日本の企業数の99.7%が中小企業だ。日本経済、地域経済が元気になるためには、小さな企業が元気になる必要がある。
食品業界においても同様だ。中小食品メーカーは、小規模であることを嘆くのではなく、「小規模の強み」を生かすという発想が欠かせない。今回は、規模の小さな企業のマーケティングの方向性を検討していくことにしよう。
昨今の大規模メーカーの不振などからも示唆されるように、規模の大きさは「強さ」を意味しない時代がきている。逆に、経済の成熟化、需要の多様化、人口減少、「密」を嫌う消費者の増加といった時代の流れは、小さな企業にとって「追い風」となり得る。
21世紀は、「小さいことは、いいことだ」の時代でもある。
とはいえ、景況調査などをみると、多くの小規模企業が不振だ。小規模企業の数も減少の一途である。追い風が吹いているにも関わらず、元気がないのはなぜだろうか。
その要因のひとつが、小さな企業の多くが、時代の追い風を生かし切れていないという現実だ。
ここで、海に浮かぶ「小さなヨット」をイメージしてほしい。
いくら追い風が吹いても、帆を上げなければ前に進むことはできない。
小さな企業も同様だ。単に、小規模であればよいということではない。時代の追い風を受けとめるためには、適切に帆を上げて、風を受けとめることが不可欠である。
では、小さな企業が時代の追い風を受けとめ、小規模を「チカラ」に変えるためには何をすべきなのか。
小さな店の強みは、[ ]である。
全国1,000人の消費者に、空欄に自由に言葉を入れてもらった。結果は、表1に示したとおりである。圧倒的に多くの人が共通して入れた言葉は、「個性」だ。さらに、「独自性」「専門性」「こだわり」といった類似の意味あいをもつ単語を上げる消費者も多い。
一方、消費者は大きな店の「強み」をどのように認識しているのだろうか。表2をみると、消費者が認識する「大きな店」の強みは、「品揃えの豊富さ」「総合性」「価格の安さ」といった次元に集約されることがわかる。
ここで注目すべきは、小さな企業の強みとして挙げられた単語と、大きな企業の強みとして出てきた単語が、全く異なるということだ。小さな企業には小さな企業の強みがあり、大きな企業には大きな企業の強みがある。小さな企業は、大きな企業の「小型版」ではない。小さな企業には、小さな企業のマーケティングがあるということだ。
時代のトレンドは、「全国」から「地域」へ、「総合」から「専門」へ、「画一性」から「個性」へ、「量」から「質」へ、「無難」から「本物」へ、「効率性」から「感性」へ向かっている(図1)。
「地域密着」「専門性の勝負」「質の追求」「個性化」「本物追求」「感性追求」においては、大きな企業よりも、小さな企業が優位になり得る。
ただ、ここで誤解をしないでほしいのは、単に小さければ良いということではない。小さな企業に追い風が吹いていても、それを受け止めなければ意味がない。
全国1,000人の消費者データを統計的に分析したところ、小さな企業が、時代の追い風を受け止めるためには、3つの力が必要になることが分かった(図2)。
第一は「ほんもの力」だ。小さな企業が顧客を引きつけるためには、個性、こだわり、専門性から生み出される“ほんもの力”を磨くことが欠かせない。小が大を超えるためには、「尖がり」が必要だということだ。「尖」という字を良く見てみよう。
「大」の字の上に「小」がある。
第二は「きずな力」である。21世紀のマーケティングで大切なのは、「量」ではなく、「質」だ。顧客との絆、地元との絆を太くすることによって、地域に貢献し、優良顧客に繰り返し買ってもらう。
第三は「コミュニケーション力」だ。人を通じて、消費者とコミュニケーションをする力である。ICT化、AI化などハイテク化が進めば進むほど、反作用の力が生まれ、人的コミュニケーションなどハイタッチの価値も高まる。人の心を動かすことができるのは、AIではなく、人間だ。人を通じたコミュニケーションでは、小は大よりも優位にある。
「ほんもの(Authenticity)」「きずな(Bond)」「コミュニケーション(Communication)」という3つの力の英語の頭文字は、A、B、Cである。潜在的な「小規模力」を現実の「チカラ」に変えるためには、「A・B・C」の三つの力が柱になる。
A・B・Cの三要素の力を、それぞれ高めるとともに、各要素の相乗効果を生み出していくことができれば、小さな企業は、時代の「追い風」を確実に受け止めることができるはずだ。
規模が小さいことを逆手にとって、それをメリットに変えることができた企業は、簡単には競争の波に飲まれることはない。21世紀は、スモール・スケールが武器になる時代なのである。
静岡県立大学 経営情報学部 教授 静岡県立大学 経営情報学部 教授・学長補佐・地域経営研究センター長 博士(農業経済学)。専攻は、マーケティング。とくに、地域や中小企業に関するマーケティングを主な研究テーマとしている。これらの業績により、日本観光研究学会賞、日本地域学会賞、世界緑茶協会 学術研究大賞、財団法人商工総合研究所 中小企業研究奨励賞などを受賞。 |