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【中小食品メーカーのマーケティング戦略】 第13回:ブランドづくりに関する4つの誤解

2024/5/27 [食品,コラム]

「中小食品メーカーのマーケティング戦略」がテーマの連載コラム。地域や中小企業のマーケティングを主な研究テーマとして各方面で活躍する、静岡県立大学教授の岩崎邦彦氏によるわかりやすい解説コラムです。

はじめに

現在、企業においてブランドづくりへの関心が高まっている。
だが、企業経営の現場では、ブランドに関する勘違いや誤解が少なくない。
ブランドに関する共通理解がなければ、ブランドづくりはうまくいかない。

今回は、ブランドづくりに失敗しないよう、ブランドに関する「いくつかの誤解」を解いていくことにしよう。

誤解1「知名度を高めれば、ブランドになる」

第一の誤解は、「知名度を高めれば、ブランドになる」ということである。

「知名度を高めれば、客は来るはずだ」
「ブランド化のために、まずは知名度を高めよう」

ブランドづくりの現場において、こういった言葉を聞くことが多くある。
本当に「知名度=ブランド」なのだろうか。

ここで、分かりやすい事例として、地域のブランドを考えてみよう。

たとえば、「埼玉」「栃木」を知らない日本人はいないだろう。
「埼玉」「栃木」とも、知名度はほぼ100%だ。

では、「埼玉」「栃木」は、果たしてブランドだろうか。
全国の消費者2,000人に以下の文章を示し、空欄に自由に地名を入れてもらった。

日本の地域で「ブランド力」があると思う地域は、
「    」である。

結果は、表1に示したとおり。
「京都」をあげた回答者が全体の3割超ともっとも多くなっている。次いで、「北海道」「東京」「沖縄」「大阪」の順だ。

では、「埼玉」や「栃木」をブランド力のある地域としてあげた消費者は、はたして何人いただろうか。

結果は、「埼玉」が2,000人中1人(0.05%)、「栃木」が2,000人中4人(0.2%)である。両地域とも、知名度は、ほぼ100%あるにもかかわらず、ブランドであると思っている人は、ほぼ0%だ。

表1:日本の地域で「ブランド力」があると思う地域は?

表1:日本の地域で「ブランド力」があると思う地域は?
出所)「地域引力を生み出す観光ブランドの教科書」

この結果からも、「知名度」と「ブランド」がイコールでないことは明らかだろう。
「京都」「北海道」はブランドであるが、「埼玉」「栃木」は地名である。

考えてみよう。実際、名前は知っていたとしても、行きたいとは思わない地域はたくさんあるはずだ。
同様に、名前は知っていても、買いたいとは思わない商品、食べたいと思わない食品は、あなたにもたくさんあるはずである。

一方で、全国的な知名度はないものの、特定顧客層に圧倒的に支持を受けているブランドも存在する。
「知名度=ブランド」ではない。

誤解2「品質を高めれば、ブランドはできる」

第二の誤解は、「品質を高めれば、ブランドはできる」ということである。
次のようなスローガンを見かけることがある。

「品質向上によるブランドの確立」
「安心安全でブランド化」

では、品質向上や安心安全だけでブランドをつくることができるだろうか。
おそらく、不可能だ。

品質のよい商品は、日本にはたくさんある。「安心安全」も、あって当たり前の時代だ。
ちなみに「安心安全」をネット検索してみたら、なんと2億件以上ヒットする(図1)。

図1:「安心安全」の検索結果は、4億件

図1:「安心安全」の検索結果は、4億件
注)Yahooにて検索。2023年9月1日。

品質や安心安全は、ブランドづくりの前提となる、いわば「土台」のようなものだ。
土台が崩れれば、ブランドも崩れてしまう。品質や安心安全に対する信頼を失えば、ブランドだけでなく、すべてを失う。

品質が低ければブランドにはならないが、品質が高いからといって、ブランドになるわけではない。
ブランドは、品質を超えた概念なのである。

誤解3「広告宣伝費がないと、ブランドはできない」

第三の誤解は、「広告宣伝費がないと、ブランドはできない」ということである。
次のような意見を中小企業の経営者などから聞くことがあるが、本当だろうか。

「大企業とは違って、中小企業は広告宣伝費が少ないから、
ブランドをつくることはできない」

考えてほしい。
あなたが昨日見た広告で、今、具体的に思い出せるものは、いくつあるだろうか。

実際に聞いてみると、テレビやインターネットなどのメディアで多くの広告に接触しているにもかかわらず、1つも思い浮かばない人が大部分だ。

広告を見るために、テレビを見る人はどれだけいるだろうか。
そもそも、我々は広告を真剣に見ない。だから、記憶に残りにくい。

もちろん、広告を繰り返せば、「知名度」は高まるかもしれない。
しかし、「ブランド力」が高まるわけではない。

強いブランドは、広告というよりも、「口コミ」や「パブリシティ」(メディアによる報道)で生まれるケースが圧倒的に多い。

口コミも、メディアの報道も、基本的には無料だ。
そう、ブランドに関する情報伝達は、広告宣伝費がなくても可能だということだ。

誤解4「まずは、ロゴをつくろう」

第四は、「まずは、ロゴをつくろう」という誤解である。

「ブランド化のために、まずロゴをつくろう」
「まずはポスターをつくろう」
「ゆるキャラをつくろう」

こういったケースが、ブランドづくりの現場ではよくみられる。
しかし、「はじめにロゴありき」「はじめにポスターありき」「はじめにキャラクターありき」ではブランドづくりは、うまくいかないだろう。

ロゴ、ポスターなどをつくる前に、ブランドの「あるべき姿」「理想の姿」(すなわち、ブランド・アイデンティティ)を明確にすることが欠かせない。
ブランド・アイデンティティをシンボル化したもの、形にしたもの。それがロゴ、ポスター等である。

おわりに

ブランドづくりの第一歩は、全社員がブランドの本質に関して、ベクトル合わせをすることである。
ブランドに関する共通理解がなければ、ブランドづくりはうまくいかない。

企業のブランドづくりにおいては、まず、ブランドに関する誤解を解くことが必要だろう。
中小企業の積極的な「ブランドづくり」へのチャレンジを期待したい。

引用文献:
岩崎邦彦「地域引力を生み出す観光ブランドの教科書」(日本経済新聞出版社)

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静岡県立大学 経営情報学部 教授
岩崎 邦彦 氏

静岡県立大学 経営情報学部 教授・学長補佐・地域経営研究センター長 博士(農業経済学)。専攻は、マーケティング。とくに、地域や中小企業に関するマーケティングを主な研究テーマとしている。これらの業績により、日本観光研究学会賞、日本地域学会賞、世界緑茶協会 学術研究大賞、財団法人商工総合研究所 中小企業研究奨励賞などを受賞。
著書に、「地域引力を高める 観光ブランドの教科書(日本観光研究学会観光著作賞)」「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」「小さな会社を強くするブランドづくりの教科書」「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」(いずれも日本経済新聞出版社)などがある。
公職は、静岡県地域づくりアドバイザー、中小企業診断士国家試験委員、世界緑茶協会世界緑茶コンテスト審査委員、近江米振興協会オーガニック近江米ブランディングアドバイザーなど多数。

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