「名前は、ブランドづくりにおける最強の武器であり財産である」といわれる。
本当に、ネーミングはブランド力に影響を及ぼしているのだろうか、調べてみた。
図1は、海外2か国(アメリカ人、シンガポール人それぞれ500人)の消費者データを利用して、ネーミングの魅力とブランド力の関係を分析した結果である。
いずれの国においても、グラフの折れ線がきれいな右肩上がりであることからも明らかなとおり、ネーミングが魅力的な商品ほど、ブランド力が強いことがわかる。
では、どうすれば、魅力的なブランド名を生み出すことができるのだろうか。
以下では、世界で通用する良いネーミングの条件を検討していこう。
図1:ネーミングの魅力度とブランド力の関係
出所)「世界で勝つブランドをつくる」
強いブランドには、カタカナにして4、5文字以内の名前が多い。
ネーミングがシンプルであれば、消費者の記憶にも残りやすい。ブランドは「買い手の心の中にある」。名前の覚えやすさは、強いブランドになるための重要な条件だ。
たとえば、「アップル、ナイキ、コカ・コーラ、ペプシ、アディダス、アマゾン、グッチ、エルメス、プラダ、シャネル、ロレックス、グーグル、テスラ、ポルシェ、サムスン、イケア、ゴディバ、ネスレ、レゴ」など、強い世界ブランドは、カタカナで4,5文字以内だ。
日本発の世界ブランドも同様の傾向にある。
「ソニー、トヨタ、ホンダ、ユニクロ、レクサス、ポケモン、キヤノン・・・」
どれも、4文字以内だ。
ブランド名が長い場合には、シンプルな「愛称」で呼んでもらうことも有効だ。
日本では、マクドナルドは「マック」や「マクド」、スターバックスは「スタバ」の愛称で呼ばれ、消費者の口コミが広がっている。
強いブランドは、口コミで生まれることが多い。
発音しやすければ、消費者の口コミにのりやすい。
発音が難しい名前や、国によって発音が違う名前は、世界に広がるブランド名としては、不利である。
海外でブランドづくりをするときには、事前に現地の人がそのブランド名を発音しやすいか、どのように発音するかを確認することが必要だ。
発音のしやすさを確認するためには、「早口で5回スムーズに言えるか」を実験してみると良い。
ためしに、下記のブランド名を、早口で5回繰り返してみよう。
「ソニー、ソニー、ソニー、ソニー、ソニー」
「ナイキ」× 早口5回
「アップル」×早口5回
「ユニクロ」× 早口5回
おそらく、多くの人は、詰まらずに早口で5回言えたはずだ。
では、次はどうだろうか。
「東京通信工業」× 早口5回
「イル・ジョルナーレ」× 早口5回
「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」×早口5回
多くの人は、途中で詰まってしまったのではないか。
実際に、各国の人々に早口で5回繰り返してもらうと、大抵の人は途中で詰まってしまう。
「東京通信工業」はソニーの創業時の名前。
「イル・ジョルナーレ」はスターバックスの創業時の名前。
「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」はユニクロの創業時の名前だ。
ソニーも、スターバックスも、ユニクロも、創業時の名前のままであったら、今のような強力なグローバルブランドにならなかったかもしれない。
少なくとも、ブランドづくりに苦戦したはずだ。
「SONY」というブランド名は、日本が世界に誇るネーミングである。
世界最高のブランド名といってもよいだろう。
既述のとおり、創業時から「SONY」というブランド名だったわけではない。
下記が、「SONY」というブランド名が生まれたプロセスである。ブランド名のシンプル化、個性化の重要性がわかるだろう。
「Tokyo-Tsushin-Kogyo」東京通信工業
(長すぎる)
↓
「Totsuko」東通工
(長すぎる)
↓
「Tokyo-Tsushin-Kogyo」東京通信工業
(発音しにくい。発音が国によって異なる)
↓
「TTK」
(覚えにくい。個性がない。心に訴えない)
↓
「sonny」
(「損」を暗示してしまう。発音が国によって異なる。固有名ではない)
↓
「SONY」
(日本を代表する世界ブランド)
ブランド名は、そのブランドのありたい姿、すなわち、ブランドアイデンティティを言語化したものである。ブランドアイデンティティと名前には、ハーモニーがあることが大切である。
たとえば、
である。
今の消費者は、気になるブランドがあったら、まず、Webで検索する人が多い。
たとえば、あるブランドがテレビに取り上げられると、テレビに出た瞬間にそのWebサイトへのアクセスが急増する。
ということは、多くの消費者は、テレビを見ながら、スマホやパソコンを操作しているということだ。いわゆる、「ダブルスクリーン視聴」である。
「SONY」「NIKE」などスペリングが比較的簡単で、シンプルなブランド名は、検索されやすい。また、固有名詞のブランド名は、検索結果の上位に表示されやすい。
海外展開にあたっては、事前に現地で調査を行い、そのブランド名に悪い意味はないか、悪いイメージを連想しないかなどを確認することが不可欠である。
日本人にとって良い名前であっても、海外では悪い意味を持っているケースや、音感から悪いイメージを連想してしまうケースもあるので要注意だ。
ブランド名には、独自性が欠かせない。一般名詞の組み合わせや、一般的な形容詞と一般名詞の組み合わせは、個性が表現しにくい。ネット検索でも、他の商品に埋もれてしまう。
ブランド名は、固有名詞であることや、同分野や類似分野に同じ名称のブランドがなく、進出国で商標登録ができることも大切な条件である。
さて、あなたのブランドは、世界で通用するネーミングの条件を満たしているだろうか。ぜひ確認してみよう。
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静岡県立大学 経営情報学部 教授 静岡県立大学 経営情報学部 教授・学長補佐・地域経営研究センター長 博士(農業経済学)。専攻は、マーケティング。とくに、地域や中小企業に関するマーケティングを主な研究テーマとしている。これらの業績により、日本観光研究学会賞、日本地域学会賞、世界緑茶協会 学術研究大賞、財団法人商工総合研究所 中小企業研究奨励賞などを受賞。 |
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