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【中小食品メーカーのマーケティング戦略】 第9回:ブランドが生み出す4つのチカラ

2022/12/20 [食品,コラム]

「中小食品メーカーのマーケティング戦略」がテーマの連載コラム。地域や中小企業のマーケティングを主な研究テーマとして各方面で活躍する、静岡県立大学教授の岩崎邦彦氏によるわかりやすい解説コラムです。

はじめに

ブランドは、マーケティングにおける最強の武器といわれる。
今回は、ブランドが持つ力を具体的にみていこう。

まず、次の質問に答えてほしい。

まったく同じ味、同じ価格の2つのコーヒーがあるとします。
1つには、「スターバックス(STARBUCKS)」と書いてあり、
もう1つには、「スターコーヒー(STARCOFFEE)」と書いてあります。
あなたは、どちらを選びますか。

全国1,000人の消費者に聞いてみた。
その結果、回答者全体の92%が「スターバックス」を選んだ。「スターコーヒー」を選んだのはわずか8%である(図表1)

図表1:選ばれるのは、強いブランド

図表1:選ばれるのは、強いブランド
出所)「世界で勝つブランドをつくる:なぜ、アメーラトマトはスペインで最も高く売れるのか」

ブランドの力1「数量プレミアム」

この調査結果からわかるとおり、品質、価格がまったく同じだとしても、選ばれるものと選ばれないものがある。

選ばれるのは、強いブランドだ。ブランドが「タイブレーカー」(試合で同点のときに勝ち負けを決める延長戦)と言われるゆえんである。

ブランド力が強くなれば、顧客数が増加する。これがブランドの「数量プレミアム」だ。

ブランドの力2「価格プレミアム」

次に、ブランドと価格に関する実験結果を紹介しよう。
実験の方法は、下記のとおりである。

まず、1,000人の消費者を無作為に2つのグループに分ける。
第一のグループ500人には、コーヒーカップに「STARBUCKS」と書いてある写真を見てもらった。
第二のグループ500人には、コーヒーカップに「STARCOFFEE」と書いてある写真を見てもらった。
いずれのグループも、ブランド表示を除けば、まったく同じコーヒーの写真を見ている。両グループには、次の質問をした。

このコーヒーをカフェで飲む場合、一杯いくらまで出せますか?

結果をみてみると、Aグループの支払意思額の平均値は「317円」だが、Bグループの平均値は「263円」だ(図表2)。

同じ商品であったとしても、ブランド表示の違いだけで、支払意思額が2割も変化するということだ。強いブランドは、消費者の知覚品質を高め、支払意思額を向上させる。

ブランドによる支払意思額の向上、これが「価格プレミアム」である。

図表2:強いブランドは、消費者の知覚品質を変える

図表2:強いブランドは、消費者の知覚品質を変える
出所)「世界で勝つブランドをつくる:なぜ、アメーラトマトはスペインで最も高く売れるのか」

ブランドの力3「リピート効果」

「数量プレミアム」「価格プレミアム」に続く、ブランドの3つ目の力は、「リピート効果」である。

図表3をみてほしい。
ブランド力が強い企業ほど、リピート顧客の比率が高いことが明らかだろう。

消費者の視点からも、ブランドのリピート効果をみてみよう。
図表4は、消費者が認識するブランド力の強さと、その商品の継続利用意向をみたものである。ブランド力が強い商品ほど、消費者の継続利用意向が高いことは明らかだ。

「また買いたい」「また食べたい」「また行きたい」。
ブランド力が強くなると、顧客との絆が深まる。これがブランドの「リピート効果」である。

図表3:強いブランドを持つ企業ほどリピーターが多い

図表3:強いブランドを持つ企業ほどリピーターが多い
注)数字は、リピート顧客比率(5ポイントスケール)の平均値
出所)「世界で勝つブランドをつくる:なぜ、アメーラトマトはスペインで最も高く売れるのか」

図表4:強いブランドは、消費者のリピート意向が高い

図表4:強いブランドは、消費者のリピート意向が高い
注)数字は、5ポイント尺度の平均値
出所)「世界で勝つブランドをつくる:なぜ、アメーラトマトはスペインで最も高く売れるのか」

ブランド力と業況の関係をみてみよう

以上、強いブランドは、「数量プレミアム」、「価格プレミアム」、「リピート効果」をもたらす。
つまり、ブランド力が強くなれば、顧客数が増え、単価が向上し、リピート顧客が増えるということだ(図表5)

図表5:強いブランド=「数量プレミアム」×「価格プレミアム」×「リピート効果」

図表5:強いブランド=「数量プレミアム」×「価格プレミアム」×「リピート効果」
出所)「世界で勝つブランドをつくる:なぜ、アメーラトマトはスペインで最も高く売れるのか」

この3つの相乗効果によって、強いブランドは、企業に好業績をもたらしてくれる。
このことは企業のデータからも明らかだ。
図表6をみてみよう。ブランド力が強い企業ほど、業況が良いことが分かるはずだ。

図表6:強いブランドを持つ企業ほど業況がよい

図表6:強いブランドを持つ企業ほど業況がよい
注)業況は、「非常に不振」1 〜「非常に好調」7 とした7ポイントスケール
出所)「世界で勝つブランドをつくる:なぜ、アメーラトマトはスペインで最も高く売れるのか」

コロナ禍で浮かびあがったブランドの第4の力

コロナ禍によって、中小企業の多くが深刻な影響を受けた。

だが、その中でも例外的に、コロナ禍の悪影響を受けにくい企業群が存在する。
これらの例外の企業群にある共通性、すなわち「例外中の共通性」にこそ、将来的な外部環境の変化に対応するために欠かせない条件があるはずだ。

コロナ禍中に全国の中小企業を対象に実施した調査結果をみてみよう。

業態に関わらず共通して浮かび上がってきた条件のひとつが、「ブランド力の強さ」である。

図表7からも明らかなとおり、ブランド力が強い企業ほど、コロナ禍の悪影響は少ない。強いブランドには、「環境変化対応力」があるということである。

図表7:強いブランドを持つ企業ほどコロナ禍の悪影響が少ない

図表7:強いブランドを持つ企業ほどコロナ禍の悪影響が少ない
注)数字は「コロナ禍の悪影響は甚大」1 〜「悪影響は少ない」6 とした尺度の平均値
出所)「世界で勝つブランドをつくる:なぜ、アメーラトマトはスペインで最も高く売れるのか」

現代は、環境の変化が激しく、先が読みにくい時代だ。コロナ禍など、外部環境の変化は突然訪れる。このような時代において、外部環境変化への対応力を生み出してくれるブランドの意義は、これまでにも増して高まっているはずだ。

以下、強いブランドがもたらすメリットをまとめておこう。

  • 「数量プレミアム」:ブランド力が強くなると「顧客数」が増える
  • 「価格プレミアム」:ブランド力が強くなると「顧客単価」が増える
  • 「リピート効果」:ブランド力が強くなると「リピーター」が増える
  • 「環境変化対応力」:ブランド力が強くなると「環境変化への対応力」が高まる

これら4つのチカラの“掛け算”で強い企業が生まれる。

繰り返そう。ブランドは、マーケティングにおける最強の武器である。
中小食品メーカーにおける積極的なブランドづくりの取り組みに期待したい。

引用文献:
岩崎邦彦「世界で勝つブランドをつくる:なぜ、アメーラトマトはスペインで最も高く売れるのか」(日本経済新聞出版社)

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静岡県立大学 経営情報学部 教授
岩崎 邦彦 氏

静岡県立大学 経営情報学部 教授・学長補佐・地域経営研究センター長 博士(農業経済学)。専攻は、マーケティング。とくに、地域や中小企業に関するマーケティングを主な研究テーマとしている。これらの業績により、日本観光研究学会賞、日本地域学会賞、世界緑茶協会 学術研究大賞、財団法人商工総合研究所 中小企業研究奨励賞などを受賞。
著書に、「地域引力を高める 観光ブランドの教科書(日本観光研究学会観光著作賞)」「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」「小さな会社を強くするブランドづくりの教科書」「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」(いずれも日本経済新聞出版社)などがある。
公職は、静岡県地域づくりアドバイザー、中小企業診断士国家試験委員、世界緑茶協会世界緑茶コンテスト審査委員、近江米振興協会オーガニック近江米ブランディングアドバイザーなど多数。

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