マーケティングとは、一言でいうと、「顧客を創造し、維持するための活動」ととらえることができる。
では、「顧客を創造し、維持する」ためのポイントは何だろうか。
今回は、マーケティングに成功するために欠かせない発想を考えてみよう。
ここで質問。
下の文章の空欄に、あなただったら、どのような言葉を入れるだろうか。
雪がとけると、「 」になる。
実際に、全国の消費者1000人に空欄に言葉を1つ入れてもらった。結果は、図1のとおりである。
もっとも多かったのは、「水」と入れた人である。全体の64%にのぼる。
次に多かったのは、「春」である。こちらは、全体の25%である。
ちなみに、「その他」の11%に含まれる回答をみてみると、「川」「ぬかるみ」「ぐちゃぐちゃになる」「気分が晴れる」「歩きやすくなる」など様々だ。
図1:雪がとけると何になる?
出所)「小が大を超えるマーケティングの法則」
自由に単語を入れてもらったにも関わらず、「水」と「春」の2語だけで全体の9割に達する。日本人は、大きく、「水タイプ」と「春タイプ」に分けることができるということかもしれない。
興味深いのは、この次だ。
この質問と一緒に、回答者には、自分は「論理的思考が優れている」と思うのか、「感性が優れている」のかを聞いている。
「論理的思考が優れている」と回答した人に限ってみると、「水」と回答する人が全体の71%にのぼり、「春」はわずか11%であった。
一方、「感性が優れている」と回答した人に限ると、「水」と回答する人は半数を割り、「春」と回答する人が前者の3倍以上の35%にのぼる(図2)。
つまり、「水タイプ」=“論理”、「春タイプ」=“感性”といった傾向がみられるということだ。
図2:「論理タイプ」と「感性タイプ」の回答の違い
出所)「小が大を超えるマーケティングの法則」
「雪がとけると“水”になる」。これは論理的な考え方であり、法則性がある。
雪をとかす実験をしてみると水になる。すなわち、サイエンス的な考え方といってよい。
一方、「雪がとけると“春”になる」。こちらは情緒的な発想であり、法則性はない。
すなわち、アート的な発想だ。
この質問を取り上げたのは、マーケティングに成功するためには、「“水”の発想」(サイエンス)と「“春”の発想」(アート)のバランスが大切だからである(図3)。
「水の発想」は、理性、機能、分析、論理などに関連する、おもに左脳がつかさどる機能である。顧客を客観的に理解し、企業の舵を定めるためには、論理的な思考力、リサーチ力、市場データや経営データの分析力が必要だ。仮説を設定し、それを検証するといった科学的なアプローチも大切になる。顧客に納得して買ってもらうためには、商品の機能を訴求することや、顧客の理性に訴えることも欠かせないだろう。
ただ、それだけでは、マーケティングはうまくいかない。
顧客をひきつけるためには、感性、情緒、感情、直感といった右脳をベースとした「春の発想」も必要になる。
デザイン、ネーミング、パッケージ、カラー、キャッチコピー、店舗ディスプレイ、BGMなどで顧客の感性に訴えていくことや、顧客の情緒への訴求、顧客を思いやる心、顧客感情に対する共感力、経験から生み出される直感的なひらめきなども、マーケティングには欠かせない。
図3:マーケティングは「水」と「春」のバランス
出所)「小が大を超えるマーケティングの法則」
自社で、さきほどの質問をしてみてほしい。
ほぼ全員が「水」と答える企業は、もしかすると将来危ないかもしれない。
ほぼ全員が「春」と答える企業も、おめでたすぎるだろう。
「水」と「春」のバランスが取れている企業が理想的だ。
「水」と「春」のバランスとは、たとえば、以下のようなことである。
効果的なマーケティングを行うためには、こういった「水」と「春」の両面からのアプローチが必要なのである。
ところで、経営者自身は、「水タイプ」と「春タイプ」のどちらがよいのだろうか。
全国700社の経営者を対象に、「経営者のタイプ(水タイプか、春タイプか)」と「業績」との関連を調べてみた。
その結果はどうだったか。
水タイプの経営者と春タイプの経営者の間に、統計的に有意な関連性はみられなかった。
おそらく、「水タイプ」の経営者には「春タイプ」のパートナーやスタッフがいればよいし、「春タイプ」の経営者には「水タイプ」のパートナーやスタッフがいればよいということだろう。
マーケティングで大切なのは、経営者が「水タイプ」か「春タイプ」ということではない。
企業全体として、サイエンスとアートのバランスが取れたマーケティングが実践できているか否か。
消費者の「あたま」だけでなく「こころ」もとらえることができるか否か、ということである。
マーケティングに成功するためには、消費者の「あたま」と「こころ」の両方をとらえることが不可欠である。マーケティングは、サイエンスでもあり、アートでもあるといわれる所以だ。
さて、あなたの会社や商品は、ターゲットとする消費者の「あたま(理性・機能)」と「こころ(感性・情緒)」に訴えているだろうか。
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静岡県立大学 経営情報学部 教授 静岡県立大学 経営情報学部 教授・学長補佐・地域経営研究センター長 博士(農業経済学)。専攻は、マーケティング。とくに、地域や中小企業に関するマーケティングを主な研究テーマとしている。これらの業績により、日本観光研究学会賞、日本地域学会賞、世界緑茶協会 学術研究大賞、財団法人商工総合研究所 中小企業研究奨励賞などを受賞。 |
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