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【内田洋行食品ITフェア2018in東京】 磐田スマートアグリカルチャー事業の取り組み 〜「種苗」を起点とした、共創による新たなビジネスモデルの創造〜

2018/4/16 [食品,セミナーレポート]

農産物の強力な流通網を有する企業と、高い品種開発力を持つ種苗メーカー、デジタル・テクノロジーに通じたICT企業の3社が、2016年4月に設立した「スマートアグリカルチャー磐田」。これまでの取り組みと、デジタル・テクノロジー(センサーや農業用クラウドシステム)を最大限に活用した新しい農業スタイルの確立について紹介します。

目次

  • スマートアグリカルチャーで社会課題に挑戦
  • 3つの事業を推進
  • 圃場の環境要素を制御し目標生産量に近づける
  • 栄養成長と生殖成長の良バランスで成長
  • 栽培データを蓄積して分析中
  • 食・農クラウド「Akisai」を使って環境を制御

内田洋行食品ITフェア2018 in 東京にて

株式会社スマートアグリカルチャー磐田
代表取締役専務
伊藤 勝敏 氏

富士通株式会社 食・農共創プロジェクト推進室部長兼 株式会社スマートアグリカルチャー磐田 代表取締役専務。富士通のシステムエンジニアとして、クラウドシステムの企画・開発に従事した後、2016年4月、スマートアグリカルチャー磐田の設立に伴い、初年度より同事業を牽引する。

スマートアグリカルチャーで社会課題に挑戦

弊社は、2016年4月に静岡県磐田市に発足した若い農業法人です。略称は「SAC iWATA」。ICTを活用した大規模施設による栽培と栄養価の高い機能性野菜を通年で栽培しています。株主は富士通株式会社(51%)、オリックス株式会社(39%)、株式会社増田採種場(10%)。この3社がコアとなり、種苗を起点とした新たなビジネスモデルを創造していきたいと考えています。

なぜ富士通が農業事業に参入したのか。富士通には、テクノロジーで人々を幸せにしたいという企業理念があるからです。ICTなどのテクノロジーを活用した農業を実践し、スマートアグリカルチャー事業を通じて社会課題に挑戦していきたいと思っています。また、農業分野はこれからますますICTが活用される分野であり、成長市場でもあると考えています。

また、農業の関連業界は、研究・人材開発、流通・食品、農業インフラ、生産・加工、種苗とそれぞれ縦割りになってしまっていることが多いです。私どもは、この業界間をつなぎ、フードバリューチェーンを構築して新しいビジネスモデルを作っていきたいと考えています。

3つの事業を推進

弊社の事業は大きく分けて三つあります。

一つ目は、マーケットイン型の生産・加工事業です。すでにトマトなどの生産を開始しています。また、加工にも取り組み、検証しているところです。

二つ目は、種苗ライセンス事業。日本には、中小の種苗企業が多くあり、優れた技術を持っています。しかし、その技術がビジネスに必ずしも生かされていません。そこで、種を売るだけでなく、栽培技術やそこで使う施設や資材などもライセンス化することで、農業法人や大規模な農家にセットで販売できないかと考えています。

三つ目は、施設園芸向けインフラアウトソーシング事業。今、私どもは大規模な施設園芸の運用をしています。このノウハウを形式知化して、ICTも含めて農業法人や大規模農家にアウトソーシングする事業も展開したいと考えています。

SAC iWATAには、約80の農家から土地を借り、約8.5 haの事業用地があります。そこに、トマトハウス、パプリカハウス、水耕葉物ハウス、種苗研究ハウス、土耕ケールハウス、集出荷場があります。

種苗ライセンス事業を推進するための種苗研究ハウスのエリアは0.3 haの広さがあります。育苗ハウス・土耕ハウス・水耕ハウス・培地耕ハウスが連なり、施設園芸で用いるハウスはほぼすべてそろっています。また、富士通が開発した農業環境をコントロールするICT「Akisai(秋彩)」を各ハウスに取り入れています。

ここで、種苗会社と一緒になって、世に出ていない種や栽培が難しい種を持ち込んで、ICTを活用して栽培の検証をしています。例えば、種苗会社が土耕でしか作ったことのない種を持ち込んで水耕で実験をするなど、新しい栽培技術や商品の開発に取り組んでいます。

冒頭にも申し上げましたが、中小の種苗会社はとても良い種を持っています。そこで、品種・栽培技術・資材をライセンス化して提供していくビジネスをここから始めたい。現在、小売店等の販売の現場に、種苗会社にも一緒に足を運んでもらい、消費者のニーズも直接集めるなど、マーケティング面からも種苗会社の品種開発を支援しているところです。

圃場の環境要素を制御し目標生産量に近づける

パプリカハウスでは、1.8 haの栽培エリアに約5.5万株のパプリカを栽培しています。ハウスは、小さな三角形の屋根が連なるオランダで開発された「フェンロ―型(連棟型ハウス)」と呼ばれるタイプです。ハウスの栽培エリアは、奥行き200 m、横幅96 m、軒高6 mの広さです。
昨年の9月、ここにパプリカの苗を入れました。最も大きく成長すると5m強の高さに達します。今年の夏まで栽培を続ける計画です。

ハウスの栽培エリアに設置された天窓、遮光カーテン、保温カーテン、暖房などの設備は、温度や湿度、日射量などの環境要素のあらかじめ設定された閾値の変動により、コンピュータにより自動で環境要素の制御を行っています。

また、 ある一定の日射量がたまったタイミングで養液と二酸化炭素を供給し、最適な光合成が行えるようにしています。この養液については、吸収されなかった分をきちんと回収しリサイクルしています。環境要素をきちんと制御することや労務作業の生産性を向上させることにより、生産量も目標に近づいています。

栄養成長と生殖成長の良バランスで成長

トマトハウスは、1.2 haの栽培エリアに約3万株のトマト苗を栽培しています。基本的にパプリカハウスと同じ仕組みです。栽培エリアは、奥行き104m、横幅110m、軒高6m。ただ、トマトの株は20m以上に成長しますが、収穫が人の背の高さで行えるよう茎を下にずらし、横に這わせるようにします。トマトハウスでは、他のハウスに先駆けて農業界のISOに相当する「グローバルGAP」を取得しました。

ここにトマトの苗を入れたのは昨年9月です。10月下旬から収穫が始まっています。パプリカ同様に今年の7月末か8月初旬まで収穫を続けます。

植物の成長には、葉や茎が大きくなるための栄養成長と、実をつけるための生殖成長があります。この二つの成長を季節に応じて舵取り(11月に生殖成長に、3月から栄養成長に)することが多収につながります。9月、10月は夜間気温が高く目標の生育にすることに手こずりましたが、今年の1月には生育状態を理想に持っていくことができ、収量、品質ともに向上しています。

栽培データを蓄積して分析中

水耕葉物ハウスは、0.7 haの広さです。ホウレンソウ、クレソン、パクチー、レタス、ケールなどを生産しています。薄膜水耕方式を採用し、苗を定植する20mのベンチが216本、配置されています。最大定植可能数は、約38万株。なお、苗により商品の品質が大きく左右されるので、完全閉鎖型相当の施設で温度、湿度、CO2、光、水など、最適な環境で発芽、育苗を行い、栽培エリアに定植します。

また、土耕ケールハウスは、0.5 haの広さがあります。ここでは、株主の増田採種場が開発した種子を使ってサラダ用ケールを栽培しています。ケールは栄養価が高く、米国では健康食品として普及しています。私どもは、このケールの市場を日本で作りたいと考えています。現在、土耕ハウスは4棟ありますが、各ハウスで土の性質が異なっていることや、水耕と違って常に一定の状態(再現性)を維持することが難しいです。今、他のハウス同様に栽培データを蓄積・分析し、最適な栽培方法について形式知化を進めているところです。

食・農クラウド「Akisai」を使って環境を制御

弊社では、ICTを活用した農事業を更に進めていきます。特に、経営管理や栽培作業、収穫などへのICTの導入に力を入れています。栽培環境の制御の高度化や作業管理の見える化については概ね順調に進んでいます。現在は植物生態情報の計測の高度化に取り組んでいます。植物の生態情報、例えば光合成能力など見えないところまで可視化し、生産に役立てていきたいと考えています。

私どもは、食・農クラウド「Akisai」を使って、環境を制御しています。温湿度センサー・日射センサー・屋外気象センサーなどでハウス内外の環境を計測し、そのデータが次々と富士通のデータセンターにある「Akisai」に入って来ます。すると、データが解析され、ハウス内が生育に最適な環境になるように、予め現場の栽培管理者によって設定された閾値により、天窓・遮光カーテン・暖房機などの機器が自動で調節されます。将来は、ビッグデータ解析をして、人工知能を用いて人が判断しなくても制御できるような仕組みを作りたいと思っています。

例えば、葉物野菜にはカビの一種で「べと病」というやっかいな病気があり、湿度が95 %以上の状態が数時間続くと発生します。以前は、この湿度を下げるために、夜間に暖房をこまめに28回運転していたのですが、18時〜19時に換気を1回するだけで夜間の暖房は2回で済むことがわかりました。このようにICTの強みの一つは、環境を可視化でき、検証がとてもやりやすくなることです。ただ、ICTがあるから農業がうまくいくわけではありません。栽培の考え方や方針、作業員の作業目標などを設定し、PDCAを廻しながらICTを活用するのが、とても重要です。

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