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【内田洋行ITフェア2017in東京】 「制御」から「予測」へ!ICTが支えるスマート農業経営とは

2017/11/29 [食品,セミナーレポート]

2009年に生まれたNKアグリ株式会社は、安全な野菜、健康になれる野菜の生産・販売を目指してきました。今では、年間に約300万袋の野菜を全国約60社の量販店に流通させています。天候に左右されやすく、需給調整のむずかしい農業経営を安定させるには、既存の価値観にとらわれずに、IoT技術を活用したバリューチェーンを構築する必要がありました。そのための取り組みを紹介させていただきます。

目次

  • 創業から3年は試行錯誤の日々
  • 失敗から学ぶ
  • 大きな課題「生産量と需要量が一定にならない」
  • 生産と営業のコミュニケーション クラウドサービスkintoneの導入
  • 既存の農業経営への疑問
  • 機能性野菜への挑戦
  • 発想の転換
  • スマート農業を可能にしたICT(IoT)技術

内田洋行ITフェア2017 in 東京にて

NKアグリ株式会社
代表取締役社長
三原 洋一 氏

創業から3年は試行錯誤の日々

2009年11月、ノーリツ鋼機株式会社の食分野のコーポレートベンチャーとして、NKアグリ株式会社は発足しました。初年度の目標は、安心・安全な野菜が作れ、周年にわたり安定的に供給できることでした。そのためには環境を制御し、衛生面を管理して栽培すれば良いと考え、3000坪におよぶ国内最大級の太陽光型野菜工場を和歌山県和歌山市に作りました。種苗・育苗から定植(植え替え)、生育と、水耕栽培で野菜を育てました。同時に、温度、湿度、日射量、水温など環境に関わる条件をコントロールし、収穫作業を含め、衛生面も厳重に管理しました。こうすれば、同じ形、同じ重さ、同じ生育速度で野菜が育ち、安定供給できると思っていました。

ところが実際に稼働してみると、商品として通用する野菜がなかなか作れません。トラブルが多発して、一つを解決すればすぐに別の問題にぶつかるという状態でした。結果として、環境をいくらそろえても同じ形、同じ重さの野菜は作れない、ということがわかりました。野菜も生き物ですから、種からして個性があります。同じ条件下でも生育に差があるのは当然のことでした。施設が立派でも、農業の素人の域は出なかったのです。

失敗から学ぶ

どの条件が変われば、野菜のどこが変化するのか? 私たちはひたすらデータを取り続けました。失敗から学ぶにはそれしかないと。網羅的に収集したデータから、環境記録と栽培記録を照らし合わせ、KPI(Key Performance Indicatorsの略。「重要業績評価指標」のこと)を導き出していったのです。環境が変わると最初に根に変化が現れるなど、様々なことがわかり始め、次第に商品として通用する野菜が作れるようになりました。

大きな課題「生産量と需要量が一定にならない」

ビジネス面でも克服しなければならない大きな課題がありました。それは生産量と需要量がなかなかマッチングしないことです。例えば、レタスは、夏はよく穫れますが、冬は収穫量が落ちます。ほしいと思っても季節によってその通り生産できるとは限りません。また、生産したからにはできるだけ売り切らないと利益が出ません。生産量と需要量をどう合わせるかが、安定経営への最初の鍵となりました。そのためには、過去のデータを解析し、生産量、需要量の予測精度を向上させることに努めました。

下のグラフは生産能力と生産計画数の関係を表したものです。能力株数が生産量を、計画株数が需要量を表しています。例えば、4〜6月はたくさん収穫することが可能ですが、需要はそれほどありません。逆に7〜9月は、生産量と需要量のピークが合っていることがわかります。この時期に計画的に生産すれば、無駄なく出荷できるわけです。

生産と営業のコミュニケーション クラウドサービスkintoneの導入

出荷の体制が整っても顧客となる量販店が実際に買ってくれなければ売り上げにつながりません。そのためには、生産と営業のコミュニケーションの円滑化が重要な鍵となります。ツールとして、サイボウズのクラウドサービスkintone(キントーン)を導入しました。

当初より、生産と営業をつなぎ、情報をやり取りして共有化するためのシステムは、非常に重要だと考えていました。しかし、システムに振り回されて効率的に使えなかったり、導入コストがかかったりしては意味がありません。その点kintoneはプログラミングが不要で、現場に合ったアプリが簡単に自作でき、コストも1カ月20,000円程度と、安価かつ定額と、利用しやすいサービスでした。

kintoneを導入してからは、生産と営業の現場がスムーズにコミュニケーションできるようになり、需給調整の精度が劇的に向上しました。生産量が少ないという予測が出たときは、事前に営業に情報を伝え、顧客と調整してもらいます。逆に多いと予測できるときは、特売など営業施策を仕掛けてもらいます。農業ビジネスは本来不安定なものですが、これをクラウドサービスなどのITを活用してバランスをとって進められるということがわかりました。予測精度がさらに上がっていけば、需給調整がもっと良くなってさらに利益が見込める可能性を見出すこともできました。

既存の農業経営への疑問

植物工場の運営を通して、既存の農業経営に対して疑問に思ったことが3つあります。これらは、素人として農業ビジネスに参入したからこそ、思う疑問でした。

1. 消費者のニーズと既存の流通規格は合っているのだろうか?

既存の流通規格では重さが重要視されます。一定の重さがないと商品としては不十分とみなされます。店頭価格でいくと通常レタスは100〜128円といったところですが、我々が作るレタスは198円です。重さも通常の1/3ぐらいしかありません。重さあたりの価値は6倍違うのです。当初、市場に受け入れられるか不安でしたが、店頭販促で顧客の声を聞くと、消費者は重さには思ったほど関心はなく、むしろ味や見た目などが、その日の献立に合っているかどうかを気にしていることがわかりました。

そこで重さは、懸案しても固執しないこととしました。

2. 地域を中心にした供給体制は効率的なのだろうか?

レタスという品目を例に取ると、量販店のバイヤーさんは一年中産地を回って買い付けに走っています。夏のレタスはここから、秋のレタスはあそこから、という感じです。生産者が品目を軸に地域の連携をはかりながら「レタス、1年中出せますよ」という体制を作った方がはるかに買ってもらえる可能性が高まります。

そこで広域連携をはかり、流通期間の長いブランドを作ることにしました。

3. 「経験と勘」だけに頼っていていいのだろうか?

我々は素人として農業経営に参画しましたから、経験値をもちませんし、勘も働きません。そのため初年度は大変苦労しました。それでも試行錯誤の中で多くのデータを得ることができました。また、大学や専門研究機関で発表された多くの論文を読み、有効な方法を試しました。次第に成果が上がる中、サイエンスとテクノロジーこそ、「経験と勘」以上に重要であるという確信に至りました。なぜなら「経験と勘」は数値化できるからです。

そこで「経験と勘」で栽培を制御するのではなく、サイエンスとテクノロジーで予測精度を上げ、情報を共有することで、予実管理をしていこうと考えました。

機能性野菜への挑戦

こうして5年が過ぎ、「AQUA LEAF」、「AQUA GARDEN」というブランド商品が生まれ、年間約300万袋を全国の量販店などに流通できるようになりました。

2015年、「安心して食べられる安全な野菜から、一歩進んで健康になれる野菜の提供をめざす」というミッションのもと、新たな挑戦を始めました。それが機能性野菜「リコピン人参『こいくれない』」の生産・販売です。

「リコピン人参」とは人参の重要栄養素であるβ-カロチンのほかに通常わずかしか含まれないリコピンを多く含む機能性を重要視した野菜です。見た目も紅色が濃く、味も甘みが強いのが特長です。

「美味しくて健康に良い」という消費者のニーズに合った野菜だと思います。

今までこういう野菜がなぜ流通しなかったかというと、大きな欠点があったからです。それは「作りにくい」ということ。形にばらつきがあったり、生育日数が長かったり、単位面積当たりの収穫量が少なかったりと様々なマイナス要因がありました。重さや形を重要視する既存の流通規格には合わない野菜だったのです。

発想の転換

「リコピン人参は、健康志向という消費者のニーズに合っている」。我々には確信がありました。そこで発想の転換をはかりました。重さや形を保証するのではなく、機能(栄養素)や味、色を保証しようと考えました。新しい規格を市場に持ち込もうとしたのです。そのため、徹底してリコピンの含有量にこだわりました。

生産現場も発想の転換をはかりました。野菜工場での栽培から露地栽培に切り替えたのです。露地栽培のものを工場で生産する流れが普通の農業経営ですから、いわば逆張りです。リコピンの含有量を保証する、という一点において、露地栽培が有利という事実にもとづいた決定でした。

営業の現場も変化しました。形や価格を重要視する消費者より、栄養を重要視する健康志向の消費者に売る必要が生じたからです。必然的に量販店も絞る形になります。こうして、リコピンの含有量を保証する新たなバリューチェーンを構築していきました。

スマート農業を可能にしたICT(IoT)技術

「リコピン人参『こいくれない』」は露地野菜で初めての栄養機能食品としてヒットし、グッドデザイン賞もいただきました。生産現場の転換、新たなバリューチェーンの構築に成功したからだと思います。

いずれもICT(IoT)技術なくして達成できませんでした。生産現場では、全国7都道府県に各1つずつセンサーを設置し、1時間ごとに気温を測っています。積載温度のデータを取得するためです。積載温度は、生育(大きさと機能性成分量)と相関性が高く、これを監視することで、収穫時期があらかた予測できます。ここでもkintoneを使い、リアルタイムで数値を見ながら、収穫時期、収穫量を予測します。

この情報を共有することで農家と営業マンが直接結ばれます。こうして収穫時期や地域が異なっても栄養素の含有量は一定で、品質を保証する体制ができあがりました。既存の価値観を変え、消費者のニーズに合わせられるようになったのです。

ただ個々の情報は決してめずらしいものではありません。今までもあった情報です。ICT(IoT)技術を使って、組み合わせたり、統合したりしているだけです。しかし、それが「適正な時期に適正な価格で作った野菜を売り切る」という基本につながり、スマート農業というイノベーションを可能にしたと考えています。

今後とも、さらに予測精度を上げ、需要と供給の最適化に努めていきたいと思います。

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