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【内田洋行食品ITフェア2018in東京】 サッポログループの物流改革 〜当社が考えるみらい物流〜

2018/4/16 [物流,セミナーレポート]

サッポロビールを中心に、連結会社55社を抱えるサッポログループ。今後、各事業会社の戦略による商品多層化や事業分野の拡大などが進んでいく。この状況に対応していかなければならない“みらい”のグループロジスティクスの考え方について、グループリーダーが「標準化」「可視化」「シェアリング」をキーワードに解説します。

目次

  • 物流改革の核心は標準化、可視化、シェアリング
  • 少ないリソースで物流を回せる組織に
  • 「波動」に対応できる在庫データのタイムリーな可視化
  • 組めるならあらゆる可能性を追求したい
  • 10年後の物流において予想される環境の変化

内田洋行食品ITフェア2018 in 東京にて

サッポログループマネジメント株式会社
グループロジスティクス部 グループリーダー
井上 剛 氏

1997年4月入社。名古屋、関西のロジスティクスセンターに勤務したのち、2003年に本社サプライチェーンマネジメント部に異動。サッポロ流通システム本社ロジスティクス推進部、サッポロ流通システム本社物流業務部、本社サプライチェーンマネジメント部、サッポログループ物流 本社 ロジスティクスソリューション部 ソリューショングループ部長を経て現職。

物流改革の核心は標準化、可視化、シェアリング

サッポログループは今、物流改革に取り組んでいます。そして、圧倒的に強い物流の仕組みを作り上げたいと思っています。

その改革の核心は、3つあります。標準化、可視化、シェアリングです。本日は、この3年間に取り組んで来た改革の事例や実績について説明し、今後10年間で生じる変化における課題やリスクを説明していきます。

現在、サッポログループは、連結で55社ほど擁しています。従業員数は約1万6700人。そのうち約2割が外国籍となっています。

グループにおけるロジスティクスは、まず本社機能を持つサッポログループマネジメントに「グループロジスティクス部」があり、グループ全体に横串を通す物流の企画戦略を立てます。また、主な3事業会社「サッポロビール」「ポッカサッポロフード&ビバレッジ」「神州一味噌」のそれぞれにロジスティクスを担当する部があります。そして、物流の企画・管理業務を担うのが「サッポログループ物流」です。その傘下に、運送及び倉庫業の現業を営む「サッポロ流通システム」があります。
全体で約280名がグループの物流を支えています。

私どもは、1990年代の後半から、物流センターを多く統廃合してきました。しかし、今は単に集めるだけでは、物流拠点の改善は図れません。例えば、カテゴリーでナンバーワンをとっているものは他社と組んだりなど、いろいろな工夫が必要になると思っています。単に拠点を寄せるという判断は、これからはないでしょう。今、危機感を一番強く覚えているのは、労働力不足から、必要なときに必要なものを運べないということです。

そこでキーワードになるのが、冒頭で示した標準化、可視化、シェアリングです。3つがポイントであり、私たちはこれから各事業会社とともに、この3つのポイントに沿ってストーリーを持って策を展開していきます。

標準化は、最新技術を活用する上では大前提になるでしょう。標準化したものをシステムで支援していくためには、必要なデータを必要なときに抽出できる形にしておくことが重要で、そのためには可視化が不可欠です。シェアリングは、これまでもやってきておりますが、これからは情報のシェアリングがもっと進んでいくでしょう。

少ないリソースで物流を回せる組織に

標準化が第一優先事項になるのは、4つの理由があります。

物流のリソースは、これから減っていきます。少ないリソースで物流を回せる組織にしなければ、商品を確実に届けることができなくなります。

弊社は、物流においてプロジェクトを立ち上げました。2018年から実行フェーズに入っていて、2020年までにすべて完結させるべく、100人規模のチームが動いています。需給計画、配車管理、倉庫管理、輸出入管理、請求支払の5つのプロジェクトを立ち上げて、システム導入を図ろうとしています。これは、プロセスの標準化でもあります。

例えば、供給補充については、これまでプッシュ型で、作ったものを優先的に運んでいました。これからは物流の制約が増えていくので、まずトラックの台数を決めて、その台数で可能な補充を上流側で決めていく考え方にシフトしようと思っています。

「波動」に対応できる在庫データのタイムリーな可視化

物流のデータは山ほどあるのですが、それが共有されていなかったりします。物流側からの情報発信が弱いのです。この課題を克服するには、データを数値化して定量化しシェアすることが重要だと考えています。情報は、すべて見せるのではなく、必要なものをシンプルに分かりやすく見せることが重要です。さまざまなデータや指標がありますが、担当が管制官になったつもりで、工夫して見せていくことが大切です。

当社の商品は、ビールや飲料、スープ、味噌などいろいろなカテゴリーがあり、どれも物量の波「波動」が大きくあります。昨年は冷夏で、さらに9月に急に寒くなるなどして、スープの需要変動が激しい一年でした。ビールも天気・景気・人気によって売り上げが大きく変わると言われています。環境の変化に販売量が左右されることが多いので、物流では在庫に関わるデータをタイムリーに可視化して見せる工夫が必要です。

また、社会問題になっているトラックの待機時間を減らすことについても、可視化で取り組んでいます。まず着手したのは、自社物流センター内でのトラック滞留時間の改善です。ドンピシャにトラックをつけて、伝票をサッと渡して、製品をスッと積んで、ピッと出て行く「作戦」を展開していきたいと思います。得意先の物流センターでは、GPSを使った動態管理システムで可視化の検討にも着手しております。

ただ、得意先での待機時間を減らすことは、一社だけが改善を要望しても受け入れてもらえないでしょう。ビール各社など、多くの関係事業者が協力しないと解決できない問題です。発荷主、着荷主、物流会社の三方良しを目指して、この問題に取り組んでいきたいと思っています。

組めるならあらゆる可能性を追求したい

シェアリングに取り組む目的は4つあります。

弊社は、これまで酒類メーカー様、ビール各社様と横の連携で物流共同化を展開して来ました。加えて、これからは接点のなかったメーカー様や卸様、小売り様とも手を組みたいと考えています。弊社としては、組めるところがあればあらゆる可能性を追求したいと考えています。

同業他社の場合、波動が同じになるので、いつも同じ時期にドライバーの取り合いになります。特に静岡や長野、神奈川などでは、異なる業種と組むことが必要になると思っています。それが、商品を確実に運ぶことにつながり、物流量もきちんと予測できることにつながるはずです。

弊社は、以前から小売り大手のイオングループ様と共同配送に取り組んできました。直近では、貨物船を使った共同運行を2017年から始めています。静岡から大分にサッポログループの飲料商品を運び、大分から静岡へはイオングループ様のPB商品を輸送します。

また、北海道でもビール4社が協業に取り組み、共同配送を実現しました。トラックの運転手不足が深刻になる中、運べないリスクを回避するためにライバルの垣根を越えて手を取り合ったのです。鉄道コンテナ貨物が十勝平野から札幌に農産物を多く運んでいたのですが、そのコンテナが空で戻っていたので、このコンテナにビール類を入れようとなったのでした。検討から実現までに2年の歳月を費やしました。毎週、ビール各社と会議を開きました。テーブルの下では、各メーカーの営業が激しい戦いをしていますが、物流では今後も協業が広がっていくのではないかと思っています。

10年後の物流において予想される環境の変化

今後、物流に関わる環境は大きく変化するでしょう。

今、ドライバーの問題が深刻化しています。長距離輸送に対する制約も、拡大していくでしょう。ビールメーカーはこれまで直送が多かったのですが、この形を維持するのは、おそらく無理です。ECも拡大しています。

10年後、何も手を打たないと弊社の物流費は現行比で50億円も上昇すると試算しています。このコストをどう下げるか。現状の課題については2020年までに解決するめどをつけていますが、その先の未来に向けた課題については、物流だけで取り組めるものではないと考えています。事業会社とともに取り組む必要があり、広義のサプライチェーン(商品開発・調達・生産・マーケティング・販売といったバリューチェーン全体をさす。以下同様)で取り組まなくては解決には至らないでしょう。

マーケティングの関わりも必要です。これからはロジスティクスの視点でマーケティングをしていくアプローチが不可欠だと考えています。

ロジスティクス改革を進めるために必要なことは何かと考えたときに、最後に行き着いたのは “人財”の育成です。ロジスティクスのコアの部分だけでなく、マーケティングや製造、営業など、ロジスティクスに関わる部門の人財にもSCM(Supply Chain Management)の重要性を理解してもらうことが重要です。

今年の9月、企業内大学「サッポロロジスティクス★人づくり大学(通称:ロジ大)」を立ち上げます。ロジスティクス全体を見渡すことができ、現場を理解して解決ソリューションを取り入れながら、ロジスティクスの課題を解決する人財を輩出します。ここで将来の物流のリーダーを育てます。そして、ここを巣立った人財が、やがて組織を超えて協力し合えるようになってほしいと願っています。期間は1年半。10人くらいを対象にしようと思っています。

また、営業や製造などのキーマンに対して、ロジスティクスの重要性や基本を伝える定期セミナーも開講したいと考えています。物流には現場があり、そこに生きた教材があります。その現場で視察しながら学ぶこともできます。製造、営業、マーケティング部署、本社のブランドマネジャーにも物流現場に行って・見て・知ってもらうことで、そこで新たな発想を創造してもらう機会の場にもなるはずです。

何もしなければ、物流のコストが50億円も上昇します。しかし、標準化、可視化、シェアリングを軸にしてテクノロジーを積極的に活用し、かつ人財育成も安定的に計画的に実施すれば、この数字を大きく引き下げることが可能です。そう考えて、私たちはこれかも改革を進めて参ります。

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