「よい商品がいろいろあるのに、成果が出ない」
「長所がたくさんあるのに、選ばれない」。
企業経営の現場で、次のような言葉を聞くことが多い。
もしかすると・・・。
「いろいろあるから、成果が出ない」
「たくさんあるから、選ばれない」のかもしれない。
突然だが、「日本の国旗」を頭に思い浮かべてみよう。さて、日本国旗の赤い丸の面積は、全体の何パーセント程度だろうか。想像してほしい。
実際に、全国1000人の消費者に回答してもらった。結果はどうだったか。
もっとも多くの人は、赤色の面積は30%と回答した。40%と答えた人も2割弱、50%と答えた人も全体の1割いる。
1000人の消費者が入れた数字の平均値は、31.6%だ(出所:「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」)。
では、実際には赤色の面積は何パーセントだろうか?
実は、意外に小さい。日本国旗の赤の面積はわずか18.8%だ。つまり、全体の80%以上が白なのである。この簡単な調査結果から示唆されるのは、 “シンプルだと、小さくても、力強くなる”ということだ。日の丸は、我々に「引き算が力になる」ことを教えてくれる。
多くの人は、小学校で引き算をならって以来、「引き算 =減らすこと」だと思ってきた。だが、引き算には「減らす引き算」だけではなく、「生み出す引き算」もある。
時代は、「量」から「質」へ、「機能」から「情緒」へ、「効率」から「感性」へ動いている。にもかかわらず、いまだに日本企業の多くは、何かを「足し算」することで価値を生み出そうとしているようだ。
「品ぞろえを減らすと、売上が減るのではないか?」
「ターゲットを減らすと、売上が減るのではないか?」
このように語る経営者は多い。日本の大多数の企業は、「引き算」に、恐れを抱いているように感じる。現実は、その逆だ。
引き算によって、本質的な価値が引き出され、人を引きつけることができる。「足し算」から「引き算」へ。現代の企業には、視点の転換が求められている。
あなたは、どちらの店の「ケーキ」に魅力を感じるだろうか?
[A店] こだわりのオリジナルケーキを販売する店
[B店] こだわりのオリジナルケーキ、菓子、パン、清涼飲料水、食料品を販売する店
消費者1000人調査の結果は以下のとおりである。
圧倒的に多くの回答者がA店のケーキに魅力を感じると答えている。このシンプルな調査結果からわかるのは、足し算をすると「個性」や「こだわり」が薄まるということだ。ケーキ以外に様々な商品を足し算すればするほど、ケーキの個性が薄まってしまう。
消費者のニーズが多様化する21世紀は、「個性」が顧客満足度に直結する(図1)。今日、「平均」「無難」「普通」「まあまあ」といった言葉は、すべてN Gワードなのである。
図1:個性が顧客満足度につながる
出所)「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」
注)「顧客満足度」は5ポイントスケール
「小さな企業が引き算?あたりまえだろう」。こう言う人がいるかもしれない。現実はどうだろうか?
ためしに地域の商店街に行って、いくつかの店をみてみよう。元気がない店に目をやると、ほとんどが「足し算型」の品ぞろえだ。
「これが売れない。だから、あれも売ろう」
「他社が売っている商品を、うちでも売ろう」
「売り上げが伸びないから、対象顧客を広げよう」
売上が減少すると、「何か売れるものはないか」と場当たり的、対処療法的に商品を足し算してしまう。その結果、個性が希釈化し、今まで以上に売上が減少してしまうという悪循環だ(図2)。
図2:足し算の悪循環
出所)「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」
企業の経営資源は有限である。限りある資源を有効に活用するためには、「何を売るか」を決めるのと同様に、「何を売らないか」を決めることが重要である。
品ぞろえをむやみに拡大し、何もかも詰め込もうとすると、企業や商品の「引力」は低下していく。
地域産品の「詰め合わせセット」はブランドにならないし、食材をいろいろと使った「幕の内弁当」はブランドにはならない。百貨店のイベントでも、「日本のうまいもの市」よりも「北海道のうまいもの市」の方が、集客力が圧倒的に高い。「全国の伝統工芸展」よりも「京都の伝統工芸展」の方がインパクトはありそうだ。
事実、強いブランドを持つ企業の多くは、品ぞろえを広げるのではなく、絞り込んでいる。品ぞろえを引き算することによって、「引力」が増加するのである。
連載の第一回で述べたとおり、企業にとって大切なのは、「押す力」ではなく、「引く力」である。すなわち、「売り込む力」ではなく、「人を引きつける力」だ。引き算によって、本質的な価値が引き出され、顧客を引きつけることができる。
小さな企業が強くなるためには、「積極的な引き算」があることを知る必要があるだろう。
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静岡県立大学 経営情報学部 教授 静岡県立大学 経営情報学部 教授・学長補佐・地域経営研究センター長 博士(農業経済学)。専攻は、マーケティング。とくに、地域や中小企業に関するマーケティングを主な研究テーマとしている。これらの業績により、日本観光研究学会賞、日本地域学会賞、世界緑茶協会 学術研究大賞、財団法人商工総合研究所 中小企業研究奨励賞などを受賞。 |
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