいましょう。

ERP製品に話を戻します。

ITにおけるERP(製品)の位置づけ

ERP製品に限らず、2000年代の多くの大規模ITプロジェクトの失敗事例から、様々な整理が試みられてきました。
前出の基幹系システム、情報系システムのほかに、

①守りのIT、攻めのIT

②ランザビジネス、バリューアップ

③SoR(System of Records)、SoE(System of Engagement)

④競争領域、非競争領域(協調領域)

①守りのIT、攻めのIT
IT投資の観点で守りと攻めに分類し、効率化、コスト削減、セキュリティーやコンプライアンスに資する投資は守り。 顧客や売上を増やすことに資するIT投資は攻め。このように分類し、守りばかりではなく、攻めにも目を向けましょう、としたもの。

②ランザビジネス、バリューアップ
ITの効果に着眼し、維持管理と新しい施策展開とに分類します。ほぼほぼ守りのITを攻めのITを言い換えているような使い方がされます。

③SoR(System of Records)、SoE(System of Engagement)
ITを目的に着眼し、情報を記録するためのものと、結びつきや関係に係るものとに分類するものです。これも①②と切り離すというよりも言い換えのように使われています。なお、SoR、SoEで全てを表現することが難しく、SoRとSoEを活用して、洞察を得るというSoI(System of Insight)を追加して3つで整理することもあります。

④競争領域、非競争領域(協調領域)
ITが対象としている業務領域の戦略上の位置づけに着眼し、他社との差別化を図り”勝ちに行く”領域と、他社との差別化を試みずに“負けないようにする”領域とに分類します。
前者の競争領域は会社によって異なります。当然ながら競合他社と同じであったり、同じにされてはならないところです。後者は、会計、経費精算、資産管理、給与計算、メール、スケジューラあたりが挙げられます。これらは、どの企業も同じ法規制を受けるため、ここが他社とは異なるというものではありません。であるならば、むしろ、安価に他社のマネをしてしまおうという戦略がとられます。あるいは一緒に高めあおうとして「協調領域」と呼ばれることもあります。
物流における「共配」は、ITではありませんが、競合他社とも力を合わせてしまう例のひとつと言えます。
DX時代では自社だけで全部やりきるよりも、部分的にそれが得意な他社といかに手を組んで、変革とスピードを手に入れるかがポイントになりますので、ITに限らず、競争領域と非競争領域(協調領域)という分類は示唆に富んでいます。
もうひとついえば、「きょうそう」と「きょうちょう」ということで、ゴロがいいので筆者は好きですが、声にすると読みづらいし、聞き取りづらいので結局「きょうそう」と「ひ・きょうそう」と言い分けてしまいます。

さて、ERP製品はこのうちのどれにあたるでしょうか。
ここで人によって意見が割れるようです。

・会計、人事給与に着眼すれば、守りのIT、ランザビジネス、SoR、非競争領域に他ならないでしょう。このように見れば、会計の上流も受発注伝票、売上伝票を記録しているに過ぎないシステムとなります。

・CRM/SFA(顧客管理、営業支援)から繋がってきて、見積、受注とERPに続いたり、サプライチェーンを意識すると、判断は逆転し、攻めのIT、バリューアップ、SoE、競争領域という見方もあります。ただ、これはERP製品を超えており、ちょっと強引かと思います。

・BIツール(ビジネスインテリジェンス、データ分析)をERP製品群にラインアップしているものや、サードパーティのBIとの連携に重きを置くと、SoIそのものという捉え方となり、SoRを(場合によってはSoEをも)包含している、となります。

自社で導入している(しようとしている)ERPの価値は?

ということで、貴社の導入した(しようとしている)ERP製品は、価値を高く認識した、SoR、SoE、SoIの全部入りでしょうか。価値を低く見たSoRに過ぎないものでしょうか。

あらためてERPのそもそもの言葉の意味は?
Enterprise Resource Planning 企業資源計画。つまり、「ヒトモノカネといった経営資源を有効に活用すること」。
言わずと知れた内容ですが、改めてERP製品がこれに資するものかと思い直すと、悩ましいのではないでしょうか。
SoR(System of Records)に閉じて捉えれば「ヒトの情報、モノの情報、カネといった経営資源」情報を一元的に蓄積している程度となります。SoI(System of Insight)に踏み込むことで「有効に活用」に資する洞察をしていることになり、それこそERPの言葉の意味とERP製品の効果に矛盾がない状態と言えるでしょう。

さて、ERP製品を導入しておりここに違和感のない方は幸せで、ERP製品をうまく使えていると言えます。
ですが、私が見ている中では多くの企業さまが「伝票記入のデジタル化」程度にしかERP製品が使われていません。つまり、

・価値が高いとは言えない

・その割に、導入は困難。1年超の時間と1億円超のカネを掛けて、と期間は長くお金も掛かる
 (売上規模が100億円〜500億円の企業を想定。規模によってさらに大きくもなる)

・さらには、利用者からも不満が多い

それはなぜでしょうか?それでいいのでしょうか?

次回は、ERP導入の難しさのわけとDX的な突破口についてみていきましょう。

第3回:ERP導入が難しいわけと、DXの突破口もご覧ください。

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