デジタルビジネスの現状とは
最近よく聞くキーワードに、「AI」「IoT」「ビッグデータ」「デジタルトランスフォーメーション」「働き方改革」というものがあります。
これらは、一つ一つが独立したトレンドではなく、それぞれ密接に関連しています。
従来のITといえばコンピュータとソフトウエアだけを考えればよかった。ところが、インターネットが普及し、クラウドコンピュータやビッグデータという概念が瞬く間に広がり、IoTという概念が生まれ、AIが急速に進化してきた。これらが全部つながって、デジタルトランスフォーメーション(ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でよい方向に変化させる)という考え方が広まっています。
たとえば、エレベータのメンテナンス会社の場合。センサーを増やしてエレベータの状態をリモートで把握できるようにすれば、故障する前に修理したり、あらかじめ必要な部品だけを用意して保守点検に出向くことができる。AIを組み合わせれば、さらにいろいろなことができるようになるでしょう。
AIは、学習をしなければ使えるようになりません。学習には大量のデータが必要です。大量のデータを集める手段の一つがIoTです。今、IoTで集めたデータをどのようにAIと組み合わせ、活用範囲を広げていくか、AIを活用していかに自社のサービスを充実させるか、AIでいかに新たなビジネスを生み出すかが問われる時代になっています。
物売りからサービスの提供へとビジネスモデルの変化も起こっています。それに伴い、サブスクリプションビジネス(提供する商品やサービスの数ではなく利用期間に対して対価を支払う方式。定額制とほぼ同義)のような、新しいビジネスのプラットフォームもできつつあり、急速に広がる気配を見せています。
ITで何ができるようになったのか
2017年6月に週刊BCNの記事にも掲載しましたが(参考)、日立製作所が工作機械メーカーのオークマと共同で、材料の搬入から製造まで、工場の無人化モデルを作りました。これを自社で利用するだけでなく、新たなビジネスとして横展開し、パッケージ商品として売っていくということで、これはまさにIoTの典型的な事例だと思います。
小売業の世界でも面白い事例ができています。2018年1月、アメリカのシアトルで、アマゾン・ゴー(Amazon GO)がオープンしました。ネットショッピング最大手のアマゾンが、初めてリアル店舗を、それも無人店舗を作ったことで話題になりました。
この店舗にはレジはなく、買い物客は、スマホでアプリを登録していれば店舗に入場でき、棚から好きなものを取るだけで店舗を出るときに自動で精算されます。
どのような仕組かというと、アマゾン・ゴーの場合、タグをつけるなど商品自体には手を加えないで、店内のいろいろな所にカメラやセンサーを配置し、顧客の情報を収集しAIを活用して、どの客が何を持ち出したかを判別しています。
リアル店舗のノウハウを持たないアマゾンだからこそ、ゼロベースから理想のリアル店舗を作ることができました。
2018年3月に、「リテールテックJAPAN 2018」(日本経済新聞社主催)が東京ビッグサイトで開催され、日本のITベンダーも、リアル店舗向けにセルフレジや自動決済のシステムなどを展示していましたが、それらは、商品にRFIDのタグをつけて清算や棚卸を効率化するとか、ロボットやドローンを使って在庫管理を省力化するなど、今ある課題にピンポイントで答えていくという発想です。ここがゼロベースから発想したアマゾン・ゴーとの大きな違いだと思いました。
出展企業の方にアマゾン・ゴーについて聞いてみましたが、「技術的にはアマゾン・ゴーと同じことはできるが、投資対効果が見合わない」という答えが聞かれました。確かに、大手のアマゾンだからできたことかもしれません。
国内のベンダーのソリューションは、目新しさはないかもしれませんが、現場の課題に寄り添ったもので、今ある課題にピンポイントで効果がある。その意味では、新しくないから良くないとは言えないと感じました。
こうしたIoT事例は、最近話題の働き方改革にもつながる話です。
働き方改革とデジタル革命
1つは、国策として必要だということ。つまり企業コンプライアンスの視点からせざるをえない。次に、労働人口の減少、国力の低下、業績の低下を防ぐために取り組まざるを得ない。生産性を上げ、イノベーティブな仕事ができる環境を作らなければならない。求人面でも、働き方改革をしない企業には人が集まらなくなっている。また、個人レベルで見ても、長時間労働は、健康面などいろいろな悪影響がある。
様々な要素から、働き方改革は、「やったほうがいい」というより「必要なこと」に変わってきています。
週刊BCNでは経営者にも多く取材をしていますが、先進企業のトップの方々は皆、働き方改革は単なるコンプライアンス対策ではなく、企業を成長させるための戦略だと断言しています。業務を効率化し、生産性が高くイノベーティブでサステナブルなビジネス環境を実現する、それが働き方改革の本質だととらえている。
週刊BCNの誌面でも紹介しましたが、日本マイクロソフトの働き方改革では、自社で様々なソフトを開発し、働き方改革を推進しています。(参考)
働き方改革には、柔軟な働き方ができる環境整備が必要です。そのためには、モビリティとクラウドコンピューティングは不可欠な要素です。今やクラウド関連ビジネスが国内売上の50%を占めるというマイクロソフトは、働き方改革のムーブメントに乗って、自社の働き方改革を実現しつつ自らのビジネスをも成長させていると言えます。
さらに、デジタルトランスフォーメーションを構成するさまざまな技術も働き方改革には密接に関わっています。
AI+RPA+ERPで何ができるか
今、第3次AIブームと言われています。ブームが盛り上がり始めた頃は、AIがあれば何でもできると皆信じていました。しかし今は、だんだん現実的な落としどころが見えてきたという段階ではないでしょうか。
週刊BCNでも「Watson 都市伝説のウソとホント── AIブーム立役者の現在地」という記事で特集したのですが(参考)、たとえば、Watsonのすぐれた自然言語解析能力を活用して、チャットボットのようなシステムや、接客ロボットに使われるといった、落としどころが見えてきました。
AIブームの流れとともに、RPAも今、非常に関心が高まっています。PRAとAIを合体させた造語、「RPAI」を使って、「RPAI AIとロボットの交差点「人ロ知能」(じんろちのう)」という記事を2017年2月に週刊BCNにも掲載したのでぜひご覧いただきたいのですが(参考)、RPAとAIを組み合わせると、自動化できることがさらに広がっていくと考えています。
RPA(Robotic Process Automation)は、業務プロセスの中のデータの流れを自動化するシステムですが、何かを判断することまではできません。そこにAIを組み合わせることで、さらに自動化できる範囲が広がり、業務効率化が進む可能性が見えてきました。今、多くのITベンダーたちが研究・開発を進めているところです。
同じく2月に、週刊BCNで「ERPAの時代は来るか」という特集を組みました。(参考)
ERPAとは、ERP(基幹系情報システム)とRPAを組み合わせた造語です。
大企業では、すでにRPAの導入がひと段落し、現在はRPAによって稼働する範囲=デジタル・レイバー(労働者)のさらなる拡大・高度化に取り組むフェーズに入っています。
ベンダー側でも、ERPとRPA、AIを組み合わせたパッケージツールの開発を進めています。
たとえば、
・受発注伝票の起票
・webページの読み込み
・OCRを活用した帳票の読み込み、入力
・マスター登録
・定型レポート/データ出力・加工・再登録
・データ交換
など
ERP周辺の業務にRPAを活用したパッケージ商品。伝票入力を人の代わりにRPAがすることで、作業の精度、即後が大幅に向上。CSVデータの取り込み、エラーチェック処理、取引伝票の企業などもRPAで自動化できます。新たなEDI(取り込み機能)連携を開発する必要がなく、導入後のメンテナンスも簡単です。
あるいは、チャットツールとERPパッケージ、対話型AIエンジン、RPA技術を連携させたソリューションの場合。これによって、営業担当が顧客を訪問する前に、その会社への納期や請求情報を問い合せたり、業務処理を指示したりなどを自分のスマートホンからチャットツール経由でERPのデータにアクセスして実現できるようになります。
量子コンピュータの登場
量子コンピュータにも注目が集まりつつあります。週間BCNでも2017年11月に取り上げました。(参考)
量子コンピュータは、「ゲート方式」と「イジングマシン方式」という二つの方式があります。ゲート方式は、IBMがリードしていますが、イジングマシン方式では富士通など国産勢も健闘しています。AIを劇的に進化させる可能性を秘めており、将来への期待が大きい分野です。
ブロックチェーンの可能性
もう一つ、新しい技術として注目したいのがブロックチェーンです。
週刊BCNでは2016年5月に2週連続、2017年5月にもブロックチェーンを取り上げ、定期的に読者に情報提供しています。(参考)
最大の特徴は、技術自体に信用を担保する仕組みを組み込んでいること。組織と信用の分離が実現できる。ビットコインのコアの技術として生まれました。
ERPにブロックチェーンを使った機能を付加するという試みも出てきており、まだPoC(Proof Of Concept=概念実証)段階ですが、決算業務の迅速化と省力化を可能にすると期待する声もあります。
デジタルトランスフォーメーションの方向性
デジタルトランスフォーメーションを実現するキーになる技術と基幹業務システムを組み合わせ、基幹業務システムの価値を高めていこうという取り組みは、ブロックチェーンに限らず出てきています。
1. 仕入れ先選定で、過去の取引履歴や信用情報、マーケットニュースなどのデータを加味して自動的に最適な仕入先をサジェストしてくれる。
2. 新しい入金情報や未処理の請求書情報を取得し、ルールに一致するものは自動処理し、確認が必要なものは担当者にレビューを促す。
IoTとERPを組み合わせることで、あらゆる領域でスマート化が進みます。
分かりやすい例の一つがスマートファクトリーです。サプライチェーン全体を可視化して、AIと組み合わせることで、自動化できる範囲は拡大していきます。
ビジネスにおけるデジタルトランスフォーメーション
デジタル革命とERPの融合により、業務の自動化範囲が拡大し、生産性が向上します。それは働き方改革につながります。
また、ビジネスのあらゆるプロセスをデジタル化することで、それを横展開して新しいビジネスを創出する可能性にもつながる。
これらが、ビジネスにおける、デジタルトランスフォーメーションだと考えます。
取材を通して実感するのは、デジタルトランスフォーメーション成功の秘訣は“協業”に尽きるということ。前述の日立製作所の例のように、いかに他企業と協業し、新しい価値を生み出すかといった視点がこれからは必ず必要になってくると考えています。