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【内田洋行ITフェア2019in東京】 御社の働き方改革、間違っていませんか?
経営戦略としての働き方改革

2020/1/30 [ワークスタイル,セミナーレポート]

働き方改革とは、経営者にとっては今ある経営課題は何かを問い、個人にとっては生き方を決める、それぞれにとってのチャンスではないでしょうか?働き方改革の本質を洗い出し、改めて「何のためにするのか?」について、内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員を務める白河桃子氏に掘り下げていただきます。

目次

  • 魅力的な企業にならないと人が集まらない
  • 働き方改革は人と企業の生き方を決めるチャンス
  • 企業の利益と社員の「得」につなげる働き方改革
  • 経営者、現場、上司、ITが一体になって押し進める
  • 「より儲かる会社」になるための社員の幸福

内田洋行ITフェア2019 in 東京にて

相模女子大学 客員教授
昭和女子大学 客員教授
白河 桃子 氏

※講師プロフィールは講演当時の所属、役職となります。

東京生まれ。慶応義塾大学文学部卒業後、住友商事などを経て執筆活動に入る。2008 年、中央大学教授山田昌弘氏と『「婚活」時代』を上梓、婚活ブームの火付け役に。少子化、働き方改革、女性活躍、ワークライフバランス、ダイバーシティなどをテーマとする。経済産業省「新しいコンビニのあり方検討会」委員、内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員、内閣官房 第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」有識者委員、内閣府男女局「男女共同参画会議専門調査会」専門委員などを務める。

魅力的な企業にならないと人が集まらない

働き方改革とは何でしょうか。残業の削減と多くの方が捉えていますが、狭く捉えてしまうと本質を見誤ります。働き方改革はまさに経営改革そのもの。企業によって経営課題は異なりますので、働き方改革も企業によって異なります。他の会社と同じことをすれば効果的な働き方改革ができるということはないのです。

セミナー資料:働き方改革とは?

ITフェア2019講演資料

法律が改正されて、残業時間の上限が定められました。年休5日の取得も義務化されました。非常に重要なのが、企業が社員の実労働時間を把握しなくてはならなくなったことです。社員が過労死などをしたとき、今後は、企業はその社員がどのように働いていたのかを明らかにしなくてはなりません。普段から客観的に把握できる労働時間を記録しなくてはならなくなり、今、ITシステムを企業で導入する動きが加速しています。

セミナー資料:法改正としての働き方改革

ITフェア2019講演資料

なぜ今法改正が行われたのか?一つは「過労死や加重労働」という労働者の人権問題が社会課題として重要視されて来たから。そして、多くの企業が働き方改革を急いでいる理由の1番は、人手不足への対応です。魅力的な働き方ができる企業にならないと人材が集まらないのです。

また、最近では、1日5時間の労働者や週3日の労働者でも正社員として扱うなど、柔軟な雇い方をする企業も増えています。事業の継続や発展には多様な人材が必要で、その人材を安定的に確保するには、まず労働時間の問題に手をつけなければならないと考えるようになったのです。

働き方改革は人と企業の生き方を決めるチャンス

(1)本気度チェックリストで確認を

働き方改革で必要なのは3つです。リーダーシップとインフラ整備、そしてマインドセットです。最後の社員のマインドセットまで変えていくのがとても重要です。よく中小企業は「大企業とは違い働き方改革できる資源(リソース)はない」と言います。しかし、私から見れば、リーダーシップとマインドセットについては、特に中小企業の方が早く変えられます。

セミナー資料:働き方改革でやるべきこと

ITフェア2019講演資料

働き方改革の本気度をチェックするリストを作ってみました。最後の項目『企業の成果=社員の幸せになっているか?』に注目してください。働き方改革の成否は、その成果が社員の幸せにつながっていく好循環を生み出せるかどうかにかかっています。

働き方改革本気度チェックリスト

リーダーシップ(中小企業>大企業)

  • 経営者は本気か?
  • 評価と報酬の再設計をしているか?
  • アクションの形を決めているか?
  • 何のためにやるのか?ヴィジョンがあるか?
  • 取引先を巻込んでいるか?

インフラ整備(中小企業<大企業)

  • アクションを支える仕組みを作っているか? 投資をしているか?
  • アクションが得になる仕組みがあるか?
  • 進捗度の見える化や開示をしているか?
  • 働き方改革の先にあるビジョンを共有しているか?
  • PDCAは回っているか?

マインドセット (中小企業>大企業)

  • チームはワクワクしているか?
  • 成果=社員の幸せになっているか?

ITフェア2019講演資料

ぜひ、何のために働き方改革をするのか、原点に立ち返ってください。経営者ならば、どんな会社にしたいのか。個人であれば、どんな生き方をしたいのか。まさに今、生き方を決めるチャンスが来ています。

働き方改革の目的化は失敗のもと なぜ、やるのか?

企業の抱える課題

  • 労働力不足(人材流失 新規人材の獲得困難)
  • イノベーション不足
  • 生産性向上
  • 女性活躍・ダイバーシティ

社会課題

  • 少子化・地方創生
  • 女性活躍(国の生産性向上・子どもの貧困防止)
  • 安全な労働環境
  • 父親の家庭参画

ITフェア2019講演資料

(2)働き方改革と若手人材の確保

働き方改革が成功している中小企業には共通点があります。改革の目的を現場の課題にしっかりと落とし込んでいるのです。「残業は〇時間までにしましょう」という数字を掲げるだけでは改革はできません。

ある自動車の販売会社は、入社3年以内の若手が次々に辞めてしまうことを問題視し、これを解決するための働き方改革を実行しました。現場の課題と改革の目的が強く結びついているのです。社員一人ひとりを見て、この人はどうすれば辞めないのか、この人はどうしたら最大のパフォーマンスを発揮してくれるのかと、現場で問題を掘り下げながら改革をしていったのです。社員の顔がよく見える規模の企業ほど、この視点で働き方改革に取り組むと成功します。

繰り返しになりますが、多くの企業が働き方改革を急いでいるのは、人材獲得のためです。特に若い世代の人材獲得です。この世代がどんな会社を魅力的に思うのか。ここを考えないと企業を支えていく人材を育てられません。

セミナー資料:ミレニアル以降世代の人材獲得

ITフェア2019講演資料

若い世代は労働時間が長い企業を特に嫌厭します。働く時間も場所も部署も、自分の希望を持っています。なぜなら、この世代はもはや終身雇用を信じられないからです。

セミナー資料:ミレニアル世代以降の人材獲得競争

ITフェア2019講演資料

AIG損害保険は2019年4月から転勤制度を廃止しました。社員が住みたいエリアを希望し、そのエリアで働けるように全国を11のエリアに分けました。異動があっても転居をともなわないので、企業側も社宅などを用意する必要がなくなり、コストを削減できます。どうしても人が集まらないエリアがあれば、そこを選んでもらえるように住宅手当などで報いるということでした。また、エリアの選択は出世の条件にしないとのこと。これは重要なポイントです。この企業が新制度を表明したところ、新卒の応募が約10倍に増えたそうです。働きやすくすれば、人材確保の面で他社に勝てるのです。

企業の利益と社員の「得」につなげる働き方改革

「働き方改革をしても、儲からない」という話をよく耳にします。しかし、そんなことはありません。

IT業界のベンチャー、サイボウズはかつて社員の離職率が30%まで上がりそうになりました。これでは経営が成り立たないと強く感じた社長は、社員の声に耳を傾けていき、社員が100人いたら100通りの働き方を実現させました。すると、離職率がどんどん減り、同時に売り上げが上がっていったそうです。

老舗企業の味の素は、独自のやり方で働き方改革に取り組みました。労働時間そのものを短くするという珍しいやり方で、終業が16時半になっています。給料はそのままなので、実質的な賃上げです。また、モバイル機器を支給して、どこでも働ける環境も整えました。コアタイムなしのスーパーフレックス制度も導入。それでも終業を16時半に決めたのは、その時刻にみんなが帰れば、保育園に迎えに行く人が後ろめたくなくなるという配慮があったからです。この改革で社員たちが高いパフォーマンスを発揮するようになりました。この企業は、いわば「長時間労働のDNA」をアンインストールしながら、同時に柔軟な働き方を作り出したのです。

セミナー資料:企業が働き方改革をする理由

ITフェア2019講演資料

大手商社である伊藤忠商事は「夜の8時に帰る商社」として有名になりました。残業の削減が目的ではなく、「朝残業」ができる仕組みを整え、その分は残業代としてしっかりと支払います。この取り組みによって生産性を大きく上げることに成功しました。話を聞くと、かなり厳しく改革を実行したようです。例えば、夜の飲み会の1次会は10時に終えるという運動も展開したそうです。

セミナー資料:伊藤忠商事 朝方勤務

ITフェア2019講演資料

三菱地所プロパティマネジメントは、働き方改革で多くの残業代を削減し、それをすべて削減率に応じてボーナスとして社員に還元しました。2020年まで続けるとのことです。実は、会社が「帰れ帰れ」と半ば強制すれば一時的に残業時間は減るのですが、再び増えてしまうことも少なくありません。理由は、自分の給与明細を見て「少なくなった」と感じて、続ける意欲を保てなくなるからです。いかに働いている人が「得した」と感じさせるか。働き方改革を推進するには、そこが非常に重要です。

経営者、現場、上司、ITが一体になって押し進める

(1)それぞれの立場で取り組むべきことがある

では、誰が働き方改革を実行するのでしょうか。

セミナー資料:働き方改革を担うのは誰か現場か?経営者か?

ITフェア2019講演資料

経営者の役割はとても大きいです。人材が豊富な頃の制度は見直し、働き方改革を宣言し、中間管理職を動かし、制度の改革や生産性を上げるための投資を決断しましょう。評価や報酬の設計も考え直し、取引先も巻き込みましょう。

現場ができることはたくさんあります。時間が有限であると認識して、やらない仕事を選択しましょう。仕事の属人化をやめて、複数の人で仕事ができるようにして、そして誰もが休める仕組みを作る。上司だけが背負うのではなく、チームで取り組みます。

セミナー資料:働き方改革を担うのは誰か上司か?ITか?

ITフェア2019講演資料

働き方改革で一番重要な存在は、現場の「上司」です。経営者は、改革の目的や意味を説明して理解させ、しっかりと巻き込みましょう。働き方改革を積極的に取り組んだ上司の評価を上げるような仕組みを作ると効果的です。

ITの力も有効です。例えば、ある企業は、スイカなどの交通系ICカードをかざすだけで交通費を申請できるシステムを導入しました。また、毎日作らなければならない営業部の資料を、RPA(Robotic Process Automation /ロボティック・プロセス・オートメーション)に自動的に作成させるようにしたことで大幅に労働時間を短縮した企業もあります。このITの導入にあたっては、導入リーダーをきちんと決めることが成功のポイントになります。年配の方ほど、ITの新しいやり方を面倒に思いがちです。誰かが導入リーダーになって、新しいやり方が現場でしっかりと根付くように習慣を変えていきましょう。

(2)マインドセットよりもアクションチェンジが先

働き方改革は、トップだけが旗を振っても前に進みません。トップがアクションの形を決めるのです。そして、必要な投資や制度の変更を決断してください。そして、現場がついて来るように仕向け、中間管理職をやる気にさせて、ITを効果的に入れていく。一番重要なのは、その企業の風土を変えることです。

私がさまざまな企業の働き方改革の取材を通して知ったのは、マインドセットよりもアクションチェンジが先だということです。日本人は非常に横並び意識が強く、一人のマインドだけが変わっても、その人が苦しい思いをするだけです。成功の秘訣は、現場のアクションを一斉に変えることです。

セミナー資料:マインドセット、アクションチェンジどちらが先か?

ITフェア2019講演資料

トップダウンで強制的に行動を変えましょう。すると、現場は工夫を始めます。繰り返しになりますが、評価と報酬の設計が非常に重要です。働き方改革を懸命にやれば自分の利になるという意識が浸透すると、継続します。

セミナー資料:評価と報酬の設計が重要

ITフェア2019講演資料

「より儲かる会社」になるための社員の幸福

(1)社員の幸福度UPのための投資で生産性も上がる

本当の生産性の向上というのは「より儲かる会社になる」ということです。実は、労働時間と稼ぐ力の間に関係性はありません。ドイツは日本よりも労働時間が2割も短いのに、稼ぐ力は5割以上です。

IT企業のグーグルは、自社の200チームを精査し、生産性が高いチームには心理的に安心感があるということを見いだしました。この安心感は、例えば、自分が発言したいときに、心のどこかで「チームのメンバーにバカだと思われたらどうしよう」と思わないような安心感です。あるいは、失敗しても罰が与えられることがないという安心感でもあります。決して「ぬるい雰囲気」のことではありません。

セミナー資料:Psychological Safety/ 心理的な安心感

ITフェア2019講演資料

このような安心感があると積極的にリスクをとろうという気持ちになっていきます。多くの人がチャレンジするようになり、イノベーションが起きやすくなるのです。

セミナー資料:イノベーションを発動するには?

ITフェア2019講演資料

グーグルをインタビューしたとき、心理的な安心感がある職場の条件を教えてもらいました。1つ目は、会議中の発言量をみんな同じようにすること。上司だけが話していては心理的な安心感は生まれません。2つ目は、失敗があっても、その失敗をチームみんなで共有して次の糧にしていくこと。3つ目は、少し意外なのですが、上司が部下に自分の弱みを見せること。イノベーションは、多様性が認められて、どんな意見でも「いいね」と受け入れられ得る環境で生まれるのです。

生産性の高いチームは幸福な感情に満たされたチームです。1つの事例として、日立では、名刺型のウェアラブルセンサーを用いてチームの幸福度を図るというハピネステクノロジーを開発し、あるコールセンターで実証実験をしました。その集団のハピネス度が高い日は、そうでない日に比べて、受注率が34%も高かったそうです。

アメリカでも、社員の幸福度が上がるように投資をすると生産性も上がるという研究が出ています。病欠が減り、離職率が下がり、生産性が上がり、売り上げが上がり、利益が上がり、創造性も3倍になると言われています。

(2)マインドセットを変えることで組織を持続可能なものにする

ギスギスした職場では、チーム内の関係性が悪く、誰もが自ら考えようとしなくなります。自律的な行動もしなくなります。これでは成果が上がるわけもなく、さらにギスギスして、悪い循環が回り続けます。しかし、関係性の質をあげれば、誰かが「これをやってみたら面白いかもしれない」と気付くようになり、それを提案できるようになり、「いいね」「やってみましょう」という人も現われます。そうなれば、新しいサービスや商品が生み出され、成果も上がるという良い循環が回り始めるでしょう。

セミナー資料:関係の質が結果の質にもたらす効果 労働時間から着手すると・・・

ITフェア2019講演資料

チームの関係性の質を改善するにはどうすればいいのか。重要なのはアクションです。働き方改革をしながら、チーム内の関係性を良い方向に変えられます。例えば、チームで「残業を削減しよう」という目標を立て、「皆で頑張ろう」と一丸となって取り組む。すると、コミュニケーションが増えて、自分について色々なことを開示できる機会も増え、だんだんと関係性の質が上がっていく。私が見る限り、このようにして関係性が良くなっていったチームはとても多くありました。働き方改革を始めるとき、まずは人対人の関係の質を改善するという観点から、チームで労働時間の削減に取り組むのが良いと思います。

働き方改革の本質はマインドセットを組織ぐるみで変えることにあります。マインドセットを変えることで、組織を持続可能なものにできます。残業時間の削減をしながら、ぜひチーム内の心理的な安心感を作り出してください。テレワークを推進しながら、遠い場所にいる人でも安心してコミュニケーションを取れるようにしてください。そのようにして社員の幸せと会社の成果が結びつき、好循環で回るようになっていくのです。

まとめ

  • 働き方改革の本質は組織ぐるみのマインドセット
  • チームの心理的安全性を設計する
  • テレワーク推進と並行してコミュニケーション設計をする
  • 残業禁止令の前に問うべきは「その仕事は本当に必要なのか?」
  • 社員の幸せと会社の成果の好循環を作り出す
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