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【福祉セミナー2018】 介護現場でのIoT、センサー活用について

2018/12/25 [福祉,セミナーレポート]

介護人材不足は喫緊の課題です。2035年には79万人が不足すると言われている介護人材を、外国人労働者では補完できません。そこで注目されているのが、IoT、センサーの活用です。施設でどのようにIoT、センサーを活用すればよいのか、活用によってどのような効果があるのか、実際の事例を紹介しつつ考えてみたいと思います。

目次

  • 介護現場における課題
  • IoT、センサーの可能性
  • テクノロジーの現場での活用に向けて

株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門高齢社会イノベーショングループ 部長
紀伊信之 氏

シニア・介護・リハビリテーションが注力テーマ。「介護・ヘルスケア分野のR&D戦略策定」(電機メーカー) 、「バイタルセンシングシステムの在宅分野への展開戦略」(メーカー)、「AI×介護分野の新規事業開発」(ICTベンダー)、「介護ロボットのチャネル戦略」(電機メーカー)などのプロジェクトを手掛けている。

介護現場における課題

最初に、介護現場の現状を見てみましょう。最大の課題は、介護職員の不足です。
以下のグラフを見てください。

左上のグラフは「有効求人倍率」の推移です。介護職は全職種の平均と比較して高く、上昇し続けています。特に首都圏では4倍を超えています。

対照的なのが看護師です。少し前は、看護師は人手不足の職種の代表格でした。一時期、看護師を手厚く配置している病院は高い診療報酬が取れるため、看護師は奪い合い状態でした。ところが最近では、全国的に病床を減らし入院日数を短くしていくという方針を国が明確に打ち出したため、看護師数がそれほどいらなくなった。また、看護師志望の人はわりと多く、新たに看護師になる人、辞める人の人数を差し引きすると、毎年年間3万人ずつくらい増えている。その結果、看護師に関しては、需要と供給のバランスが徐々に緩和されつつあります。片や介護職人材は不足のままで、改善する気配がない。

介護職の人材不足は今後どうなるのか。日本の人口構造から考えてみましょう。

下のグラフのピンク色は、15歳から65歳までの生産年齢人口を表しています。薄いみどりは75歳以上の後期高齢者、いわゆる「支えられる」世代です。濃い緑65〜75歳の人は微妙ですが、今後はおそらく働いて「支える」側になるでしょう。

約1,000万人いる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者に達するのが2025年、いわゆる2025年問題です。75歳?79歳で要支援・要介護になる人は14%程度です。本当に要介護の人が増えるのはそれからさらに10年後の2035年でしょう。この頃は、75歳以上が約2,200万人以上に増え、80歳以上が非常に増えている。一方で介護を含めて働くことができる年代の人口はどんどん減っていきます。

上図に示すように、厚生労働省の推計では介護職員は2025年に37万7千人不足し、経済産業省の推計では2035年に約79万人が不足するという。

しかし、ある介護事業所の社長に言わせると、これもかなり楽観的な数字です。厚労省の推計も経産省の推計も、介護職員が徐々に増える前提で出されているからです。しかし、現場の感覚としてどうでしょうか。介護職員が増えると考えられるでしょうか。単純に、今の人数で考えた方が現実的です。

現在、介護職員は180万人います。2025年に必要な介護職員は253万人です。ということは、今から70万人増やさなければなりません。2035年にはあと120万人以上の人手が必要です。

これを外国人労働者で補おうという話もあります。外国人技能実習制度が2017年から介護分野でも解禁になりました。日本で技能講習を受けた外国人が、日本の企業で技能実習として働くことが可能な制度です。しかし、これが解決策になるかといえば私は難しいのではと思っています。

高齢化が進み介護人材が不足しているのは日本だけではありません。香港、台湾、そして中国も急激に高齢化が進んでいます。このような中、あえて日本に来てくれる外国人がどれだけいるでしょうか。日本で資格を取っても日本語の壁があり、ハードルが高い。例えば、フィリピン人は英語を話せる人が多いので、香港で住込みの仕事をしたほうが働きやすく、収入も多い。さらに、介護の資格を取って本国に戻ったとしても、アジアの国々に介護の仕事がない。医療が整っていないし、長寿による介護ニーズが顕在化するにはまだ20〜30年はかかるでしょう。となると、日本で介護の技能を身につけるメリットがない。

そこで、テクノロジーの活用です。

国は、補助金をつけて介護ロボット開発・導入の支援を進めています。当初は、介護ロボットと言えば、移乗介助など力仕事をサポートするものが主流でした。しかし、実際の介護現場では、移乗だけが仕事ではありません。装着型のものは、ずっと装着していると他の作業の邪魔になり、実際はあまり役立っていない。

そこで国も2017年に介護ロボットの重点開発分野を1分野5項目拡大しました(下図参照)。力仕事だけでなく、センサー・IoTやAI活用を意識した内容が追加されています。

メーカーもそれに合わせて開発を進めています。これからもっと使いやすい物が出てくるのではと期待できます。

IoT、センサーの可能性

(1)新しいケアの形

今後、介護人材が不足するのは確実です。これ以上増えないのなら、仕事を減らしたり、仕事の中身を変える必要がある。それをAIやIoTでできるのではないか。

アプローチとしては、

  • 1.人の作業を、AIやIoTに置き換える
  • 2.仕事を作っている原因にアプローチ

という二つがあります。

1.人の作業を、AIやIOTに置き換える

現在、全国老人福祉施設協議会からの依頼で介護職の人がどのような作業にどれだけの時間を使っているかを調べています。

時間がかかっているのは、排泄周り、食事の介助、介護記録などですが、見回り・居室巡視、コール対応も、特別養護老人ホームの仕事全体の約1割を占めています。この作業を、先に述べた、「@人の作業を、AIやIoTに置き換える」ことができるのではないか。カメラやセンサーを使うことで居室状況をリアルタイム把握し、異常があれば介護職員のスマートフォンにアラームが飛んだり、ヘルパーステーションで見ることができれば、人が何度も巡視しなくてもよくなります。

コール対応も、居室に行かなくても利用者さんの状況がわかれば、すぐ駆けつけなければならないのか、ちょっと後でもいいのかが判断できます。

センサーでは、入居者の睡眠の様子、呼吸、心拍数など様々なことを測定することができます。

特別に巡回が必要な人だけ巡回し、あとはセンサーで監視する。これによって夜間のスタッフを減らすこともでき、その分、昼間のケアを充実することもできます。

以下は様々な施設でのセンサー導入による効果をまとめたものです。

入居者が「異常があれば来てくれる」ということから安心してコールをしなくなった、介護職員のほうも、いつコールで呼び出されるかわからないという不安から解消され、ゆとりを持って入居者のケアができるようになったなど、様々な効果が出ています。それが結果的に、離職の抑制にもつながっています。

一度、こういうテクノロジーが完備した施設に慣れると、そうでない施設で働くのは大変に感じます。おそらく今後は、テクノロジーがあることが普通になる。システムが入っていない施設は「あそこは働きにくい」と敬遠されるようになるでしょう。

現場の職員の負担を減らし、介護を充実させるだけでなく、人材の確保・定着を図る上でもIoTの活用は大事だと考えます。

2.仕事を作っている原因にアプローチ

次は、そもそも、仕事を作っている原因を減らすというアプローチを紹介します

センサーやIoTをうまく活用すると、ケアの仕事を減らすあるいは楽にすることにつながります。

ある施設で、入居者が夜中に徘徊し転倒するということが頻発していました。転倒する前に手を差し伸べて転倒を防ぐのは、水際の防止ですが、さらにさかのぼって、そもそもこの人はなぜ夜中に徘徊するのか、から考えてみます。

夜中に目が覚める原因は色々考えられます。日中の活動量の不足、起床・離床・昼寝のサイクルがうまくいっていない、排泄のリズム、薬の副作用、あるいは疾患が隠れている場合もあります。こういう原因を一つひとつ解決していくと、そもそも夜中に起きなくなります。

原因を突き止めるために役立つのがセンサーです。以下は、センサーによって、入居者の睡眠のリズムや活動のリズムを見える化するシステムです。

左上の図の青は睡眠時間を、黄色は活動時間を示しています。これを見ると、夜ちゃんと眠れている日、眠れていない日が如実にわかります。例えば、1週間の活動記録と照合すると、入浴、デイサービスなど日中の活動量が多い日はよく眠れていることがわかる。であれば、ケアマネージャーにそのデータを見せて「活動が足りていないのでデイサービスの日数を増やしましょう」など、データに基づいた提案ができます。

起床・離床時間を変えるだけで、睡眠が改善する場合もあります。高齢の方の睡眠時間は6時間程度あれば十分です。夜7時に食事をして9時に寝るのでは夜中に起きるのは当然です。消灯時間を遅くするだけで夜中の徘徊がなくなった認知症の方もいます。

昼寝の時間をなくして運動量を増やすと徘徊しなくなった、仰向けから側臥位に姿勢を変えただけで睡眠効率が上がったというケースもあります。

こうしたら良くなるのではないかという仮説を持って、さまざまなアプローチをし、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)のサイクルを回していくといいでしょう。

医師と話す場合も、なかなか主治医に処方箋を変えてほしいとは言いにくいものですが、このようなデータがあると説得力があります。

D Free(下図)は、膀胱にたまっている尿量をセンサーで測ることができ、尿がどのくらいのサイクルで貯まって行くのかを見える化できるセンサーです。

適切なタイミングでおむつ交換、あるいはトイレ誘導ができると、介護の仕事の多くを占める排せつ介助やおむつ交換が楽になる。あるいはその仕事自体が不用になる。センサーのデータをもとに、トイレ誘導をするようになって、最初はおむつだった入居者がおむつを外し、自分でトイレに行けるようになったという例もあります。

今後、在宅介護も増えていくと考えられますが、介護サービス+保険外サービスに加えて、IoT、センサーなどのテクノロジーを活用すると、在宅介護でできることもまだまだ増えていくと考えられます。

(2)専門性の補完

IoT、センサーの活用によって、急変や入院を減らすことにもつながります。

中重度者が増加すると、誤嚥性肺炎や、風邪、感染症などによる急変⇒入院の可能性が高まります。そうすると、入居者のQOL(Quality Of Life)の低下や施設の売上減にもつながります。

しかしセンサーで、呼吸や体温等の状況を把握しておくと、予兆に気づき迅速に対処することができます。

政府が発表した「未来投資戦略2017」には、【自立支援に向けた科学的介護の実現】が謳われています。しかし、「自立支援介護」の必要性が叫ばれる中、「リハビリ」の専門家である理学療法士や作業療法士はほぼ、介護の現場にいません。専門職がいない状況で、いかに専門性を高めるか。AIやエキスパートシステムの活用、理学療法士や作業療法士による遠隔アセスメントなど、ここでもテクノロジーの活用が不可欠となってくるでしょう。

テクノロジーの現場での活用に向けて

介護現場でのテクノロジーの活用には、お金の面でも若干のメリットが付き始めています。

2018年度介護報酬改定で、特別養護老人ホームでの見守り機器の利用に関して、0.1人分の「加算要件の緩和」という形で、介護報酬上にも位置付けられました。次の2021年の改定では、もう少し、メリットが出てくるのではないかと思います。

テクノロジーの活用に向けて大切なのは、センサーをどう使いこなしていくかです。

センサーによってさまざまなデータが見える化できても、施策がなければ意味がありません。

先程の睡眠の改善の例で言うと、どんな介入の仕方や改善パターンがあるか、入居者ごとに考えられるだけ書き出して、施設全体で取り組むということを現場に周知しました。そして、寝る時間を変えたか、運動量を増やしたかなどをチェックできる仕組みを作り、入居者一人ひとりの改善を目指しました。そこまでして、ようやく効果が出てきました。

どんなケアをしたいのか、施設長から現場まで施設全体で共有した上でIoTを活用していくことが大事です。センサーの活用に限らず、何のためにこれをやるのか、理念やビジョンを組織全体で共有しPDCAサイクルを回していく。やりっぱなしではなくちゃんと結果を見て検証する。ボトムアップで「改善」に取り組む風土や、率先し、やる気を引き出すリーダー層の育成も大事ではないかと思います。

大変ではありますが、うまく取り組むと、本当に現場の負荷の低減につながっていきます。

最後に、私がある介護施設の方からいただいた、センサーを使ったケアについての感想を紹介します。

「センサーでデータを見るのは面倒ですか」とケア職の方に聞いたら、「利用者様の様子を見るのは楽しいしやりがいがある」と言ってくれました。また「これまではケアをがんばってもそれを測る物差しがなかったが、睡眠の改善がデータで明らかになり、やりがいにつながった」という声もいただきました。

テクノロジー導入の目的は、「負荷の低減・効率化」が最初にあると思いますが、それだけではなく、うまく活用すると、ケア職の「やりがい」「モチベーション」「地位向上」にもつながる可能性がある。これは意外な発見でした。

こういう視点でもシステムの導入を検討していただければと思います。

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