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手をつなぐ〜障がい者福祉施設職員に届ける元気の出るコラム〜 第3回:令和6年4月改正の障害福祉サービス等報酬改定について(2)

2024/11/28 [福祉,コラム]

全国手をつなぐ育成会連合会の会長、副会長、顧問、そして常務理事の皆様が執筆する連載コラムです。
障害者福祉施設職員の方々へ、制度解説から当事者家族の生の声まで、様々な視点から役立つ情報を10回にわたって発信します。障がいのある方との共生社会の実現に向けて、一緒に歩んでいきましょう。

一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会
常務理事兼事務局長
又村 あおい 氏

コラムをご愛読の皆さま、こんにちは。
今月も、先月から引き続き令和6年4月に施行された障害児者福祉サービスの報酬改定について、知的・発達障害のある人や子ども(以下、知的障害者)への直接的な影響が見込まれる分野を中心に取り上げていきます。

強度行動障害支援

【ポイント】特に行動障害が激しい人への加算を新設、ただし人材育成が課題

強度行動障害の状態(以下、強行)にある人への報酬は、これまでも各種の加算が設定されていましたが、特に行動障害が激しい人への対応が不十分とされてきました。そこで今回の報酬改定では、強行の状態像を2段階に分けて、特に行動障害に関する調査項目(24点満点)が18点以上の人については、従来よりもさらに増額された加算が設定されました。当然ですが、従来どおり調査項目10点以上の人を対象とした加算は存続しています。

また、事業所や家庭で行動障害の状態が悪くなってしまった際に集中的な改善支援(現地訪問型もしくは施設一時利用型があり、原則として3か月上限)を提供した場合にも、思い切った加算が新設されています。

こうした支援を実施する際には、それなりの専門性を有する人材が欠かせません。これまでは「強度行動障害支援者養成研修(基礎・実践)」の修了者が対応してきましたが、さすがに調査項目18点以上の人や、非常に行動障害の状態が悪い人への支援となると話は別です。そこで、新たに「広域的支援人材」と「中核的人材」と呼ばれる、強行支援の専門性を有する人材を位置付けることとなりました。前者は全国規模で特に専門性の高い助言や援助を担当し、後者は都道府県単位を基本として養成され、事業所現場での困りごとを支援する役割を担います。

ただし、「広域的支援人材」と「中核的人材」は強行支援の中心である「国立のぞみの園」が中心となって養成することとなっているのですが、研修体制が整っているとはいえず、たとえば今年度の見通しでは各都道府県で2名程度の養成にとどまる見込みです。令和7年度以降は順次で全国展開されていくと思われますが、このままではせっかく新設された調査項目18点以上が対象の加算がほとんど活用されない事態も懸念されます。積極的な人材育成を求めていく必要があります。国がイメージする強行支援の全体像を参照してください。

入所施設

【ポイント】すべての入所者へ今後の住まいに関する意向確認

今回の報酬改定では、すべての入所者を対象として、これからどこで暮らしたいか、入所施設での暮らしを継続するのか、それとも地域生活へ移行する方向に進むのか、本人の意向を確認することが義務付けられました。

これは、令和4(2022)年9月に国連から示された、障害者権利条約の審査結果(対日審査総括所見)において、入所施設の廃止を強く要請されたことにも関係します。入所施設で暮らす人たちは重度知的障害者ですので、仮に入所施設を廃止するにしても、重度障害者が地域生活することができる支援体制の構築に十分な段取りは必須となりますが、その前提となるのが「本人はどこで暮らしたいのか」という確認です。今回の義務付けは、その部分に焦点を当てたものといえます。もちろん、入所者の多くは重度知的障害者ですので、丁寧な体験・経験 の積み重ねと意思決定支援がセットで進められることが重要となります。

そして、入所施設で暮らす知的障害者の意向を確認するためには、それ自体にも十分な段取りが必要となります。たとえば入所施設以外の暮らしの場を見学してもらう、いつも利用している生活介護以外の事業所を試しに利用してみるといった体験・経験をする機会を十分に用意しなければ、比べて選ぶ段階にもたどり着けません。

そのため、新たに入所施設が体験・経験の機会を提供した際の加算を設定したほか、施設ごとに意向確認の責任者を配置することが義務付けられました。ただ、施設ごとの判断だけで意向確認を進めるのでは、取組みに差が出てしまうリスクがあります。そのため、令和6年度中に厚生労働省が意向確認のガイドラインを作成し、令和7年度以降に各施設でガイドラインに沿って意向確認を進めていくことが見込まれています。

グループホーム

【ポイント】グループホームからの一人暮らし移行を強化

グループホーム(以下、GH)に関しては、障害者総合支援法の改正と連動した報酬改定がなされ、特にGHを「卒業」して、地域での自立生活へ移行する際の支援を強化する方向が示されています。

まず法改正においては、GHの役割を見直しました。これまでは「少人数の住まい」として、食事や介助の提供、世話人による相談対応などを提供することを役割としてきましたが、令和6年4月からは、これらに加えてGHからの自立生活移行(卒業)を支援することも役割に加えられました。具体的には、GH入居中から自立生活を想定して、食事づくりや掃除洗濯、お金や薬の管理が自力で対応できるかどうかのアセスメント(状態確認)や、退去後の住まい確保などを行うこととなります。特にアセスメントに関しては、退去する時点からスムーズにヘルパーサービスを使えるよう、必要な支援や分量などを明確にしておく狙いがあります。

そして、法改正に連動して報酬改定では自立生活への移行を支援した際に算定できる「自立生活支援加算」を大幅に拡充して、上記のアセスメントや退去後の住宅確保、さらには自立生活へ移行した後に3か月程度の相談対応や食事提供といったアフターフォローをすると、最大で12万円の基本的な加算が得られるようになりました(GHの支援体制によっては、さらなる加算も設定されています)。また、GHの入居者がすべて卒業を希望する場合には、その住居を「移行支援住居」として位置付け、重点的な移行支援を提供することで、最長で3年間の加算を算定することも可能となっています。

こうした報酬の見直しにより、GHからも地域生活へ移行する人が増えていくことが期待されますが、そうなると今度は知的障害者の地域生活支援体制が整っているかどうか、問われることとなります。一人暮らしできる住宅はあるのか、家事援助のヘルパーは利用できるのか、緊急時に駆けつけてくれる支援(自立生活援助や地域定着支援の相談など)はあるのか・・こうした支援体制の整備は、個々の事業所で担うというより、地域全体の問題です。必ず自立支援協議会で議論されるよう、市区町村へ働きかける必要があります。

今回の報酬改定では、この他にも処遇改善加算の見直し、障害者虐待防止対応の強化、児童発達支援センターを中心とした障害児通所支援の機能強化と質の向上、生活介護における時間単価の導入など大きな動きもありました。今回は知的障害者に直接の影響がある分野を中心に取り上げましたが、広く報酬改定の内容にも関心を寄せていただければと思います。

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