企業経営の現場では、前向きなチャレンジの阻害要因となり、マーケティングの失敗を招きかねない「誤解」や「注意すべき発想」が頻繁にみられる。
今回は、具体的にどのような誤解がみられるのか、その誤解がどのような危険をもたらすのかについてみていくことにしよう。
ここでは、「消費減少」「後継者問題」に関する誤解をとりあげよう。
誤解① 「〇〇離れ」だから、厳しい
第一の誤解として取り上げたいのは、経営不振の原因が、「〇〇離れ」「消費減少」といった消費者サイドにあるという考えである。
「コメ業界が不振なのは、消費者のコメ離れが原因だ」
「茶業界が不振なのは、茶葉の消費支出の減少が原因だ」
「最近の若い人はビールを飲まない。だから、ビールの将来は暗い」
「茶業界が不振なのは、消費者の急須離れが原因だ」
このように、業界の不振の原因を、消費者に帰属させる意見を聞くことが多いが、本当だろうか。
もしかすると、「原因」と「結果」が逆かもしれない。
「コメ離れ」だから不振なのではなく、マーケティングなどの「やり方」に問題があるから、コメ離れが進んでいるではないだろうか。「茶葉への消費支出が減少」しているから不振なのではなく、マーケティングがうまく出来ていないから、茶葉への消費支出が減少しているのではないだろうか。
「最近の若者は、ビールを飲まない」というよりも、「若者が飲みたくなるようなビールを、業界が提供できていない」という側面があるはずだ。
「急須離れ」も、「急須が面倒だから使われない」というよりも、消費者に「急須で淹れる愉しみを伝えきれていない」から、消費者が急須から離れてしまったのではないか。
たとえばコーヒーを考えてみよう。
いまだにコーヒー豆の「手挽きのミル」がスーパーマーケットやホームセンターなどでも売られている。なぜだろうか。そう、コーヒーの分野では、淹れるプロセスを楽しんでもらうという発想があるからだ。
マーケティングの成果をあげるためには、「○○離れ」(消費減少)を、不振の“原因”として捉えるのではなく、「やり方」の“結果”として捉えることが必要である。
我々は、不振の要因を無意識に「○○離れ」といった外的要因に帰属させてしまう心理的傾向があるが、このような考え方には気をつけなければならない。
経営者が、不振の原因を「○○離れ」「消費減少」など消費者サイドにあると思い込んでしまうと、自助努力や創意工夫につながらない。チャレンジしようという前向きな意識も生まれてこない。
図1をみてほしい。農業のデータであるが、不振の要因を「消費者の生活スタイルの変化」に帰属させる経営者ほど、業績が悪いことが明らかである
図1:不振の要因を消費者に帰属させる経営者ほど、業績が悪い
出所)「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」
注)業績は「現在の業況」「売上推移」「農業収益」の3変数の主成分得点
外的要因のせいにする前に、まずは、自らのやり方に問題がないかを考えよう。
業績は、「外的要因」と「自らのやり方」(内的要因)の掛け算である。「外的要因」は自分の力ではどうにもならない。いや、自分で変えることができないから「外的要因」なのである。変えることができるのは「自らのやり方」(内的要因)である。
本当のプロは、失敗したとしても「外的要因」のせいにはしないはずだ。
たとえば、プロ野球で、バッターが打てないときに、ピッチャーのせいにするだろうか。ピッチャーが勝てないとき、相手チームや味方のバッターのせいにするだろうか。
ましてや、観客のせいにすることは、あり得ない。不振の原因を消費者のせいにすることは、不振を観客のせいにすることと同様である。
不振の原因は、自らにあると考える。プロとはそういうものだ。
経営者は、その分野におけるプロである。外的要因を嘆くことはやめよう。それではなにも変わらない。時間だけが過ぎていく。
内的要因に目を向け、自らが変わる方がずっと生産的だろう。
誤解② 「後継者がいないから、厳しい」
第二の誤解は、後継者問題に関する考え方である。
「後継者がいないから、経営が厳しい」
「高齢化が進んでいるから、業界は衰退している」
経営の現場で、こういった意見も頻繁に耳にする。中小企業者に経営課題を聞いてみても、「後継者不足」をあげる人が多い。
では、本当に「後継者不足」は、不振の「原因」なのだろうか。
誤解① と同様に、こちらも原因と結果が逆かもしれない。
後継者がいないから不振なのではなく、不振だから後継者がいないということである。
このことはデータからも明らかだ。
図2をみてほしい。農業の事例であるが、業況が好調な経営者の大部分には、後継者がいることが分かる。農業以外の業界でも、これは同様の傾向である。
効果的にマーケティングを実践して、企業が元気になれば、後継者問題の多くは解決するはずだ。
図2:後継者がいる企業の割合 〜好調な経営者には後継者がいる〜
出所)「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」
注)数字は、後継者が「いる」と回答した割合
今回は、「原因」と「結果」の関係から、経営者が陥りやすい誤解について考えてみた。
「暑い」から「ビールが売れる」。これが原因と結果の関係だ。
原因と結果を逆に考えるということは、「ビールを売れば、暑くなる」と言っていることと同様である。これが、いかに危険なことがわかるだろう。
「原因」と「結果」を間違えてしまうと、経営は、衰退のスパイラルに陥ってしまう。気を付けることが必要だろう。
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静岡県立大学 経営情報学部 教授 静岡県立大学 経営情報学部 教授・学長補佐・地域経営研究センター長 博士(農業経済学)。専攻は、マーケティング。とくに、地域や中小企業に関するマーケティングを主な研究テーマとしている。これらの業績により、日本観光研究学会賞、日本地域学会賞、世界緑茶協会 学術研究大賞、財団法人商工総合研究所 中小企業研究奨励賞などを受賞。 |
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