全社プロジェクトとしてスーパーカクテルを導入
新宿高野は、1885年に新宿駅が開駅した半年後に、新宿駅前で創業。以来、「フルーツがある豊かな暮らし」を提案する会社として新宿駅とともに成長してきました。今年134年目を迎えます。
主な事業は、以下の3事業です。
①フルーツ・ギフトの販売
②オリジナル食品の製造および販売
③フルーツパーラー・フルーツバー他 飲食店経営
2018年4月に、36店舗と1工場、1物流センターすべてにスーパーカクテルを導入・稼働しました。私はプロジェクトマネージャーとして本件に携わりました。
スーパーカクテル導入の背景
当社では従来、自社開発した基幹システムを20年近く使っていましたが、システムの陳腐化、開発者の高齢化・後継者不足等の理由から、自社開発を継続することが難しくなり、パッケージソフトの導入を検討していました。
また、工場、物流センター、店舗のデータが統合化されておらず、各部門の状況をリアルタイムで把握することができませんでした。
また、BCP(事業継続計画)対策や情報セキュリティ対策のため、オンプレミスでサーバーを持つのではなく、データセンターに移行することも検討課題でした。
スーパーカクテルを導入するにあたって、業務プロセスを見直し、再構築を行いました。導入後は、調達から製造、販売にいたる全プロセスの一元的な管理ができるようになり、データの見える化を実現しました。
工場や物流センターでは、ハンディターミナルで入荷・入庫、出庫・出荷、在庫管理が効率的に行えるようになりました。
プロジェクトで目指したのは「全社員が当事者意識を持つこと」
特に力を入れたことは、「全社員が当事者意識を持つこと」でした。一般的に、システムを入れ替えるというと、「システム担当者がやること(だから自分には関係ない)」だと思いがちです。しかし、今回は「誰一人、システムを入れ替えることについて知らないという状況にしない」と決めました。そのために、各部門のリーダー(課長)を担当につけ、リーダーを中心に当該部門への周知、導入を進めていきました。
もう一つ、本プロジェクトで特筆したいのは、ゼロからシステムを開発するのではなく、当社の業務形態に近いパッケージを参考にし、当社の業務にシステムを合わせるのではなく、業務のほうをシステムに合わせるというアプローチを採りました。これによって、大きなコスト削減になりました。
従来はばらばらだった物流・工場・店舗のデータが連携
以下はシステムの全体図です。ご覧いただくとわかるとおり、ほぼすべてのシステムをスーパーカクテルに移行しました。
ポイントは物流・工場・店舗のデータがそれぞれ連携して運用可能になったことです。
店舗では、ハンディターミナルを利用した検品を行い、物流においては在庫管理の可視化を実現。生産管理面においてはロット管理、またトレーサビリティ管理も行えるようになりました。
また、各部門が主体的にコンピュータを活用するようになりました。
スーパーカクテルの具体的な活用例
生産計画立案のシステム化
主にジャム・ゼリーといった加工品の、販売実績データを利用し、生産予定や計画に直接活かすことができるようになりました。
出荷トレースの迅速化
これまでは紙で管理しており、商品に何か問題があった場合、同じロットの製品がいつ、どこに何個出荷されたかを突き止めるためにかなり時間がかかっていました。しかし、スーパーカクテルを導入してからは、管理画面ですぐに突き止めることができ、対応がとても速くなりました。
生産・仕入必要量を日別に可視化
従来は、各部門のデータが連携していなかったので、店舗側で、工場で何がいつまでに何個できるかを把握することが難しく、現場が混乱することがありました。今は、需要をある程度予測して、生産調整ができ、売り逃しやロスを軽減。利益向上にもつながっています。
上図は、「生産計画調整画面」と「在庫推移確認画面」です。
生産予定数を加味した在庫数を日別で見ることができ、一目でわかるようになったことがポイントです。日別の必要在庫分を生産計画に落とし込むことが可能となりました。
タブレットでの業務を実現
売り場ではタブレットを使って商品の管理を行っています。以前はバックヤードにパソコンをおいていましたが、店舗によっては、バックヤードが狭く、パソコンを置くスペースがない場合も。タブレットを使用することでバックヤードが狭くても対応できるようになったばかりでなく、店頭に持ち込んで、営業時間中に発注などの作業ができるようになりました。これによって業務時間の短縮と効率化につながりました。
BIツールの活用
実績数値の集計において、BIツールを採用し、見たいデータを見たい観点で抜き出しができるようになりました。特に、商品開発部門や仕入れ部門が積極的に活用しています。売上数値、生産数値、在庫数値はもちろんのこと、例えば商品開発部門においては、季節指数等を反映した途中段階の数字、仕入れ部門においては資材包材の在庫状況・発注状況、経費も途中段階が見えるようになりました。
プロジェクトの経過
システムの入れ替えにあたっては、2013年にプロジェクトを立ち上げ、準備期間を経て稼働までに4年がかかりました。当初は他社システムの利用を検討していて、要件定義まで進めていたのですが、最初の見積額が予算を大きく超え、プロジェクト自体を断念せざるを得なくなりました。そんなとき、内田洋行から、スーパーカクテルの仕様に合わせて業務を再構築すればパッケージソフトを利用でき、予算内にコストを抑えることができるという提案をいただきました。
導入にあたって一番苦労したことは、マスター登録です。弊社は扱う商品のアイテムが年間1000種類以上と多いため、最初のマスター登録には各部門の担当者は苦労したと思います。
弊社は、2015年に食品安全マネジメントシステムFSSC22000の認定を取得していたので、生産工程の管理や商品管理の取組は工場内に根付いていました。従来は紙で管理していたので、それをシステムに転換するだけでよく、システムの導入自体は比較的スムーズに進みました。
ハンディターミナルでバーコードを読み取って商品を管理する際、ハンディターミナルの読み取りスピードが若干遅かったため、現場からは不満の声がありましたが、次第に慣れて、今は落ち着いています。初期設定や操作に慣れるといった負担はありますが、一度慣れてしまえば、利便性をのほうを実感するようになったと思われます。
プロジェクトで大切なこと
前述のとおり、本プロジェクトで最も意識したことは「全社員に当事者意識を持ってもらうこと」でした。一般の社員は、「システムのことはシステム担当者がやればいい」と考えがちですが、実際に使うのは現場の人です。ですから、定着のためには使う人が当事者意識を持つことが大事なのです。そのために、中心となるリーダーの存在が重要となります。現場に対しては周知徹底をし、上長に対しては、システムの説明、理解を得て応援を仰ぐ。
部長クラス以上になると、システムに詳しくない人も多く、現場のリーダーが説明をするのが難しい場合もある。その場合は、われわれ事務局メンバーが間に入り、わかり易く説明しにいくこともありました。こういう地道な周知活動がとても大事です。
これらの取り組みによって、どの部門もシステム変更についての意識が高まり、スムーズに稼働できたと思っています。
途中で、リーダーが急遽交代するというアクシデントがあり、予定どおり稼働できないのではという局面もありました。しかしこれまで、全社プロジェクトとして取り組むのだという周知を行ってきたため、何かトラブルがあっても、各部門で対応できるだろうと信じて予定通り稼働をスタートしました。小さな問題はいくつかありましたが、大きなトラブルもなく現在に至っています。
プロジェクトリーダーの心得
参加者の中には、プロジェクトマネージャーをされる方もいると思うので、私のプロマネとしての経験からいくつか助言をしたいと思います。
- プロジェクト会議には極力全てに参加すること…時間的に難しい場合は、最後の10分だけでもいい。たいていは、最後の10分に一番大事なことが集約されていて、各部門の実態がわかるものだからです。
- マスターは丁寧に詳細まで整備すること
- 稼働テストには余裕をもったスケジュール設定をすること
今年の4月でスーパーカクテルを稼働して1年が経ちます。ここからは、システム投資の効果を問われることになります。また、改善点も出てくるでしょう。現場の状況に合わせて、より良いシステムに進化させつつ、これからも運用していきたいと考えています。
まとめ - 導入の成果
1.各部門の情報のリアルタイム一元化・見える化
2.在庫管理の可視化、トレーサビリティ管理(店舗・物流のハンディターミナル利用)
3.各部門が主体的にシステムを活用
4.出荷トレースの迅速化
5.店舗のタブレット利用による時間短縮と効率化
6.BI活用により、見たい観点で数値を見える化し、業務効率向上