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【中小食品メーカーのマーケティング戦略】 第5回:「たべるモノ」から「たべるコト」へ

2021/12/15 [食品,コラム]

「中小食品メーカーのマーケティング戦略」がテーマの連載コラム。地域や中小企業のマーケティングを主な研究テーマとして各方面で活躍する、静岡県立大学教授の岩崎邦彦氏によるわかりやすい解説コラムです。

突然だが、ここで質問。「かつお」と聞くと、あなたは、どの地域を思い浮かべるだろうか?
全国の消費者に、下記の文章の空欄に自由に地名を入れてもらった。

「かつお」といえば、「        」。

結果は、表1に示したとおりである。
選択肢なしに、自由に地名を書いてもらったにもかかわらず、回答者の半数が「高知(土佐)」をあげている。実際、かつお料理を楽しみに、高知を訪れる人も多いのではないだろうか。

表:かつお、といえば〇〇

表1:かつお、といえば〇〇(地名)
出所)「地域引力を生み出す 観光ブランドの教科書」

では、「かつお」の漁獲量が一番多い県はどこだろう。高知県だろうか。
いや、高知県ではない。かつおの漁獲量で、「高知県」はベスト3には入っていない。第1位は「静岡県」、2位は「東京都」、3位は「宮城県」だ(表2)。

表:かつおの漁獲量

表2:かつおの漁獲量(単位:トン)
出所)「地域引力を生み出す 観光ブランドの教科書」

では、なぜ、かつおの漁獲量では「静岡県」がナンバー1なのに、人々のイメージでは「高知県」が圧倒的に第一位になるのだろうか。

それは、両地域における「出会いの場」の違いだ。
「食」のブランドづくりにおいて大切なのは、「生産量」の多さではない。人々が、その食と出会える場所の多さである。

事実、高知県に行くと、食堂、居酒屋、市場などで、観光客も地元の人々も、かつお料理に出会える場所がたくさんある。「鰹のたたき」という定番料理もある。
以前、高知県に出張したときに、居酒屋で「鰹のたたき」を注文したところ、「今日はおいしいかつおが入荷しなかったから、お客様には出せない」と言われた。どのお店も、「かつおの品質」へのこだわりは相当なものだ。

ここで、グルメサイトを利用して、高知県、静岡県でのかつお料理との「出会いの場」の数を比較してみよう。
「高知県」&「鰹たたき」で検索すると、136件の飲食店が出てきた。一方、「静岡県」&「鰹たたき」で検索すると、わずか21件。高知県の6分の1以下だ(図1)。
高知県の人口は、静岡県の5分の1にもかかわらず、鰹のたたきとの「出会いの場」は6倍以上にのぼる。

グラフ:グルメサイトでの「鰹たたき」検索結果

図1:グルメサイトでの「鰹たたき」検索結果
- 高知県は、出会いの場が多い -
出所)「地域引力を生み出す 観光ブランドの教科書」

「出会いの場」を増やそう

ここまでみたとおり、「食」による地域のブランドづくりは、「出会いの場の多さ」がポイントになる。たとえば、かつおのブランド化であれば、かつおという海産物の漁獲量を訴求するだけでなく、おいしい「鰹のたたき」を食べる場を増やしていくことだ。

写真1をみてほしい。あなたは、右と左のどちらの写真に引きつけられるだろうか。
おそらく、右側だろう。

写真::食のブランドづくりは、「たべるモノ」よりも「たべるコト」

写真1::食のブランドづくりは、「たべるモノ」よりも「たべるコト」
-「かつお」の漁獲高でなく、「鰹のたたき」との出会いの場 -

「コトづくり」で負けていないか

食のブランドづくりで大切なのは、「食べるモノ(食物)」ではなく、「食べるコト(食事)」だ。

「地域で生産量が多い食材を、ブランド化しよう」

地域経済の現場において、こういった話を聞くことが多くある。しかし、生産量が多いだけでは、ブランドづくりはうまくいかない。

ここまで見てきたとおり、食のブランドづくりは、食材の「生産量」の多さではなく、その食との「出会いの場」の多さが重要になる。

「たべるモノ」から「たべるコト」へ

消費者が価値を感じるのは、食物という「たべるモノ」ではない。消費者は、おいしい食事・食卓という「たべるコト」に価値を感じる。

このことは、インターネット上のブログをみても分かる。
図2をみてみよう。この図は、全国のブログを集めて、「農産物」「食物」と「食事」という単語が出現するブログのエントリー数を比較したものだ。「食事」のブログのエントリー数は、「農産物」と「食物」を合わせた数の8倍以上である。

この結果からも、人々の関心が「たべるモノ」(農産物、食物)にあるというよりも、「たべるコト」(食事)にあることが明らかだろう。

グラフ:ブログのエントリー数

図2:ブログのエントリー数
出所)「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」

「おいしさ」が生まれるのは、農場でも工場でもなく、食事の場である

「おいしいか、おいしくないか」を最終的に決めるのは生産者ではなく、消費者である。食べ物の「価値」が形になるのは、食事の場だ。

これまで作り手のモノサシで「品質をあげよう」と努力してきた生産者も多いのではないだろうか。

もし、そうだとすると、生産者の「自己満足度」は上がったとしても、「顧客満足度」は上がっていない可能性がある。

モノづくりからコトづくりへ

こう考えると、食のブランドづくりは、食産業だけで行うものではないことが明らかだろう。
飲食業、宿泊業、観光業など、コトを提供するサービス業との連携が大切になる。
食の強いブランドをつくるためには、おいしい食べ物を生産するという「モノづくり」だけでは不十分だ。
おいしい食との“出会いの場”を増やすという「コトづくり」にも、しっかりと目を向けていくことが欠かせない。

引用文献:
岩崎邦彦「地域引力を生み出す 観光ブランドの教科書」(日本経済新聞出版社)

静岡県立大学 経営情報学部 教授
岩崎 邦彦 氏

静岡県立大学 経営情報学部 教授・学長補佐・地域経営研究センター長 博士(農業経済学)。専攻は、マーケティング。とくに、地域や中小企業に関するマーケティングを主な研究テーマとしている。これらの業績により、日本観光研究学会賞、日本地域学会賞、世界緑茶協会 学術研究大賞、財団法人商工総合研究所 中小企業研究奨励賞などを受賞。
著書に、「地域引力を高める 観光ブランドの教科書(日本観光研究学会観光著作賞)」「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」「小さな会社を強くするブランドづくりの教科書」「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」(いずれも日本経済新聞出版社)などがある。
公職は、静岡県地域づくりアドバイザー、中小企業診断士国家試験委員、世界緑茶協会世界緑茶コンテスト審査委員、近江米振興協会オーガニック近江米ブランディングアドバイザーなど多数。

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