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【内田洋行食品ITフェア2018in東京】 「持たない」IT戦略で、働き方を変える、人を育てる。

2018/4/16 [ワークスタイル,セミナーレポート]

「攻めのIT」という言葉が世に出て久しいですが、現場は既存システムの運用に追われ、まだまだ「守る」部分に経営資源を割かざるを得ないのが、現実ではないでしょうか。
日清食品グループも、まさに同様のジレンマと対峙しながら、約180あったレガシーシステムの七割を移行・廃止し、簡素化による部員の「働き方改革」を進行中です。
今後のイノベーションの方向を見ながら、「持たない」IT戦略でどのようにグローバル化を進めているか、紹介します。

目次

  • 複雑に絡み合う社内システムを、「捨てる」ことで整理・統合
  • 目的はシステムづくりでなく、本業に注力できる体制づくり
  • システムの整理・統合が、働き方や採用にも好影響を及ぼす
  • 他社を参照して組織をつくり、“千本ノック”で人材育成

内田洋行食品ITフェア2018 in 東京にて

日清食品ホールディングス株式会社
執行役員・CIO
喜多羅 滋夫 氏

外資系企業のIT部門で20年以上にわたり、情報システムの企画・開発・運営に従事した後、2013年4月、日清食品ホールディングス株式会社に入社。初代CIOとしてグループのIT化を牽引する。

複雑に絡み合う社内システムを、「捨てる」ことで整理・統合

当社では2013年に、海外展開を見据えたIT戦略の立案と、それに伴う基幹業務システムの刷新を行いました。

私がCIOに就任する以前、日清食品グループの情報システム部門は、よくある「なるべくコストをかけない」という方針のもと30人ほどのチームで運用されていました。最初に基幹システムが導入されたのは1970年代。その後は時代の変化に合わせて少しずつ個別改修や周辺システム追加をしていき、現場にはExcelやAccessでつくられたさまざまなシステムが混在しているという状況でした。必要に応じて、“いったん”基幹システムとは別のシステムで運用を始め、統合されないままで進んできてしまっていたのです。そこで、私が最初に行ったのは、システムの機能図をつくり、全体を把握することでした。

実際に機能していたので問題視されてはいなかったものの、システムが多いぶん固定費がかかり、保守に手間がかかる、きわめて属人的なシステム運用がなされていました。平均して1人あたりいくつものシステムを担当しており、担当社員がいなければ運用できず、長期休暇をとることもままならないという状態です。そこで私が掲げた個人的なゴールは、システム標準化により属人的な運用を撤廃し、社員が休める環境に変えていくことでした。

目的はシステムづくりでなく、本業に注力できる体制づくり

まず行ったのが、IT方針の策定でした。第一に、基幹システムやワークプレイスツールの刷新。グローバルな展開を目指そうというときに必要なのは、世の中で数多く使われている「デファクトスタンダード」を考慮して、社内システムの標準化を進めることです。そこでグループ会社の事業規模に合わせて、SAPやNavision、スーパーカクテルなどに集約していきました。

第二に、情報機器資産をできる限り社内に持たないことです。週末も稼働する工場などのセキュリティ面や、減価償却費を考え、可能な限りクラウドサービスを活用しました。

第三に、IDとパスワードを統合し、ユーザーエクスペリエンスを向上するとともに、セキュリティリスクを下げることです。 そして第四に、外に目を向け、他社・他業界のベストプラクティスを貪欲に応用することでした。外部に良い事例を求め、スピーディに取り入れる。私たち日清食品のシステム部門がしなければならないことは、あくまでもシステムが生むデータを活用して、食品業としての企業価値を高めることなのです。部員がそこに注力できる体制へと移行していきました。

◆ IT方針のまとめ
1.基幹システムやワークプレイスの刷新
2.情報機器資産を持たず、クラウドサービスを活用
3.IDとパスワードの統合によるセキュリティの向上
4.他社・他業界のベストプラクティスを応用(外を見ろ)

新しい基幹システムを導入するプロジェクトは、対象会社を大きく2つのグループに分け、ビッグバンでシステム切替を行いました。移行期間中は、旧システムとの並行稼働にかなりの労力を割かざるを得ませんでした。そのため、第二期の導入が完了次第、速やかに旧システムを“落とす”ことを目標にしました。

システムの整理・統合が、働き方や採用にも好影響を及ぼす

第一期の運用が軌道に乗り安定してきた2015年11月時点で、情報企画部が運用していたのは、3つの基幹システムと180もの周辺システム。この数を削減して運用を効率化していく必要がありました。そのために「やめたらいいのに」をキーワードに、旧システムを整理・統合していきました。

利用頻度が低くユーザー数も少ない、システム化する必要のない機能が基幹システム上で動いていました。例えば、38名しか利用していなかったシステムはExcelツール化してホストから外したり、年2回しか利用機会がなかったシステムはSharePoint上に移行したうえで、ユーザー側で運用できるように改めました。業務要件として必要であるものと、その機能の提供が現在の姿であり続ける必然性があるかどうかは、必ずしも同義ではありません。

このようにしてすべての周辺システムを精査し、新たに導入した基幹システムと統合していった結果、180あった周辺システムは第二期が稼働する前に66まで、現在は40弱にまで減り、情報機器類や長期保存していたデータを処分することができました。同時に、部門内での残業も劇的に削減することができました。

新しいものを導入するのは簡単ですが、長年使っていたものを捨てるのは難しいものです。しかし、機器のリース料や保守費が削減でき、残業時間も減少し、有給休暇の取得率が向上するという大きなメリットがあります。今、人材を集めたり育てたりするのが大変な時代ですが、情報環境を改革していくことは、「この会社に入れば何かができそう」という雰囲気をつくり、人材を集めることにもつながります。

他社を参照して組織をつくり、“千本ノック”で人材育成

人材育成と組織開発に関して、少しお話しさせていただきます。IT環境を整える以前、情報システム部門では主に社内のサポートや簡単な開発を行っていました。そこから新たな組織を再構築する際にまず行ったのは、外部の成功している組織を、自部門において再現することです。自分のこれまでの経験でモデルとなる組織を分析し、そこから得られた「成功する組織の要因」を、自社にどう当てはめていくかということを行いました。

まず、軸となる戦略テーマを掲げ、仕事の両輪である「プロジェクト管理」と「サービス管理」をコアスキルとして設定し、全員が一丸となって仕事ができるよう組織を統合しました。不足していたスキルについては新たに人材を雇用して補充し、企画から運用まで、自律的にPDCAを回せる組織をつくりました。

当初はどこにでもある、普通のIT部門であり、そこで働いていたのは“普通の”人材だったんです。そのメンバーたちに、まずコアスキルの研修を行い、そこで得た基本スキルに基づいて仕事をすることを徹底しました。例えば、主要プロジェクトでは必ずプロジェクト計画書を作成してもらい、私自身で何度も添削しました。その結果、プロジェクト管理に携わることが皆無だった社員が、自律的にプロジェクト管理をできるようになり、IT総合賞を受賞するまでに成長してくれました。また別の開発者は、現在、グループ内の業務標準化の主導的役割を担ってくれています。

イノベーションのスピードが速い情報技術の分野では、身軽でいることが大切です。だから「持たない」。その上で、構造的にシステムを簡素化・標準化していき、システムサポートの属人性を排除することで、部員の総労働時間を削減することができました。各社、人材育成に悩んでおられるとは思いますが、私自身の経験では、必ず社内に磨けば光る人材はいます。潜在能力のある人材には、コアスキルを徹底的に習得させる。部門長自ら、そのスキルを徹底して鍛え磨き続けることで、人は育つと考えています。

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