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手をつなぐ〜障がい者福祉施設職員に届ける元気の出るコラム〜 第9回:入所施設で暮らす娘の歩みを振り返って

2025/5/28 [福祉,コラム]

全国手をつなぐ育成会連合会の会長、副会長、顧問、そして常務理事の皆様が執筆する連載コラムです。
障害者福祉施設職員の方々へ、制度解説から当事者家族の生の声まで、様々な視点から役立つ情報を10回にわたって発信します。障がいのある方との共生社会の実現に向けて、一緒に歩んでいきましょう。

一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会 副会長
社会福祉法人東京都手をつなぐ育成会 理事長
立原 麻里子 氏

コラムをご愛読の皆さま、こんにちは。
今月は、自身も重度の知的障害の娘さんをもつ、全国手をつなぐ育成会連合会副会長による手記のご紹介です。現在は入所施設で暮らす娘さんの幼少期の思い出や、施設入所に至った経緯、近況など生の声をお届けします。ぜひ、福祉施設の経営者や職員の皆さまにとって、日々の施設運営や障がいのある方々へのサービス提供における励みとなれば幸いです。

我が家の娘は今年31歳になります。重度の知的障害で自閉スペクトラム症と難治性てんかんがあります。生まれてから1歳ごろまでは、発達の遅れなど、気になることはほとんどなく育ちましたが、1歳を過ぎたころからだんだん目が合わなくなりました。当時の写真を見ると、赤ちゃんの時のほうがカメラ目線でニコニコしていました。少し出ていた言葉もなくなって、他の子と遊んでいても、周りに誰もいないような感じで遊ぶようになり、これはもしかして自閉症では? と思いましたが、かかりつけ医での1歳半健診では「様子を見ましょう」と言われました。下の子が生まれる前に診断を受けておこうと行った療育医療センターでは「自閉的なお子さん」と、なんともあいまいな言葉をいただいたのが、障害児としてのスタートでした。

そのときはまだ2歳だったこともあり、他の子たちとの発達の差が大きくはなく、知的障害はそれほど重くない、と言われた記憶があり、3歳の時に取った療育手帳も3度(重い方から1〜4度)だったのですが、就学相談ではしっかりと当時の「養護判定」が出て、この子は重度なのか…としみじみ思ったことを覚えています。

娘には3歳上の兄と3歳下の弟がいて、小さい頃は兄弟二人ともよく面倒を見てくれていました。面倒を見てくれていたのか、娘に振り回されていたのか・・・まぁどちらにしても、お出かけやら行事やら通院やら、よく付き合ってくれていたなぁと思います。重い知的障害があっても、娘にとって兄は兄、弟は弟で、大人になった今でもそれぞれの関係性があり、そういうところは普通の兄弟と変わらないのかもしれません。
呼び方はそれぞれ「けんちゃん」「こうちゃん」で、娘が名前を認識している数少ない人たちだと、これを書きながらあらためて思ったところです。私と父親の名前はたぶん知らないでしょう…まぁ「おかーかん」と「パパ」でOKなんですけどね。

そんな娘は現在、入所施設で暮らしています。入所施設というと、人里離れた場所を連想される方も多いかもしれませんが、娘が暮らす施設は、東京都23区内の比較的にぎやかな場所にあります。

入所の経緯は、住んでいる区内に施設が開設されることになり、このあと近隣に施設ができないことははっきりしていたし、重度の人向けのグループホームも簡単にはできないことがわかっていたので、親に何かあった時に急に遠くの施設に入所することになるのは避けたい思いがあり、とはいえまだ若いしどうせ入れないだろうと思いながら申し込んだら、入れることになってびっくりした、というのが正直なところでした。

入所前の面談では、施設で親以外の人との生活に慣れたら、グループホームに移行したいと希望しての入所でしたが、地域での受け皿はなかなかできず、本人の状態もてんかん発作や行動的な問題などが落ち着かないこともあって、入所して10年が経ってしまいました。とはいえ、環境になじめなかったりうまくいかなかったりしたら、いつ自宅に帰ってきてもいいと思っていたのに、かれこれ10年が過ぎ、それなりに過ごしている姿を見ると、感慨深いものがあります。

入所した日は平日でしたので、父親は仕事を休んで、荷物をもって3人で施設に行きました。契約の面談の時に、娘は急に立ち上がって横の棚にあったボックスティッシュを床においてバコッと踏みつぶし、どうなることやら〜と思いながら娘の部屋に行きました。新築の真新しい畳のお部屋には布団が用意してあり(発作があるためベッドは危ないので)、娘はおもむろに自分で布団を敷いて、かけ布団をかぶってすやすやと眠ってしまいました。涙の別れになるだろうと思っていた私たち夫婦は拍子抜けしましたが、本人は意図せずとも、親に悲しい思いをさせずに帰してくれたのかもしれません。

ほとんど言葉のない娘なので、どんな暮らしをしているか、毎日何があったか等々、本人から聞くことはできません。離れて暮らすと毎日顔を見ることもできませんから、心配ばかりしていました。そんな時、入所してすぐのゴールデンウィークに、施設の屋上でバーベキュー(土地がなく庭がないので…)をした時の写真を見て、そこには娘の満面の笑顔があり、こんな風に笑えるならきっと大丈夫、と安心しました。(余談ですが、楽しかった屋上でのバーベキュー、近隣からクレームが入って一度きりの開催となりました…涙)

最近施設で娘から名前で呼ばれる人が現れました。昨年秋に娘のユニットに異動になった際、「ハセガワです、よろしくお願いします。」と娘に挨拶をしたところ、娘は「ハセガワ〜♪、な〜む〜」と合掌し、それ以来「ハセガワ〜」と呼んでいるそうです。何かがつながってインプットされたのでしょう。

気持ちを上手に表出することはなかなか難しい娘ですが、表情や態度はわかりやすいかもしれません。これからも、周りの人に自分なりに気持ちを伝えて、周りの人たちにはそれを汲み取っていただいて、本人なりに豊かに楽しく暮らしていってほしい、それが私の願いです。

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