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【福祉コラム】 介護現場におけるICT利活用の必要性と向き合い方<導入編>

2018/12/25 [福祉,コラム]

株式会社BI Bridは「介護とITを同時に考える会社」として、介護・福祉・医療業界の皆様の役に立つICT利活用のサポート業務や情報発信などを専門に行っています。今回はICT利活用がいよいよ必須となってきている介護現場の状況をふまえ、その社会的背景および取り組む際の考え方について全3回のコラムでお届けします。

▽全3回
介護現場におけるICT利活用の必要性と向き合い方<導入編>
介護現場におけるICT利活用の必要性と向き合い方<準備編その1>
介護現場におけるICT利活用の必要性と向き合い方<準備編その2>

目次

  • ICT利活用が求められる社会的背景
  • ICT利活用に取り組む際の基本的な考え方

株式会社BI Brid

ICT利活用が求められる社会的背景

(1)人材不足

言わずもがなですが、介護業界は慢性的な人材不足です。社会保障審議会の資料によれば、介護分野の有効求人倍率は平成30年8月の数値で3.97と高い水準にあります。また都道府県別に見ると、東京においては6.97倍、愛知県でも6.49倍と更に高くなっており(※1)、都市部では極めて採用状況が厳しいことが伺えます。人材が足りていないのは他産業も同様であり、限りある労働力を奪い合うなかで介護業界は特に苦戦している状況です。したがって、まずはこの人材不足を補う手段としてのICT利活用という面があります。

一方で厚生労働省の試算によれば、介護人材の需要として2025年度末に約245万人が必要とされており、2016年度の約190万人に加え、2025年度末までに約55万人もの介護人材の確保が必要という見込みです(※2)。採用難が続くなか、これだけの人数を充足することは現実的に厳しいと言わざるを得ないでしょう。

そのため実際には今後も常に人手が足りない状態で介護サービスを提供していくことを事業者は想定しなければならず、対策方法としてICTやロボット技術を活用した業務の仕組み化や効率化が自ずと必要になります。厚生労働省の資料にも、離職防止・定着促進・生産性向上の対策として「介護ロボット・ICT活用推進の加速化」との記述があり(※3)、国としてもこれらを適切に活用していくことを事業者に対して求めているのがわかります。

更に付け加えると、人材の採用や定着を考える上でも事業所でのICT利活用は重要であるという認識が必要です。特に若い世代は日常生活でスマートフォンなどを駆使しており、紙を使用した介護記録作業などに抵抗感やストレスを感じるケースがあります。したがって、ごく当たり前にICTが業務に溶け込んでいる他産業と比べた場合に、現状そうではない介護業界が魅力に劣り、仕事として選んでもらえなかったり、せっかく入社してくれたのに嫌になって辞めてしまったり、ということが発生します。ICT利活用ができていないというだけのことが原因で、介護という実に豊かな経験をもたらしてくれる仕事の魅力が損なわれてしまっているとしたらもったいないことです。

(2)外国人材の増加

労働力不足への別の対策としては外国人材の受け入れ環境整備も進んでいます。皆様の事業所でも既に様々な国の方々が活躍されているかと思いますが、一方でスタッフ間でのコミュニケーションや対応記録の作成などにおいては言語の問題で苦労することも少なくないと思います。ここでも今後はICT利活用が重要になってきます。

例えば最近は介護ソフトでも複数の言語に対応している製品が徐々に増加してきていますので、アプリケーション上で表示言語を切り替えたり、二か国語で併記して表示したりすることによって記録が行いやすくなり、情報伝達のミスを減らせるなどの効果が期待できます。また、音声や文字入力からリアルタイムでの翻訳を可能とする機器やサービスの精度向上も近年著しく、これらを活用するかしないかで大きく仕事の仕方や快適さが変わってくるでしょう。

(3)ケアの質の向上

地域において自社のサービスを選んでもらう上では、ケアの質の向上を目的としたICT利活用についても意識する必要があります。先に人材不足についてお話しましたが、人手が足りないからといってサービスの質が下がってしまえば利用者は離れていってしまいます。ICTを使わなければならない状況なのであれば、単に労働力の代替手段としてではなく、今よりも更に良いケアを行うための手段としてICTを利活用すると考えるべきです。

例えばICTを利活用し事務作業の効率化を行えば、それによって空いた時間を本来の主業務である利用者へのケアやコミュニケーションに充てることが可能になります。あるいはセンサーで科学的に測定し収集した情報の活用や、データベースに保存され容易に呼出・分析が可能な介護記録の情報などを活用し、エビデンス(根拠)に基づく個々の利用者の状況に合わせた適切なケアを行うということも可能になります。

どうしたら介護の専門職としてより良い形で利用者の生活を支えられるか? そのための前向きな手段としてICTを捉えると違ってくる見え方があるのではないでしょうか。

ICT利活用に取り組む際の基本的な考え方

「ICTは道具です」

これは弊社が講演等で介護サービス事業者の皆様にお伝えさせていただくことの一つです。ICTは導入すれば魔法のごとく瞬く間に問題が解決できるという性質のものでは決してありません。これからICTの導入にチャレンジしようと考えている、あるいは導入はしたものの思ったように活用できていない介護サービス事業者の皆様には、まずこの点を理解していただきたいです。

例えばですが、どれだけ良い包丁が手元にあったとしても、それで料理の腕が上がってすぐに美味しい料理が作れるようになるとは通常考えないと思います。何を作るかによってどんな素材や調理器具を使用するべきかは都度変わりますし、美味しく調理するには素材や器具の扱い方自体についての習熟も必要です。あるいは、どんな料理を作りたいのかをまず決めなければ、適切な素材や器具を選ぶことができないでしょう。

ICTもこれと同じです。どれだけ高額なソフトやセンサー機器を導入したとしても、それらはあくまでもただの道具でしかありません。重要なのは何のために、どのように、その道具を使うのかということです。それを明確にしないまま先に道具だけ用意しても、大概の場合は十分に活用できず無駄な投資となってしまいます。特に昨今は各自治体等でICT導入に関しての補助金などを設けていることも多いので、それらを活用していくことは大事ですが、補助を活用するということそのものが目的化してしまい、不要な道具を介護現場に導入した結果混乱だけを生み出すということのないように注意が必要です。

まずは事業所としてどのような介護サービスを利用者に提供したいのかという理念や理想のイメージを構築し、その実現のためにはどんな道具・手段が必要なのかを考えることがICT導入〜活用への第一歩となります。

もう少しイメージしやすいように、愛知県のとある有料老人ホームの例を以下に挙げます。愛知県は前述の介護分野の有効求人倍率が全国で2番目に高い県となっており、介護人材の獲得が非常に困難を極めている地域です。

この施設では人材獲得はもちろん、人材定着を強化する目的で職員の業務負荷軽減を徹底的に検討、各居室内にセンサーを設けることで夜間の巡視や駆けつけを効率的かつ効果的に行えるようにし、オペレーションも見直しました。その結果、介護の質を高めつつ夜勤職員を1人削減することができたことに加え、その代わりとして新たに日勤の理学療法士を2名増やしたことでリハビリ強化にも成功しています。

このように目的を明確にし、それに合致したICTを活用すれば効果を上げることが可能です。ICTと聞くと、どうしてもパソコンやタブレット等の機器に苦手意識があり導入に抵抗感を抱く方も一定数発生しますが、最初に苦手意識を感じていたような人も後になると、「もうこれ(=ICT)無しでは仕事できません」と変化を見せることは珍しくないことです。このようなICT導入の成功例をぜひ皆様には目指して挑戦していただければと思います。

次回はICT導入を成功させるために必要な準備について、いくつかの項目に分けて詳しくお伝えします。ご覧になっていただければ幸いです。

※1 厚生労働省、第162回社会保障審議会介護給付費分科会資料、「参考資料1 介護人材の処遇改善について(161回資料2改)」、pp.6-7

※2 厚生労働省、第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について、「別紙1 第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について

※3 同上、「別紙4 総合的な介護人材確保対策(主な取組)

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