宅配便のラストワンマイル
最寄りの物流事業者の拠点と家庭を結ぶ最後の区間を「ラストワンマイル」と呼びます。通販市場がさらに拡大したとき、ラストワンマイルをどうするのか、が大きな課題になってきました。宅配便ビッグバン時代と言っている人もいます。
ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の3社が、宅配便だけに限っても9割以上のシェアを占めています。この3強の中で、日本郵便に注目すべき動きが見えるように思います。ゆうパケットという新しいサービスを始めたり、大きな拠点展開を急速に進めたりしています。
2015年の5月に、埼玉県和光市に東京北部郵便局という新しい拠点がオープンしました。これまでは、駅前など鉄道の便の良いところに、日本郵便の大きな拠点がありました。しかし、もうそういう時代ではありません。駅前には大型トラックが入れる場所もなければ、交通渋滞も発生します。
ユニバーサルサービスという使命を負った日本郵便は、地域で分散して行っていた業務を東京北部郵便局のような「スーパーハブ拠点」に集約しようとしているのです。すでに、北海道、静岡、新潟、山口、岩手にスーパーハブ拠点新設の計画が発表され、3年間で2600億円の投資を予定しているといいます。もし1拠点に100億円としたら26か所という計算になりますね。数については正式に発表されていませんが、十数か所は間違いないだろうといわれています。これにより、日本郵便のラストワンマイル対応力が大きく上がることになり、キャパシティアップにも期待がかかります。
物流倉庫で稼働する無人搬送ロボット
経済産業省が発表した2014(平成26 )年の日本国内の「消費者向け電子商取引」市場規模は12.8 兆円で、前年に比べ14.6%増という大きな伸びを示しています。
電子商取引を行う通販事業者は、運んでもらわなければ商売にならないので、物流事業者に大きく依存していました。そのため、日本の企業も、アマゾンも物流事業者の値上げ要求を拒めませんでした。彼らはこの状況を打開しようと、自力によるラストワンマイルの確保を目指し始めています。ある人は、アマゾンは世界最大の物流事業者への道を歩みだしたと言い、物流企業の最大のライバルはアマゾンになるだろうという声も聞かれます。
アマゾンは2012年にKiva Systemsというロボット技術の会社を買収し、独自の無人搬送システムを実用化しています。YouTubeなどで映像を見られますが、倉庫の床にバーコードが貼ってあり、無人搬送ロボットがそれを読みながら位置補正をして、必要な商品の入った棚をピッキングステーションまで運んできます。そして、ここで人が商品を取り出して発送の手続きをします。類似したしくみが日本でも動き始めています。日立製作所が「Racrew(ラックル)」という無人搬送ロボットを開発し、それを活用したピッキングのシステムが動き出しています。
ただし、日本のようにあまり広くない多層階のセンターに、このようなシステムを導入するのは結構大変だという意見もあります。アメリカのような広大なワンフロアのセンターであれば、ロボットが走っていって、広いスペースにずらりと並んだ棚から商品を持ってくるのは、容易かもしれません。
ラストワンマイルにドローンは可能か?
アマゾンは、「プライム・エアー」と名付けた無人配達航空機の開発を進めています。いわゆる「ドローン」です。インターネットなどで、その写真をご覧になった方もいるでしょう。アマゾンは飛行計画まで作っていて、航空機とは区別した高度やルートで安全運行をしようと考えています。ただし、日本も含め世界各国で、航空法がまだドローンには対応していません。法整備への取り組みが始まっていますが、その基本は、操縦者(運転者)が自分の見える範囲でなければ飛ばしてはいけないという方向になると思われます。そうなると、アマゾンが考えるように物流センターから飛ばして、何キロも先に荷物を届けることが可能なのかどうか、それについては法整備と安全面を含めて考えていく必要がありそうです。
日本のEC(電子商取引)化率は、4%前後といわれています。従来の小売専門の業者が、インターネットで注文できるサービスを拡大していくと、EC化率は少なくとも10%~20%になるでしょう。配達する荷物の量が今の2倍~4倍になったとき、誰が届けるのでしょうか。
お話したように、直ちにドローンに運んでもらうのは難しいでしょう。現実的な方法として、すでに宅配便の業界では、コンビニでの受け取りをどんどん拡大しています。営業所でも取り置きができるようになっています。このように、自分で取りにいくというのが1つの方向性です。アメリカでも、配送は自分自身が取りにいく、あるいはその人に近所の人の荷物も届けてもらうような方法が模索されているようです。
私個人としては、鉄道と駅をうまく活用したらよいと考えています。電車の最後尾の車両かどこかに、カゴ車2~3台を置けるスペースを設けられれば、電車で駅まで運び駅で受け渡すしくみが作れるのではないか、と思っています。
ドローンで資材の無人管理
先ほど触れたドローンの利用について、少し掘り下げてみましょう。
ドローンにもいろいろなタイプがありますが、よく見るのはプロペラが複数付いたマルチコプターと呼ばれるタイプです。日本でも以前から農薬散布用に、無人ヘリコプターというドローンが使われてきましたが、いま用途が大きく拡がろうとしています。
一例を挙げると、プラントの資材管理があります。広い資材置き場に置かれた在庫資材の1つ1つにICタグを付けておき、ドローンを飛ばします。ドローンは上空から資材に付けられたICタグの情報を読み取って、どこにどんな資材がいくつあるか把握します。これから使う資材が必要なだけあるかどうか、歩いて見に行かなくてもわかるようになるのです。
橋のメンテナンスにも使えます。橋に歪みなどを検知するセンサーとタグを付けておき、ドローンを飛ばして橋の構造に異常がないかを探るのです。このところ、マルチコプターを制御する技術が飛躍的に進歩し、廉価で高機能なドローンの製造が可能になったことが、今のブームを後押ししているようです。