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【中小食品メーカーのマーケティング戦略】 第4回:「引き算」のマーケティング

2021/12/3 [食品,コラム]

「中小食品メーカーのマーケティング戦略」がテーマの連載コラム(全4回)。地域や中小企業のマーケティングを主な研究テーマとして各方面で活躍する、静岡県立大学教授の岩崎邦彦氏によるわかりやすい解説コラムです。

「いろいろ」という色はない

「よい商品がいろいろあるのに、成果が出ない」
「長所がたくさんあるのに、選ばれない」。

企業経営の現場で、次のような言葉を聞くことが多い。
もしかすると・・・。
「いろいろあるから、成果が出ない」
「たくさんあるから、選ばれない」のかもしれない。

シンプルだと、小さくても強くなれる

突然だが、「日本の国旗」を頭に思い浮かべてみよう。さて、日本国旗の赤い丸の面積は、全体の何パーセント程度だろうか。想像してほしい。

実際に、全国1000人の消費者に回答してもらった。結果はどうだったか。

もっとも多くの人は、赤色の面積は30%と回答した。40%と答えた人も2割弱、50%と答えた人も全体の1割いる。
1000人の消費者が入れた数字の平均値は、31.6%だ(出所:「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」)。

では、実際には赤色の面積は何パーセントだろうか?

実は、意外に小さい。日本国旗の赤の面積はわずか18.8%だ。つまり、全体の80%以上が白なのである。この簡単な調査結果から示唆されるのは、 “シンプルだと、小さくても、力強くなる”ということだ。日の丸は、我々に「引き算が力になる」ことを教えてくれる。

多くの人は、小学校で引き算をならって以来、「引き算 =減らすこと」だと思ってきた。だが、引き算には「減らす引き算」だけではなく、「生み出す引き算」もある。

いま、なぜ引き算なのか

時代は、「量」から「質」へ、「機能」から「情緒」へ、「効率」から「感性」へ動いている。にもかかわらず、いまだに日本企業の多くは、何かを「足し算」することで価値を生み出そうとしているようだ。

「品ぞろえを減らすと、売上が減るのではないか?」
「ターゲットを減らすと、売上が減るのではないか?」

このように語る経営者は多い。日本の大多数の企業は、「引き算」に、恐れを抱いているように感じる。現実は、その逆だ。

引き算によって、本質的な価値が引き出され、人を引きつけることができる。「足し算」から「引き算」へ。現代の企業には、視点の転換が求められている。

足し算による個性の希釈化

あなたは、どちらの店の「ケーキ」に魅力を感じるだろうか?

[A店] こだわりのオリジナルケーキを販売する店
[B店] こだわりのオリジナルケーキ、菓子、パン、清涼飲料水、食料品を販売する店

消費者1000人調査の結果は以下のとおりである。

アンケート結果

圧倒的に多くの回答者がA店のケーキに魅力を感じると答えている。このシンプルな調査結果からわかるのは、足し算をすると「個性」や「こだわり」が薄まるということだ。ケーキ以外に様々な商品を足し算すればするほど、ケーキの個性が薄まってしまう。

消費者のニーズが多様化する21世紀は、「個性」が顧客満足度に直結する(図1)。今日、「平均」「無難」「普通」「まあまあ」といった言葉は、すべてN Gワードなのである。

グラフ:個性が顧客満足度につながる

図1:個性が顧客満足度につながる
出所)「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」
注)「顧客満足度」は5ポイントスケール

「小さな企業が引き算?あたりまえだろう」。こう言う人がいるかもしれない。現実はどうだろうか?
ためしに地域の商店街に行って、いくつかの店をみてみよう。元気がない店に目をやると、ほとんどが「足し算型」の品ぞろえだ。

「これが売れない。だから、あれも売ろう」
「他社が売っている商品を、うちでも売ろう」
「売り上げが伸びないから、対象顧客を広げよう」

売上が減少すると、「何か売れるものはないか」と場当たり的、対処療法的に商品を足し算してしまう。その結果、個性が希釈化し、今まで以上に売上が減少してしまうという悪循環だ(図2)。

グラフ:足し算の悪循環

図2:足し算の悪循環
出所)「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」

大切なのは「押す力」よりも「引く力」

企業の経営資源は有限である。限りある資源を有効に活用するためには、「何を売るか」を決めるのと同様に、「何を売らないか」を決めることが重要である。

品ぞろえをむやみに拡大し、何もかも詰め込もうとすると、企業や商品の「引力」は低下していく。

地域産品の「詰め合わせセット」はブランドにならないし、食材をいろいろと使った「幕の内弁当」はブランドにはならない。百貨店のイベントでも、「日本のうまいもの市」よりも「北海道のうまいもの市」の方が、集客力が圧倒的に高い。「全国の伝統工芸展」よりも「京都の伝統工芸展」の方がインパクトはありそうだ。

事実、強いブランドを持つ企業の多くは、品ぞろえを広げるのではなく、絞り込んでいる。品ぞろえを引き算することによって、「引力」が増加するのである。

連載の第一回で述べたとおり、企業にとって大切なのは、「押す力」ではなく、「引く力」である。すなわち、「売り込む力」ではなく、「人を引きつける力」だ。引き算によって、本質的な価値が引き出され、顧客を引きつけることができる。

小さな企業が強くなるためには、「積極的な引き算」があることを知る必要があるだろう。

引用文献:
岩崎邦彦「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」(日本経済新聞出版社)

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静岡県立大学 経営情報学部 教授
岩崎 邦彦 氏

静岡県立大学 経営情報学部 教授・学長補佐・地域経営研究センター長 博士(農業経済学)。専攻は、マーケティング。とくに、地域や中小企業に関するマーケティングを主な研究テーマとしている。これらの業績により、日本観光研究学会賞、日本地域学会賞、世界緑茶協会 学術研究大賞、財団法人商工総合研究所 中小企業研究奨励賞などを受賞。
著書に、「地域引力を高める 観光ブランドの教科書(日本観光研究学会観光著作賞)」「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」「小さな会社を強くするブランドづくりの教科書」「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」(いずれも日本経済新聞出版社)などがある。
公職は、静岡県地域づくりアドバイザー、中小企業診断士国家試験委員、世界緑茶協会世界緑茶コンテスト審査委員、近江米振興協会オーガニック近江米ブランディングアドバイザーなど多数。

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