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【内田洋行ITフェア2018in東京】 介護施設のICT化 〜ICT活用で介護はどう変わる〜

2018/12/13 [福祉,セミナーレポート]

超高齢化社会が到来し、今後ますます介護分野の重要性が高まります。その一方で、少子高齢社会で人材不足が深刻化しています。労働力人口が減っていく中で、増え続ける介護需要に応えるには、介護の現場でのICTを活用した業務効率化が必要です。ICT活用による効率性と質担保の両立を図る重要性や、介護におけるICT化のメリットや課題、導入を成功させるコツなどについて紹介します。

目次

  • 国が本腰を入れて介護・福祉のICT化を進める
  • 70歳までのシニア層を雇用するためにもICT化が必要
  • 見守り機器を導入したら作業時間が減り質も向上
  • 情報を共有することで夜間の精神的負担を軽減
  • クラウド化すればどこにいても記録を確認できる
  • ITコーディネーターを採用し激しい変化についていく
  • どの作業を機械にやらせるか
  • 機器やシステムの導入が到達点ではない

内田洋行ITフェア2018in東京にて

社会福祉法人 梅仁会
理事長
阿比留志郎 氏

社会福祉法人理事長職・養護老人ホーム施設長を兼務。社内業務のシステム化に興味を持ち、長い間、SEとの協議を繰り返してきた。

国が本腰を入れて介護・福祉のICT化を進める

福祉施設や介護施設のICT化の中身は、それぞれの地域や事業所によって大きく異なるでしょう。私は、長崎県の離島、対馬で社会福祉法人を経営しています。対馬は、都市部に比べると、通信インフラが遅れていて、このような環境の中で私どもはこれまで積極的にICT化に取り組んで来ました。今日は、そのことについてお話しします。

当法人は昭和51年(1976年)に設立されました。現在、対馬に7拠点を設け、16区分のサービスを提供しています。沿革については次の通りです。

介護や福祉のICT化においては、まず国が考える制度設計の方向性を捉えることが大事です。そうしないと、先が見えてきません。

今、首相官邸で「未来投資会議」という会議が断続的に開かれています。議長は内閣総理大臣で、経済産業大臣や厚生労働大臣などの国務大臣などが出席します。この議論の場で用いられている資料を見ると、国が考える介護や福祉におけるICT化の方向性は「省力化」「効率化」「労働力」の三つだとわかります。

今、「データヘルス改革」という言葉が聞かれるようになっていますが、2017年4月の未来投資会議で厚生労働大臣が配布した資料を見ると、国はこのデータヘルス改革を通して「国民が、世界最高水準の保健医療サービスを、効率的に受けられる環境を整備」したいと考えています。その方向性は、「最先端技術の活用」「ビッグデータの活用」「ICTインフラの整備」の三つで、2020年度に「健康・医療・介護ICT本格稼働」することを目指しています。次の介護報酬の改定では、このICT化を絡めて制度を構築する流れとなるでしょう。

70歳までのシニア層を雇用するためにもICT化が必要

介護・福祉事業所では働き手の確保という問題があります。この働き手の確保とICT化は、関係ないと思われるかもしれませんが、実は関係があります。

2018年10月の未来投資会議で厚生労働大臣が配布した資料には、「更なる高齢者雇用機会の拡大に向けた環境整備」という文言が出てきます。さらに、誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現には、多様な就労や社会参画の中で高齢者雇用を拡大する環境を整備し、同時にロボット・AI・ICTなどの実用化を推進し、データヘルス改革を進める必要性があるとも示されています。

未来投資会議の資料を見れば、「介護・看護・保育等の分野において、介護助手等としてシニア層を活かす方策の検討」と書かれています。今やっている作業を分散して「介護助手」というものを作り、シニア層も働ける環境を介護の分野で整えようと国は考えているわけです。

しかし、作業を分散化すれば、情報共有が必要となります。これは難しいことなのですが、ICTをうまく活用することが求められるでしょう。この資料で「ICTの活用等を組み合わせた業務効率化のモデル事業を今年度中に開始。効果を検証の上、全国に普及」と記されています。

見守り機器を導入したら作業時間が減り質も向上

北九州市は、国家戦略特区の取り組みとして、「介護ロボット等導入実証事業」に取り組んでいます。

この実証事業では、介護ロボット等を導入する前と後で、どのような変化が生じたのかを観察し分析しています。介護ロボットの導入前の作業分析結果(時間的負担計測)を見ると、「食事・水分補給」の他に、介護記録や会議、見守り、巡回などの「職員の行動」に多くの時間が割かれていました。

そこで、見守り機器を導入し、介護職員が携帯しているタブレット端末で居室内の入居者を確認できるようにしたら、「居室の見守り」時間が大幅に減少しました。また、「寝具の手直し」が増えてしまったのですが、これは介護職員が入居者の寝姿を常に確認できるようになったことで、寝具がずれる度に手直しをするようになったからでした。介護の質が向上したとも言えるでしょう。

また、「介護動作を支援するロボットが必要」あるいは「人の替わりをするロボットの導入を検討」については、それぞれ次のような割合になりました。

職員の身体的な負担についても計測しています。行為の種類によって、4つのレベル「AC1(改善の必要なし)」「AC2(近い将来改善すべき)」「AC3(可能な限り早く改善すべき)」「AC4(直ちに改善すべき)」で評価しています。

AC3やAC4の多い作業は大きな負担が強いられる姿勢を要するものです。具体的には、体位変換や更衣・清拭(せいしき)、移乗・移動、排泄などの行為で、過度な負担がかかっているとわかります。このように計測して記録できると、改善すべき課題がはっきりと見えてきます。

情報を共有することで夜間の精神的負担を軽減

北九州市は平成28年度、5分野(移乗支援、コミュニケーション、見守り、歩行リハビリ、記録支援)で7機種14台の介護ロボット等を導入し、実証に取り組みました。

さらに平成29年度では、前年度の作業分析を踏まえて、導入ロボットを選定しました。

これらの国家戦略特区の取り組みで分かった効果と課題は次の通りです。

効果と課題(国家戦略特区の取り組みでわかったこと)

(1)効果
  • 見守り機器により、見守りや訪室等の介護時間と活動量を減少することが出来た。
  • 情報共有危機により、常時どこでも情報共有が出来たと共に、夜間の介護職員の精神的負担を軽減できた。
  • 移乗支援機器により、腹痛リスクが高い不良姿勢の改善と共に、高年齢者等の多様な人材活用の可能性を見いだせた。
(2)課題
  • 記録機器による介護時間削減には、介護記録の標準化(統一化)が必要。
  • ロボットの準備・操作時間の効率化。
  • ロボットの大きさや使い勝手などの改良。
(3)今後の対応
  • 効果の見込める機器の実用化に向けて、介護現場のニーズに即した開発・改良の支援をはじめ、介護ロボットを活用した介護技術の開発、高年齢者等の介護人材による介護ロボットの活用などに取り組む。

私が驚いたのは、インカムなどの情報共有機器を使うことで、夜間の介護職員の精神的負担を軽減できたということでした。特別養護老人ホームで建物の階数が多くなると、職員が一人で1フロアを見ることになりやすく、相談できる者がその場にいなくて大きな不安を抱えやすくなります。しかし、インカムなどの情報共有機器を導入すると、他のフロアにいる職員と相談できるようになり、精神的な不安が和らいだのでした。

クラウド化すればどこにいても記録を確認できる

当法人の取り組みについて話したいと思います。

当法人は、昭和50年代にシステム会社と連携し、会計システム電算化を始めました。もちろん、オフコンです。平成3年からは、入所者情報等データベース化に着手しました。この時点では、スタンドアローンのパソコン1台で運用をしていました。平成12年からLAN環境下でのデータベース化を図りましたが、事業所間ではつながってはいませんでした。

平成28年からクラウド化へ向けた取り組みを始めました。理由の一つは、外出の多い管理者の私が日々の記録データをすぐに見られるようにしたかったからです。事業所に行かないと見られないという状況は、記録データがますます重要になっていく流れの中では問題だと判断したのです。それと、システム管理者がいないことで生じる問題もなんとかしたいと思っていました。既存のクラウドを活用すれば、サーバーのシステム更新などの手間がなくなります。

クラウド化にあたっては、内田洋行に相談しました。まず平成28年12月、ニフティのクラウドサービスを利用して、接続テストを実施しました。当法人は離島の対馬にあるので、当時はまだ上限が30Mbpsの光インターネット回線しかありませんでした。この環境下で通信だけのデータ管理ができるかどうかを試しました。その後、内田洋行と何度も協議を重ねて、平成30年1月にクラウド環境を設定すると決めました。

実際にやってみると、速度が遅かったり、止まったりしてしまいました。調べると原因が2つあるとわかりました。サーバーを1台しか用意していなかったので、システムの処理とデータベースの処理を同時にすることになり、負担が大きく処理スピードが遅くなっていたのです。サーバーを2台で構成すると、当初より速く処理することが可能になりました。もう一つの原因は、施設内のLAN環境の設定にありました。最適化されていなかったのです。そこでいろいろと調整したところ、事業所内でクラウド環境を実現することができました。

現在、各事業所内にあるクライアントPCを使えば、サーバーにデータを見に行ったり入力をしたりできます。また、職員が持つタブレット端末でも、クラウド上の情報を共有できます。ただ、職員の持つ端末が増えてしまいました。PHSとナースコール用端末とタブレット端末の三つです。今の課題の一つは、これを一つの端末にまとめることです。

ITコーディネーターを採用し激しい変化についていく

介護や福祉のICT化に関わる機器はたくさんあります。説明を聞くだけでも多くの時間を要し、だんだんと「どれでもいいや」という感じになります。これではいけないので、当法人は「ITコーディネーター」を採用することにして、内田洋行を指名しました。今一緒になって、システムの効率的な運用を目指し、さまざまな業者と打ち合わせを重ねています。

今後、介護や福祉の業界は、さまざまな面で質の向上とともに効率化を図ることも求められています。システムをクラウド化して、モバイル端末を活用し、今後はIoTでいろいろなセンサーも活用しながら情報を取り、やがてビッグデータをどう取り扱っていくかも考えなくてはなりません。しかも、ITの機器は、とても速いスピードで変わっていきます。

ICT化を図るとき、経営者や管理者が一人で考えるだけでは限界があります。当法人がITコーディネーターを採用することにしたのは、専門的な見地に立ってアドバイスしてくれる人がどうしても必要だと考えたからです。内田洋行を指名したのは、データベースのシステムに内田洋行の高齢者介護システム「絆」を採用していたからです。当法人は、システムを構成する要素の中で、データベースを一番大事にしたいと考えました。ITコーディネーターを採用するときは、何を一番大事にするかを決めることが重要だと思います。

どの作業を機械にやらせるか

ICT化をするときに難しいのは、どこまで機器やシステムを入れるかという線引きです。要介護度が上がるほど、体温管理、心拍数、脈拍数、呼吸数、睡眠状態など、測定で必要になる重点管理項目は増えます。そのうちどこまでを機械にやらせるか。これを考えていくために、要介護度別の重点管理項目に対して、機械やシステムの依存度の関係をまとめてみました。

当法人の場合は、いろいろと検討した結果、現段階では青線で引いたところ(体温管理、心拍数、脈拍数)までを機械にやらせたいと考えました。そこで、離床・睡眠センサーを導入することを決めて、5社にプレゼンテーションをしていただき、次の表にあるC社のシステムを採用しました。システムとしての拡張性や基幹システム「絆」との連携がスムーズにでき、スマートフォンでも取得したデータをすべて確認できるという利便性が備わっていたからです。

今のシステムの概要は、次のようになっています。クラウド化したので、事業所間のデータ共有も可能になり、データの一元管理ができるようになりました。

機器やシステムの導入が到達点ではない

当法人がICT化を推進する背景には、深刻な人材不足と高い離職率があります。この対策をきちんと打ち出し、労働環境を一新しないと、良い人材はなかなか集まってくれないでしょう。私は、「職員の負担軽減」+「介護の質向上」+「誰でも働ける環境整備」=「先進的介護の実現」につながると考えています。

その実現には、情報の一元化が必要です。日頃から業務に関する情報を蓄積していく環境を整え、その蓄えた情報を誰でも見ることができるようにし、その共有情報をうまく活用できる環境も作っていく。そうやって、底上げをするように業務の標準化や専門性の担保を進め、機械化や合理化で業務の省力化と効率化を進めることが重要だと考えています。

また、当法人としては、理想のICTシステムを次のように考えています。

システム導入は、導入が到達点ではありません。また、システムに対する職員の向き合い方によっては、過度な負担を強いてしまうこともあります。いきなりベストの導入は難しく、それを目指すよりは、ベターな組み合わせをきちんと考えて導入していく方が、業務を煩雑化させずに済みます。

これから福祉業界や介護業界はICT化に向き合わないとなりません。事業所によって課題は異なるので、本日の話はあくまでも当法人に限ったことなのですが、やはりどの事業所も人材不足という課題があると思います。いつまでも手書きで記録を付けるようなやり方では、その課題の解決に限界があると思います。専門知識を持った信頼できるITコーディネーターから提案してもらいながら、最終的に全体がうまく機能するシステムを作る努力を積み重ねることが、将来的な発展につながると私は考えています。

まとめ

システム導入は、導入が到達点ではない。

たくさんある素材の中から、自分たちにベターな組み合わせを選択し、それを使う職員がシステムによる効果を実感できなければ、「ただの無駄・自己満足」で終わってしまう。専門知識を持った信頼できるパートナー(ITコーディネータ)からの提案と、充分な検証(協議)が必要。

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