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【DXからERPを考える】 第6回:システム更改に向けたプロダクト(ベンダー)選定の注意すべき事柄

2022/8/18 [ERP,経営,コラム]

DX(デジタル・トランスフォーメーション)が全盛の昨今でも、基幹システムやERPにお悩みを感じている担当者、経営者の方は少なくありません。この連載コラムでは、「DXからERPを考える」と題して、ERP導入を支援する現役コンサルタントが、これまでの経験を踏まえて、成功するERPの導入、活用のポイントを分かりやすく解説いたします。

みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社
コンサルティング本部 経営コンサルティング部 DX戦略チーム
松家 和人 氏

経営コンサルティング部門で、国内外ERPベンダーとのアライアンス企画及びプロジェクト推進を担当。製造業向けソリューション・流通業向けソリューション・建設業ソリューション・・財務会計ソリューション等の企画推進を歴任。経営コンサルティングとITコンサルノウハウを融合させた「DXコンサル支援サービス」に従事。大企業及び大規模なERP案件におけるIT戦略立案構想などをコンサルテーションしている。

当社のサービスの1つとして「ベンダー(プロダクト)選定支援」というものがあります。これは当社がお客さまの基幹システム更改の提案依頼書(以降、RFP)作成を支援し、ベンダー(プロダクト)選定時に必要となる評価基準・実施要領を作成することで、お客さまが適正に選定評価ができるよう公平な立場でご支援をするものです。その際に、経営者、DX企画担当者・IT部門から様々なご相談を受けます。

ベンダー(プロダクト)選定の失敗例

当社の営業やコンサルタントが色々な企業に足を運んだ際にお客さまから伺った「ベンダー(プロダクト)選定の失敗例」の一部をご紹介いたします。

【失敗1】現行業務に拘り、当初の目的を見失った導入

RFPの要望に最もマッチしたERPを選んだとしても、すべての要望が実現できるわけではありません。そもそもERPを導入することにより、自社の業務改善をすることが目的だったにも関わらず、いつの間にか現行業務に合わせることを優先して、大量のカスタマイズを行うケースがあります。業務に合わせるカスタマイズを行えば、追加のコストがかかりますし、ERP自体のバージョンアップが発生した際に、カスタマイズが理由でバージョンアップが容易にできなくなる恐れがあります。また、多額の費用をかけて現行システムの焼き直しとなり、何のためのシステム更改だか分からなくなります。膨大なカスタマイズを行ってまでERPを変える必要があるのか、本来の目的を見失わずに精査することが必要です。

【失敗2】自社に合っていないベンダー(プロダクト)を選んでしまった

選定時のプレゼンテーションで「画面の見た目」や「金額」が良かったERPを導入したが、実際に使い始めてみると処理手順が自社の業務とそぐわないことに気づくケースがあります。エンドユーザーが選定に参加せず、上層部のみで導入を判断する場合に特によく起こるケースです。会社全体でベンダー(プロダクト)を選定することが大切です。

これらは決して1社、2社のお客さまの話ではなく、多くのお客さまから伺う話です。「だから次のシステム更改は上手くやりたい」と皆様おっしゃるのですが、おそらく同じ結果になるでしょう。何故なら、ベンダー(プロダクト)選定の明確な基準を作成せずに選定しているからです。

ベンダー(プロダクト)選定までの流れ

当社が考えるベンダー(プロダクト)選定までの流れは以下の通りです。

【Step1】RFP作成

システムの計画策定の内容をもとに、RFPを作成します。詳細は、前回記載しました「第5回:システム更改に向けた提案依頼書(RFP)の注意すべき事柄」を参照してください。

【Step2】候補ベンダーの調査

RFPを発行する候補ベンダーをリストアップします。この段階では各ベンダーのホームページなどに開示されている情報などから、会社の規模、安定性、導入実績などを下調べします。そして、各ベンダーの営業担当とコンタクトをとるなどして、提案への「参加意欲・本気度」なども確認します。

【Step3】RFP配布・説明会

候補のベンダーに対し、RFPを発行し、説明会を実施します。NDA(秘密保持契約書)を交わした後、RFPは事前に発行し、各ベンダーが読み込んだうえで説明会に参加してもらうようにします。説明会での質疑応答内容なども候補ベンダーの実力と「参加意欲・本気度」を確認するために有益な情報となります。

【Step4】ベンダー評価基準策定

RFPで検討した要望に基づき、具体的にどのようなことに着目してベンダーを選定するか評価選定方針を明確化して、社内での合意を得る必要があります。どのような評価軸でベンダー選定を行うか、具体的な評価項目をリストアップし、選定者がどのように評点するかなどの基準を策定します。コスト重視なのか、実績重視なのか、方針によってどの評価項目を優先させるか、重みづけも検討します。

【Step5】RFPのQ&A会の開催

RFPの内容に対してベンダーからの質問を受け、回答する会を開催します。各ベンダーからの質問および回答について、全ベンダーに共有するかは様々ですが、RFPに内在するリスクについて自社で把握しておくことは重要です。質問内容によっては、ベンダーの本気度、実力把握としても重要な過程となります。

【Step6】ベンダー提案書受領と一次評価(書面審査)

各ベンダーから提示された提案書を一次評価として審査します。その結果、二次評価(プレゼンテーション)に向けての候補ベンダーを数社に絞り込みます。評価に際しては、発注側のプロジェクトメンバーだけでなく、現場のリーダーなど、複数名で実施することで客観的な評価を行います。ベンダーによっては雛型の提案書を提示し、手抜きをする場合も見受けられます。RFPの趣旨に沿った提案内容になっているベンダーに二次評価に参加してもらうことが大切です。

【Step7】二次評価(プレゼン審査)

実際にプロジェクトに参画するベンダー側のプロジェクトマネージャからプレゼンをしてもらうことで、体制面とプロジェクト推進スキルの評価を行います。二次評価はプレゼンの上手さ、システムの見た目で評価しがちですが、RFPの趣旨に沿った提案をしているか、自社で運用できるシステムかを見極めることが重要です。また、二次評価の結果、どのベンダーも合格点に達しなかったケースについても、あらかじめ対応方針を明確にしておくことが大切です。

良いベンダー(プロダクト)選定のポイント

①ベンダー評価基準の策定

ベンダーに対する評価基準をあらかじめ作成し、選定のための共通した軸を持つことが大切です。
一般的な選定項目は以下の通りですが、この中でも何を優先するかは自社で検討が必要です。

  • 要求事項への対応度(要求事項に対する実現性の評価、課題に対する解決策の評価)
  • 将来を見据えた提案があるか
  • プロジェクトの進め方、導入計画、導入体制、ファシリテーション、会議体は適切か
  • プレゼン時の対応(プロジェクトマネージャ、メンバーのスキルと経験)
  • 費用価格(イニシャルコスト、ランニングコスト)
  • ベンダー(プロダクト)としての実績と会社としての信頼性(社員数・上場など)
  • プロダクトの機能評価(機能要件及び非機能要件の網羅性の高さ、非対応要件への代替案、操作性のよさ)
  • 評価者の感想(態度、見た目、言語化されない評価)

②会社全体でのベンダー選定

ERPは会社全体をカバーするソリューションにも関わらず、上層部や情報システムのみでベンダー(プロダクト)を決定してしまうことは少なくありません。確かに少数で選定した方が意見もまとまりやすいのですが、実際にはそう思い込んでいるだけで、最適なベンダー選びができていないことがほとんどです。要件の検討段階から必ず各部門の責任者を参加させ、ベンダー選定にも参加依頼することが大切です。

③他社事例、導入実績を意識しすぎない

導入実績は大切ですが、他社での成功が必ずしも自社での成功とイコールになるとは言えません。導入実績を鵜呑みにしてしまうと、自社のニーズを無視した導入をしてしまう可能性があります。他社と自社が違うことを十分に理解し、注意することが必要です。

④比較検討するベンダー数は絞りすぎない

二次審査の段階で選んだベンダーが2社のみであったために、最適な導入ができなかったケースがあります。当然、より多くのベンダーを比較した方が最適なベンダーを選定できます。しかしその反面、プロジェクトメンバーの負担と検討期間が長期化してしまうのは言うまでもありません。比較検討ベンダーを最低でも3社以上とし、かつ多過ぎないことが大切です。

⑤表面上のコストだけで導入を決めない

ERPを選ぶにあたってコストというのは非常に大切だと思います。コストを気にせず選びたいところですが、企業である以上コストという要素はどうしても忘れることが出来ません。ERPの中には価格が比較的安い製品もありますが、安いから良いというわけではありません。価格に見合った効果が得られなければそれは失敗といえます。表面上のコストではなく費用対効果を意識しながら選定することが重要です。

⑥カスタマイズに頼らず、ERPに業務を合わせるつもりで導入

要望を実現するには、カスタマイズを行って構築するのか、それともERPに合わせて自社の業務を変えるのか、本来の目的に戻って精査することが必要です。現行業務に拘らず、業務にとって何が一番適しているのか考えることが大切です。

⑦マルチベンダーはできるだけ避ける

1ベンダーで全ての機能要件を対応できれば良いのですが、ERPに足りない部分は、他のベンダーから導入する必要があります。メインとなるベンダーが主管者となり、サブのベンダーを導いてくれることが重要です。お客さま側が対応するとベンダー間の板挟みになり、無駄に負担が増す場合があります。マルチベンダーはできるだけ避け、メインベンダーが協業するサブベンダーを選ぶことが大切です。


今回は「システム更改に向けたプロダクト(ベンダー)選定の注意すべき事柄」を記載しました。いかがでしたか、参考になりましたでしょうか。

全6回にわたり「DXからERPを考える」と題して、ERP導入を支援するコンサルタントが、これまでの経験を踏まえて、成功するERPの導入、活用のポイントを解説してきました。
ビジネスを取り巻く現在の環境に合わせたシステムの再構築が実現すれば、大きな業務効率化が可能となります。 自社のビジネスを成長させるためには、どのようなERPが必要なのか、現行業務のどの部分を強化すべきなのか、自社で十分に検討し、少しでも多くの企業がERP導入に成功出来れば幸いです。

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