HOME > 情報システム分野 > IT レポート > ICT技術を活用した植物工場に関する最新事例と今後のビジネスチャンス

【植物工場IT活用事例セミナー】 ICT技術を活用した植物工場に関する最新事例と今後のビジネスチャンス

2018/8/28 [食品,セミナーレポート]

ITを活用して収益の機会を生み出すデジタルビジネス時代の到来を受け、植物工場も大きな変換期を迎えています。IoTやビッグデータなどのIT技術は、植物工場のビジネスモデルにどのような価値を付与するのでしょうか。本講演では、植物工場での最先端技術を年間100社以上グローバルに取材した経験を元に、国内外の動向や市場のトレンド、今後のビジネスチャンスについてお話しします。

目次

  • <国内の動向>
  • 植物工場ビジネス参入の可能性
  • 人工光型植物工場のメリット
  • 施設園芸の将来性
  • レタスで見る植物工場ビジネスに適した作物
  • 人工光型植物工場ビジネスの現状と将来性
  • 人工光型植物工場ビジネスで採算は取れるのか
    …ほか

植物工場IT活用事例セミナーにて

一般社団法人イノプレックス 代表理事
藤本真狩 氏

神戸大学経済学部を卒業後、京都大学医学研究科在籍中、2008年にNPO法人イノプレックスを設立、2015年に一般社団法人化。「食・農業」ビジネスを中心に、年間100社以上の最先端技術をグローバルに取材している。近年は、店内で野菜を栽培する「地産地消型レストラン」、体験型・観光農園など農業を通じて人々を楽しませる「アグリテイメント」、環境に配慮した町づくり「環境都市・スマートシティ」にも力を入れている。

一般社団法人イノプレックスは、植物工場ビジネス、植物や環境制御技術を活用したビジネスを中心に、情報発信、市場調査・コンサルティング、農業資材・設備プラントの開発、販売を行っています。

今回は、植物工場の市場動向についてお話ししたいと思います。

<国内の動向>

植物工場ビジネス参入の可能性

まず、次の表をご覧ください。

上の図は、立地や保有技術、条件によって、野菜のベストな生産方式は異なることを表しています。

露地栽培、施設栽培(温室ハウス)は、既存の農業です。もともと広大な農地、高度な栽培ノウハウを持っている農家が行っているもので、こういう方が、わざわざ植物工場をやる必要はない。

植物工場への参入が適しているのは、空き施設があるが、栽培ノウハウがない人たちです。

植物工場には、太陽光利用のものと人工光利用のものがありますが、人工光利用であれば、天候に関係なく、ボタンを押すだけで、だれでも歩留り70〜80%で野菜を作れます。

人工光型植物工場のメリット

従来の農業では経験や勘が頼りで、栽培ノウハウをマニュアル化できませんが、植物工場ならマニュアル化が可能です。重労働も必要としないので、高齢者や障がい者の労働力も活かしやすい。

また、広大な農地を必要としないので、都市でも生産が可能です。従業員も、公共交通機関を使って通勤し農作業をすることができる。施設内は、年中気温20度前後と過ごしやすいので、労働力も集めやすい。

設備ベンダーの立場から言うと、太陽光型植物工場は、大手が既に圧倒的なシェアを持っていますが、人工光型植物工場は比較的新しい分野なので、新規参入がしやすいです。

人工光型と太陽光型では、人工光型のほうが面積当たりの生産量は多いですが、投資額も大きいので、結果的に太陽光型も人工光型も営業利益率に大差はありません。

施設園芸の将来性

施設・養液栽培の国内市場を見てみましょう。

1999年をピークに、施設園芸の栽培面積は減少しています。農家の高齢化が進み、後継者がいないことが原因と思われます。しかし、大企業が植物工場ビジネスに参入することにより、今後は横ばいか上昇していくと思われます。

施設園芸は、ハウスの中に土を入れる土耕栽培と、養液を使用した水耕栽培の2つに分かれます。圧倒的に多いのは、土耕栽培です。水耕栽培は全体の5%にすぎません。

一方、植物工場は99%が養液による水耕栽培を採用しています。今後、養液栽培はまだまだ普及する余地があります。

植物工場で何を作ればいいのでしょうか。正解は、市場規模が大きいものということになります。年間100億円以上の市場規模がなければ、植物工場で作るメリットはありません。

上表に示す通り、最も出荷額の多いのはトマトです。現状600haある植物工場のうち500ha以上でトマトが生産されています。

いちごも市場規模が大きいですが、いちごは生産管理が難しいため、あまり普及していません。

レタスで見る植物工場ビジネスに適した作物

レタスの市場規模についてみてみましょう。

露地栽培を中心とした国内のレタス類全体の生産量が2017年で「579,000トン」、うち稼働する植物工場がフル生産した場合の人工光型・植物工場の生産量が「10,031トン」となります。

現在、我々が消費しているレタスの少なくとも80%以上が、結球した玉レタスとなります。

実際、植物工場で生産されたレタスは、コンビニエンスストアで売られているサラダやサンドイッチ、カフェ、ファミリーレストランなどで既に広く使われています。

レタスには、結球レタスと非結球レタスがあります。非結球レタスとは、フリルレタス、リーフレタスなど、リーフ状のものです。

結球レタスを人工光型植物工場で栽培すると、収穫までに60日前後がかかります。しかし、非結球レタスは30日で収穫できる。非結球レタスは生産コストが半分ですむことになります。

現状、リーフ状の非結球レタスのうち、人工光型植物工場にて生産されているシェアは16%ですが、食生活が変わって、ロメインレタスやフリルレタスへのニーズも高まっていますから、2020年には、植物工場で生産する非結球レタスは30%まで伸びると予測しています。

人工光型植物工場ビジネスの現状と将来性

上図によると、現状では、レタスで換算すると日産100株以下の植物工場が91件で、全197件中の約半数を占めています。しかし100株以下の規模で採算を取るのは困難です。

100以上1,000株以下の規模の場合、障がい者雇用によって補助金をもらうことで黒字化するという方法がありますが、補助金なしでは赤字です。

黒字化できるのは、3,000株以上からです。1,000株程度で黒字化したい場合は、キロ当たり1,500円から2,000円の野菜でギリギリ、3,000円なら安心といったところでしょう。植物工場の企業同士でも価格競争が激しく、現在の平均単価(卸値)は、リーフレタスで1,500円程度、大型施設では、さらに低価格で提供しているため、1,000株程度で黒字化するためには、ビジネスモデルや栽培品種などで差別化し、高単価な品目に切り替える必要があります。

3,000株から5,000株規模の植物工場になると、従業員10名から20名が必要となります。大人数のスタッフを効率よく管理するためには、障がい者雇用は難しいかもしれません。

施設に関しては、5,000株以下の施設であれば、空き施設を植物工場用に改修して利用してもいいでしょう。しかし5000株以上の規模なら、新しい施設を作ったほうが効率よくスペースを利用できます。

人工光型植物工場ビジネスで採算は取れるのか

大手企業では、1万株〜3万株といった規模の植物工場を運営しています。生産量はレタス換算して1日1トンとなります。1日3トンで、大手ハンバーガーチェーンの全店舗を賄える規模になります。ある企業では、2020年までに10万株生産を目標としているとも聞きます。

一方、植物工場で黒字になっているところはわずか10%しかありません。手掛けている企業も本気で生産するのではなく、企業PRや研究の一貫でやっている場合も多いです。

3,000株規模でようやく黒字になると申しましたが、全くノウハウがない所からスタートした場合、黒字にするまでに最低3年はかかります。人工光型なら全く知識がなくても70〜80%の歩留まりはキープできますが、販売先がなければ生産しても捨てるだけになってしまいます。

生産技術も上がり、販路を確保できてようやくビジネスが安定するまでに最短で約3年はかかるのです。

設備ベンダーの視点から言うと、大規模施設だけでなく、ホテルやレストラン内に、1日100株規模の施設を設置するなど、小規模施設のニーズもあります。とくに今後増えそうなのが、教育ニーズです。

2020年度から小学校でプログラミングの授業が必須化になります。しかし、具体的に何を学ぶかは決まっていません。おそらく理科の授業の中でプログラミングを学ぶケースは多いので、理科の学習の一貫として、植物工場の小型キットは普及すると考えられるのです。

また、店産店消(お店で生産してお店で消費)の流れから、ホテルやレストランでの利用は、今後海外市場も含め、広がっていく可能性があります。

<海外の動向>

アメリカではなぜ市場拡大が期待できるのか

ここからは、海外市場の動向や日本との違いについてお話しします。

アメリカには現在、60か所の植物工場があります。日本は197件ですから、それに比べるとまだ多くはありません。しかし、植物工場は、今後成長が期待されるビジネスです。

アメリカの場合、都市部で、太陽光型の植物工場が増えています。ビルの屋上に設置するケースが多いです。日本では許認可の問題から建物の屋上に設置することは難しいですが、アメリカの場合は、州によっては規制緩和をして、植物工場の建設を奨励しています。

特に、ニューヨーク、シカゴで普及が進んでいます。現状では、まだ日本のほうが技術力があり、生産性も高いですが、アメリカも日本とは比べ物にならないほど大きな投資を背景に、急ピッチで研究開発や実証試験を行っており、2020年頃には技術が進み、量産体制に入ると思われます。

アメリカではクロレラやユーグレナなどの微細藻類も植物工場で生産しています。また、たばこの葉からインフルエンザワクチンが作れることがわかり、2019年からたばこの葉を植物工場で生産する計画が立てられています。現在は臨床試験中で、2020年には市場に出るでしょう。

さらに、医療大麻もアメリカでは1兆円規模の重要な市場です。国や自治体も、補助金を出すなどして、植物工場での医療大麻の生産を奨励しています。

アメリカと日本の消費者の違い

アメリカと日本の大きな違いは、アメリカでは付加価値があれば、キロ2,000円でも3,000円でも売れるということです。

日本だと、レタスは1個あたり200円前後。これでも高いと感じる消費者がいます。ところがアメリカやヨーロッパでは、300円や500円でも買う。その違いはどこからくるのでしょうか。

Farm to Schoolによる地産地消の教育

日本で地産地消フェアをしてもあまり売れませんが、ヨーロッパやアメリカは、エコロジーの視点からローカルフードへの関心が高く、ここ10年で地産地消関連商品の売上は7倍、直売所の売上は5倍に拡大しています。

会員制で農場から直接野菜を消費者に届けるCSAというサービスも増えてきています。

アメリカでこのような文化が根付いているのは、アメリカの農務省が音頭を取って「Farm to School(ファームトゥースクール=農場から学校へ)」というキャンペーンを行っているからです。これは、学食でローカルの野菜を使うとか、学校の中に植物工場を作って食育をする、農家の人を講師によんで授業を行うなどの活動で、自治体から補助金が出る場合もあります。

学校教育の中で、子どもの頃から地産地消の対する意識が育っているため、アメリカの消費者はローカルの食材を好みます。レストランやスーパーマーケットも消費者のニーズを無視することができませんから、グローバルチェーンを持つ大手企業も、ローカルの生産物を扱うところが増えてきました。

消費者が求める「ソーシャルな価値」

アメリカの消費者は2つの層に大きく分けられます。食や健康、環境に関心が低くジャンクフードを好む層と、高い教育を受け、食や健康、環境に関心が高い層です。

後者にとって、安全でおいしいのは当然で、さらにプラスワンの価値が求められます。たとえば、より少ない水・資源を使って生産された、リサイクル資材を使っている、太陽光で作られた、生物多様性の維持に配慮している、利益の一部を貧困層に寄附したなど、「ソーシャルな価値」です。ソーシャルな価値があれば、300円、500円のレタスでも買うという文化が根付いているのです。

都市部に広がる地産地消の動き

アメリカでは、カリフォルニア州、フロリダ州、アリゾナ州で、国内のほとんどの葉物野菜を生産しています。レタスについては、統計上、カリフォルニア州とアリゾナ州で全体の98%をまかなっています。しかし、アメリカは大変国土が広いので、運搬に時間がかかり、消費者の手元にとどくまでに数日から1週間もかかってしまう。そのため、鮮度が落ち、しばしば食中毒も引き起こしています。また、トラックによる輸送はCO2排出量の増加にもつながります。

このようなことから、「2州による集中生産・流通モデル」から、「地産地消モデル」へのシフトチェンジが起こり、ニューヨークやシカゴといった都市部でも植物工場に注目が集まっているのです。

植物工場は、計画生産により廃棄分を減らすことからも、奨励されています。

シンガポールの事例

現状では、日本の植物工場で生産した野菜が多く売られていますが、シンガポールは、国が食糧の自給自足を目指しており、植物工場に対して補助金を出しています。今後、植物工場ビジネスの成長が予測されます。国土面積が小さいため、タワー型の植物工場を採用して、縦方向に広げる設備が普及していくと考えられます。

大手では、スカイグリーンズ社(SkyGreens)がアグロテクノロジー・パーク「Lim Chu Kang(リムチューカン)」地区に、2012年に工場を設立。2015年度内には合計3.65haの施設を稼働させ、約6トン/日の生産を計画しています。

スカイグリーンズ社の植物工場は、太陽光のタワー型です。太陽光型が採用されているのは、人工光型の水耕栽培野菜は柔らかく、炒め物が多い現地の料理に合わないためと思われます。

海外進出は現地に合わせたビジネスモデルを

米国、台湾でも植物工場ビジネスが広がりつつありますが、日本に比べると大規模に生産している工場が少なく、日本は施設数、生産量ともトップです。今後、東南アジアへの進出もまだまだ可能性があります。

すでに、カット野菜のパックが海外市場にも進出していますが、日本で売られているものをそのまま海外に展開しているのが気になります。現地の調理法や食べ方などをリサーチして現地に合った作物の選択、届け方を考え、改善する必要があると思います。

たとえば、日本では、パッケージに、より少ないCo2の排出量で生産したことやフードマイレージを書いてアピールしても誰も関心を持ちませんが、欧米市場は違います。

また、設備ベンダーの視点で見ると、アメリカでは、垂直式の植物工場が人気です。垂直式は、水平式よりも熱効率がよく空調管理が楽だからです。その反面、野菜を地面に対して垂直に植えるので形が悪くなります。でもアメリカはレタスを一株で売るより、カットしてミックスリーフとして売るので形が悪くてもかまわないのです。

そういった、現地の事情を知って、現地に合わせたビジネスモデルを考えるべきです。

<まとめ>

「農業+IT」×○○でさまざまな横展開が可能

植物工場は「農業+IT」のビジネスですが、今後、教育、医療、金融、エンターテインメント、スポーツなど、様々な分野とかけ合わせて、また新たなビジネスが生まれる可能性を秘めています。

たとえば、ニューヨークではルーフトップの植物工場でワインを生産していたり、サンフランシスコのリーバイス・スタジアムで野菜を栽培したり、すでに様々な試みが行われています。

イノプレックスでは、アグリビジネスに新規参入したい方、設備プラント導入を検討したい方に向けてコンサルティングサービスを行っていますので、ぜひ相談ください。

食品×ITの専門情報誌「食品ITマガジン」ダウンロード

食品業界を取り巻く旬なテーマの特集やコラム、お客様のIT活用事例インタビューなど、お役立ち情報満載のマガジンです。
どなたでもPDFでダウンロードいただけます。

最新号を見る
無料
  • 「UCHIDA ITメールマガジン」にご登録ください!
    セミナーやお役立ち情報をメールでお届け

関連e-book

無料

食品×ITの専門情報誌「食品ITマガジン」ダウンロード

新着記事

情報システム分野

主な製品シリーズ

  • 文書自動配信サービス「AirRepo(エアレポ)」
  • 業種特化型基幹業務システム スーパーカクテルCore
  • 会議室予約・運用システム SMART ROOMS
  • 絆 高齢者介護システム
  • 絆 障がい者福祉システム あすなろ台帳

セミナーレポートやホワイトペーパーなど、IT・経営に関する旬な情報をお届けする [ ITレポート ] です。

PAGE TOP

COPYRIGHT(C) UCHIDA YOKO CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.