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【内田洋行ITフェア2017in東京】 「激動の介護事業を生き抜くヒント」第二部:次期報酬改定の方向と事業所の対応

2017/12/19 [福祉,セミナーレポート]

平成30年度の介護報酬改定・介護保険制度改正は、地域包括ケアシステムの深化を目的としているとされ、これまで以上に報酬単価が抑えられ、利用者負担が増え、介護サービスの利用抑制が進む厳しい情勢です。この経営難の時代、介護事業所が生き残るための事業多角化の戦略や、そのために必要な人材確保のポイントをまとめます。

目次

  • 次の介護報酬改定・介護保険制度改正はマイナーチェンジではない
  • 報酬削減による経営リスクを減らすには多角化しかない
  • 従業員にとって働きがいのある職場とは?
  • 離職率を下げるには根拠のある介護を教えるシステムが必要
  • 外部研修よりも職員全員が参加する内部研修に力を入れる

北海道介護福祉道場 あかい花
代表 菊地 雅洋 氏

北海道介護福祉道場 あかい花
代表 菊地 雅洋 氏

次の介護報酬改定・介護保険制度改正はマイナーチェンジではない

まず、2018年度の介護報酬改定の方向性について語りたいと思います。

今回、衆議院が解散総選挙となりましたが、その結果がどうなろうとも、介護保険制度の形は変わりません。これまでずっとそうだったように、官僚が作った流れの中で物事が動いていきます。

いわゆる「骨太の方針」の政策基本骨格は、今でもしっかり生きています。社会保障費は、本来なら1兆円の自然増になるはずですが、この骨太の方針によって5000億円に抑えられるのです。そして、平成30年度は、診療報酬と介護報酬がダブル改定です。全体的に引き上げられるかもしれない、という甘い期待は捨ててください。とこか一部の報酬が上がることがあっても、必ずどこかでしっかり下げられます。

介護給付費は、今後も適正化が進められ、重点分野には多くお金が配分され、それ以外のところではしっかり削られます。例えば、サービス付高齢者住宅(サ高住)に関わる報酬や、通所介護の長時間レスパイトケアは大きく削減されるでしょう。

また、国は、在宅復帰機能とターミナルケアという、いわば両極の取り組みを、全ての介護施設にやらせようと考えています。ここには手厚い配分をし、その代わりにリハビリやターミナルに関係ない部分には厳しく迫るはずです。

訪問介護の生活援助も、給付費減額の方向です。ただし、配置基準が緩和されます。今、訪問介護の生活援助は有資格者しかできませんが、これを施設サービスでの提供と同じように無資格者でも多くの介護をできるようになるのです。その上で、しっかり給付費を減ろうという考えです。

経営者は、削減された部分の穴埋めを、このような加算された部分に求める他ないでしょう。ただ、加算は利用者の人数に対して行われるので、小規模事業所ほど加算効果は薄くなります。実は今、国は事業所の大規模化を推し進めたいと考えていて、小規模事業所は統合しないと経営が成り立たないという方向に持っていこうとしています。

次期の介護報酬改定は、制度改正の含みを持たせた大きな改定であり、決してマイナーチェンジではありません。

このことを象徴するかのような改定があります。それは導入が確実視される自立支援介護です。一定期間、利用者の要介護度が維持あるいは改善した事業所については、翌年度の報酬を高くするという方式が介護報酬に取り入れられます。言い換えれば、介護サービス事業所に、成果報酬の制度が導入されるのです。今後、ますます経営者の能力が問われるようになり、身売りや経営統合も多くなると覚悟しておくべきです。

もう一つ、市町村に介護に関わる報奨金制度が新たにできます。利用者の要介護度を改善させるなどして給付費を抑えられた市町村には、報奨金が出されるのです。財政運営が厳しい市町村は、この報奨金が欲しいでしょう。また、タイミングを同じくして、市町村は平成30年度に居宅介護支援の指定権限を都道府県から委譲され、居宅介護支援事業所を指定するようになります。国からの報奨金を得たい市町村の中には、事業所に対して「こんなサービスはやり過ぎだ」と根拠もなく指導する可能性があるのです。

さらに国は、居宅介護支援事業所の大規模化も進めようとしています。小規模事業所の統合をさらに促すために、平成30年の改正で、管理者を主任ケアマネジャーに限定したうえで、その3年後の報酬改定に合わせて、居宅介護支援事業所については、ケアマネジャーを3人以上配置しないとならないというふうに大規模化を図ろうとしています。

報酬削減による経営リスクを減らすには多角化しかない

経営者は、介護報酬がますます削減される中、経営リスクをどうやって減らせばいいのでしょうか。やはり、提供サービスを多角化するしかないと思います。例えば、医療と介護の両方ができる事業スタイルを作っていく。事業の多角化を進めるには、事業間で人材を回せるだけの規模の拡大も必要でしょう。

今のところ、次の改定では、保険事業と保険外事業を一緒に行う混合介護は見送りになる公算が高いでしょう。ただ、保険事業のみで収益を上げる構造は、もはや限界が見えています。どこかで保険外サービスを始めなくてはなりません。この点でも、小規模事業の経営は限界に近く、経営統合の道を探るしかないでしょう。

来年度からの3年間、社会福祉法人の合併や統合が必ず進むことが予想されます。その流れの中で、医療法人が社会福祉法人の認可をもらい、医療と介護のセットで経営するスタイルも広がっていくはずです。

来年度から、介護の居宅サービスに障害者サービスを付加できる「共生型サービス」が始まります。この動きは、事業拡大のチャンスです。来年度からの3年間で収益を上げられなくても、ノウハウをいち早く作ることで、地域内での事業の囲い込みができます。今後、だんだんと介護事業に障害者サービスが入ってくるはずなので、地域内でそのサービスを提供できる唯一の存在となれば、利用者は自然と集まります。

ただ、事業拡大するには人材が必要で、この確保が最大の課題です。

今年の7月28日に公表された総務省の労働力調査(基本集計・2017年6月分<速報>)では、就業者数は6,583万人となり、前年同月比61万人増。54カ月連続で増加しています。景気が良いのです。しかし、産業別では医療・福祉の就業者数は836万人で、昨年の6月と今年の6月を比べると9万人も減っています。特に、介護労働では、政令指定都市や東京23区の離職率が高く、他の産業分野に人材を引っ張られてしまっています。

この数字から言えるのは、介護関連事業所が必要な人材を全て確保するのは難しいということです。もはや、ピント外れの政策しかできない国や県に頼ってはいられません。生き残りをかけて事業を多角化し、拡大していくには、各法人が独自のノウハウで人材を獲得するしかありません。

従業員にとって働きがいのある職場とは?

介護分野の職員の収入は、他の分野より低いイメージがあります。しかし、決してそんなことはありません。地方に行けば、高給の部類に入る場合もあります。特に女性は、全産業の平均と比べても、あまり変わりません。

ここをしっかりアピールすれば、離職率の高い分野、例えばサービス産業からこちらに来てくれる人はきっといるはずです。このサービス産業は、有給休暇や夜勤明けの休みが取れないことも多いので、こちらが「うちは休みが取れます」とアピールすれば、さらに人材確保の可能性が高まるはずです。待遇をきちんとブラックからホワイトに変え、積極的にアピールしましょう。

また、新たに介護分野に入ろうとする未経験者に対して、すぐに離職しないようにさせるには、あるいは働き続けていてもらうにはどうすればいいのか、しっかり考えておきましょう。この分野で働こうとする人たちの多くは、「人の役に立ちたい」というモチベーションを持っているものです。そんな人が離職してしまうのは、「実際はそうではなかった」と思うような状況があったからでしょう。

モチベーションを持ち続けられる職場環境を作ることです。これが人材確保の面で、とても重要です。

優秀な人ほど、辞める理由が明確で共通しています。「自分の考えや意見を上司が全く聞いてくれない」、「利用者への対応が流れ作業になっている」、「こんなやり方が利用者のためになるとは思えない」という理由のいずれか、あるいは全部です。スキルや目的意識の高い人ほど、こういった理由で離職する。適切な介護レベルに達していない事業所がいかに多いか、という現れでしょう。

その中で、募集すると多くの応募者が集まる介護事業所もあります。そんな職場を見に行くと、決まって離職率が低い。「離職率が低い職場=就職したい職場」という論理は成り立ちます。同時に、逆のことも言えて、応募者が少ないところは、たいてい離職率が高いのです。応募者を増やしたかったら、離職率を下げましょう。

では、どうすればそれができるのか。やはり待遇です。有給休暇を取れるようにしましょう。有給休暇がきちんと取れる職場は、離職率が低い。私がそんな職場の職員たちに「誰かが有給休暇を取ると負担が増えませんか」と尋ねると、「自分も休むときがあるからお互い様です」というような返答がどこでも返ってきます。有給休暇が取れる職場は、互いにカバーし合える良好な人間関係があるということの現れでもあるのです。職員同士の人間関係を良くして、カバーし合えるような環境を作りましょう。

離職率を下げるには根拠のある介護を教えるシステムが必要

未経験者の場合、せっかく確保できても、すぐに辞めてしまうケースがよくあります。その原因の多くが、介護をきちんと教えてもらえないというものです。根拠のある介護方法が分からないから、利用者に痛い思いや危ない目にあわせてしまい、「どうすればいいか分からない」「大きな失敗をしそうで不安でたまらない」と思い始めて、やがて辞めていくのです。

経験のない新人が安心して介護の現場に入り、働き続けられる仕組みを構築しないと、いつまでも採用者がすぐに離職することを繰り返すことになります。きちんと成長できる教育システムが必要なのです。よく、「OJT」と称して、新人を先輩職員に張り付かせて仕事を覚えさえる事業所を見ますが、教えているのは作業の手順だけだったりします。介護の技術を全く教えていない。

しかも、その指導者が研修期間に変わったりして、全く別の方法を教えられる。新人は混乱し、やがて「どうでもいいんだ」と思い始めるのです。そして、どこかで失敗し、現場に出るのが怖くなり、やがて辞めることになっていく。残ったとしても、スキルの低いままです。

未経験の新人に対しては、実務の前にしっかりと基礎研修をすることです。2週間は座学で学ばせ、それからOJTの現場に出し、そこで座学の知識を実地で確認させていく。指導者はしばらく固定し、根拠を示して教えていく。また、1週間に1度は、振り返りの相談指導や座学指導の機会も用意する。このような教育システムを作れば、新人は混乱しなくなります。失敗も少なくて済み、不安を覚えることも少なくなります。働き続ける可能性が確実に高まるのです。

もちろん、このような手間をかければ、コストが生じます。しかし、離職率は下がるのです。離職率が高い職場は、人材育成に費用をかけていない傾向が明らかにあります。募集をかけても応募者が少ないという事業所の経営者や施設長は、そこをしっかり認識し、確保できた人材をきちんと育てるという視点を持たなくては、今後もサービスの多角化ができず、生き残りが難しくなっていきます。

外部研修よりも職員全員が参加する内部研修に力を入れる

働き続けている職員のモチベーションを高める研修も大切です。

安易に外部研修に頼る事業所をよく見かけますが、その効果は限定的です。派遣した職員が一時的に意欲を高めることがあっても、その思いを他の職員と共有できないので、やがて意欲がなくなっていきます。

外部研修よりも、職員全員で受ける内部研修を充実させるべきです。その方が、職員の成長につながります。1年に1回でもいいので、その事業所の課題を解決するんだという意気込みで、最もふさわしい講師を招き、全職員の意識統一を図ってもらい、実効性の高い指導をしてもらう。その上で、外部研修に一部の職員を派遣して、内部研修で足りないところを補完していくのです。

また、定着率と意欲の向上には、遠くまで見通せるキャリアパスを作ることも大切です。私のところでは、スタッフのレベル指標を示し、あえて「セミナー講師」や「コンサルタント」など、独立のところまで見えるようにしています。意欲の高い職員のモチベーションが高まるからです。もちろん、独立してしまえば、その優秀な職員は職場を去ることになります。しかし、その職員はそれまでに多くの後輩を育ててくれたのです。優秀な職員の可能性を潰すよりも、そのような優秀な職員が次々に現れる仕組みを作る方が、結果的には良い効果を職場にもたらします。

利用者の悲しい顔を見てモチベーションが上がるという職員はいません。介護レベルの低い現場は、利用者の顔はいつも悲しく、職員も意欲を持てません。だから、職場を去って行くのです。そして、その穴を埋める新人は、なかなか確保できず、現場はますます疲弊します。

利用者が幸せそうな表情をしてくれるからこそ、職員は介護という仕事を面白いと感じ、やりがいにつながるのです。経営者は、そういった方向に職場を持っていかなくてはなりません。有能な人材を作る仕組みを整えなくてはなりません。

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