HOME > 情報システム分野 > IT レポート > 新たなグローバル化とローカル化〜基準、認証、表示制度の改定〜

【内田洋行ITフェア2017in東京】 新たなグローバル化とローカル化〜基準、認証、表示制度の改定〜

2017/11/29 [食品,セミナーレポート]

日・EU・EPAが大枠で合意し、新たなグローバル化が始まります。グローバル化への対応策の一つとしてローカル化も同時進行していて、食品業界はグローバル化とローカル化の双方を視野に入れて事業展開しなければならなくなりました。今回の講演ではHACCP、FSMSなど安全に関する規格・基準の動き、品質に関する規格であるJASなどの動きを説明し、9月に施行した原料原産地表示制度についても言及します。

目次

  • TPP11、日EU・EPAと農産物・食品の輸出拡大
  • 新たな基準、認証、表示の制度

内田洋行ITフェア2017 in 東京にて

株式会社日本食糧新聞社
伊藤 哲朗 氏

TPP11、日EU・EPAと農産物・食品の輸出拡大

食品業界が直面する農産物・食品の多国間貿易交渉や、それに伴う認証・表示制度などについて、要点やキーワードをピックアップしながらお話しします。

各国の思惑が複雑に絡んでいるので、多国間の自由貿易交渉は簡単にはまとまりません。それでも着実に変化や進展が起こっています。

多国間貿易交渉の難しさ

日本は自由貿易推進の立場ですから、多国間の貿易自由化交渉がしばしばニュースとして報じられます。WTO(世界貿易機関)による多角的貿易自由化交渉では、2001年からドーハ・ラウンドの交渉が開始されましたが、米国とBRICsなどの間で紛糾し暗礁に乗り上げたままになっています。また、グローバル化というのは一部の富裕層や世界的な企業だけがメリットを享受していて、その他は豊かになれないという主張もあります。

WTOに代わって出てきたのが、FTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)です。 日本はブロック経済化が進むとして、もともと力を入れていませんでした。ところが、各国がFTA、EPAに力を入れて、メリットを出している事例があり、日本もWTOを補完すると位置づけて進めています。最初は食品・農産物にあまり関係がないシンガポールとFTA及びEPA、続いてメキシコとEPAを結んできてきました。

米国が抜けたTPPはどうなる?

大筋合意していたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)はトランプ大統領の登場により、米国が撤退しました。現在、日本は米国を抜いた11カ国による「TPP11」で交渉を進めています。ただ、自由貿易の推進に積極的な日本、カナダ、ニュージーランド、オーストラリアに対して、アジア各国は慎重な姿勢になっています。TPP11で成功することによって、米国もTPPに戻ってくるのではないか、という期待もあります。(筆者注;TPP11は大筋合意、TPP12の合意内容をほぼ踏襲)

TPPで大筋合意の文書が網羅している項目は以下の通りです。

  • ・市場アクセス
  • ・投資協定
  • ・ISD条項
  • ・関税率など
  • ・安全、表示
  • ・地理的表示
  • など

安全・安心への懸念

TPPで多くの人が問題だとしているのが、安全・安心への懸念です。日本で未承認の添加物がどんどん入ってくるのではないか、GMO(遺伝子組み換え作物)食品の表示ができなくなるのではないかという懸念です。

WTO協定には、TBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)、SPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)があります。TPPではこれらの協定に基づいて処理することになっているので、コーデックスCODEX(世界的に通用する食品の国際規格)で認められていないものが国内に入ってくることはまずないでしょう。日本は国際的なルールに整合性をとることに注力しているので、食品の安全・安心について大きな心配はないと私は考えています。

原産地規則

これはTPPの中でいちばん重視してほしいルールです。原産地規則に触れる例をいくつか挙げてみましょう。

日本の牛から絞った牛乳を加工してチーズを作り、TPPに加盟国に輸出した場合、チーズは日本の生産物と認められ関税がかかりません。牛肉もOKです。突き詰めて考えていくと、日本は飼料の自給率も低いので、日本の牛は非加盟国の飼料で育っているかもしれません。それを日本産と言えるのかどうかという問題があります。

原産地規則には関税分類変更基準というものがあり、材料と最終産品との間に大幅な変更があれば、その国の生産物としているのです。したがってTPP加盟国に輸出したときに関税がかかりません。ただし、中国から輸入した小麦粉を小分けにしただけでTPP加盟国に輸出した場合は、材料と最終産品の関税分類が大幅に変わっていないので、日本産とは認められません。

日EU・EPA大枠合意とこれからの対応

2017年7月6日、日本とEUとの間のEPAが「大枠合意」しました。先程のTPPは「大筋合意」しましたが、この場合、それを各国で批准すれば完全合意という扱いになります。

日・EUの交渉では、市場アクセス分野の関税率削減、その手法、セーフガードの発動条件などを合意しただけで、原産地規則、電子商取引、投資、ISD条項などが残っています。それで「大枠合意」という言葉が使われています。

ここまでのことをまとめます。かつて米国の主張する国際分業論がもてはやされましたが、やはり限界があるのだろうと思います。市場主義一辺倒では、価格と量と品質の強いものだけが勝ち残ります。何かあったときに、食糧の確保は市場主義一辺倒では対応できません。

TPP、日EU・EPAは正しく認識して、正しく怖れる(準備する)べきです。逆にこれは加工食品の輸出入にとっては大きなチャンスでもあります。

農産物、加工食品の輸出拡大

日本は農林水産物の輸出総額年1兆円を目指していましたが、2016年あたりから伸びが鈍化する傾向にあります。水産物が不漁だったということもありますが、これから頑張ってもらいたいのは菓子も含めた加工食品です。政府は、2016年5月に「国・地域別の農林水産物・食品の輸出拡大戦略」を発表しました。

全農は、日本産の米の精米拠点をシンガポールにつくっています。県レベルで米を輸出する動きもあります。茨城県がアメリカの日本食レストランに米を提供するなど、輸出のスタイルにも多様化が始まっています。ですから、ベースとしては日本ブランドですが、それに加えて地域ブランド、お店ごとのブランド、会社のブランド、そういう多様な売り方の時代が来ているように思います。

新たな基準、認証、表示の制度

TPPを機に、新たな制度の導入や見直し、改革が検討されています。その中から重要と思われるものを紹介しましょう。

HACCPの義務化

厚生労働省は、食品衛生管理の国際標準であるHACCP(ハサップ)の導入を食品関連事業者に義務付ける方向で検討を重ね、数年後の実施を目指しています。

HACCPとは何か? 厚生労働省のホームページには次のように解説されています。HACCP とは、食品の製造・加工工程のあらゆる段階で発生するおそれのある微生物汚染等の危害をあらかじめ分析(Hazard Analysis)し、その結果に基づいて、製造工程のどの段階でどのような対策を講じればより安全な製品を得ることができるかという重要管理点(Critical Control Point)を定め、これを連続的に監視することにより製品の安全を確保する衛生管理の手法です。

この手法は国連の国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格(コーデックス)委員会から発表され,各国にその採用を推奨している国際的に認められたものです。

日本はHACCP導入の面では、先進国に比べ周回遅れの状態だといわれます。1995年の食品衛生法改正の際に、導入を促すために任意の仕組みで「総合衛生管理製造過程」(マルソウ)を設けましたが、その後もO-157の検出など食品汚染の事故はあとを絶たず、限界が指摘されています。そこで、TPPを機にHACCPを義務化しようというわけです。HACCPがあれば、HACCPを実施していない国からの食品に制限をかけられると同時に、EUや米国など、すでにHACCPを実施している国には輸出しやすくなるというメリットがあります。

HACCP義務付けの方法

HACCPの義務化に際して、厚生労働省は、厳格な基準Aと多少緩やかな基準Bの2段階の適用を考えています。

食品産業には大手、中小、零細があります。実際に小規模な飲食店にHACCPを義務付けできるかというと難しい。そこで出てきたのが、基準Aと基準Bの2段階の適用です。基準Bは基準A に比べ、図に示したようにかなり緩くなっています。

日本版FSMS(JFS)、日本版FSSC22000

HACCPとは別に、日本独自の食品安全管理のシステムをつくろうという動きがあります。日本発のFSMS(=JFS)、日本版FSSC22000と呼ばれるものです。

FSMS(Food Safety Management System)は、安心・安全な食品を消費者に届けるために、食品安全を脅かす危害を適切に管理するグローバルなシステムです。食品安全規格として、ISO22000(食品安全マネジメントシステム−フードチェーンの組織に対する要求事項)やFSSC 22000(食品安全システム認証22000)などがあります。

日本版FSMS(食品安全マネジメントシステム=JFS)は、HACCPの考え方が入っており、次のような特徴を持つことを目指しています。

  • (1)中小事業者にとって取り組みやすいよう、段階的な取組ができるしくみ。
  • (2)使用する事業者にとってわかりやすい記述とし、実質的に取組向上につながるものとする。
  • (3)国内の規制及びHACCPガイドライン等の国際標準に整合させる。
  • (4)日本発の特徴として、和食やそれに使われる産品に適用しやすい、現場からの意見を取り入れて継続的改善を促す。

日本版FSSC22000は、現時点で常温流通食品については10社以上が認証を取得し、GFSI(グローバル・フード・セーフティ・イニシアチブ)に申請しています。

GFSIには、世界的な食品メーカーと世界的な小売業、例えばネスレ、カルフール、日本ではイオンなどが加盟しています。イオンはGFSIの理事、アジア地域の議長になっています。GFSIは、世界にある規格のうちFSSC 22000、SQF、GLOBAL GAPが同等であるということを承認する民間団体です。

下に代表的な規格を比べたものを示します。FSSC22000とSQFは微妙に分野が違うのがおわかりかと思います。

HACCPの基準と日本版FSMS(JFS)

HACCPの基準Aは大企業向け、基準Bは中小・零細企業向けとされています。どの業種のどの規模には基準Bが適用され、どの程度の規模だったら基準Aが適用されるのか、といったことはまだ明確になっていません。2018年の通常国会までにはまとめることになっています。

JFSでは、下の図右側の3つの規格うち、B規格はHACCPの義務付けで認証を受けることも可能だろうと思います。

(注 JFSのA規格は変更の可能性あり)

HACCP「実施」、「認証取得」の考え方の整理

HACCPの義務付けに対して、どのような準備をすればよいのでしょうか。2017年5月の自民党案では、東京オリンピック・パラリンピック開催の2020年までに、ほぼ全ての関連業界において手引き書が作成されることになっています。それ以降2021〜30年度には、 全ての食品製造事業者がHACCPの考え方に基づく衛生管理を実施している状態が継続としています。

実際にFSMSの認証が必要なのは国際的な取引をする企業です。

欧州と米国は、形は違いますがHACCPが義務付けされていますから、輸出するためにはHACCPの認証が必要で、さらに欧米などの大手小売業との取引にはFSMSの認証が必要となります。

HACCPを中心に述べていますが、それ以外にも適正農業規範(GAP)、ハラール認証、有機など多くの基準、認証が出てきます。こうした基準、認証をとるためには帳票管理がきわめて重要です。

ですが、取得だけを目的とするのではなく、事業発展のための目安として考えるべきだと思います。

企業は金銭的な利益の追求だけでは限界があるのだろうと思います。その先のCSR(事業活動を通じて社会に貢献する責任。Corporate Social Responsibility)、CSV(企業の利益と社会的課題の解決を両立させることにより社会貢献を目指すこと。Creating Shared Value)を意識していくべきだと考えます。

食品×ITの専門情報誌「食品ITマガジン」ダウンロード

食品業界を取り巻く旬なテーマの特集やコラム、お客様のIT活用事例インタビューなど、お役立ち情報満載のマガジンです。
どなたでもPDFでダウンロードいただけます。

最新号を見る
無料
  • 「UCHIDA ITメールマガジン」にご登録ください!
    セミナーやお役立ち情報をメールでお届け

関連e-book

無料

食品×ITの専門情報誌「食品ITマガジン」ダウンロード

新着記事

情報システム分野

主な製品シリーズ

  • 文書自動配信サービス「AirRepo(エアレポ)」
  • 業種特化型基幹業務システム スーパーカクテルCore
  • 会議室予約・運用システム SMART ROOMS
  • 絆 高齢者介護システム
  • 絆 障がい者福祉システム あすなろ台帳

セミナーレポートやホワイトペーパーなど、IT・経営に関する旬な情報をお届けする [ ITレポート ] です。

PAGE TOP

COPYRIGHT(C) UCHIDA YOKO CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.