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【ふれあい福祉セミナーin東京】 経営者が知るべき働き方改革 〜福祉現場で求められる実務対応編〜

2019/7/24 [福祉,セミナーレポート]

働き方改革は待ったなしの経営課題です。背景には、空前の人手不足があります。優秀な人材の採用難や人材流出が、経営上のリスクとなっています。働き方改革は、人材流出を防ぎ、採用を増やす最低条件です。さらに言えば、企業が生き残るためには、働き方プラスαの付加価値が必要です。具体的にはどのようなことが必要なのか、社会保険労務士の深川 淳氏に聞きました。

目次

  • 今、なぜ働き方改革なのか
  • 働き方改革の全体像
  • 働き方改革〜法改正の視点から
  • 働き方改革〜法改正以外の視点から
  • 介護福祉現場での働き方改革の視点
  • 最後に

社会保険労務士深川事務所 代表
社会保険労務士
深川淳 氏

今、なぜ働き方改革なのか

2016年9月の臨時国会で、安倍首相が行った所信表明演説の中で、国の方向性として「ニッポン一億総活躍プラン」が発表されました。夢をつむぐ子育て支援、安心につながる社会保障、希望を生み出す強い経済の3つがキーワードです。

特に3つめの経済の再生・成長のためには、労働力の供給増と生産性の向上が不可欠です。女性や高齢者、外国人も含めた多様な人材を活用する。これらの多様な人材を集め、定着してもらうためには、適正な労働時間と柔軟な働き方で、適正に処遇される環境が必要です。その具体的な実行計画として、時間外労働上限規制、年次有給休暇時季指定義務、柔軟な働き方の環境整備、女性が働きやすい環境整備、治療との両立推進、高齢者の就業促進、非正規社員の処遇改善、同一労働同一賃金といったことが挙げられました。

働き方改革の全体像

働き方改革とは、「働く人が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で選択できるようにするための改革」です。それによって、働く人一人ひとりが納得しよりよい将来の展望を持てるようになることが働き方改革の狙いです。

さて、この働き方改革ですが、日本の雇用の7割を担う中小企業・小規模事業者において、着実に実施されることが大きなポイントになります。働き方改革によって魅力ある職場にすることで、人手不足の解消にもつながります。とくに、常に人手不足に悩む中小企業にとっては、これは大変重要な課題です。

現実的には、働き方改革は、働き方改革そのものが目的というより、人手不足解消の為の有力な手段であるとも言えるでしょう。取り組みにあたっては、意識の共有がされやすい中小企業だからこその強みも活かせるはずです。

ところで、中小企業の定義ですが、社会福祉法人、医療福祉法人は、サービス業に分類されます。また社会福祉法人は資本金がないので資本金の規模で分類することができません。よって、常時利用する労働者の数で判断します。100名以下なら中小企業。それ以上なら大企業に分類されます。

働き方改革〜法改正の視点から

働き方改革関連法が成立し、2019年4月より具体的な内容が順次施行されています。ポイントをいくつか説明します。

政府は、「ニッポン一億総活躍プラン」と併せて、以下のように「働き方改革実行計画」として9つの項目を打ち出しています。

なかでも、働き方改革のテーマとして特に大きな法改正となる内容が、「1.非正規雇用の処遇改善」と「3.長時間労働の是正」になります。

労働時間の上限規制

原則として、法定労働時間は、1日8時間および週40時間、法定休日は原則として毎週少なくとも1回と定められています。これを超える場合は、36協定の締結・届出が必要です。

改正前は、法定労働時間を超える時間外労働時間について厚生労働大臣の告示(法的拘束力や罰則のない「限度基準」)として月45時間、年360時間が掲げられていました。従来、各事業者の36協定は原則としてこの限度基準以内の時間で締結・届出されているわけです。また、臨時的な特別な事情が予想される場合は「特別条項付の36協定」を結べば、年間6カ月まで限度基準を超える時間外労働を行うことができることとなっており、この特別条項には上限時間が規定されていませんでした。つまり、事実上の青天井になっていたのです。これが改正の対象となりました。

改正後は特別条項の有無に関わらず、1年を通じて常に時間外労働と休日労働の合計は、「月100時間未満、2〜6カ月平均80時間未満」にする必要があります。 たとえば、時間外労働が45時間以内に収まって特別条項にならない場合でも、「時間外労働= 44時間、休日労働=56時間」のように合計が月100時間以上になると法律違反になるので注意が必要です。

上限時間の定め方にも変化があります。改正前は、36協定で協定すべき期間として、1週間、2週間、4週間、1カ月、2カ月、3カ月、1年について、上限時間を規定していました。改正後は、1カ月(45時間)と1年(360時間)のみとなり、それ以外の期間の選択はできなくなります。

使用者は、36協定の範囲内であっても労働者に対する安全配慮義務を負います。労働時間が長くなるほど過労死との関連性が強まることに留意しなければなりません。

時間外労働や休日労働を行う業務の区分を細分化し、また業務の範囲を明確にすることによって、できるだけ狭く限定し、曖昧な解釈によって広く適用されることを回避する必要があります。臨時的な特別の事情がなければ、限度時間(月45時間、年360時間)を超えることはできません。限度時間を超えて労働させる必要がある場合は、これも可能な限り限定する意味合いからその事由や業務の範囲はできるだけ具体的に定める必要があります。この場合でも、時間外労働は、限度時間にできる限り近づけるよう努めなければなりません。

また、限度時間を超える時間外労働については、25%を超える割増賃金率とするように努めなければなりません。

年次有給休暇の時季指定義務

もともと労働基準法では「使用者は、労働者が雇入れの日から6カ月間継続勤務し、その6カ月間の全労働日の8割以上を出勤した場合には、原則として10日の年次有給休暇を与えなければならない。」とされています。パートタイム労働者などの短時間労働者については、年次有給休暇の日数は所定週労働時間および所定労働日数に関する一定の条件のもとに比例付与されることになっています。

ところが、労働者に権利は与えるものの、実際には未消化、つまり取得されていないケースが昨今の大きな問題となっていました。

改正後は、年5日、労働者に取得させることが使用者の義務になりました。不履行の場合は30万円以下の罰金が課されます

今後、使用者は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、基準日はいつか、いつ年休をとったか等を管理しなければなりません。

従業員一人ひとりで異なる年次有給休暇の基準日や消化率を管理するのは大変です。管理をしやすくするために、例えば基準日を年始や年度初めなど一つにまとめるとか、月初に統一するのも一つの方法です。

年5日の確実な取得のためには、1年の計画表を作り、たとえば半年を過ぎたのに全く消化していないという従業員には、使用者のほうが日程を決めて休んでもらうとか、あるいは従業員が各自自由に決めることのできる5日は確保しておき、それを超える日数については計画年休という形で会社やチームごとに年休を予定して決めるという方法も有効でしょう。その他、連休と連休の間のブリッジホリデー、業務の閑散期での休暇の設定、誕生日などのアニバーサリー休暇、土日祝+1日などで計画的に付与する方法もあります。

残業の割増賃金率引き上げと労働時間の把握の義務化

月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率は、現在、大企業のみ50%となっており、中小企業については50%適用が猶予され25%のままとなっています。令和5年4月1日からは、中小企業も50%に引き上げられます。

割増賃金の適正な支払いのため、全ての労働者の労働時間の客観的な把握が義務化されます。

長時間働いた労働者には、医師による面接指導を確実に実施しなければなりません。

雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

同一企業内で、正社員と非正規社員の間の不合理な待遇の差をなくし、どのような雇用形態を選択しても「納得」できる待遇にすることが狙いです。「納得できる」というのがキーワードです。大企業は令和2年4月から、中小企業では令和3年4月から実施されます。

改正のポイントは3つあります。

1)不合理な待遇差の禁止

2)労働者に対する説明義務の強化

3)行政による助言・指導

もし正社員と非正規社員の間に待遇差がある場合、使用者にはその理由を問われたときに説明する義務が課され、合理性のない待遇差は認められなくなります。使用者は、従業員から「これは不合理ではないか」と説明を求められたときに、納得できる理由が答えられるよう規程類や賃金体系を整備し、どのような待遇差が不合理にあたるかをできるだけ具体的に整理しておかなければなりません。つまり、全く差があってはいけないのではなく、差があってもいいが合理的でなければいけないということです。

以下は、厚生労働省が示した、「基本給」の待遇差に関するガイドラインの一例です。

働き方改革〜法改正以外の視点から

法改正以外でも、冒頭に述べたように、企業が生き残る戦略の一つとして働き方改革を進めていかなければなりません。ポイントは、3つあります。

1)長時間労働をなくす

2)休暇取得に向けた環境づくり

3)誰もが働きやすい雰囲気づくり

長時間労働をなくしていくためには、管理職の意識改革や、非効率な業務プロセスの見直し、取引慣行の改善(取引先や関連企業に対し無理な納期を設定しないなど)が必要です。これは、結果的には生産性向上というメリットをもたらします。意識改革や業務設計・役割分担といったソフト面からのアプローチと、ITツールの活用・ペーパーレスといったハード面からのアプローチが「両輪」となります。

厚生労働省のヒアリングによると、年休取得が進んでいる企業では、一週間ごとのミーティングにて業務の進捗状況を所属長や同僚と共有し、仕事を個人ではなくチームで行うことによって労働者が休暇で不在となっても業務が回るよう、取り組んでいる事例がありました。

労働者一人ひとりが責任感をもってしっかり仕事をすることは勿論重要ですが、仕事をチームで行い、チームの中で仕事の進行状況について情報共有することで、休みやすい職場環境へと変わってゆくのです。

トップが主導となり、休暇の取りやすい雰囲気や働きやすい環境づくりを行っていくことが大事です。

介護福祉現場での働き方改革の視点

離職率の低下、採用難の解消、労働生産性の向上、長時間労働の是正は、介護業界全体の共通の課題です。

介護福祉現場における離職防止に向けた取り組み 5つのポイント

(1)「心身の不調」へのケア…腰痛予防、メンタルヘルスケア

(2)「介護観の違い」への対策…理念・指針の浸透

(3)「働き方」への固定概念の払拭…短時間勤務、時間単位年休、時間帯の固定

(4)「入社後ギャップ」の防止…入社前に誠実な情報の開示

(5)「持ち味の理解」と「承認」…多様性を許容し良い所に着目。事実+意味づけ

離職につながる長時間労働の是正については、昨今の働き方改革の流れもあり、一定の改善がみられている事業者もあるようです。ただ、先程ご説明したような罰則付きの上限規制が中小企業では来年4月から開始になるということで、より踏み込んだ、本格的な取り組みが求められます。

単なる業務の削減はサービスの低下に直結する懸念があり、見直しを行う業務は慎重に検討するべきです。特に利用者に接する部分は、過剰と思われるサービスを除き、施設の「魅力」や「付加価値」になりますので、そこの見直しは必要最小限にとどめ、申し送りや会議・書類の作成といった、利用者に接遇しない業務や運営管理に関する部分について、手順を踏んで着実に業務効率化を推進していくことが大切です。

介護福祉現場における長時間労働の是正 5つのポイント

(1)「過剰サービス」の削減…「したい」と「できる」の見極め

(2)従業員の意識改革…奉仕の心による「自主的な残業」の功罪

(3)デジタル化、ペーパーレス…効果絶大!

(4)申し送り、会議の短縮化…重要事項のみとし、残りは各自で確認

(5)定時退社の為の工夫…「仕事の再分配」と「職員間の連携」

中でも、デジタル化、ペーパーレス化による業務効率化は、介護福祉業界においては特に効果が大きいものと思われます。有給休暇の消化や、勤務間インターバル制度の施行などによって、従業員の勤怠の管理が複雑になります。デジタル化による管理の効率化は、今後多様な社員が納得して働いていく環境をつくっていくにあたり、従来以上に有力な切り札になると言っていいでしょう。

最後に

法改正内容だけにとらわれず、小さなことでもまずは一歩踏み出してみることが介護業界における現実的な働き方改革と言えるのではないでしょうか。

今まで長い間やってきた労務環境を急に変えるのは難しいこと。急にやってできることなのであれば既に改善されているはずです。

大切なことは、まず経営トップが明確な方針・目的意識を持ち職員にメッセージとして発信すること、また実行にあたっては全ての施策をやみくもに実施するのではなく、労使のコミュニケーションを通じて必要な施策を見極めることが大切です。それぞれの介護福祉現場の現状や課題に合ったものを選択し、一つ一つ丁寧に実施していくと、やがて必ず改善された結果を手にすることができるはずです。

働き方改革は、介護福祉業界にとっても待ったなしの経営課題です。全職員で改善状況の進捗を共有しながら、粘り強く取り組んでいきましょう。

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