一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会 顧問 |
コラムをご愛読の皆さま、こんにちは。
連載最後は、自身も重い障がいの息子さんをもつ、全国手をつなぐ育成会連合会顧問による手記のご紹介です。意思疎通は簡単ではないけれど、「実はいろいろと分かっている」と気づかされる微笑ましいエピソードを中心に、生の声をお届けします。ぜひ、福祉施設の経営者や職員の皆さまにとって、日々の施設運営や障がいのある方々へのサービス提供における励みとなれば幸いです。
我が家の息子は障害程度区分6の最重度障害者で50歳になります。
着替え、食事、トイレ、お風呂など全てに支援が必要で、言葉はありません。
しかし、小さい時から最重度なのに時々エッ!!と思うことをします。
目も悪いので、何でも極端に近づいて見ます。テレビもかぶりつきで見ています。
ある日夫が寝ころびながらリモコン片手にテレビを見ていましたが、あまりにもチャンネルをコロコロ変えるので、一緒にテレビを見ていた息子が、振り返って夫の手からリモコンを取り上げて縁側に投げてしまいました。夫は「アッ?すまんな〜」と謝っていましたので、そのやり取りを見ていた私と娘は噴き出してしまいました。私たちも迷惑に思っていましたので、チョット胸のすく思いをした出来事でした。
食事の場面では、息子はお箸は勿論のことスプーンやフォークも使えません。
そのため、家庭では食事の用意が出来て息子を食卓に連れて来ると直ぐに手づかみで食べようとしますが、学校や施設では皆と一緒に「いただきます」と言うまで手を出しません。
夫は「何故ここではこんなに賢くしているのだ?」と不思議がっていました。
私たちも家庭以外での行動は少し気を使って行いますし、同じことをするのでも家庭に帰ってからの行動は少し違うと思います。最重度の息子も私たちと同じように、家の外よりも中ではホッとして少しゆるい(好きなことを好きにおこなう)行動を教えなくても行っているようです。
場所の違いを肌や雰囲気で分かっていて使い分けているのです。
学校や施設に新しい先生や職員さんが来られると、わざとチョットしたいたずらをしたり、困らせることをします。これは新しい先生や職員さんがどのような対応をするか試しているのです。
ですから、4月、5月は彼にとっては面白い月日で、新しい先生や職員さんにとっては、試練の時になります。
そんな日々を通して息子は好きな人(先生や職員さん)、そうでもない人を見つけて、楽しく暮らせる方法を見つけているのだと思います。
我が家の息子は動物がとても好きです。ペットショップに行くと何時間でも動物を見ています。そのため我が家は代々捨てられた犬を飼ってきました。
ある日、我が家の犬が雌犬なので、野良犬の雄がうろうろしはじめたとき、家の外にいた息子がかまれては大変だと思い、急いで息子の下へ行ったのと野良犬が息子に近寄って来たのと同時で、ちょうどその時息子の方が野良犬の耳を噛んでしまい、野良犬はキャンキャンと泣きながら走って逃げて行きました。
それ以来、その野良犬は二度と我が家の雌の飼い犬の下には現れませんでした。
同様に奈良の大仏を見に行った時は、鹿せんべいを持っている人には鹿が群がっていましたが、息子が鹿せんべいをさし抱いても、一頭も鹿は食べに来なくてチラッと見て素通りして行きました。
夫とは「鹿は賢い!」と意見が一致した出来事でした。
重度の障害があり言葉が無いため息子としては自分の思いを伝えられない、この思いに対して、周りの私たちは家族であっても息子の気持ちが分からない時もありお互いにモヤモヤするときもあります。
息子はモヤモヤだけではなくイライラもしているのだろうと思います。
そんな時は、先ず息子の好きな(落ち着く)ことをするように私たちが心がけています。
そのうえで、アレが欲しいのかな?何がして欲しいのかな?と考え試してみています。
よく観察していれば比較的早く検討がつきます。
私たち家族は大変な時もありますが、息子がいてくれたおかげで、家族みんなが息子の事が大好きで楽しい生活や思い出も沢山あります。
息子は自分が行った仕草で皆が笑うとエヘヘと笑いながら何度も繰り返したりしますが、妹に「何度もすると面白くなくなる!」と言って止められたりしています。
息子をはじめ重い障害のある方でも結構わかっていることがあり、思いや意思があり、そして、迫力のある絵画や独特の感性を持っていて、素晴らしい芸術作品を作る方も沢山おられます。
皆様のコミュニティの一員として見守り、少しのご配慮をいただけたら嬉しく思います。
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